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UK HE Information

2019年6月英国高等教育及び学術情報

2019年12月04日

(1)英国のAI部門を発展させるため、AI評議会に任命された一流の専門家

(2)大学が学位評価に関する共同声明を発表

(3)EUからの留学生に対するファンドを2020/2021学事年度まで継続

(4)18歳以降の教育見直し報告書発表

(5)英国のより多くの学生が、自らの研究の一環として日本を目指す

(6)英国における研究とイノベーションに関する事業計画の概要 

(7)次期首相は、大学支援を最優先にすべき

(8)2年連続で、所属する学位課程に対価を払う価値があったとする学生増加

 

 

 

(1)英国のAI部門を発展させるため、AI評議会に任命された一流の専門家

 2019年5月16日、デジタル、文化、メディア、スポーツ省(DOMC)とビジネス、エネルギー、産業戦略省(BEIS)は“AIの可能性を最大限に経済に活用する”ことを狙いとする産業戦略の一環であるAI Sector Deal 1周年を記念し、AI評議会に第一線の専門家を任命した。

 ビジネス界、学術界、データ保護組織のリーダーが、英国のAIの急成長を助け、国の組織や企業を横断してAIを適用し、倫理的な使用を促進するための独立した専門家組織に参加した。

 専門家のラインナップには、英国唯一のオンライン専門スーパーマーケットであるOcadoの最高技術責任者であるPaul Clarke氏、Dame Patricia Hodgson氏、データ倫理・イノベーションセンターの役員、アランチューリング研究所の最高責任者であるAdrian Smit教授が含まれる。他の専門家として、AI for goodの創設者であるKriti Sharma氏、UKRIの最高責任者であるMark Walport氏、エジンバラロボットセンターの創設者でロボット工学の教授でもあるDavid Lane氏が含まれる。

 AI評議会のメンバーは、Ocadoでの購買履歴を用いた需要の予測、詐欺行為の検出、消費者の安全確保から、AIの技術、消費者からの信頼、機微情報保護の保証など、社会においてAIが受け入れられるための障害を発見し克服することで英国の開拓者としての精神を受け継ぐことで築かれたアランチューリング研究所に至るまで、すでにAIの発展を導いている人々である。これらの専門家は、英国がAI技術を最大限に活用できるよう正しい技術、倫理、データを適切に用いられるように手助けする。 

 デジタル、文化、メディア、スポーツ省大臣であるJeremy Wright氏は、責任ある技術の重要性について話し、特に英国の*`tech for good`部門で起きているイノベーションについて特に強調しつつ、イギリスの技術について太鼓判を押す場である、パリでのVivatech Summitでのスピーチにて評議会のラインナップをアナウンスし、以下のように述べた。

 「英国は、すでにAI分野で主導的な影響力を有している。我々はいくつかの世界的に優れた学術機関の本拠地を有し、この分野への投資は記録的な水準に達しており、世界で最も優れた技術を持つ人材を惹きつけているが、我々は決して満足していない。」

 「AI評議会を通じて、我々は、経済全体に亘るAIの適用や最も有効な利用についてリーダーシップを発揮する様々な専門家の知識を活用することで、今の勢いを持続し続ける。」

 「Tabitha Goldstaub氏のリーダーシップの元、評議会は英国のAI部門を国際的に代表し、データ駆動型技術を最大限活用するための正しい技術とやり方を確立するのに役立つ。」

 ビジネス、エネルギー、産業戦略省大臣のGreg Clark氏は以下のように述べる。

 「AIの利用は、人々を詐欺にあわないよう守ることから家庭のスマートデバイスにいたるまで人々の日々の生活に不可欠なものになりつつある。」

 「我々がこの常に変化する産業界を、世界的にリードし、高度な技術を有する優秀な人材をひきつけ、

発展すると見るのであれば、AI評議会への新たな参画者の画期的な業績は、計り知れない価値となる。」

 「このAI評議会は我々の画期的なAI Sector Dealを導き、それは我々の最新産業戦略の重要な一部である。この最新の産業戦略は、現在及び将来に向けて、これらの最新技術における世界の舞台での英国の地位を保証するために投資するものである。」

