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UK HE Information

2019年5月英国高等教育及び学術情報

2019年12月04日

(1)大学卒業者の三分の一は教育過剰 

(2)前大学担当大臣Jo  Johnson氏「留学生には、卒業後2年間英国で働いてもらう」 

(3)受賞暦のある次世代の研究者が政府出資を獲得

(4)学生の財政状況に対する理由

(1)大学卒業者の三分の一は教育過剰

 2019年4月29日に、国家統計局(Office for National Statics:ONS)は、「大学卒業生の三分の一が、現職に対して必要以上の教育を受けている」と発表した。

 2019年4月29日に発行された国家統計局の四半期ごとの経済報告によると、大学卒業生の約三分の一(31%)は、2017年現在で卒業生が就いている職業に対して必要とされている以上の教育を受けている。

 その割合は1992年以前の卒業生の内では21.7%に過ぎなかったのが、2007年以降の卒業生の内では34.2%まで跳ね上がる。

 この数字は、必要以上に高学歴である割合が、25歳~34歳までと35歳から49歳までの年齢層で高くなることを示している。またこのデータは、教育過剰が短期間の現象ではなく、未だ29.2%の卒業生が、卒業後5年間で就いている職業に対して教育過剰であることを示している。

 ロンドンは、労働者の教育過剰の割合が最も高い地域だった。これは、部分的にはロンドンの移民労働者の割合が比較的高いことによるものであり、今回の発表の対象である典型的な教育過剰のグループであることを示している。

 今回の発表を受けて、ONSの上級エコノミストであるMaja Savic博士は「教育過剰は最近の卒業生の中でさらに広まっているが、この状況はしばらく前に卒業した人々にとっても普通のことである。我々の発表は、芸術や生物学、人文科学を学んだ人々は学歴と釣り合いの取れない現職に就いている可能性が非常に高いであろうことを示している」とコメントしている。

 ONSのプレス発表を受けて、BBCでは以下のとおり、同日に報道した。

ONSのプレス発表は「過剰教育の割合は、特定の年齢層、特に25歳~49歳までにおいて高いように思われる。35歳~49歳の年齢層における教育過剰の比較的高い割合は、教育過剰が英国の労働市場では持続的な現象になっていることを示している」と述べている。

 2017年の全労働者のうち、約16%が教育過剰となっているが、2006年以降大きく変化していない。

 ONSは確認できないとは言うものの、ある人々にとっては、お金以上の優先事項が卒業後の平均以下の収入に結びついているのだと述べる。ONSは、このことが教育過剰の変化しない割合を説明すると述べている。

 ONSは、今発表は、教育は能力を測るもので、技能と能力を区別するものではないことを推定していると述べている。ONSはまた、このことは生産性を測るものとしての賃金を推測しており、この調査が教育過剰が労働者の給与に影響をあたえるか示すものではないと述べている。

 ONSは「もし人は、職務条件以上の学歴を有するものであれば、教育過剰は一般的であるかもしれない。しかし、教育過剰とは労働者の技能や知識が活用されていないことを意味するために用いられる言葉である。

 また、過剰教育は失業の形態とみなされ、それゆえに労働市場の停滞に結びつくのである。

 しかし、4月初旬に発表された政府データによると、学位は高収入をもたらすだろうし、学位が二つとなればさらなる収入を得るだろう。

 大学院卒業生は、一般的に学位のない者よりも、30歳までに9000ポンドないし約40%以上稼ぐことを示している。

 このことは、学士課程卒業生と卒業していない者との間での年間4500ポンド(約21%)の2倍もの格差になっている。

 エリザベスは、最近マンチェスター大学の化学工学の学位を修了した。彼女は学位に見合った仕事を見つけられず、最低賃金の仕事に就き続けている。

 「私は、統計上の女性が学位取得者で決してエンジニアに就かない一人になってしまい悲しい。今後50年間ずっと最低賃金の仕事を続けることを恐れている。なぜなら私にはこの状況から逃れる術がないからである。私は、人々がこの分野で女性を雇用するつもりがないことを理解すべきだった。

 私は毎日自分の学位の選択を後悔している。私は何か他のことができたかもしれない。人々は、私が複数言語を話すことができ、学位を持っているのに、なぜキッチンポーターをしているのか尋ねてくる。自分より学歴を持たない人が、キャリア的に私より優れた地位にいることが私には悲しい。

 自動車免許証の欠如が、私のキャリアアップに対する大きな障害になっているように感じるし、免許は多くの点で学位よりも役立つように思える。」

 

ONSのプレス資料:One in three graduates overeducated for their current role.

