英国学術情報
2012年2月02日 高等教育改革の進捗状況について
英国政府は、2011年6月28日に発表した高等教育白書“Students at the Heart of the System”1 に基づき、多角的に高等教育改革を進めつつある。そのうち、
- 2012学事年度における追加定員枠の導入
- 高等教育セクターの競争を促進するための規制緩和
- 平等な進学の機会を提供し、アクセスの拡大を図る入学出願制度改革
の3テーマについての進捗状況(2011年12月末現在)を以下に示す。
なお、各テーマの進展経緯と今後の予定については、別表を参照。
1.追加定員枠の導入
(1)背景
高等教育白書においてBIS2 は、2012学事年度から、併せて85,000人規模の2種類の追加定員枠の導入を提案した。そのうちの一つである「Core and margin枠」は、年間授業料が£7,500以下であり、授業料に見合う価値や質について一定の基準を満たす大学及び継続教育カレッジ(以下「大学等」という。)に対して、最大20,000人の学生を競争的に受け入れることを認める制度である。同白書では、この追加枠を創出するため、全ての大学等の定員を7~9%削減することを示している。政府がこの制度を提案した背景には、4月19日にOFFA3 が大学等からの提出を受け付けたアクセスアグリーメント4 において、年間授業料を上限額の£9,000に設定しようとした大学等の数が政府の予想を遥かに超えていたことがあり、政府は、大学等に授業料値下げを再検討させるインセンティブとして、追加定員枠の導入を提案するに至ったと考えられている。
もう一つの追加定員枠とは、統一入学試験「Aレベル」において、A二つとB一つ以上という好成績を収めた生徒、最大65,000人を大学等が競争的に受け入れることを認める「AAB枠」である。
これら2種類の追加定員枠の提案には、進学の選択肢を増やすと同時に、高等教育セクターに、新入生を奪い合うという市場競争原理を導入しようという政府の狙いがある5。
(2)進捗状況
10月17日、HEFCE6 は、「Core and margin枠」を獲得するための申請方法について、申請資格や該当コースの条件、審査基準などの詳細情報を公表し、申請受付を開始した7。応募は11月11日に締め切られ、11月14日にHEFCEは、202の大学等から35,811人分の申請があったことを発表した8 。今後、同機関による審査が行われ、その結果は、2012年1月から2月初旬に発表される予定である。また、11月23日には、HEFCEによって実施されていた教育助成金と入学定員管理に関する意見募集の結果と、それを受けたHEFCEとしての対応方針が同機関より発表され9 、例えば、「core and margin枠」にロンドンを対象とした新たな傾斜配分を導入するなど、運用に関する詳細な説明が盛り込まれた。
一方、11月7日、OFFAは、24の大学及び3つの継続教育カレッジが、アクセスアグリーメントの内容変更を求めて再申請を行ったと発表した10。これには、年間授業料を£7,500以下に値下げすることで「core and margin枠」の獲得資格を得ようという申請機関の狙いがある。その後、OFFAは申請内容の審査を行い、12月2日に、25の大学等11に対してアクセスアグリーメントの改正を承認する旨の発表を行った12 。
(3)関係者の反応
白書発表以来、追加定員枠の導入に関しては、報道機関や大学等から軒並み後ろ向きな反応が寄せられてきた。「Core and margin枠」と「AAB枠」に共通する点としては、4月に大学等の授業料設定を締め切った後、6月末の白書発表をもって同制度を初めて提案したというタイミングについて批判がなされている。2012学事年度開始コースのUCAS13に対する出願締切が間近に迫る中14、学生獲得競争に勝つために、多くの大学等が授業料値下げの検討を余儀なくされ、大学等が12月まで授業料を確定できなかったことが、出願予定の生徒やその家族などに混乱と不安をもたらしたとの指摘がなされてきた。この点については、英国議会下院のBIS特別委員会が11月10日に公表した報告書15 においても言及されている。同報告書では、追加定員枠の導入により、伝統的な一流大学と職業訓練を重視した継続教育カレッジなどとの二極化の進展が懸念されるとして、授業料値上げが実施される本年9月から1年間は導入を見送るべきであるとの主張がなされている。
また、授業料上限の£9,000あるいはそれに近い額にまでに値上げすることを決定した、いわゆる一流大学以外の大学等が、最も同制度の煽りを受けるとの意見も多い。Russell Group16などの一流大学では、「AAB枠」を活用して優秀な学生を呼び込めると予想されるのに対し、優秀な学生を惹きつけるのが難しいにもかかわらず、授業料を限度額付近まで引き上げてしまった大学等にとっては、いずれの追加定員枠における競争にも参加できず、2012学事年度には新入生を大幅に減らす可能性が懸念されている。関連して、中堅層の大学側からは、成績の芳しくない学生を受け入れる大学こそ一流大学に比べて教育コストを要することに加え、「Core and margin枠」で学生を獲得するには、£7,500以下まで授業料を引き下げなければならず、それを賄うために職員カットなどを余儀なくされる恐れがあるという声17 も挙がっている。