 Tabitha Goldstaub氏は、企業に対し、ビジネスを発展させられるAI専門家へのアクセスや情報を提供するオンラインプラットフォーム事業を展開するCognitionXの共同創設者である。彼女は世界中のAI専門家が集う最も大きな場のひとつであるCogXも運営している。彼女は、評議会の監督権を有しており、政府に対して、AIとどのように働くか、企業や組織がAIの利用を後押しするためにどのように奨励するかを政府に対して助言する。

 AI評議会の議長でありAIビジネスの旗振り役であるTabitha Goldstaub氏は以下のように述べている。

 「様々な専門分野の方が集まり、自身の時間、経験、知見を提供することに同意し、英国におけるAIの発展を促し、責任ある選択をするAI評議会委員が発表されたことに感激している。」

 「もし我々がAI技術の全利益を得ようとするなら、全てのAIコミュニティが集い、AI評議会とともに、産業界、学術界、公的機関との間でオープンな対話を形成するために働くことは重要である。そして我々は全社会に対して社会的、経済的な利益を見出すことができるだろう。」

 サウサンプトン大学のコンピューター科学の欽定講座担当教授でAI技術の専門家であるDame Wendy Hall氏は、以下のように述べた。

 「私が共著したAIレビューの提言が、AI評議会の提言として現実になりつつあるのを見るのはすばらしい。私は”AI技術の旗振り役”として評議会に参画できることを嬉しく思う。」

 「AIは英国の成長と世界的名声にとって非常に大事であり、評議会の活動は、部門を横断して多様性を奨励するためにイギリス全体のAIへの理解を深め続けるだろう。」

  techUKの技術イノベーション担当副理事であるSue Daley氏は以下のように述べた。

 「AIの全潜在能力を明らかにすることは、政府、産業界、学術界、市民社会が単独でできることではない。協働することが、イギリスがAIに対して準備し、人々の生活に本当の違いをもたらすAI技術の適応や利用をいかに増進することになる。このことは、AI評議会からの今日の発表が、今後への更なる重要な一歩である理由である。

 「評議会は、イギリス政府が、我々がAIにおいて世界的リーダーであり続けるのに必要な高度な知識や情報へのアクセスを持つことを保証するための重要な役割を果たすだろう。techUKは社会の誰に対しても利益をもたらせるよう、AIの開発と適用について評議会と協働することを期待している。」  

 AI評議会は、さらに幅広く専門家を育成、支援し、倫理、適用、技術、かつ制限を設けることなく特定のトピックにフォーカスすることが当初の目的である。これによって、より広範なAIコミュニティが解決に向けて働きかけるために協働し、イギリスをAIとデータ革命におけるリーダーにするよう働きかけることになる。 

 AI評議会のメンバーの任命は、AI Sector Deal、政府と産業界が共同で英国を振興技術の最前線に位置できるようにする10億ポンド規模の協定の一周年時に行われる。

 2018年の開始以降、AI Sector Dealは以下について実施した。

1.データ倫理とイノベーションのためのセンターを設立した。このセンターは、AIとデータ駆動型技術の安全で倫理的かつ革新的な利用を可能にし、データを保護するために必要な方法について、独立した専門家のアドバイスを提供する。

2.次の5年間で新たなPhD学生を1,000人育てるため、英国中の大学において博士課程トレーニングのための新たなセンターを16設立すると宣言した。

3.アランチューリング研究所が率いるAIのトップ人材を英国に留まらせ惹きつけるための新たなAIフェローシップを提供した。

4.英国のトップ研究所に、新たなAIに精通した者を配置するための産業基金第一弾を発表した。

5.放射線医学、AIを活用した医療の進歩を含むデジタル病理学と画像診断に関する英国内の5つの新たな優れた研究拠点設置に向け合意した。

6.法律と会計の分野において、AIがどのように適用されるか検討する研究プロジェクトを発表した。

7.オープンデータ研究所とともに、データ保管や野生動物の違法取引の追跡や食料品の無駄の削減に関する可能性を探る。 

*Tech for Good:社会的、経済的、地球環境に関する課題に対応するための技術について、ユーザーが議論し、倫理的な解決手法を導くためのコミュニティ。                                                                                                                                        

出典:https://www.gov.uk/government/news/leading-experts-appointed-to-ai-council-to-supercharge-the-uks-artificial-intelligence-sector 

