ZOLD英国学術情報
2017年11月02日 2017年10月英国高等教育及び学術情報
(1) 米国との間で6,500万ポンド(約97億5000万円)のサイエンスパートナーシップ協定を締結
9月20日、宇宙の謎を解明する米国とのグローバルサイエンス共同プロジェクトのために、政府は6,500万ポンドを投資すると発表した。この投資は新たに締結された英米間科学技術協定に基づき行われる。
今回締結された米国エネルギー省との協定は、長期基礎ニュートリノ観測施設(LBNU:Long-Baseline Neutrino Facility)及び地下深部ニュートリノ実験(DUNE:Deep Underground Neutrino Experiment)実施のためのものである。この投資により、英国が国際的なDUNE実験に将来的に関わり続けていくことが可能となった。
英国リサーチ・イノベーション(UKRI: UK Research Innovation)のひとつとなる、英国科学技術施設会議(STFC: Science and Technology Facilities Council)が英国側の施設の管理や研究者の支援に当たる。
*1ポンドを150円にて換算
http://www.stfc.ac.uk/news/uk-signs-65m-science-partnership-agreement-with-us/
(2) 創造産業クラスタープログラムの創設
9月22日、Greg Clarkビジネス・エネルギー・産業戦略大臣は、芸術・人文学研究会議 (AHRC: Arts and Humanities Research Council)が「創造産業クラスタープログラム」を新たに立ち上げたことを発表した。英国内のグローバル企業と大学がコラボレーションし新たな創造が生み出されることが期待される。
2018年中に開始予定の本事業には約8千万ポンド(約120億円)が投資されることになっており、経済成長を促すエンジンとなるような革新的な製品やサービスを早い段階で発掘し助成していくことを目的としている。8つの産学連携事業を支援していく予定。また、画期的な取り組みをしている企業であれば、どのような規模であっても支援していくこととしている。
同時に、国立創造産業政策評価センター(national Creative Industries Policy and Evidence Centre)が設立される。このセンターでは、社会の中でより幅広く産学連携を促進させる方策など、創造産業に関するより深い理解のための分析が行われ、将来の政策に役立てることを目的としている。
AHRCのAndrew Thompson議長コメント:
映画、テレビやゲームなどのデザインから建築やファッションまで、イギリスは世界でも有数のパワフルで革新的に創造性を進化させている国である。創造産業はわが国の将来の繁栄に重要な役割を果たす。本事業は人文学の分野における研究とイノベーションのための投資としては過去最大規模のものになるだろう。革新的な製品とサービスの開発、高い価値のある技術や新しい職の創造という面から、長期的な英国社会の成長を支えていくであろう。
*1ポンドを150円にて換算
http://www.ahrc.ac.uk/newsevents/news/cicp-launch-greg-clark/
(3) タイムズ紙、サンデータイムズ紙がGood University Guide 2018を発表
9月23日、タイムズ紙、サンデータイムズ紙は学生の大学選択に資するためのGood University Guide2018を発表した。
総合ランキングで昨年に引き続きケンブリッジ大学が首位を獲得し、2位はオックスフォード大学、3位はセントアンドリュース大学という結果となった。
評価項目は、①学生の満足度(教育の質、大学での経験)、②研究評価、③入学時の成績、④卒業後の就職率、⑤学位取得時の成績優秀者の割合、⑥卒業率、⑦教員一人当たりの学生数、⑧学生サービス・施設への投資額、となっている。
また、ランキングのほかにUniversity of the Year(今年を代表する大学)として、ランカスター大学が選ばれた。受賞理由は教育と研究両面における積極的な取り組み、多様な留学生の受け入れで国際色豊かなキャンパスと積極的な設備投資であった。
good_university_guide_201820.xlsxをダウンロード
http://nuk-tnl-editorial-prod-staticassets.s3.amazonaws.com/2016/bespoke/university-guide/index.html
(4) 大学・科学大臣がUKリサーチイノベーション理事会の非常勤執行委員を発表
9月28日、ビジネス・エネルギー・産業戦略省の大学、科学大臣であるJo Johnson氏は、新しく創設されるUKリサーチイノベーション(UKRI: UK Research and Innovation)の理事会非常勤執行委員、12名を発表した。
理事会はUKRIの議長や理事長、及び運営チームと協力し、今後数か月にわたってUKRIの立ち上げとUKRIの今後の方向性の戦略を築いていく。産業戦略チャレンジ基金など研究とイノベーションの予算の割り振りの助言を大臣に対して行っていく予定。
理事会の主な任務は以下のとおり。
・UKRIの母体である英国研究会議(RCUK: Research Councils UK)とイノベーションUK及び新しい組織リサーチイングランドの強みを維持し、強化すること。
・政府からの年間60億ポンド(約9,000億円)の投資に対してその価値と利益を最大限に引き出すこと。
理事会メンバー
- John Kingman 卿(UKRI暫定議長)-- Legal & Generalグループ会長/財務省第二事務次官
- Peter Bazalgette 卿―テレビプロダクション会社創設者/ITVテレビ局会長
- Julia Black 教授―LSEの研究に於けるプロダイレクター
