2018年3月20日
(1) 英国大学長の95%が自身の給与委員会に出席可能
(2) 首相が18歳以降の教育の見直し着手を発表
(3) 大学担当大臣、学生局成立のスピーチ
(4) 産業戦略チャレンジ基金へのプロジェクト提案募集開始
(5) QS大学学部別ランキング2018
(6) ホライゾン2020への英国の対応
(7) 高等教育中退率の報告
(8) 政府が高齢化社会研究に£3億投資
(9) 学科別の評価
(10) 学生の学費に対する意識調査結果
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(1)英国大学長の95%が自身の給与委員会に出席可能
2月14日、大学組合(UCU:University and College Union)は、英国の大学長の95%が自身の給与額を定める給与決定委員会の委員であるか、若しくは給与委員会への参加が許されているということを発表した。4分の3の大学機関は給与決定の全議事録の公開をしないとしている。
この結果はCUCが2016/2017学事年度における大学トップの給与・手当及び透明性について検討している一環で公表された。CUCが158機関にそれぞれの給与委員会(学長の給与の決定権がある)の構成メンバー及び最新の議事録の公開を求めた。
給与委員会に学長がメンバーとなっているかの質問に対して、15大学は返答を避け、1大学は給与委員会の存在を否定した。回答した大学のおよそ半分(47%)は学長もメンバーであることを認めた。7大学が学長はメンバーではなく、委員会に出席はしていないと答えた。
89大学(55%)が議事録の提出に同意したが、40大学(25%)のみが最新の未編集の議事録を送付してきた
来週、14日間の職員のストライキが予定されている61大学の中でたった2大学のみが、学長は委員会や会議に出席が許されていないと答えている。
近年の学長給与の上昇率はめまぐるしく、2005/2006学事年度の平均は£165,105(年金も含め)であったのに対し、10年後の2015/2016学事年度は56.2%も上昇し£257,904となった。
円換算:£1=148円
(2) 首相が18歳以降の教育の見直し着手を発表
2月19日、教育省(DfE:Department for Education)はMay首相が18歳以降の教育の在り方の見直しをすることを発表した。教育の質の向上、選択肢の拡大及び高等教育が学費の価値に見合うのかということが中心課題となる。
恵まれない環境からの高等教育進学率等を含め、若者の進学率の記録的な高さにより、英国の高等教育システムは世界的に認知されている。現在も整備は進められており、Tレベルといわれる16歳以降の技能教育において既存の高等教育に匹敵するような高等技能資格の整備や、アプレンタスシップ制度(見習い制度)を改革することで将来必要な技術を提供していくこと等に取り組んでいる。
今まで具体的な改革を行なってきたにもかかわらず、現在の18歳以降の教育制度は思うように機能を果たしていない。今回の再検討では、質の高い技術・専門職と学術の間にも相互に橋渡しができるようにすることで、学生や納税者は金銭的価値を見出すことができるようになり、また雇用者は必要な熟練労働力の確保が可能となることを目指す。
又May首相は技術資格より学術を重んじるという「時代遅れな態度」に警告し、今回の再検討で「あらゆる角度から18歳以降の高等教育を見直し、継続教育と高等教育のあってはいけない境界線を取り除き、双方が統合したシステムを構築する」と宣言した。
議長にはPhilip Augar 氏が任命され、また専門家委員会は18歳以降の教育機関、産業界、学術界など幅広い分野からの専門家により構成されることとなる。Philip Augar 氏は、著名な作家であり、元教育省の非業務執行取締役であった
議論される4つの重要な分野:
18歳以降の若者の将来展望のため、異なる職種の給与や必要資格など様々な情報を提供していくことで、それぞれに適した質の高い学術や技術、専門職へ導く。
学生や卒業生がどのように学費を工面しているのか、18歳以降の高等教育の奨学金申請について透明性を確保し、どのような場合でも高等教育への道をさえぎらせない。
全ての環境からの若者が18歳以降の教育に進学、卒業することを可能にする。恵まれない環境からの学生はどのように政府、大学などから追加資金の援助を受けているか調査する。
新しい教育システムは雇用者の需要に見合う技術を確実に提供することで、将来の保証となる。これは英国経済の強化と政府が推し進めている産業戦略の実現には大変重要なことである。
報告書は中間報告書が提出された後、2019年初頭に最終的報告書が発表される予定である。
https://www.gov.uk/government/news/prime-minister-launches-major-review-of-post-18-education
【メディアの反応】
○BBC News
教育システム見直しを発表したMay首相は、「学費の廃止は“税率の引き上げと大学の定員数の制限”に繋がるため考えていない」と述べている。又「世界でも最も学費が高いシステムであり、これが学部の質と伴っていないと述べている」
イングランドの学費の現状:
