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UK HE Information

2018年11月英国高等教育及び学術情報

2018年11月20日

(1)学費値下がり、しかし理系は値上がり?

(2)大学は学費に見合う価値のあるところであるべき

(3)調査報告書:英国における留学生の持続可能な未来

(4)英国大学協会とドイツ大学学長会議の共同声明 ― 学術的提携を続けることの重要性

(5)シンクタンクによるサンドウィッチイヤー中の学費の妥当性の調査

(6)英国のクリエイティブ産業の強化のため主要な新規研究に投資

  

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(1)学費値下がり、しかし理系は値上がり?
 2018年11月2日、BBC Newsは、イングランドの大学学費が6,500ポンドに値下がりするが、将来高収入を得る可能性のある医科、理科系等は13,500ポンドに値上がりする可能性があることについて以下のとおり報じた。この件は、Philip Augar氏を代表として現在首相が進めている、18歳以上の高等教育の見直し作業において真剣に討議されているものだとされている。
 BBCによれば、ことさら重要なこととして、それは大学側がひそかに恐れていたことがまさにそのような方向に行くということである。人文・教養・芸術系の学生が学費切り下げを祝うにはまだ早く、まだこれは結論に至っていない。現在のところリーク等の域を出ず、2019年(注:初頭の予定)に正式に発表されるまではわからない。
 学科によって学費が異なるという方向に進んでいるようである。現在の学費上限は9,250ポンドであり、これが6,500ポンドに下がるが、コストのかかる学科は13,000ポンド以上と倍の学費になることもありえるとされている。
 これは、将来の収入が医学、自然科学、数学、工学を専攻した方が芸術・教養、人文科学系より高額になるという考えに基づいている。
 また、歴史学や英文学のように、芸術、人文科学系は、設備が必要であったり教育時間が長くなったりする自然科学系よりも安く済む、という考えからもきている。
 よって、全科目で学費が一様であるべきではなく、費用は適宜調整されるべきという議論が存在している。
 多くの大学はこの提案に対し激烈な嫌悪を示すであろう。
 大学は、芸術・教養、人文科学系を下層とする二層制度を作ることになり、下層の学科は資金不足に陥ると見るだろうとされている。また、このような制度は貧困家庭からの学生を医学や自然科学系から遠ざけ、他の安い学科に押し込めるという社会的に逆進的な仕組みとなるという反論があるだろうとしている。
 学費とその返済金があまりにも高額であるという懸念から見直し作業を行わせているため、政府はそれほど高額とは見なされないような何かを考え付くことを迫られるだろう。また、EU離脱に向けて手一杯の政府が、国内で何か違いを見せることができるということを示そうとする時期でもある。
 大学関係者は異なる学費段階といったような計画案をやめて別のことをするように求めるだろうし、そのため、今後数ヶ月で決断が近付くにつれ、学費の変更に関する意見交換会や先制攻撃を見込んでいるとされている。
 教育省(DfE:Department for Education)は、18歳以上の高等教育の見直しは学生にとっての学費の価値を求めるものであるとしたが、見直し内容の見込みや事前情報に関してはコメントを控えた。

 

BBC News:Tuition fees cut to £6,500 but higher for science?

 

1ポンド≒147円(2018年11月2日)

 

(2)大学は学費に見合う価値のあるところであるべき
 2018年11月5日、議会の教育委員会は「高等教育における学費の価値」(Value for money in higher education)に関する報告書を公表し、その中で高等教育は卒業後の成果、技能の教育、恵まれない環境からの生徒の参加向上に焦点を絞る必要があることを述べた。

 

アクセシビリティ:
委員会は、大学と政府両者に、学生によりよい成果を保証するために学位アプレンティスシップ(degree apprenticeship)*の拡大、大学をより幅広い学生にとってよりアクセスしやすい場所にすること、また過当な学長の給与に関して取り組んでいくように呼びかけている。

 

卒業後の成果:
報告書では、大学に卒業後の将来の見込みについて、収入と就職先の両方との関係で、より透明性を高めるよう求めている。国家統計局(ONS:Office for National Statistics)の2017年の調査によると、最近の卒業生の49%は英国で大卒向け未満の仕事に就いていることがわかった。委員会は、卒業後の成果の情報が増えれば、学生はより良い情報の下に選択をでき、機関がより説明責任を果たすことになると考えている。

