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UK HE Information

2019年2月英国高等教育及び学術情報

2019年2月20日

(1)裕福な学生の方が学費の前払いで得ができるという批判

(2)教育産業の英国経済への貢献度

(3)英国のトップ大学がEU離脱に備えヨーロッパの大学と協定を調印

(4)2021年実施分の研究評価制度の手引きが発表

(5)オープンアクセスに関する2つの提言が発表

(6)大学入学願書(1月締切分)の結果

(1)裕福な学生の方が学費の前払いで得ができるという批判

2019年1月15日、英国の慈善団体でシンクタンクであるIntergenerational Foundation(IF)は、英国の大学学費制度に関する報告書を発表した。プレスリリースでは、報告書の内容について以下のような説明がされている。

IFが得た2016/2017学事年度の最新のデータによると、英国に居住する百万人以上のフルタイム・パートタイム学生のうち最も裕福な10%は、学費を前払いすることによって学費システムから逃れており(注:後述のように、前払いをすることにより政府の学生ローンを利用せず、そのため利子を払わずに済ませられているということ)、このことは現在のシステムが進歩的だという政府の度重なる主張を掘り崩すものである。

学費の前払いは、これら110,000人の学生が、6.3%の金利を課せられる彼らの同級生とは異なり、在学中の6,000ポンドの利子を回避できるということを意味する。この金利は政府借入金の金利である1.5%の4倍以上にもなる。また、これらの(裕福な)学生は、その後30年にわたり、年収25,000ポンド以上の場合に収入の9%を引かれるということもない。このことにより、自分で学費をまかなえる学生(注:学生ローンを使わずに済む学生というニュアンス)は、貯蓄力の関係で同様の卒業生よりも相当な経済的優位を得ている。

Intergenerational Foundation:Escape of the wealthy: The unfairness of the English student finance system(報告書PDFあり)

1ポンド≒140円(2019年1月15日)

 

【メディアの反応】

○BBC News

最も裕福な学生達は、学費を前払いすることによって最も安い費用でイングランドの大学へ進学していると研究者達は言っている。

約10%の学生が学生ローンを利用しておらず、そのため、他の学生が支払っている6.3%の利子も回避することができているとIFが述べた。

このシンクタンクは、学費システムが貧しい学生にとって公平なものであるとする主張を“嘲笑う”ものであるとしている。

政府は、学費制度の見直しは、払った学費に対する価値を保証するものだとしている。

(IFの)報告書の著者であるRakib Ehsanは、“裕福な家庭は、自分の子どもがうなぎのぼりの利子率と、将来的に民間セクターに売り払われるかもしれない30年間に及ぶローンから逃れるのを助けることで、子どもに監獄から出る権利を与えることができるのだと気付いている。”と述べた。

“政府は全ての学生を公平に扱うべきであり、それはつまり在学中に課される利率を下げ、学費を安くし、生活費給付奨学金を復活させ、返済利率を低くするということだ。”と、同シンクタンクのAngus Hantonは述べている。

英国学生連合(NUS:National Union of Students)のShakira Martin会長は、これはあまりにも多くの貧しい学生が何とか“生計を立てて”いる一方で、裕福な学生が借金と高い利率を逃れうるということを意味していると述べた。

彼女はまた、“高等教育界は平坦にならされた競技場だという政府の主張は無意味なもので、生活費給付金の廃止は、事実として、政府が我々の社会で最も貧しい人々に対し直接余計な負担を課したということを意味する。”とも言っている。

 

BBC News:Rich students save by paying fees up front[2019年1月15日付け]

 

(2)教育産業の英国経済への貢献度

2019年1月24日、教育省(DfE:Department for Education)は、英国の教育産業の海外輸出が英国経済にとって約200億ポンドを産出しており、英国の国際的に最も儲かる強みであり続けているとして、以下のように発表した。

発表された値には留学生や海外での英語研修からの収入が含まれているが、前年比での成長を続けており、2016年でおおよそ199億ポンドであった。これは2010年から26%増加したことになり、自動車、広告、保険のような他のよく知られた輸出品と並び、英国にとって重要な収入を産出している。

英国経済に大きく貢献している国際輸出品:

