2020年3月18日
(1) UKRI のパブリックエンゲージメントの構想
2019年9月5日 、UKリサーチ・イノベーション(UK Research Innovation:UKRI)は社会の知識と価値を構築し、あらゆる人々に門戸が開かれている世界的研究とイノベーションをいかに促進していくかという報告書を発表した。
報告書が掲げる4つの目標は:
・恵まれない環境のコミュニティや地区に焦点を向ける。
・積極的に仕事に参加する
・若者に刺激を与え、やる気を出す
・耳を傾けさせて、社会的関心ごとや願望を理解する
これらの目標は助成金募集、研究と分析の委託および、試験的な新しいやり方で達成される。
この構想は過小評価されているコミュニティとの研究及びイノベーションに関する新たな協力方法を試す大学とコミュニティパートナーに対する、UKRI初の公的資金提供の取り決めに関連して始められた。
【補足】UKRIの新パブリックエンゲージメント*の目標
〇過小評価されているコミュニティと場所を、研究とイノベーションによって結び付ける
研究者・イノベーターと一般市民との間にあるギャップは、特定のコミュニティや場所、これらの分野への参加、理解、信頼、賛同という観点となると、非常に深刻である。これらのギャップを埋めるには、全員のために機能する研究とイノベーションが必要である。そして、UKRIは以下2点について支援していく。
・研究者・イノベーター・研究機関が、聴衆に対してどのように取り組むべきか再考すること
・研究者・イノベーター・研究機関が、過小評価されている研究グループに、どのようにもう一度焦点を当てるかを再考すること。
〇活動に幅広い人々を積極的に巻き込む
気候変動や最新の健康研究について一般の人々と話すことは大事な活動である。研究やイノベーションが焦点を当てるような質問をしようが、市民科学で学んだ参加者として加わろうが、パブリックエンゲージメントは一般の人々を活動的な参加者とみなす。
〇研究とイノベーションに情熱を持った次世代を育てる
英国は、21世紀の世界における地位を確保するのであれば、傑出し多様性のある労働力を必要とする。博物館、科学センター、催事、そして学校の部活動での非公式な学習活動は若者が研究とイノベーションに取り組むための重要な方法である。全ての若者は、その背景や居住場所に関係なく、これらの経験をしやすい環境にあるべきだ。
〇一般の関心と願望に耳を傾ける
英国は、研究とイノベーションのために一般の関心や願望を理解する方法を開拓してきた。イノベーションのペースが増加し続けるので、政策決定者、投資家、研究者、イノベーターが、計画と優先事項の立案において社会と協力できるようになることが、これまで以上に重要になっている。
*パブリックエンゲージメント:
英国で生まれた概念。公共の問題について、高等教育機関や専門的機関だけでなく、一般市民も積極的に関与することを意味する。ただし、特定の主義主張に偏った運動ではなく、公共的な問題に、いかに一般市民にも考えて関与してもらうか、その仕組みをいかに作るかを考える概念。
https://www.ukri.org/news/ukri-publishes-new-public-engagement-vision/
補足: Enhancing place-based partnerships in public engagement
(2) 英国首相:留学生は卒業後の2年間就業ビザで滞在可能
2019年9月10日 Independent 紙は、Boris Johnson首相によって、留学生は卒業後に英国で2年間就業のための滞在が将来認められるという構想が発表されたことを報道した。この構想は来年施行され、英国で学ぶ留学生が英国でのキャリアを始める手助けになると首相は述べた。
入国審査を支持する実績を有する教育機関で、いずれかの学位を修了した留学生はこの措置の恩恵を受けることになる。
この措置は、2020/2021学事年度に学部課程もしくはそれ以上の課程を開始する学生に適応する。
この発表は、遺伝子研究の改革を目指すUKバイオバンクでの総額2億ポンドのヒトゲノム配列決定プロジェクトという世界最大の遺伝学プロジェクトの発表と同時に発表された。
Johnson首相は「英国は国際的な提携と発見において中心的な立場にあるという誇らしい歴史がある。60年以上前、ケンブリッジ大学でのDNA発見は、様々な国の研究者のチームによって成し遂げられた。我々はさらに前進するつもりである。英国は世界最大の遺伝子研究プロジェクトに世界からの専門家を英国に結集させ、生死に関わる病気などに役立てるであろう。このような画期的な発見をするためには、英国で学び研究する世界の優秀な人材に対して、門戸を開くことが不可欠である。だからこそ留学生が英国で潜在能力を開花させ、キャリアをスタートするための新たな機会を作った。」と述べた。
(3) 大学大臣辞任等EU離脱が引き起こしたジョンソン内閣改造
2019年9月11日 Politics Home は大学・科学担当大臣Jo Johnson氏の辞任によって内閣の人事異動が行なわれたことを発表した。Jo Johnson氏*はEU離脱をめぐる、家族関係と国益を理由に辞任した。