(2)大学が学位評価に関する共同声明を発表

 2019年5月17日、英国大学協会(Univerisities UK: UUK)は高等教育関係機関より成績授与における透明性、確実性、公平性の重要性に関する共同声明を発表した。

 英国質保証常任委員会(UK Standing Committee for Quality Assessment :UKSCQA、高等教育界主導による高等教育質評価方法監視機関)、英国大学協会、 大学等高等教育機関などからなる英国高等教育界の代表組織(GuildHE)、高等教育質保証機関(Quality Assurance Agency:QAA)主導で、成績のインフレに関する英国全体の協議の一環として行われた審議会において、高等教育機関は長期間に亘る学位の価値を保護するため、また、より透明性を高め、学位の質が低下しているという認識に取り組むための組織的な対応をとることに賛同した。

 英国高等教育機関は、強力で断固たる活動が大学の成績授与資格の価値を保護・証明し、そうすることで学生、雇用主、そして広く世間からの信頼を得るために必要であることに賛同してきた。

 UKSCQAからの最初の勧告に続いて昨年後半に始まった審議会は、英国全土の大学においてこれらの勧告がどのようにして発展し、広がったのかを調査した。

 その結果はまさに意思表明となり、高等教育機関によって圧倒的に支持され、学位が授与されるにあたっての透明性、公平性および信頼性に関する共通の声明が発表された。この結果は、2019/2020学事年度には行動の枠組みとなるだろう。

 声明は、高等教育機関に対して以下4つの具体的な責任を果たすよう求めている。

・評価が学生の能力を精一杯成長させ、挑戦の継続を保証する。

・最終成績証明がどのように算定されているのか説明し審査すること

・外部審査官システムを支援し強化すること

・学生の成績成果に関する分析やデータを公開し審査すること

 高レベルの特性を示し卒業生に期待される特定の学位として大学が基準とする一般学位制度は現在開発中である。これらの記述はこの協議の一部となっており、夏にUKSCQAによって出版される前に今現在ブラッシュアップされているところである。   

  出典: https://www.universitiesuk.ac.uk/news/Pages/Universities-unveil-joint- commitment-on-degree-classifications.aspx

 (3)EUからの留学生に対するファンドを2020/2021学事年度まで継続

  2019年5月28日、教育省(Department for Education: DfE)の大学担当大臣Chris Skidmore氏は、ブリュッセルにおいて「2020/2021学事年度に学位課程を開始するEU出身学生に対して、これまでと同じ学費を保証する」と発表した。

 2020/2021学事年度に大学生活を開始するEU出身学生は、英国の大学生と同じ学費と金銭的支援を、英国の大学課程に在籍している間、保証される。

 本日ブリュッセルにおいて、Chris Skidmore大学担当大臣は、2020/2021学事年度に英国で高等教育課程を開始するEU出身学生、学部生及び大学院生の金銭的支援、成人向けの継続教育カレッジのような16歳以降対象の専門教育のローン、実習生への支援を受ける資格を、EU離脱が実際に行われるか否かにかかわらず、維持することを発表した。

 この発表は、2019/2020学事年度もしくはそれ以前から英国で学士課程を開始しているEUからの留学生への金銭的支援に関する既存の協定に続くものである。

 最新の2019年の申請者数データでは、37,000人以上のEUの学生が、英国のフルタイムでの学士課程を申し込んでおり、これは前年度から1.9%増加している。

   Chris Skidmore大学担当大臣は以下のように述べた。

  ・英国は、EU出身を含む留学生が英国の大学にもたらす重要な貢献を高く評価している。そして、その貢献は国外からの多くの学生が渡英することを選び、英国で学ぶほどの英国の世界的な高等教育システムの証となっている。