BBCの記事 :  Almost a third of graduates “overeducated “ for their job

参考

The Guardian : Third of UK graduates overqualified for their job

 

 

(2)前大学担当大臣Jo  Johnson氏「留学生には、卒業後2年間英国で働いてもらう」

  2019年4月26日、英国政治関係サイトPolitics Homeのウェブサイトにおいて前大学担当大臣Jo Johnson氏は"英国滞在の留学生は卒業後2年間英国での就業は許可すべきだ"と述べた。

  Johnson氏は「留学生の卒業後の滞在をたった4ヶ月に制限することで、英国は何十億ポンドも失っており、他国に優秀な才能を流出している。」と述べた。

 Johnson氏と労働党のPaul Blomfield氏は、現法の緩和を目指す移民法の改正案を、議会に上程しようとしている。

 提出された変更案は、政府の狙いは移民の数を1年間で10万人以下に制限しようとするものであるが、留学生数については上限を定められないよう保証するものである。

 留学生は、かつては卒業後2年まで英国で働くことが認められていたが、それはTheresa May氏がまだ内務大臣だった2012年に、4ヶ月までに削減された。

 May氏はまた、閣僚がその考えを捨てるよう強く努力したにもかかわらず、移民実数のターゲットから留学生を除くことを継続的に拒否した。

 昨年ブレグジットを理由に政府を辞めたJohnson氏は、「我々は学生に対してより気の利いたアプローチを適用しなければ、教育の輸出目標を満たす機会を失うことになる。もし我々がGrobal Britain*に真剣に取り組むのであれば、我々は留学生が英国の大学・地元経済・ソフトパワーに大きな利益をもたらしていることを認めなければならない。」

 「学生が長期滞在することでもたらす影響は小さい。我々の新たな条項が大学や地元経済、英国のグローバル展開にもたらす影響の方が、はるかに重要性が高い。我々が未来に向けて移民政策を再構築するためには、この機会を絶対に逃してはならない。」と述べている。

 アメリカ、カナダ、オーストラリアのような競合国は、留学生が卒業後4年まで、その国に滞在することを認めている。

 Paul Blomfield氏は「我々は、2012年以降、不適切な証拠に基づいて厳しく制限された大学卒業後の就業に関して新しいアプローチする必要である。学生は卒業後の就業に対して重要性を見出しており、学生たちは他の場所で時間と金と才能を投資するだろう。このことは、我々の競合国が適切に卒業後の就業体制を導入している理由である。雇用者側も才能のある卒業生の貢献を歓迎する。」と述べている。

 アメリカ、カナダ、そしてニュージーランドは留学生に対して卒業後に3年間の就業機会を提供している。オーストラリアは4年間である。

 Paul Blomfield氏は「2012年に、2年間から4ヶ月まで削減したので、英国の卒業後の就業体制は単純に競争的ではなくなった。2019年3月に、教育省(Department for Education:DfE)と 国際産業省(Department of International Trade:DfIT)が発表した新しい国際教育戦略の中で卒業生の滞在を6ヶ月に延長するが、我々が必要な違いを生み出すまでにはいたっていない。」と述べる。

 二人の提案は、下院の9つの委員会議長の支持を得ている。

*Global Britain: Brexitを踏まえ、EU離脱後の英国の国力維持を目的とし、ヨーロッパのみならず幅広い世界で外交的・経済的機会を得るための戦略。

出典元:Let foreign students works in the UK for two years after graduation, says former universities minister

 

 

(3)受賞暦のある次世代の研究者が政府出資を獲得

 2019年5月7日、ビジネス、エネルギー産業戦略省(Department for Bubiness, Energy & Industrial Strategy : BEIS)の科学担当大臣は、研究者やイノベーターが各分野で世界的リーダーになるのを支援するためのFuture Leaders Fellowships*の第一弾を発表した。