 

技能と学位アプレンティスシップ:
高等教育は第4次産業革命に向けて学生を育て、国内での技能需要を満たすことにより重要な役割を果たさなくてはいけないと報告書は述べている。政府が発表した最近の雇用者技能調査の結果では、なかなか埋めることが困難な空きポジションの原因の3分の2は、少なくとも部分的には、志願者の技能、資格、経験の不足である。委員会はすべての高等教育機関に対して国の生産力向上のため“重要”とされる学位アプレンティスシップの提供を求めている。

 

社会的公正さと柔軟な学習―― 生活費給付奨学金の復活:
委員会は、パートタイム学生数及び成人学生数の減少並びに社会的に恵まれない環境から高等教育へ進む学生への影響を“深く懸念”している。大学はもっと柔軟な学習環境を、例えば、単位互換、就労体験型学習や就学中断制度などを提供し、従来の“厳格な”大学3年制の考えから抜け出す必要がある。
英財政研究所(IFS:Institution for Fiscal Studies)の研究調査によると、2012年の学費の値上がりと生活費給付奨学金の導入で、貧困層の学生に3年間の課程で57,000ポンドの負債が生じることになる。政府はローンの所得調査制度と生活費給付奨学金の復活をするべきである。

 

学長及び上級職の給与:
報告書では学長の“不当で”過大な給与が異例と言うより普通になってしまっており、学生や納税者にとって見合う価値のないものであるとしている。雑誌“Times Higher Education”の学長給与調査では、給与、ボーナス、手当の合計で学長たちは平均268,103ポンドを支払われていた。
学生局(OfS:Office for Students)は上級管理職の報酬に関してより強硬な姿勢をとり、特に職員の平均給与の8倍以上が機関から学長に支払われている場合、介入を恐れないようにするべきである。委員会はOfSに、職員の平均給与、実績、その他の評価に結びつく、許容可能な賃金水準の基準の公表を呼びかけている。

 

無条件合格:
報告書では、学生に対し提示される無条件合格の急激な増加に注目して、OfSにその利用を抑え、そのやり方が学生の利益にとって有害であり高等教育制度自体を蝕むと警告するようにも求めている。

 

Parliament.uk:Universities must focus on value for money

 

1ポンド≒147円(2018年11月5日)

 

*学位アプレンティスシップ:英国の職業教育制度の一つ。実際に雇用され賃金を支払われることと大学や職業訓練事業者へ通うことがセットになっており、最終的に学士号や修士号を得ることができる制度。

 

(3)調査報告書:英国における留学生の持続可能な未来
 2018年11月6日、英国の国際教育関係者ネットワークExporting Education UKは、超党派の国会議員で構成される留学生関係議員連盟(APPG:All-Party Parliamentary Group for International students)が、過去8年間にわたる政府の規制的な政策の後に世界における教育界の競争的地位を回復させるために設けられた、英国の国際教育の持続可能な成長のための計画案を発表したと報じた。
 報告書は、2018年9月に発表された移民諮問委員会(MAC:Migration Advisory Committee)の報告書と2018年1月に高等教育政策研究所(HEPI:Higher Education Policy Institute)とKaplan(注:米国に本拠を置く国際的な教育企業)が発表した国家や地域への留学生の経済的貢献に関する研究利益に続く、留学生が英国にもたらす利益を明確に示してきた数多くの研究の一つである。
 報告書では12の勧告が示されている。

 

その内容は:
政府に対する勧告
1. 複数の部門にまたがるグループが、留学生の数を増やすために明確で野心的な目標を設けるべきである。このことは複数部門にまたがる戦略や、学生を移民総数の対象から除外するという合意事項によって支援されるべきである。

2. 政府は、英国で2年までの就業経験を可能にする、明確に分類された魅力的な卒業後就労ビザを提供するべきである。

3. 政府は、ヨーロッパの大学との関係を近づけるための一環として、学生や研究者の無制限な移動についてEUと合意すべきである。そして、英国において学び、研究しているEU市民に対して、彼らのビザや研究資金の権利がいかに変化するかを即刻はっきりさせるべきである。