  ・英国はEU離脱を選択したがヨーロッパを離れるわけではないことを認識しておくことが重要で、英国の大学はグローバルな機関としての多様性を保ち続ける。

  ・学生達は次年度の大学選択をすでに検討している。だからこそ現在EU出身学生が2020/2021学次年度も英国学生同様の権利を与えられ、引き続き恩恵を受けられることを決めた。 

 英国が世界的レベルの教育分野の更なる成長を維持し支援することを目的とした国際教育戦略には、学部卒業生及び修士課程の学生の卒業後の滞在期間を半年まで延長すること、博士課程の学生は1年間まで延長することが盛り込まれている。

  その戦略は、また、大学が留学生の就職を支援するのを手助けし、留学生のビザ手続がいかに改善できるかを示唆する。

  政府は、学生獲得が現在行われている中で、特に2020/21学事年度において学生と機関に確実なことを提供する必要性を認識している。

  政府は可能な限り円滑に秩序あるEUからの離脱に向けて準備しており、2020/21学事年度後に新たなEUからの学生の将来的な授業料を決定する業務が進んでいる。

   政府は、2021/22学事年度及びそれ以降の学事年度に先立って、EUの留学希望者に対して十分な通知を提供する予定である。

  出典: https://www.gov.uk/government/news/eu-student-funding-continued-for-202021

 (4)18歳以降の教育見直し報告書発表

 ①2019年5月30日のガーディアン紙によると、メイ首相の指示により政府委 託として提出された報告書において、英国の経済的に恵まれない学生は、高校を卒業してから学校卒業後も教育継続のため1年当たり3000ポンド相当の支援を受けることが発表された。

 18歳以降の教育と資金についての報告書は、次期政府に受け入れられるのであれば、資金に関して大学から職業教育や職業訓練に移行するとしている。卒業生は退職間際まで多額の学生ローンの返済に追われる一方で、大学は”低価値な”課程からの収入を失うだろう。

 この報告書が発表されるや、メイ首相は「私の見解は明らかで、もっとも金銭的に恵まれない学生に対する支援を廃止することは上手く機能しなかったので、私は今こそその資金を戻す時だと信じている。」と述べた。

 メイ首相の意見は、当時の財務大臣George Osborne氏が貧しい出身の学生に対する支援を”余裕がない”と発言したことにより、当時の首相David Cameron氏が2015年に下した学生生活維持資金の廃止という決定が誤りであることを明らかにするものである。

 ②Philip Augar氏が責任者である報告書は、メイ首相が2017年の保守党大会で明らかにした公約に基づいて、学生が負う高額な負債や学費を調査するよう委任されたものだった。しかし、レポートの公開はブレグジット交渉や関係機関や制度など複雑な問題があり、何度も延期された。

 報告書の要点は以下のとおり。

・学部生の学費を7,500ポンドまで引き下げる

・学生ローンの返済期間を現行の30年から40年まで延長する

・全成人対象の、単一の生涯学習ローン手当設立

・サブ学位を取得する学生のための生活費ローン

・”学費拠出”としての学生ローンのブランド変更

・成人向けの継続教育カレッジと職業訓練への資金投入

  労働党の影の内閣教育担当大臣Angela Rayner氏は「この報告書は我が国の教育システムが直面する不公正には何一つ言及していない。公式な政府回答も無く、特別な資金も、メイ首相の後継者によって勧告がなされる保証もないまま、この報告書は典型的なメイ首相と、このめちゃくちゃな保守党政権の遺産となるだろう。口先だけで、何も約束は無く行動はない。」と発言した。

 英国学生連合(National Union of Students:NUS)Shakira Martin会長「この発表はあまりにも遅すぎる。メイ首相が高等教育に貢献したことといえば、我々の留学生仲間をこの国から追放したことだけだ。報告書における、大学の授業料を9,250ポンドから7,500ポンドに削減するという提案は、人文科学及び社会科学分野の収入減を意味する一方で、大学による資金提供や授業の種類に対する政府の介入拡大を要求するだろう。」