 ・科学や研究の分野でイギリスを拠点とする未来のリーダーたちが、革新的なプロ ジェクトのために政府から資金を獲得する。

・40名以上の異なるバックグラウンドとキャリアを有する研究者がそれぞれ資金を獲得する。

・この資金は、未来の課題に取り組むための科学根拠を導く最新の産業戦略の一部である。

 Chris Skidmore科学担当大臣は、ロンドンでの演説の中で、Future Leaders Fellowshipsの第一弾について説明し、第一弾には、41人のキャリアの浅い研究者たちが含まれており、彼らは英国中(エジンバラからブリストル、ベルファストからロンドンまで)の大学に属しており、気候変動解決や都市間の革命的移動手段を含む根本的な国際的課題を解決するための最先端の研究に対する4千万ポンドをシェアすることで資金を得ることになる。

 3年にわたって総額9億ポンドもの政府出資によって支援されているこのスキームは、実験室での発見を商業マーケットにもたらすビジネスと密接に提携するための支援を提供することで名高いFuture Leaders Fellowshipsに、世界中の学術的またはビジネスの背景を持つ人々が申し込むよう呼びかける。

 Industrial Strategy’s Grand Challenges*を支援するため、新たなフェローとそのプロジェクトには以下を含む。

 ・Anahid Basiri氏:都市の3次元地図を製作することで緊急サービスは現場にいち早く到着することを助け、ドローンが損傷することなく正確に配達ことを助け、地方自治体の計画を支援。

 ・Fiona Watt氏:臨床医が以前膝関節の患者で病状が進行の危険性が高い変形性関接症の進行を予期する研究。現在英国では850万人が変形性関接症を患っており、予防や進行を遅くする薬物治療は現在ない。

 ・Marc Aurel Busche氏:アルツハイマー病と関係することが多い脳内の分子プロセス間の関連性について研究し、そのデータをアルツハイマー病患者の治療法の発見に貢献している研究者や産業界のパートナーに情報提供。

 ・James Lea氏:初めて北極と南極の全氷河の変化をモニターするクラウドコンピューターを用い、機械学習を利用し他データの分析。この研究は将来の海面水位変化や極域後悔ルートに影響を与える氷山の危険性の重要な理解をもたらす。

 ・Helen Frances Dodd氏:どのように子供の冒険的な遊びが若者の間での不安神経症の低下に貢献しているのか。なぜ子供達が冒険的は遊びをしないのかという観点から子供の生活の質の改善や将来の心の病の回避が可能。

 フェローの革新的な研究はまた、最先端の研究と、未来に長きに亘ってのイノベーションの先頭に立ち、英国の地位を維持するのに重要な役割を形成する。英国はすでに研究力を十分に有しており、全世界の総論文数の6%と世界で最も引用されている論文の15%を生み出している。

 科学イノベーション担当大臣Chris Skidmore氏は以下のように述べている。「Tim Berners-Lee卿のワールドワイドウェブの発明から、DNA構造の理解に功績を果たしたRosalind Franklinまで、我々には各分野で画期的な研究や発見への道を築いてきた才能ある人々を多く生み出してきた歴史がある。

 Future Leaders Fellowshipsへの我々の投資は、我々の最も優れた科学者や研究者が産業界の誘導灯として貢献することを可能にし、それらの研究が実験室から商業マーケットに移行することを手助けする。

 次世代の科学者や研究者に対するこの支援は、最新の産業戦略の重要な役割を果たし、2027年までに科学技術予算をGDPの2.4%まで上げるという我々の公約は、英国の科学とイノベーションにおける世界的リーダーの地位を維持し、我々が長年受け継いでいくものとなるであろう。」

 今後3年間で、Future Leaders Programme は彼らの研究に9億ポンドの投資を行い、550名の学者研究者たちを支援する。

 UKRIのチーフエグゼクティブMark Walportは以下のように述べた。

「 Future Leaders Fellowshipsは最も優秀な研究者とイノベーターに対する長期間の支援を提供する。研究者たちは、困難で重要な研究課題への取組やイノベーションへの機会に対して冒険的であるように奨励されるだろう。」

「このフェローシップは、学問の境界を越えたり学術界と産業界の間の隔たりをなくす機会を提供する。これらのフェローシップは、英国の研究とイノベーションが世界的にリードし続けることを保証するのに必要とされる才能ある人間を強く生み出し続けることを可能にするだろう。」

出典元: Next generation of prize-winning researchers receive government investment

*Future Leaders Fellowships:英国で初めて、大学を含む研究機関のみならず企業にも門戸を開き、研究者、企業関係者、イノベーターを支援し、英国の研究とイノベーションを維持することを目的とするプログラム。