・高等教育 ― 134億ポンド

・多国籍教育(TNE)― 19億ポンド

・教育商品・サービス ― 19億ポンド

・英語の語学研修コース ― 16億ポンド

・独立系学校 ― 9億ポンド

これらの値は、英国がEU離脱を控えている状況にあって英国の教育界や輸出の強さを再認識させてくれる歓迎すべきもので、2019年に立ち上げ予定である新しい国際教育戦略を通じて、EU離脱後の英国の海外輸出を強化するために計画が打ち出されている。EU離脱後には、英国は主要な海外市場との通商関係を促進するために、新たな独自の通商政策をとることができる。

1ポンド≒143円(2019年1月24日)

 

GOV.UK:Education generates billions for UK economy

 

(3)英国のトップ大学がEU離脱に備えヨーロッパの大学と協定を調印

2019年1月26日、インディペンデント紙は、少なくとも12校の英国を先導する大学が、EU離脱により生じる脅威を抑えるためにヨーロッパ中の大学と協定作りをしているとして、以下のような内容の記事を報じた。

英国がEUを離れた後の研究へのアクセスを確保し、学生交流を維持するために、(英国の)高等教育界の有名校の一部は、大陸側の大学との関係確保を行なってきている。

(EU離脱に際して)離脱協定を結べなかった場合、英国は、800億ユーロに及ぶEUの研究資金へのアクセスを失うことになる。この研究資金からはラッセルグループ*のエリート校が最も利益を得ている。

ラッセルグループの上級政策調査員であるJo Burton氏は、“英国のEUとの将来関係が未だに不明確であることにより、英仏海峡の両岸では、結び付きを公式化し、大学や、そしてもちろん経済にとっても極めて重要となる、人々や発想の移動を守ろうという強い欲求がある。もちろん、これらの協定が有効な離脱協定の代わりとして働くことは期待されていないが、大学は率先して行動し、ヨーロッパとの絆を強化している。”と述べている。

今週の前半に、University of Yorkはオランダのマーストリヒト大学との間に、研究資金や学生・教職員の交流について“かなりの確実性”を与える300万ポンドの協力関係に調印すると公表した。

これは、University of Glasgowが昨年6月、教職員と学生にこれと似たような保障をもたらすためにドイツのリューネブルク大学と協定に調印したことに続くものである。

(注:記事ではこの他、オックスフォードとベルリンにある複数大学との協定や、ケンブリッジとルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンとの協定、インペリアルカレッジロンドンとミュンヘン工科大学等の大学との協定などについて取り上げられている)

University of WarwickのStuart Croft 学長は、(大陸側の各大学との)協定を結んでいくという決断は、政治家がEU離脱問題を解決するのを“ただ待っているだけの余裕がない”からだと述べている。

 

*ラッセルグループは、英国国内で最高水準の研究レベルを持つ24大学で構成される団体。

1ユーロ≒125円(2019年1月28日)

 

The i:Top UK universities sign ‘treaties’ with European partners to limit Brexit threat

 

(4)2021年実施分の研究評価制度の手引きが発表

2019年1月31日、リサーチ・イングランド(RE:Research England)は、英国の4つの高等教育資金提供機関を代表して、次回の研究評価制度(REF:Research Excellence Framework)においてどのように研究内容を提出するかに関する英国の大学への手引書を発表した。発表記事の概要は以下のとおり。

これはRFFの準備の中でも重要段階である。REFは、英国の高等教育資金提供機関が英国の大学の研究の質を評価する制度であり、大学の研究を支援するために公的資金が幾ら与えられるべきかを基礎付けるものである。

REは、英国の4つの高等教育資金提供機関(RE、スコットランド財政会議(Scottish Funding Council、ウェールズ高等教育財政会議(Higher Education Funding Council for Wales)、北アイルランド経済省(Department for the Economy, Northern Ireland))を代表してREFの運営を行なう。

REFは7年ごとに実施されている。直近のものは2014年であり、次回は2021年に実施が予定されている。

2021年12月に予定されているREF2021の結果は、2022/2023学事年度からの英国大学への研究資金配分額を形作るために、高等教育資金提供機関によって用いられる。その中には、REがイングランドの大学に毎年配分している16億ポンドのQR(Quality-related Research)資金が含まれている。QR資金は、REF2014の結果を基にして2015年から2022年までイングランドの大学に分配されている。

経験のある学者からなる審査会によって行なわれる評価は、研究の公的投資に関する説明責任ももたらす。

1ポンド≒143円(2019年1月31日)

 