 Augar Reviewの委員会は「一部の学生は学位に対して学費を過剰に支払わされており、納税者からの多大な貢献は、資金が必要な学部に充てた方が、学生や納税者に対して価値がある」と発表した。

 報告書はまた、学生数の定着率と卒業生の就業記録が乏しい学位課程について、政府が最低入学基準と学生数の管理を義務付けるよう勧告した。

 しかし、学費額の変更はスコットランドやウェールズの大学にも影響が出るとの懸念から、大学の指導者たちはすぐにこの提案に反対した。

 「一見したところ、学費に関する勧告は学生にとっては良いものに思えるが、政府が代わりの資金について確定的な保証をもたらさない限り、この勧告は偽善であることを証明してしまうだろう。」と英国大学協会(UUK)の会長Alistair Jarvisチーフエグゼクティブは述べた。

  「代わりの資金なしに学費を下げることは、学生に害をもたらし、機会を制限し、大学に損害をもたらし、ビジネス界が必要とする高い教育を受けた働き手を減少させ、現代の英国が最も必要とする時点での英国の国際的競争力を低下させる政治的選択だ」

 「学生は、これまでよりは少ない負債を抱えて大学を卒業するだろうが、この提案は、学生ローンの返済期間が30年から40年に延長され、返済開始を迎える時点での年収が低くなることに伴い、卒業生が現在の仕組みよりも長期間多額の返済に追われるだろうと述べている。」

 延長された返済期間は、今のように50代初めに学生ローンの残額を一掃するのではなく、多くの学生が60代になるまで学生ローンを返済することになるだろう。

 この委員会が、学生ローンに課されている高金利に関する変更について少しの勧告ももたらさなかったのは驚きだった。

  学生財政システムの専門家Andrew McGettigan氏は以下のように述べている。        「政府はこれをまったく無視するか、インフレでの低金利である時しか機能せず、それこそが、学生ローンシステムについての誤解の主な原因である。」 

 しかし、この報告書に下で最も成功を収めることになるのは、成人向けの継続教育カレッジや職業訓練部門だろう。これらの部門は1年で約3億ポンドの追加融資と、成人向けの継続教育カレッジの国家的ネットワークに対する1億ポンドの国家からの追加融資が見込まれる。

 Damian Hinds教育大臣は、以下のように述べている。「この報告書は職業教育学校が重要な役割を担っていることについて、十分な真実を認めている。」

  「余りにも頻繁に、我々は高等教育に偏見を持ってきた。しかし、我々は高等教育・継続教育・技術教育両者に等しく機会を認める必要がある。」

  `シンデレラ機関`と言われている成人向けの継続教育カレッジであるが、Augar氏は「我々の働きは、イングランドでの18歳以降の教育は、学生が高等教育を受けている方の50%の中にいるか残りにいるか次第で、手厚い支援か完全無視どちらかになりうることを明らかにした」

 「委員会は、この格差が対処されなければならないと考えている。そうすることは、公正性と平等性の事柄であり、個人、雇用主、そして国全体に相当の社会的・経済的利益をもたらす可能性がある。」

  シェフィールドハラム大学Chris Husbands学長はパートタイムで柔軟な学習の   奨励を歓迎するが、その多くが現在の政治的不安定を乗り越えることが出来ないだろうと述べた。

  「私の最も大きな不安は、この報告書が政治家によって良いとこどりされ、上手くいかずに終わるだろうことである」とChris Husbands学長は述べた。

 

出典:https://www.theguardian.com/education/2019/may/30/least-well-off-students-should-get-3000-pound-grants-to-stay-in-education-says-theresa-may-backed-report

 報告書:https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/805127/Review_of_post_18_education_and_funding.pdf

(5)英国のより多くの学生が、自らの研究の一環として日本を目指す

 2019年6月7日, 英国大学協会国際部(Universities UK International:UUKI)は英国学生が研究の一環として日本を目指していることのレポートをまとめた。英国の高等教育システムは、それ自体が非常に国際的であると自負しており、世界中の学生を惹きつけ、英国の大学に来て研究することに誇りを持っている。