2.規制緩和
(1)背景
高等教育白書には、規制枠組みの弾力化方策として、例えば、学位授与権の取得と更新に関する仕組の単純化や、小規模機関の参入を容易にするための「大学」と称する基準の見直しといった、透明性の高い単一かつ明確な枠組みの検討、リスクに基づく質保証システムの導入などといった内容が盛り込まれた。
これらの提案の背景には、上述の追加定員枠と同様に、高等教育セクターにおけるより適切な競争を促進させるという政府の狙いがある。
(2)進捗状況
高等教育白書で取り上げられた規制緩和策に関して、8月4日、BISが意見募集を開始した18。意見募集における主な論点は以下のとおり。
① 現行法を改正し、HEFCEを主要な規制機関と定めるための新たな法的枠組みを導入
② 全大学等を対象に6年おきに実施されている質保証のためのモニタリングについて、財政の安定性や説明責任などに関するリスクの程度に応じて大学等毎に異なる実施頻度を設定
③ 学位授与権の取得要件について、教育提供機関と非教育提供機関とで異なる条件を設け、その更新期限にもリスクの程度に応じて大学等毎に異なる期限を設定
④ 「大学」としての資格取得に要する在籍(フルタイム)学生数の最低基準を緩和し、現行の4,000人(うち3,000人が学位取得を目的に就学)から1,000人(うち750人が学位取得を目的に就学)に変更
この意見募集に対し、HEFCEは10月28日に回答を公表し、論点毎に意見を述べている19。まず、①に関しては、法改正にあたって、例えば次の点を明らかにすべきであると主張した。
・HEFCEの権限と義務
・異なるステークホルダーを規制する際の優先順位付け
・2013年8月からの大まかな活動フレームワーク
・HEFCEの規制対象を全ての大学等とし、かつそれらの機関との独立性を維持
・新たな課題に迅速かつ効率的に対処するための柔軟性の確保
・重大事項に関して、HEFCEが他の規制機関と効果的な協力体制を構築して調査を行う権限の取得
・BISへの提言を行う権限の保持
また、②については、積極的な支持を表明。③に関しては、教育提供機関と非教育提供機関とは、基本的には同要件にすべきであると主張。そして、④については、在籍学生数は、大学等を構成する要素の一つに過ぎず、これらを基準として法制化すれば大学等の多様性が阻害されるとして、反対の意を示した。
この他、上述の、11月10日に発表された下院BIS特別委員会の報告書においては、特に③及び④に関連して、規制緩和が高等教育の水準低下を招いてはならないという観点から、QAA20による監査を受けて、適切な記録を残してきた機関に学位授与権を承認するという一義的義務をHEFCEに与えるべきであるといった見解が示された。
本テーマに関する意見募集は10月27日に締め切られており、1月末までにはその結果が発表される見込みとなっている。そして、技術的な側面について関係機関とも協議を行いつつ、関連する法令の整備を進めていくことが予定されている。
3.入学出願制度改革
(1)背景
これまでの入学選考は、出願時において、受験生の在籍校が示すAレベルなどの試験結果の予想に基づいて実施されている。しかし、高等教育白書では、UCASによって検討が行われている、試験結果発表後に出願を行う新たなシステム“Post-Qualification Applications(PQA)”の導入を含めた見直しの結果を待って、入学出願制度に関して更なる検討を行うことが提示された。
この背景には、貧しい境遇の学生や、入学試験で事前に示された成績期待値よりも優れた結果を出した学生に対して、より平等な進学の機会を提供し、アクセスの拡大を図るという政府の考えがある。
(2)進捗状況
10月31日、UCASは、入学出願制度に関する自らの検討結果を発表し、教育機関のリーダーや出願代表者、学位授与機関、関連省庁などのステークホルダーからの意見募集を開始した21。UCASによる見直し案は、高等教育セクターの協力を得た詳細な調査研究を基に検討されたもので、過去50年間で最も包括的なものと言われている。本案においては、PQA制度をさらに発展させた新制度を2016学事年度以降に導入すること、また、その準備として、段階的な変更を2014学事年度から実施することが提案されている。新制度は、これまでのクリアリング制度22を廃止し、以下の3つの異なる出願受付期間を設けるもので、導入に伴い、Aレベルの実施が現行より15日前倒しされ、7月上旬には試験結果が発表されることとなる。
・第一期(常時):出願受付開始時に既に試験結果を得ている出願者向け。
・第二期(6月末から7月第3週まで):入学を予定する年に試験を受ける出願者向けで、大部分がこれに該当。選考結果は9月第3週までに大学等が通知。
・第三期(7月末から10月初旬まで):第二期で不合格となった者及び第二期の締切以降の出願者向け。