http://www.bbc.co.uk/news/education-43106736
円換算:£1=148円
(3)大学担当大臣、学生局成立のスピーチ
2月28日、教育省(DfE: Department for Education)は、大学担当大臣のSam Gyimah氏が新しい高等教育規制機関である学生局(OfS: Office for Students)の設立総会に出席し、“レーザー光線のように学生に焦点を当てる”と当局を称えたことを伝えた。
大学機関はかつてないほどに監視されている状態であるが、担当大臣はOfSの設立が「新時代― 学生の時代」の到来を意味すると語り、各大学機関に対しこの新時代に乗るように呼びかけた。また、OfSは学生の利益を追求することに重点を置いて活動することに期待していると述べた。
設立総会では「OfSの新しい構想--高等教育の青写真」が発表され、OfSの設立は四半世紀の中で最も大きな規制改革として位置づけられた。この非常に現代的な構想により、世界クラスの大学は将来にわたってより高い基準への挑戦をし続けることが可能となるであろう。
大臣の演説では、「大学はいかに学生の利益を保護し、どのように社会対する義務を果たしていくか」などを含めた高等教育機関のビジョンを発表した。
OfSは、2018年4月よりイングランド高等教育財政会議(HEFCE: Higher Education Funding Council for England)と公正機会局(OFFA: Office for Fair Access)が合併して高等教育の単一規制機関となり発足する。
https://www.gov.uk/government/news/minister-welcomes-accountability-revolution-in-higher-education
(4)産業戦略チャレンジ基金へのプロジェクト提案募集開始
2月28日、ビジネス・エネルギー・産業戦略省は、イノベートUKが産業戦略チャレンジ基金で支援するプロジェクトの提案の募集を開始する旨発表した。
産業戦略チャレンジ基金により第三次産業革命を引き起こす産業分野を見極め、英国を、現代社会の課題解決に取り組む分野で世界をけん引する国家に導くことを目的としている。£10億が第一次基金として配分される。更に£7億2,500万が2018-19年の第2次基金として配分される予定である。
プロポーザルは政府の産業戦略の4つのグランドチャレンジに沿ったものでなければならない。
・AI及びデータエコノミー
・クリーン成長
・移動に関する将来像
・高齢化社会のニーズ
プロポーザルは、学術界及び産業界の最良のアイディアを組み合わせたもので、英国の生産性や経済成長に具体的に貢献するアイディアでなくてはならない、とされている。
2018年3月18日に説明会を行い、4月18日が締切日。現段階では提出される内容にだけ関心がある。どのように最終選考するか後日発表予定である。2019年初頭を予定しており、同年4月から投資予定である。
円換算:£1=148円
https://www.gov.uk/government/news/industrial-strategy-challenge-fund-tell-us-what-to-support
(5)QS 大学学部別ランキング2018
2月28日、Quacquarelli Symonds (QS)社はQS University Ranking 2018学部分野別を発表した。
今年の学部別ランキングでは新たに古典学(Classics and Ancient History)と図書館・情報学(Library and Information Management)の分野が追加された。評価指標は学術評価、雇用者からの評判、被引用論文、Hインディックス(生産性と学術者の影響力)である。
芸術・美術 (Arts & Humanities) 考古学、建築学、文学、哲学等
工学・技術 (Engineering & Technology) コンピュータ科学、科学工学、数学等
生命科学・医療 (Life Science and Medicine) 生物学、医学、薬学、獣医学
自然科学 (Natural Science)化学、数学、物理学、環境科学、地球海洋学等
社会科学管理 (Social Science and Management) 会計/財務学,法学、人類学等
https://www.topuniversities.com/subject-rankings/2018
【メディアの反応】
○Guardian
英国の大学は10学科でトップの座を獲得しているが、工学・技術分野は芸術・美術分野と比べてランクを下げている。またランキングの3位以内で3分の1を占めているが、それらは芸術・人文学分野に集中している。
英国の大学はEU離脱に直面しているが、その中で復活力を示している。QSの研究部長Ben Sowter 氏は「英国とEU間の研究プログラムやEU離脱後の学生の流動性など心配材料はまだあるが、今回の結果は楽観的であった。」と述べた。