 しかし、英国の大学は、学生が研究や就労、ボランティア活動を大学在学中に国外で行う人数に関しては、他国の大学に比べて遅れをとっている。

 そのような状況は、徐々にだが変わり始めている。2017年以降、各機関・大学が所属学生に対して課程在籍中に海外に行くよう奨励する革新的方法を紹介する一方で、Universities UK Internationalによる” Go International: Stand Out campaign “が高等教育部門内全体の学生の海外への機動性を高めてきた。このプログラムの多くは、より柔軟性があり短期間の機会を提供することや、国内のプログラムやインターンシップを機動性に統合することに置かれており、どちらの手段も幅広い学生を機動的にすることを奨励している。

 留学する英国学生の総数が緩やかに増加したことにより多様性がもたらされている。ヨーロッパや英語圏の国々が未だに主な英国学生の留学先である。しかし、年々、英国の学生がより遠く離れたところで留学する割合が高くなっていくことが期待できる。

 その好例が日本である。2017/2018学次年度において約930人の英国学生が日本で留学生活を送っており、2016/2017年度から約25%増加し、2015/2016年度と比較すると37%増加している。部門全体を見ると小さい数字であるが、大幅な成長を遂げている。これは部分的には、英国の大学が日本の大学とのパートナーシップを強化し、日本の研究プログラムの枠組みの外でもより多くの学生交換協定や短期留学の機会を調整したことによる結果である。それはまた、英国全般、特に若者の間で日本への関心が高まっていることの反映なのかもしれない。

 しかし、この話には日本側の側面もある。2012年以降、安倍晋三率いる日本政府は日本国内の人口減少、経済的停滞、文化的孤立などを受けて、大学の国際化への資金投入に取り組む政治的イニシアティブを導入してきた。それに応じて、日本の大学は留学生誘致を大幅に増加させてきた。日本の大学は、アジア以外の留学生の協定の多様化を、国内学生を国外に向かう機会を提供するのと同等に注意を向けている。

 日本の大学は、短期間交換留学協定が最も成功する可能性があると認識している。日本人学生の短期間留学プログラム経験者数は、2010年以降430%増加している。短期間留学の協定は、英国・日本双方で繰り返される機動性に関する障害を軽減する。その障害とは、留学中の高額な家賃や生活費、言語能力に関する不安、銀行口座振替や履修に関する課題、職業経験に関する関心などである。短期間留学は、また、学生たちを将来的により国際的に活動することを奨励し、”本国での国際化”に貢献するための基盤を形成する。

 以下のケーススタディは、英国と日本間で行われている短期交換留学の多様性を反映している。 

①サフォーク大学と慶応大学で約20年実施されている看護学生の交換留学プログラム。国際的観点から看護に関する様々な課題について二週間ほどお互いの大学で学習を行う。

②レディング大学と武蔵野美術大学で2015年に協定が結ばれた交換留学プログラム。大学ないし大学院の最終学年に属する学生が、共同で美術展やワークショップを開催する。

③インペリアルカレッジと東京工業大学のサマーフェロープログラム。2018年 に開始され、インペリアルカレッジの博士課程の大学院生20名が5日間プログラムの開発などを行い、そのうち約半数は3週間研究を行う。2019年は東工大の博士課程の大学院生がロンドンを訪れることになっている。

④千葉大学とグラスゴー芸術大学の交換留学プログラム。2011年から実施されており、2週間に亘り日本とスコットランドでデザインワークショップを行う。 

 国内の大学に所属する学生の経験に国際的な流動性を取り入れることは、英国と日本双方の大学にとって、より優先されることである。上記事例が示すように、強力なパートナーシップ、良好なコミュニケーション、明確なテーマ設定が持続的学生交流協定の肝である。

出典:https://www.universitiesuk.ac.uk/International/news/Pages/More-UK-students-head-for-Japan-as-part-of-their-studies.aspx

 (6)英国における研究とイノベーションに関する事業計画の概要

 2019年6月11日、UKリサーチ・イノベーション(UK Research Innovation: UKRI)は政府が2027年までにGDPの2.4%を研究やイノベーションにつぎ込む最新の産業戦略の一環事業としてUKRIの9機関の及びそれぞれの機関がまたがる事業計画を発表した。