大学・科学担当大臣には以前同大臣を務めたChris Skidmore氏が就任した。
*Jo Johnson 氏はBoris Johnson 首相の実弟に当たり、2016年の国民投票の際には残留に投票していた。
(4) 2020年世界大学ランキング発表
2019年9月11日 Times Higher Education は世界大学ランキング2020を発表した。今回の結果ではドイツ、中国、オーストラリアの大学の健闘が見られた。
ランキングでの英国の大学数は減少し、新しいデータでは英国の大学と他国の主な大学の教育制度において助成金の隔たりがあることがわかった。
オックスフォード大学は世界ランキングで4年連続首位に位置したが、他の主要大学は順位を下げた。
ケンブリッジ大学、インペリアル・カレッジ・ロンドン、UCL ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン,LSEロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、エジンバラ大学など英国のトップクラスの大学はそれぞれ一つ順位を落とした。200位以内に位置する英国の28大学のうち18大学が昨年と比べて順位を下げた。
日本は昨年に引き続き英国より全体ランキング数では5から10とその差を伸ばし、日本は110大学、英国は100大学がランキング入りしている。(全体ランキングには、約1,400もの大学が含まれている)
昨年と比較すると、ランキング入りした英国の高等教育機関数の減少幅は小さいものの、過去5年間のデータ分析によると、一貫した下降傾向が明らかとなった。2016
年には上位200校に英国の大学が34校ランク入りしていたが、今年は28校に減少した。
対照的に、この5年間でドイツは上位200校に3から23、中国は5から7、オーストラリアは3から11に増やした。
継続的な研究は、英国の大学の資金レベルが他国の主要な高等教育システムに追い越されたことも明らかにした。トップ400校に位置する英国の48大学の学者1人当たりの所得の平均額は49万7,000ドルで、2016年からわずか6.5%の増加である。
ドイツは、同期間で38%増加し121万ドルで、中国では57.1%増加して147万ドルだった。
オックスフォード大学の研究サービスディレクターであるStephen Conway氏は、「英国の教育機関や大学が直面している大きな課題の一つは、世界の機関と競争し続けるためのリソースと資金へのアクセスを確保することである。」と述べている。
英国の公的資金機関から大学研究のための資金が年々減少している中、他国は自国の研究やイノベーションに投資している状態である。
世界大学ランキング2020と2019の比較表 |
||||
2020 |
2019 |
University |
日本語表記名 |
Country or Region |
1 |
1 |
University of Oxford |
オックスフォード大学 |
United Kingdom |
2 |
5 |
California Institute of Technology |
カリフォルニア工科大学 |
United States |
3 |
2 |
University of Cambridge |
ケンブリッジ大学 |
United Kingdom |
4 |
3 |
Stanford University |
スタンフォード大学 |
United States |
5 |
4 |
Massachusetts Institute of Technology |
MIT マサチューセッツ工科大学 |
United States |
6 |
7 |
Princeton University |
プリンストン大学 |
United States |
7 |
6 |
Harvard University |
ハーバード大学 |
United States |
8 |
8 |
Yale University |
イェール大学 |
United States |
9 |
10 |
University of Chicago |
シカゴ大学 |
United States |
10 |
9 |
Imperial College London |
インペリアル・カレッジ・ロンドン |
United Kingdom |
11 |
=12 |
University of Pennsylvania |
ペンシルバニア大学 |
United States |
12 |
=12 |
Johns Hopkins University |
ジョン・ホプキンス大学 |
United States |
=13 |
15 |
University of California, Berkeley |
カリフォルニア大学 バークレイ校 |
United States |
=13 |
11 |
ETH Zurich |
ETH チューリッヒ工科大学 |
Switzerland |
15 |
14 |
University College London |