RE:UK higher education funding bodies publish final guidance and criteria for REF 2021

 

(5)オープンアクセスに関する2つの提言が発表

2019年2月4日、UKリサーチ・イノベーション(UKRI:UK Research and Innovation)は、政府が委託していたオープンリサーチに関する2つの独立報告書の発表を歓迎する以下のような記事を掲載した。

報告書の1つは英国内でのオープンアクセスに関する独立勧告書で、University of SussexのAdam Tickell学長が提出しており、英国の研究における持続可能なオープンアクセスの展望と、研究に対する公共投資額に値する価値について述べている。同学長はそのために、UKRIは、一貫的で調和の取れたUKRIのオープンアクセス政策に支えられた、オープンアクセスのための明確で英国全体にわたる目標を明らかにするため、研究界の他の指導的役割の存在と協力すべきだと勧告している。また、同学長は、UKRIが公的な金銭投入に最も大きな価値をもたらすような方法でオープンアクセスに資金を投じ、オープンアクセスの移行期間を密接に見守るために他の投資者とともに協力をすべきということも勧告している。

もう1つの報告書はオープンリサーチデータに関するもので、University of Warwick のPam Thomas 副学長が議長を務めるオープンリサーチタスクフォース(ORDTF:Open Research Data Task Force)によって提出された。ORDTFは英国でのオープンリサーチデータに関する目標を示しており、報告書ではデータは検索ができ、アクセスしやすく、相互に作用可能で、再利用可能であるべきとされている。報告書は、UKRIを含む各関係者によって下記の分野で段階的な措置がとられるべきとしている。

ORDTFの報告書が示している分野:

・オープンリサーチデータを作成・利用するための、研究者へのより良い動機付けと障壁の除去

・オープンリサーチデータを実現させ、また再利用なものにするための役割、責任とリソースを調整する積極的なリーダーシップ

・データやソフトウエアの保存に関する明確な見込みを構築し、オープンリサーチデータ政策への出資者の調和を一層促進すること

・研究者が使いやすいサービスにアクセスできることを確実にすること

・オープンデータサービスのための持続可能な資金供給

 

UKRIは、英国のオープンアクセスについてのこうした助言を、cOAlition S*への我々の参加の一環としての議論にだけではなく、現在行なわれているオープンアクセス政策の見直しに取り入れる情報としても用いる予定である。

 

*cOAlition S:欧州委員会(European Commission)と欧州研究会議(ERC:European Research Council)の支援を受けて各国の研究資金配分機関が開始した、研究発表の完全かつ速やかなオープンアクセス化のための取り組み。

UKRI:UKRI welcomes publication of open research reports(リンクあり)

 

(6)大学入学願書(1月締切分)の結果

2019年2月7日、Independent紙は、大学入試機関(UCAS:Universities and Colleges Admissions Service)が発表した2019年9月入学分の志願者数について、以下のように伝えた。

英国の大学で学ぶために願書を出した生徒の数は、3年ぶりに増加した。このことの背景には、EU離脱の不透明性とポンド安があるのかもしれない。

最新のUCASの値が示すところでは、合計561,420人が2019年9月に英国の大学で課程を始めるために出願をした。これは539,720人だった2016年以来初めて上昇したことになる。

この数字は非EU圏からの記録的な志願者数によって伸びたものである。非EU圏からの志願者数は全体で63,690人であり、前年より9%の上昇している。

値によれば、英国のEU離脱に関する国民投票によって英国の魅力が落ちると(教育)業界全体が恐れていたにもかかわらず、EU圏からの志願者数は1%上昇した。

専門家は、下落するポンドが英国を安く学べる場所にし、留学生やEU出身学生の出願の増加を刺激する上で役に立ったのではないかと述べている。

また、EU離脱後の労働市場の不透明な見通しも、高等教育への進学を選ぶ国内の卒業生の数を増加させているかもしれない。

また、イングランドの18歳人口全体が1.8%減少しているにもかかわらず、1月15日の締め切りまでにイングランドの18歳人口の38.8%が英国の大学に出願している。これは2018年の出願率から1.4%上昇している。

今年は中国からの出願者数が3分の1増加し、15,880人へと伸びた。これにより、中国からの出願者数はウェールズや北アイルランドからのものとほぼ同数になっている。

 

The i:UK university applications rise for first time in three years amid Brexit uncertainty