 Delivery Plans 2019はUKRIの研究とイノベーションのコミュニティからのインプットによって作られ、UKRIのビジョンや使命、価値を総括した、2018年5月に公開されたStrategic Prospectusに基づいている。

 UKRI間の事業計画は、GDPの2.4%を研究とイノベーションに支出するという目標を達成するための組織の取組を導く6つのテーマについて詳しく説明する。

 ①ビジネス環境:経済的・社会的・文化的インパクトをもたらす

 ②場所:英国全体の成長を支援する

 ③アイデア:人類の知識と理解をより深めていく

 ④人材:繁栄のための研究やイノベーションに必要な環境と技術を構築する

 ⑤インフラ:世界的な研究とイノベーションインフラにアクセス可能にし、投資する

 ⑥国際性:我々は国際的パートナーシップを構築し、国際的課題に取り組む

 この計画は、the Industrial Strategy Challenge Fund, the Strength in Places Fund, the Strategic Priorities Fund, Future Leaders Fellowships and Fund for International Collaborationを含む、UKRIによって発表された重要なイニシアティブを強調している。

 アイデアに投資する国は、ビジネスに対してよりチャンスを創出するので、資金は、科学への投資を増加させることで成功するビジネスを支援するための政府の最新の産業戦略の一部である。

 UKRIの9つの各会議のための支援計画は、それぞれのカウンシルにとって野心的なプログラムの開発と、優先順位と研究及びイノベーションのテーマが詳しく述べられている。

 UKRIは、6月10日にリーズ大学主催による主要な関係者に向けたイベントを行う。そのイベントには研究、ビジネス、市民のリーダーが英国中から出席し、UKRIの最高顧問Mark Walport卿はUKRIの発足から1年間の実績を発表する。

 UKRI発足から1年の実績を数字で見る。

 2018年5月に創設されて以来、UKRIは以下の数字を達成した。

  ・約4,600もの研究とイノベーションの基金を授与

  ・24,000のプロジェクト、1,400のフェローシップ、27,000件の奨学金を支援

  ・4000以上の機関を支援。134の高等教育機関と3500以上の企業が含まれる。

  ・約5,000のプロジェクトパートナーを擁し、10億ポンドを出資

  ・産業戦略に多大に貢献し、National Productivity Investment Fundの研究開発に6億ポンドを投資した。

出典:https://www.ukri.org/news/delivery-plans-outline-vision/

(7)次期首相は、大学支援を最優先にすべき

 2019年6月11日、英国大学協会(UUK)は、現在新たな首相選びの真っ只中ではあるが、次期首相は大学と協力することによって、英国全体に仕事や地方の成長をもたらし、英国国民の生活向上の機会を得ると述べた。

 経済を強化し、社会的モビリティを推進するため、Universities UKは次期首相に対し、英国の大学への支援を公約するよう要求した。その支援により、950億ポンドの経済効果がもたらされ、国全体に940,000以上の雇用が生まれる。

 Universities UKは、次の保守党党首が、もし大学が経済的・社会的・文化的影響を最大限に発揮し、世界的なリーダーの地位を維持し続けられるよう、大学を支援すべきであると、以下5つの政策を強調している。

 ①移民:留学生と海外スタッフを雇用・維持する上での障壁の除去。

 ②学生の経験:大学入学を推奨するための政策を促進することに加えて、学生のメンタルヘルスや心身ともに健康であるための支援を実施する。

 ③科学、研究、イノベーション:これらの分野における継続的な卓越性を可能にするための研究開発を満たすもしくは打破するための公約。

 ④持続的な資金:大学は、世界トップクラスの教育を維持するため、英国内を自由に学生が継続的に動けるよう開発された持続的な資金を持たなければならない。資金カットは、悪影響を及ぼし、英国と海外各国全てに影響をもたらす。

 ⑤ブレグジット:ブレグジット後の効果的な合意に到達し、合意なき離脱を避け、英国とEU内の国々との継続的なパートナーシップと交流を保証すること。

出典:The next minister has a golden opportunity to deliver jobs, regional growth and improve life chances across the UK by working with universities.