* Industrial Strategy’s Grand Challenges:将来的に生じる変化に対し、英国が国民の生活と生産性向上のために設定する課題。2019年5月現在、以下4つの課題が設定されている。①人工知能とデータ ②高齢化社会 ③(低炭素技術等)クリーンな成長 ④未来のモビリティ。

 

 Future Leaders Programmeが支援する41人の研究者等の詳細データ:

First Future leaders Fellowships give the freedom to deliver global impact

 

(4)学生の財政状況に対する理解

 2019年5月14日、ラッセルグループの上級政策分析官のDavid Thompson 氏は学生財政システムの既往に関してGuardian 紙に寄稿した。

 大学の財政の仕組みを多くの人、学生や卒業生、親に尋ねたところで正確な答えなどはかえってこないであろう。

 多くの人々は、学生は5万ポンドの負債を持って卒業し、そのローンは高い金利を有すると聞かされてきただろう。学生ローンが支払い開始時期、猶予期間を条件としており、また「返還が収入次第である」ことを人々は前もって知っておく必要がある。最新の報告書によると、学生のたった40%しか、学生ローンの仕組みを正しく理解していないと思っている。ローンに適用される金利(RPI+0-3%)は、月々の返済の負担とはならない。卒業生の83%はローンの全額を返済しない。このことは、このシステムの意図的な特徴である。

 ここまでのことが理解できただろうか?いや全く理解できていないだろう。本当に驚くことではあるが、そこに問題がある。学生の財政に関して広がりつつある誤解は、ローンシステムが持つ、大部分が進歩的で低価格で融資されており、学費支払い困難な人の補助をするというポジティブな特徴を分かりにくくする。このシステムは完全ではないが、能力と意欲を持った若者が背景に関係なく大学に進学できるように計画的に設計されてきた。人々は、年収25,725ポンドを越えて初めて返済を開始することになっており、返済から30年が経過すれば、残額がどれだけ多額であっても小額であっても、負債は消滅する。高所得者が最も貢献することになる。

 政府はなぜ学生ローンを、現実には全く異なるものであるのにもかかわらず、クレジットカードや銀行ローンなど普通の負債と同一視するのか。現在、絶望的な返済額が書かれた明細と毎月生じる利子のリストが、一年ごとに卒業生に送られてくる。その数字はまったく返済合計額とは関連がないものである。なぜだろうか。

 明確な方針がないため学生ローンは正確に伝わってきていない。そのため、学生、卒業生は、個人的レベルでは十分な情報に基づく財政決定をすることに至っていない。例えば、我々は一部の卒業生が学生ローンを早期に返済するために、まだ到底全額返済が出来ないような低所得にもかかわらず、親からの借金や遺産を使うことがあると聞いている。

 そして政治的には、現在のシステムの状況をめぐる混乱が、あらゆる政府にとっての重要な問題、すなわち我々がどのように高等教育に支出し、その請求書が学生と納税者どちらに送られるべきか、について議論する意欲を低下させている。

 授業料についてのあなたの考えがどのようなものであろうと、我々はより正確な情報に対する必要性について同意できるはずだ。ラッセルグループにおいて、我々はMoney Saving Expertの創業者であるMartin Lewis氏とともに、より明確にシステムを説明し、無益で誤解を招く「負債」という言葉から解き放たれるよう、新たな卒業生のためのローン明細書を作るよう働いてきた。

 我々は、卒業生が人生を通じて支払うことになるであろう金額を、卒業生の収入を基に算出する方法を有している。我々の提案する明細書は、大多数が30年の返済期間後帳消しにされるローンがあるが、実際どれだけ返済するかを表示している。この明細書に対しては6000人対象のオンライン調査において、90%が支持した。ローン返済の最終日を示したり、月々の拠出の内訳を示すような新たな特徴も、同様に人気だった。

 我々は、現在閣僚に対し、改良された明細を適用するよう求めている。政府の18歳以降の教育やファンディングに関する現在の見直しは、絶好な機会を提供するだろう。総理大臣が見直しを始めたとき、授業料の額が再検討されたとしても学生ローンについてはやめるつもりが無いであろうことは明らかだった。そして、今こそシステム設計に関して公的な信用を構築する時である。我々が紹介した学生ローン明細は更なるプロジェクトの一部に過ぎない。しかし、学生ローンの意識改革をするための更なる透明性や意味ある数字と、我々がこれまで考え抜いてきた努力は、新しいシステムに導くことができるであろう。

出典元:https://www.russellgroup.ac.uk/news/understanding-student-fin