この意見募集に対し、UUK23は10月31日に回答を行い、UCASによる新制度により入試選考の効率性が向上し、出願者の利便性も向上するだろうとの支持を表明した24。また、Russell Groupも同日、見解を発表し、現在の入学出願制度の見直し自体には非常に積極的な姿勢を示したものの、UCASの新制度が、出願者に対する公平性を向上させるとともに、より徹底した入学審査を実現できるかどうかは定かではないと主張した25 。
本意見募集は、1月20日に締め切られ、その結果を踏まえたUCASの提案が、3月中に報告書として発表される予定となっている。
(以上)
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1 高等教育白書“Students at the Heart of the System”
2 Department of Business Innovation and Skills:ビジネス・イノベーション・技能省
3 Office for Fair Access 高等教育への公平なアクセスを保護・促進する役割を担う非政府公的機関
4 2012学事年度から£6,000を超える授業料を課す大学等は、高等教育へのアクセス拡大のための方策についてOFFAと合意(Access Agreement)を結ぶことが義務付けられている
5 2011学事年度までは、HEFCEが大学等毎に定員を設定してきた
6 Higher Education Funding Council for England:イングランド高等教育財政会議 イングランドの大学等に基盤的経費(教育資金及び研究資金)の配分などを行う機関
7 Student number controls for 2012-13 - Invitation to bid for student places (17th Oct)
8 Bids received for 35,811 'margin' places (14th Nov)
9 Teaching funding and student number controls consultation outcomes (23rd Nov)
10 Twenty-seven institutions submit revised access agreements for 2012-13 (7th Nov)
11 内訳は24の大学と継続教育カレッジ1校
12 OFFA announces decisions on revised 2012-13 access agreements (2nd Dec)
13 University & College Admissions Service:大学・カレッジ入学サービス 高等教育機関へ進学する際の出願に関する処理を行う機関で、進学希望者や高等教育関係者への情報提供サービスなども行う
14 出願締切は1月15日(医学・獣医学のコースや、オックスフォード大学及びケンブリッジ大学の全コースは、出願締切を10月15日と早めに設定)
15 下院BIS特別委員会による報告書“Government reform of Higher Education”
16 英国の大規模研究型大学20校で構成されるグループで、政府などへの大学側の要望を伝える団体として1994年に設立
17 主にビジネス領域を専門とする23の大学等で構成される団体“University Allianceグループ”に所属するUniversity of Salfordの副学長のインタビュー (出典:Times Higher Education)
18 Next stage of the HE consultation opens (4th Aug)
19 HEFCE responds to BIS consultation on a regulatory framework for higher education (28th Oct)
20 Quality Assurance Agency for Higher Education:高等教育質保証機構 英国における高等教育資格の適正な水準の保護及び高等教育の質の管理に対する継続的な改善を目的として、大学等を対象とした機関別監査や評価、高等教育資格に関する情報提供などを実施
21 Admissions Process Review consultation published by UCAS (31st Oct)
22 大学等の入学審査結果が発表される8月以降に、合格通知を持たない受験生が定員の埋まっていないコースへ出願できる制度で、9月までの間に利用可能
23 Universities UK:英国大学連合 英国内の全大学の声を代表する組織として1918年に設立
24 Universities UK response to UCAS admissions process review consultation (31st Oct)
25 Admissions Process Review (31st Oct)