英国の7つの大学が10領域で上位を占め、University of Oxfordが4学科(解剖学/生理学、考古学、英語英文学、地理学)においてトップを占めた。これはトップになった学部が1学科以上ある3つの大学のひとつであるということである。他の2大学はHarvard University とMassachusetts Institute of Technology(MIT)で、前者は14学科、後者は12学科でトップであった。
(6)ホライゾン2020への英国の対応
3月5日、ビジネス・エネルギー・産業戦略省は英国のEU連盟離脱後のホライゾン2020における英国の立場の概要を発表した。これは昨年12月に英国-EU間で第1段階交渉を合意した共同報告書を基にしているものである。
英国のEU連盟離脱後も、MEF2014-2020*により実施されているプログラムに引き続き参加できることとなったので、英国政府は英国の学術関係者に対し、引き続きホライゾン2020に積極的に参加することを、以下の理由により推奨する。
ホライゾン2020は英国サイドにも、また欧州サイドにも多くの利益をもたらしてきた。27のEU諸国にとって英国はトップ5の連携相手であり、38,000を超える提携ができている。英国の連携国トップ5はドイツ、スペイン、イタリア、フランスそしてオランダとなっている。プロジェクトへの参加数は、英国はドイツに次ぐ第2位となっており、英国の研究者たちが受けてきた支援額は全体の15%で€40億となっている。
英国政府がホライゾン2020への支援を引き受けたことにより英国のビジネス及び大学は更なる保証が得られたことになる。英国のEU連盟離脱前に採択されたプロジェクトは、離脱後であってもプロジェクト実施期間中はその実施が保証されることになるので、ビジネス関係者、大学関係者は自信をもってプロジェクトに応募してほしい。
又ホライズン2020に続く新たな事業に関して英国は大変前向きであることを共同報告書に綴られているが、現段階で判断するのは時期尚早であることも述べられている。
*MFF2014―2020(多年次財務組み:Multiannual Financial Framework):EUとしての政策に長期計画性を持たせ、歳入以上の支出をさせない手段。EUの政策の優先度を十分に考慮した計画性ある予算を組むため、最低5年間にわたって(現行は2014年~2020年の7年間)、毎年の予算の上限額を設定するもの。EUの基本条約に規定されているMFFのかつての重要分野は、単一市場形成やユーロ導入、拡大などであったが、2007年~2013年からは持続可能な成長や競争力向上・雇用創造が重要課題となった(http://eumag.jp/feature/b0117/)
円換算:€1=131円
https://www.ukro.ac.uk/authoring/public/Documents/uk_participation_h2020.pdf
(7)高等教育中退率の報告
3月8日、高等教育統計局(HESA: Higher Education Statistics Agency)は高等教育機関において2年目に進学する前に中途退学した者の割合を発表した。これは英国の高等教育の成果を客観的に示す目的で行なわれた。この統計報告を作成するにあたり、HESAは入学当初の目的とは異なっていても資格獲得のために学業を継続、もしくは異なる学科に移っても同じ機関に在籍し続けた学生については在学学生と定義した。
【英国出身フルタイム学生における英国内各国の大学の中途退学者率】
full_timer_dropouts.docxをダウンロード
資料:HESAより
https://www.hesa.ac.uk/news/08-03-2018/non-continuation-summary
【メディアの反応】
○Guardian
高等教育機関で12ヶ月以上在籍が継続しなかった中途退学者率は3年連続で上昇している。イギリスにおいて2015年に高等教育機関に入学した学生のうち、初年度中に26,000人中退したことがわかった。各機関間でも結果に大きな違いが見られるが、中途退学者が多い機関では5人中1人が脱落している一方で、Cambridge Universityでは退学率は1%以下であった。
最新の2015/2016学事年度のイングランドの大学における中途退学者率は6.4%で、2011/2012学事年度の5.7%より上昇傾向にある。
専門家はこの原因として、近年の高等教育機関への入学者の増加と、常に十分なサポートが受けられないという学生の立場の変化を示していると分析している。
しかしながら通常、中途退学者の多くが恵まれない環境の出身者であるが、その率が減少しているという吉報もあった。
London Metropolitan Universityの中途退学者率は19.5%と高く2年に進級する前に退学するものが1130人中220人におよぶ。
イングランドの中途退学者の上昇傾向がある一方、スコットランドの大学在籍率は英国の平均を19年ぶりに上回った。
公正機会局(OFFA: Office For Fair Access)のLes Edbon教授は「大学進学率の低い地域から高等教育機関に進学した学生の中途退学率の減少を喜んでいるが、たったの0.1%の減少は非常に低い。又、成人学生の中途退学率も引き続き上昇している。これは個人の能力が認められなくなるだけでなく、雇用者は従業員のスキルアップのためにも再教育を受けさせる必要がある、とされているので問題である。新しい高等教育規制局である学生局(OfS: Office for Student)は、学生生活の継続と成功に焦点を当てることを約束した。その約束は守ってもらい、すべての学生のために持続的な改善へと推進することを願いたい」と同氏は語った。