UCL ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン |
United Kingdom |
16 |
16 |
Columbia University |
コロンビア大学 |
United States |
17 |
17 |
University of California, Los Angeles |
カリフォルニア大学 ロサンゼルス校 |
United States |
18 |
21 |
University of Toronto |
トロント大学 |
Canada |
19 |
19 |
Cornell University |
コーネル大学 |
United States |
20 |
18 |
Duke University |
デューク大学 |
United States |
200位以内の国別ランキング |
||
順位 |
国名及び地域名 |
大学数 |
1 |
United States |
60 |
2 |
United Kingdom |
28 |
3 |
Germany |
23 |
=4 |
Australia |
11 |
=4 |
Netherlands |
11 |
=6 |
Canada |
7 |
=6 |
China |
7 |
=6 |
Switzerland |
7 |
7 |
South Korea |
6 |
=8 |
France |
5 |
=8 |
Hong Kong |
5 |
=8 |
Sweden |
5 |
https://www.timeshighereducation.com/news/world-university-rankings-2020-results-announced
(5) 研究者が成功するための最高の修養を形成するのに必要な新たな協定
2019年9月12日、研究者キャリア開発支援を行うための協定であるConcordat(Researcher Development Concordatとして知られている)が更新され、研究者が活躍し、英国の経済と産業戦略の助けとなるための必要条件が盛り込まれた。
Concordat to Strategy Group(CSG)の議長であり新しく英国大学協会(Universities UK :UK)の理事長に就任したJulia Buckingham CBEによって発表された、今回更新された協定は、研究環境の改善と機関全体における研究者の能力開発の機会を支援し、研究者、研究者の管理者、機関そして出資先それぞれの責任を定めている。
徹底的な見直し、協議、起案過程の結果、Concordatは研究者、研究者の出資先、すべての研究機関から1000件以上の事例を受け取った。研究者のキャリア開発に興味のある全ての機関はConcordatに署名できるようになり、Cancer Research UK, UKリサーチ・イノベーション(UK Research Innovation:UKRI),Wellcome(医学研究支援等を目的とする公益信託団体), UK Research Staff Associaton(UKRSA)を含む、CBGメンバーの多くはすでにこの日の発表を受けて署名し、この協定に加盟した。
署名することで、その機関は‘運営組織もしくはそれに相当する組織に提出する、各々の戦略目標、成功の尺度、実行計画とその過 程についての年次報告書’の提出が課される。Concordatは署名者に対する重要な役割として「さらなる研究者雇用安定の方法の模索、例えば期限付き、短期雇用契約などの減少、橋渡し施設の提供、出産及び育児給与の柔軟な基準の設定など」に総合的に取り組むような役割を与える。
Concordat : 大学、及びカレッジにおけるポスドク研究員のキャリア育成の枠組みについて 2008 年にまとめられた大学間の協定。これは研究者の 研究者としてのキャリアの支援や管理をどのように行っていくのか、その原則を定めたものであり、またそれぞれについて、 大学のプログラムの中にどのように埋め込んでいくのか、その方法を記したものである。
参考: https://www.vitae.ac.uk/policy/concordat/full
(6) UKリサーチ・イノベーション最高顧問引退を表明
2019年9月12日、UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation : UKRI)の最高顧問であるSir Mark Walport は2020年中の引退を発表した。
Sir Markは2017年に最高顧問に任命され、単一で野望があり、世界の研究とイノベーションの最前線にある世界クラスの資金提供組織を作り上げた。UKRIは7つの英国研究会議とイノベーションUK、Research Englandの強みから成り立ち、Sir MarkはUKRIの当初の改革プログラムを主導し、単一で機能する組織を作り上げ、公的資金を圧倒的に確保した。同氏は最高顧問に来年中は留まるが、次期最高顧問にスムーズに引き継ぐ必要があるため、同機関の規約に従い、現時点で引退を表明した。