- Leszek Borysiewicz 卿―University of Cambridge の学長(2017年9月末まで)/Cancer Research UKの議長
- John Browne of Madingley 卿―L1 Energyの会長/BP |Plcの元最高責任者
- Ian Diamond卿―University of Aberdeenの学長
- Fiona Driscoll 氏(UKRI監査委員長)―Nuffield Health監査委員会委員長
- Alice Gast 教授―Imperial College London学長
- Harpal Kumar 卿―Cancer Research UK最高責任者
- Max Lu 教授―University of Surrey学長
- Vivienne Parry 氏―ゲノミクスイングランドの企画長
- Mustafa Suleyman 氏―DeepMIndの共同創設者及び応用AIの責任者
- David Willetts 卿―Resolution Foundation 理事長/元大学・科学担当大臣
- Sally Davis教授―医務部長(公務員のためメンバーになれないが個人の裁量により参加する)
https://www.ukri.org/news/science-minister-announces-non-executive-board-members-of-uk-research-and-innovation/
(5) メイ首相が学生への学費の支援を公約
10月1日、メイ首相は来学事年度の大学の授業料を今年と同額の9,250ポンドに据え置き、今後学生財政システムの再検討をと発表した。(BBCニュース配信)
また、卒業生が学生ローンの支払いを開始する年収基準額を、21,000ポンド(約315万円)から25,000ポンド(約375万円)に引き上げるとした。
高等教育機関の改革は、2年制の学位取得コースの導入など、金銭的な負担がかからない方法が模索されている。また、授業料のローンの利率を下げたり、人手が不足しているエンジニアリング関係の学科の学費の値下げなどのアイディアも検討、また卒業税に関しても示唆した。
BBC教育部記者 Sean Coughlan氏コメント:
授業料の凍結は好感触をもって受け止められた。しかし選挙のたびに政策がいかに変わるものであるかをも示した。授業料の値上がりと学生ローンの焦げ付きへの対処は、いずれの党にとっても若い有権者を取り込むための重要な政策のひとつとなっている。
高等教育研究法制定により毎年学費値上げの方向を示したが、大学側はすで暗礁に乗り上げてしまっていると予想している。なぜなら多数の支持がない限り政府はそれをごり押しすることは現実的ではないからである。恐らくもっと重要なことは学生ローンの支払い開始の年収基準額を£21,000から£25,000に引き上げ、すでにこの秋から学生ローンの利率を6.1%に引き上げたがこれについて再検討することを約束したことである。
*1ポンドを150円にて換算
http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-41456555
【関連記事】
メイ首相の公約を受けて英財政研究所(IFS: Institute of Fiscal Studies)による「授業料据え置き及び学生ローンの支払い開始の年収基準額の引き上げに関する試算」
・年収基準額を2021年まで25,000ポンドに引き上げ続けた場合、平均して一人当たり約10,000ポンドの支払い減額が生じる。中所得者層が一番恩恵を受け、最大15,700ポンドの支払い減額となる。これにより30年間の返済期限内に返済できない卒業生は83%に上ると試算される。(現在は77%が期限内に返済できていない)
・授業料を9,250ポンドに据え置くことで短期的な影響はさほど無いが、長期的に据え置きとなると多大な影響が出てくることが見込まれる。授業料を値上げせず、据え置きにすることで、この秋から3年制の学位コースに通う学生の将来の負債額は50,600ポンドから£49,800ポンドと減少することになるが、多くの学生はいずれにせよこれらの負債を完済することはできず、高収入の卒業生だけが返済額の減額の恩恵を受けるという状況を意味する。
・これらの変更により、政府の高等教育分野への長期的な支出が増えることになり、毎年約£20億を支出する必要が出てくるだろう。
・他との相殺の無い単なる授業料値上げの凍結は、大学の財政を圧迫することになる。短期的には影響は小さいが長期的な影響は避けられない。このような対応をするのであれば、政府が新たにTEF(教育評価制度)を導入したことについて疑問符がつくし、大学の長期的な財政運営の見通しに不確定さをもたらすことにもなる。
https://www.ifs.org.uk/publications/9964
【各機関の反応】
・英国大学協会理事長 Janet Beer 教授:
現行の高等教育システムは大学の経営維持を可能にし、社会が必要とする熟練した技能をもつ者を輩出し、様々なバックグラウンドを持つ学生が新たな環境への扉を開く機会を提供している。他方、学費が適切で正当な額であるかどうかをチェックすることもまた重要である。
政府が学生のお金に関わることについて注力していることは喜ばしい。学生ローンの支払い開始の年収基準額の引き上げ計画も歓迎する。同協会は政府が生活奨学金制度を再導入し、低~中所得者の学生ローンの利率の引き下げに取り組むことを期待する。また、社会人学生やパートタイム学生の数が減っていることに対し、何らかの対策を講じる必要があると考えている。世界クラスの教育機関を持つ英国での大学に対する助成金の継続が重要である。IFSが発表したように学費を凍結してもその代わりとなる助成金の支給がなければ、世界級の教育を期待する学生に応えることが不可能になるという危機が起こることになるであろう。
(6) 起業家に大学での研究場所を提供―ロイヤルソサエティが一人当たり4万ポンド(約600万円)の資金を準備