又大学担当大臣のSam Gyimah氏はこの報告を受けて「これまで以上に若者の高等教育進学率が高くなり、多くが学位取得をしている。しかし我々の世界レベルの優れた高等教育システムの恩恵を一人でも多く受けてもらうためにまだまだやらなければならないことがある。すでに中途退学率の引き下げのため、教育の質向上を図るTEFなどを実施してきている。また透明性の義務を導入することで中途退学数、学業成績などを性別や人種や社会的背景によって区分されないよう、公開することを計画している。」と述べた。
https://www.theguardian.com/education/2018/mar/08/university-drop-out-rates-uk-rise-third-year
(8)政府が高齢化社会研究に£3億投資
3月12日、ビジネス・エネルギー産業戦略大臣であるGreg Clark氏は、将来の英国を築くためのイノベーションと新技術開発のため競争的資金として、£3億の投資を発表した。
これは
近い将来の高齢化社会のチャレンジに備えるため、英国の世界クラスの研究と産業投資が新しい技術の開発を進められるよう、政府は産業戦略チャレンジ基金(ISCF : Industrial Strategy Challenge Funding)により£3億以上を投資することとしている。
現在英国では100歳を迎えている人は15,000人いるが、将来は1,000万人以上が100歳を迎えると予想されている。高齢化社会は世界的な現象であり新しい技術、サービスの提供が必須となっている。
政府の£3億以上の投資は“健康的な老いプログラム”に£9,800万、“早期診断と精密医療のデータプログラム”に£2億1000万当てられる。
(9)学科別の評価
3月12日、教育省(DfE; Department for Education)の大学担当大臣Sam Gyimah氏は、大学の学科ごとに教育の質、学習環境、卒業後の結果などを金銀銅で評価した結果の実施を発表した。この試みは世界初である。これは教育評価と長期的研究評価制度(TEF: Teaching Excellence and Student Outcome Framework)から派生したもので、政府の狙いは以下のとおり。
DfEは10週間に及ぶ公開審議会を開始し、各方面からの意見を聞き新しい制度の内容の調整していく。これは試験的なもので、University of Cambridge やImperial Collegeなど50の大学カレッジが参加する。2017/2018学事年度と2018/2019学事年度は試験的な取り組みとして、2019/2020学事年度より本科的な学科別のTEFが開始する予定である。
https://www.gov.uk/government/news/universities-to-be-rated-by-subject-quality
【各メディアの反応】
○Guardian
学科別のTEFはDfEによる卒業後の就職見通し、予想収入や中途退学率、などを金銀銅で評価している。
政府によって実施され、高等教育進学希望者に多くの情報を与えることで、様々な大学との比較が可能となり、質の悪い大学を浮き彫りにするものである。大学担当大臣のSam Gyimah氏は「より多くの学生が学費に見合う高等教育を確実に受けられるための助けになる。」と述べている。
○BBC News
英国学生連合(NUS: National Union of Students)は評価の対象となる情報の信憑性を問題定義している。同組合の副会長であるAmatey Doku氏は「TEFは教育の質を評価するものでは全く無く、それに続く学科別のTEFが出たところで何の解決にもならない。評価は教育の質を問い、教員の教育実践の改善を推し進めるというより、機関にとって評価ゲームを試みる機会の扉を開くことになった。独立した機関によるTEFの見直しを現在遂行中であるというが、それは他からの勧告や学生の声を考慮せずに行なっており、全く無責任である。」と述べている。
http://www.bbc.co.uk/news/education-43346678
(10)学生の学費に対する意識調査結果
3月13日、学生局(OfS: Office for Students)が独自に行なった、「学生の学費に対する意識調査」の結果を発表した。この報告書は6,000人以上の学生と最近の卒業生を対象とした。
報告書の主な結果:
OfSの最高責任者Nicola Dandridge氏コメント
今回の調査結果は学生が考えているお金の価値を理解することに役立つ。全国の大学やカレッジで学生に会い、異なる環境に居る学生では異なる意見が出てきているが、この報告書はまさにそれを証明している。
高等教育機関はこの報告書を考慮して、如何に透明性を高めるか、高等教育全体の総費用など注意深く考えるべきである。そしてすべての学生が今後の生活や職業の価値を高められるような充実した高等教育を経験させるよう務める必要があり、我々もまた努力していくつもりである。