 (8)2年連続で、所属する学位課程に対価を払う価値があったとする学生増加

 2019年6月13日、高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute:HEPI)とAdvance HEは14,000名を超える学部学生対象に2019年のStudent Academic Experience Survey(SAES:学生学術経験調査)を行い、所属する学位に対して対価を払う価値があったとする学生の割合増加を示していることがわかった。

  SAESの要点は以下のとおり。

  ・学生の41%は、所属課程に対して「良い」もしくは「とても良い」との評価をしている。この数字は、2年連続 で3%上昇している。29%の学生は、「悪い」「とても悪い」と評価しており、この数字は、昨年と比較して3%、2017年と比較して5%低下している。

  ・学位に対する対価を重要視する割合は、学生の特性によって異なる。スコットランドの学生は、肯定的な回答の割合が比較的高く、63%だったが、EU以外の留学生は比較的低く、37%だった。最近変更されたウェールズ出身の学生向けの奨学金の変更は、まだ影響が出ていない。

  ・教育の質は、肯定的回答をした64%の学生にとって重要な要素となっている。また、授業料は、否定的な回答をした62%の学生にとっての重要な要素である。

  ・期待していたよりも良い経験をしていると答えた学生のうち、59%が「適切なレベルのチャレンジ」を重要な要素として回答している。一方、期待していたよりも悪いと回答した内の約35%が自らの努力が足りていないことを自ら感じている。このことは、BME(Black and Minority Ethnic:黒人及び少数民族グループ)の学生では42%まで上昇する。

  ・新しく加わった質問では、大多数の学生が、大学に対して「非常に準備できている」(16%)、「少し準備できている」(44%)と回答したのに対し、25%以下の学生が、「少ししか準備できていない」(14%)、「非常に準備できていない」(9%)と回答したことだ。

  ・3分の2の学生(64%)が、もう一度大学選択することがあれば、同じ大学、同じ課程を選ぶと回答している。4%のみ、「技術見習生制度」を選択し、大学に進学せずに「就職する」を選択したのはさらに少数(3%)で、大学に進学せずに「他の何かをする」と選択したのは2%であった。

  ・近年、授業時間と勉強量の平均について小さな変化があった。2015年以降、一人での学習時間が週15.2時間から13.8時間に減少し、時間割に基づく授業時間が13.4時間から13.9時間に増えた。

  ・この調査や他の調査からのフィードバックに対する学生の満足度が低いので、2019年度の調査では、それがどのようにすれば改善されるかを新たな質問で問いかけた。63%の学生に支持されたもっとも人気のある選択肢は、「その点数がなぜ与えられたのかについてのより詳細」であった。

  ・学生は、他の若者よりもはるかに不安を感じている。20-24歳の全若者の37%と比較すると、学生の16%のみこの調査において「不安は少ない」と回答していない。

  ・学生の両親または保護者に対するメンタルヘルスに関する問題を開示することに関する新たな質問では、高いレベルでの支援が必要なことが判明した。3分の2の学生(66%)は、「特別な状況下」での開示を支持し、さらに15%の学生は、「いかなる状況下」でも開示を支持している。

  ・調査結果は、学生が学部生の授業にかかる費用に対して納税者からのさらなる支援を欲していると結論付けている。22%の学生は、政府が全費用を負担すべきだと回答し、43%の学生は、政府は半額以上を負担すべきだと回答している。このことは、最新のReview of Post-18 Education and Funding(the Augar report)での納税者が半額負担すべきとの結論と異なる。

  ・初めて、学生は2年間の学位について問われた。4割以上の学生が「非常に良い」(19%)、「良い」(24%)と回答した一方で、3割の学生は「良くない」(19%)、「非常に悪い」(10%)と回答し、残りは「どちらでもない」(24%)と「分からない」(4%)と回答した。

出典:https://www.hepi.ac.uk/2019/06/13/second-consecutive-year-of-students-reporting-better-value-for-money/