4. 移民関係の規則は、学生が英国で、そして英国教育システムのすべての段階で学ぶことを促進、奨励すべきである。

5. 政府は、現在提案されている雇用戦略の中で、小規模な、専門的な、職業訓練的なまたは継続教育の教育機関を含む英国教育の選択肢の多様性を促進し保護するべきである。

6. 国境局独立主任検査官(Independent Chief Inspector of Borders and Immigration)は、学生移民制度の中で、目的に沿っているか、現在あるリスクと比べて費用が効果的か、留学生の多様性を制限していないかなどを確かなものにするために、信頼性確認面接制度(注:学生ビザを申請する際に受ける手続きの一つで、申請者が本当に学生かどうかを審査するもの)の評価作業を独立して行なうべきである。

7. 留学生数の増加を支援し、留学生に頼っている地域独自の課程や教育機関を保護し、就業経験制度や業界の関与など国際教育の利益を高めようとする地域及び国家の取り組みを支援するために、政府と、分権された地方政府とが密接に関わっていくべきである。

8. 政府は輸出産業として、また国家、地方、地域レベルを含めた経済的価値のあるものとして、教育に関するデータを正確に追跡するべきである。政府は二国間協定の交渉を行なうとき教育も貿易戦略として含めるべきである。

 

大学、カレッジ、学校への勧告
9. 教育機関は、より多くの英国人が海外で学ぶことを支援するだけでなく、異なる留学生集団を持つことによる有利な点や利益を最大化することによって国際化戦略を強化するために、成功事例を教育界の中で共有するべきである。

 

企業への勧告
10. 英国に関する留学生へのメッセージは、歓迎的で、明確、シンプル、かつ一貫性のあるものであるべきである。これらは政府や教育界と協力して企業が開発するべきである。

11. 英国は、留学生の自国での就業機会を支援して英国のソフトパワー、研究、貿易を促進するような、また大学、企業、政府が一層同窓会活動に参画することを支援するような、留学生の卒業生や同窓会についての戦略を立てるべきである。留学生の長期に渡る就職状況の追跡活動は強化するべきである。

12. 教育機関、地方自治体、地方企業は団結し、留学生を誘致し、留学生に備え、留学生を支援し、そして地元社会の中に留学生が溶け込むようにするべきである。

 

ExEdUK:Inquiry Report: A Sustainable future for international students in the UK

 

(4)英国大学協会とドイツ大学学長会議の共同声明 ― 学術的提携を続けることの重要性
 2018年11月9日、UUK(Universities UK)は、UUKの理事長でLiverpool UniversityのDame Janet Beer学長がドイツ大学学長会議(HRK:Hochschulrektorenkonferenz)の会長であるPeter-Andre Alt教授と対談し、英国のEU離脱後いかに現在の高レベルな研究提携や学生、教職員の交流を英国とドイツの間で維持するかについて議論したと発表した。

 

両者の声明文:
“英国とドイツとは研究協力における長年の歴史があり、ヨーロッパ研究プロジェクトで現在11,854件の提携を行なっている。我々は相互の利益のために双方向の学生交流を行なっており、2016/2017学事年度では英国にドイツ人学生13,400人以上、ドイツに英国人学生3,500人以上が学業の一環として学び、ボランティアし、就業している。我々はこの相互協力を高く評価し、さらなる学術提携を育み、奨励していくことを誓った。我々は価値観、研究目標、文化を共有する最も近い隣人たちが現在のように我々と親密である状態を保つために努力していかなければならない。”

 

また、彼らは“我々は両国の政治指導者に、この協力関係を維持する方法を見つけ、また将来のフレームワーク・プログラムとなるホライズン・ヨーロッパ及び教職員、学生の交流のためのエラスムス計画の両方を真剣な選択肢として見るよう、喚起したい。”とも述べた。

 

Universities UK:Joint statement from UUK and HRK on the importance of continued academic collaboration

 