10月10日、ロイヤルソサイエティは’Entrepreneur in Residence scheme’を新たに実施することを発表した。この事業は大学での研究をスムーズに産業に転用することができるよう、これらを妨げる障壁への対処について研究ができるようにすること、大学内に起業の文化を根付かせること、及び産業界で必要とされているスキルを身に付けさせるためのカリキュラムを現在産業界で働く卒業生に開発してもらうこと、を目的とするものである。
支援対象として選ばれた者は最新の産業科学をもとに学生向けのコースを開発したり、産業界で働くことを希望する学生に対しキャリアについてのアドバイスを行ったりすることが期待される。また起業に興味のある学生や教授陣へのアドバイスや、大学において現在行われている研究の商業化の可能性についての評価・アドバイスも行う。
このスキームでは最大10名が2年間にわたり40,000ポンドを支給される。支援期間中は業務時間のうちの20%を大学で働く時間とすることが条件となる。
*1ポンドを150円にて換算
https://royalsociety.org/news/2017/10/royal-society-launches-40000-scheme-to-place-entrepreneurs-into-universities/
(7) 産業戦略の中心となる大学の知識交換評価: TEF, REFに続く新評価制度KEF(Knowledge Exchange Framework)構想
10月12日、イングランド高等教育財政会議(HEFCE: Higher Education Funding Council for England)は2017年HEFCE会議にて行われた大学・科学担当大臣のJo Johnson氏のスピーチ内容の概略を発表した。
大臣は、大学の研究・知識交換について担当する新組織であり、UKリサーチイノベーション(UKRI: UK Research Innovation)に属するリサーチ・イングランド(Research England)に対し、高等教育イノベーション基金(HEIF: Higher Education Innovation Funding)への投資額増加の適切なレベルについての検討を依頼した。これはHEIFの年間の投資額を2億5000万ポンド(375億円)にするべきというWittey Review の調査報告書の提言と、質の高い研究を支援するにあたっての根拠が必要であることによる。大臣は商業化に成功した、既成概念を打ち砕くようなハイレベルの研究例としてNew York University のRemicadeやCancer Research のAbirateroneの事例を挙げた。
また、大臣はリサーチイングランドに対して、学生局(OfS: Office for Students)と共に、Keele University 学長Trevor McMillan教授が主導して取り組んでいる知識交換評価制度(KEF: Knowledge Exchange Framework)に早急に協力することを指示した。KEFは知識の交換、交流、協働そして商業化を通じて大学が経済に及ぼす影響の大きさを測り評価するものである。
知識主導型経済が今後進んでいく中で、大学は政府が注力する研究開発の中心となる役割を果たすこととなる。KEFは大学のパフォーマンス向上に貢献するばかりではなく、社会や地域へのアカウンタビリティも高めてくれるだろう。
KEFは毎年の高等教育調査(HE-BCI: Business and Community Interaction Survey)をもとに導き出される。今まで本調査により評価された大学は、HEIFのパファーマンス基金から資金提供がなされてきている。
HEFCEは科学関連予算から知識交換(knowledge exchange)に対し、1999年から予算支出を行っている。同時にHE-BCI調査の開発も行なってきた。HE-BCIは国際的、国家的、地域的な視点を含み、長期的社会貢献のための最も包括的なデータである。
HE-BCIの調査結果によると、知識の面について英国の実績は、初めてデータが発表された2003/2004学事年度の£25.3億から2015/2016学事年度は£42.1と66%の伸びを示している。今年のデータでは大臣が主要分野とした分野において大きな成長を遂げている。大企業の収入は昨年に比べると5.1%、中小企業の収入は11%、知的財産の収入は13%の増加があった。
http://www.hefce.ac.uk/news/newsarchive/2017/Name,115859,en.html
大学・科学担当大臣 Jo Johnson 氏のスピーチ全文
https://www.gov.uk/government/speeches/how-universities-can-drive-prosperity-through-deeper-engagement
*1ポンドを150円にて換算
【各機関の反応】
・ラッセルグループ
事務局長代理Tim Bradshaw氏のコメント
我々は中小企業から多国籍大企業まで様々な企業や公共機関と提携をしてきている。メンバーの大学は年間20,000ほどの小規模企業と協力し、イノベーションや経済成長に貢献している。昨年はラッセルグループの卒業生やそのスタッフによる起業が688件に上った。これはまったく偶然の産物ではない。ラッセルグループの大学は知識交換にプライオリティを置いており、「研究から商業化へ結びつく発見数の増加」という政府の目標を共有しているためである。
知識化交換は幅広い活動分野と幅広い多くのパートナーに及ぶ。もし新しいKEFがすでに大学で行なっている素晴らしい業績を正しく判断しようとするのであれば、その多様性を評価のポイントに加える必要がある。大学とそのパートナーのために新たな有効なツールを作成しようとするのであれは、英国全体で行なわれている知識交換の全容を注意深く見極めて取り組む必要がある。
http://russellgroup.ac.uk/news/knowledge-exchange/
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