(5)シンクタンクによるサンドウィッチイヤー中の学費の妥当性の調査
 2018年11月11日、自由保守主義系の独立シンクタンクであるブライト・ブルーは、イギリスの各大学がサンドウィッチイヤー*に課している学費の差を示すデータを公表し、学生局(OfS:Office for Students)にこの学費の正当性の調査を呼びかけた。
 ブライト・ブルーのRyan Shorthouse取締役は、“大学はサンドウィッチイヤーに入っている英国学生とEU留学生に対して最高1,850ポンドの学費を課すことを許可されている。またこの課される学費には大学によりかなりの格差が生じている。多くの場合は上限額付近に集まっている。サンドウィッチイヤーにまったく学費を課していないところもある。”“サンドウィッチイヤーの間、学生はその労働に対して収入を得ている。特に、多くの大学が学費を課すことなくサンドウィッチイヤーを提供できているため、学生がサンドウィッチイヤーに対して何のために何千ポンドもの学費を払っているかは明確ではない。そこで新しくできたOfSは、このサンドウィッチイヤーの学費の正当性を包括的に調査し、もし必要であれば、不当な学費を廃止するための行動を取るべきである。”

 

 ブライト・ブルーは、2018年8月に情報公開として94のイングランドの大学に質問状を送付した。その内容は:
• 2016/2017学事年度でサンドウィッチイヤーの学部学生に対して課された学費
• 2016/2017学事年度でサンドウィッチイヤーに入った学部学生の数
• 2016/2017学事年度でサンドウィッチイヤーを利用した、プレイスメントイヤー**の学部学生から支払われた学費の総合計額
• 2016/2017学事年度で学部学生のための全てのプレイスメントイヤーにかかった管理費用の合計額

 

ブライト・ブルーが調査した94のイングランドの大学とはすべてのイングランドの大学ではない。また、全大学から回答は回収できなかった。

 

回収された回答からの結果は:
• サンドウィッチイヤーを始めた英国学生に個別の学費割合を示すことができていた64大学中のうち、11大学は2016/2017学事年度に学費を課していない。
• サンドウィッチイヤーを始めた英国学生に個別の学費割合を示すことができていた64大学のうち、12大学は、2016/2017学事年度に最高額となる1,800ポンドを課している。
• サンドウィッチイヤーを始めた英国学生に個別の学費割合を示すことができていた64大学が課していた学費の中央値は1,000ポンドであった。
• 調査した94大学中23大学は、返答がなかったか、求められたデータを提供することができないということだった。

 

Bright Blue:Investigate justifiability of tuition fees for sandwich years, says Bright Blue

 

調査結果の詳細:
Bright Blue:Ryan Shorthouse and Jessica Prestidge: Tuition fees for sandwich years, by English university (2016-17)

 

*サンドウィッチイヤー:大学で最終学年の前年に1年間の職務経験を体験する制度。

 

**プレイスメントイヤー:大学にいながら1年間雇用され、就業できる制度。

 

1ポンド≒149円(2018年11月9日)

 

(6)英国のクリエイティブ産業の強化のため主要な新規研究に投資
 2018年11月13日、芸術・人文科学研究会議(AHRC:Arts & Humanities Research Council)は、英国最高のパフォーマンスと世界規模で高い評判のあるクリエイティブ産業のいくつかが研究者や組織と協力し、この分野を強化する新しい方法を模索をすることになったと発表した。その目的は、映像産業や興行産業における観客の体験の向上や、デザイン産業における生産時間の短縮のためにデジタル技術の利用を増やすことであるとされている。
UKリサーチ・イノベーション(UKRI:UK Research and Innovation)が主導し、産業戦略チャレンジ基金からも資金を受けた8,000万ポンドに及ぶこのプログラムは、英国の4つの国(注:英国は連合国家である)中にある9つのクリエイティブ集積事業と、13の大学が提携したNestaが主導する新しい政策とエビデンス収集のためのセンターとを含んでいる。このプログラムは、企業や組織と共に世界クラスの研究能力を集める。そこにはAardman、Burberry、Sonyといったお馴染みの企業も参加しており、今までに類を見ないものような研究開発投資が行なわれることになる。

 

AHRC:Major new research investment set to provide boost for UK's Creative Industries

 

1ポンド≒146円(2018年11月13日)