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UK HE Information

2023年6月英国高等教育及び学術情報

2023年8月15日

(1) 大学における言論の自由に関する法律が成立

(2) 研究者のキャリアを切り開くための対策委員会メンバーが集結

(3) 世界初の人工知能に関する首脳会議が英国で開催される

(4) 研究開発支援用ホライズン・ヨーロッパ保証制度が再度延期

(5) 英国科学担当大臣、カナダとの共同研究のため、2,400万ポンドの新科学イノベーション合意を発表

(6) 革新的な医療技術が治療に変革を与えるか

(7) 英語関連の学位コースは過去10年間にわたりスコットランドで人気である一方、全体的には衰退気味

(8) 留学生の多様な誘致とその強化

(9) 5,400万ポンドの投資で主要な課題解決に役立つAIの開発

(10) REF 2028の初期決定

(11) イングランドの学生ローン債務が2,000億ポンド突破

(12) 生涯ローン資格は良い機会、チャンスを掴もう

(13) HEPI/HE Advanceの 2023年学生学術経験調査結果:生活費の危機で学生の学術経験の改善に影

(14) 高等教育の需要の高まりは最も恵まれない環境の学生に対する高等教育進学の公平さが高まる可能性

(15) 英国がん研究機構の閉鎖が決定、英国の衰退する臨床試験部門に新たな課題に直面

(16) Open University 新キャンパスで対面授業ができるか

(1) 大学における言論の自由に関する法律が成立
2023年6月1日、教育省(Department for Education: DfE)は学問の自由を強化するという公約を果たし、大学での言論の自由の擁護と促進を保証する画期的な法案を制定すると発表した。この大きな第一歩において、学生局(Office for Students: OfS)は言論の自由を監視する新しい担当責任者として、Arif Ahmed教授を任命した。既に大学は言論の自由を擁護する法的な義務があるが、新しく制定された法律では、大学はその基本的な価値を促進することを保証するものとなっている。Ahmed教授が新しく担当責任者に就任したことは、5月11日に高等教育(言論の自由)法案が法律となったことを受けたものである。この歴史的な法律制定により、新しく言論の自由の苦情処理システムが設立され、イングランドの高等教育機関では、学生、職員、外部講演者のために、国内すべてのキャンパスで言論の自由を擁護・促進する法的義務が強化される。
教育省の子供・家族・ウエルビーング担当大臣であるClaire Coutinho氏のコメントは以下のとおり:
「我々は言論の自由法で歴史的な瞬間を作っており、恐怖心により学生や学者が物議を醸すような内容の議論をする権利を失わないように、大学で開かれた意見交換ができる権利を持たせた。」
新しい言論・学問の自由の担当責任者として、Arif Ahmed教授はOfSの役員に就任し、違反で損失を受けた学生、職員、外部講演者のための苦情処理システムなどを含む新しい言論の自由の義務違反の調査を担当する。
言論・学問の自由の担当責任者に就任したArif Ahmed教授のコメントは以下のとおり:
「言論と学問の自由は大学やカレッジの核心的な目的として重要なものである。それらは不偏不党の価値であり、我々の文明の基礎となるものでもある。担当責任者として、すべての手段を利用してそれらを擁護する。この任命は私にとって大変名誉であり、幸運と感じている。」

英国首相は最近、キャンパスでの言論の自由の重要性を強調して、以下のようにコメントした:
「自由な社会には自由な議論が必要である。我々は皆で他の人の考えを尊重し、耳を傾けることを奨励するべきである。大学は議論を押し殺すところではなく、支援する環境であるべきである。寛容な社会とは、意見の相違を理解することを認めるところであり、この目的を達成するために大学以上に重要な場所はない。」
高等教育(言論の自由)2023年法は、高等教育における学問と言論の自由を強化するという政府の公約を実現し、学問の自由を核とする大学の名誉を保護することに役立つ。イングランドで登録されている高等教育機関は、言論・学問の自由を確保するために法的措置を取るだけでなく、それらの重要な価値の促進のため法的義務の拡大を行う。学生組合も大学やカレッジと同様に合法的な言論の自由の確保のため合理的な手段を使い法的責任を負うことになる。高等教育機関、学生組合等でこれらの実行ができなかった場合、罰金などを含む制裁を受ける場合がある。
Department for Education (DfE):
https://www.gov.uk/government/news/university-freedom-of-speech-bill-becomes-law


(2) 研究者のキャリアを切り開くための対策委員会メンバーが集結
2023年6月1日、国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB)の研究者キャリア向上対策委員会(Researcher Career Mobility Taskforce)は、そのプロジェクトの重要な節目を迎えたことを報告した。対策委員会のメンバーは、何カ月にも及ぶ集中的な情報収集と関係者との協議の後、プロジェクトの問題点について議論するために結集した。この対策委員会は、2022年2月に発足し、リサーチ・イングランド(Research England)から承認を受けており、学界や産業界の経験豊富なリーダーを集め、研究者のためにより多様性のあるキャリアを築き、大学、産業界、英国の経済に良い影響を与える方法を模索している。初期のデータによると、英国におけるキャリアの長期間にわたる異業種間の移動水準は、その規模と研究開発集中型の経済の複雑さがヨーロッパと似ているようである。異業種間の移動を支援し、それを可能にする制度についての調査では、多くのプログラムがキャリアの初期段階を支援している一方、中堅の段階ではあまり移動が見られない。大学や企業のインタビューからは、キャリアの向上は価値があると認識されている一方で、無意識的に起こることが多く、正式な手順や評価はされていないことが分かった。対策委員会では、活動的なキャリアやコラボレーションを促進する実現可能な解決策を模索している。初期のテーマは、研究者の流動性をより明確かつ正式に測定することと、研究・イノベーションのシステム全体の資金や政策的な支援をより的確に調整することを含んでいる。キャリア・アドバイスやガイダンス、異なる部門や分野を超えたパートナーシップが、リスクを減らし、職の斡旋を促進する方法について引き続き検討される。また、場所や物理的なインフラの両面で、分野を超えた研究者が集まる機会の創出も検討される。
キャリアの向上に関する共同作業
この取り組みは、UKリサーチ・イノベーション(UK Research & Innovation: UKRI)によって支援されており、キャリアパス、多様性と包括性、研究文化とスキル格差に関する限界に対処する取り組みと連携している。対策委員会のメンバーであり、Careers Research and Advisory Centre(CRAC)の最高責任者であるClare Vinery氏は、対策委員会の議論やプロジェクトが幅広い研究分野の取り組みを支援する方法について見解を述べた。
「対策委員会の進捗状況は時宜を得たものであり、UKRIが委託し、CRAC-Vitaeが主導するプロジェクトと連携して、研究文化を改善するイニシアチブを分類し、グループ化するのに役立つモデルを開発している。CRAC-Vitaeが主導するこのプロジェクトは、現在Shift LearningとUK Reproducibility Network(UKRN)と連携して取り組んでいる。この取り組みは、2021年に政府の研究・開発人材と文化戦略の中で推奨されたリソースである、研究文化のGood Practice Exchangeの将来を支えることになる。この戦略では英国の研究とイノベーションに必要な人材の育成と、積極的かつ包括的な文化の重要性を強調している。
Vinery氏はまた、「このプロジェクトは互いに補完し合っている。CRAC-Vitaeのモデルは、コラボレーションの文化、多様な経験とスキルの認識、幅広いキャリアと専門的な発展を経験する利点を強調している。これらを促進し、分野間の流動性を向上させ、価値を高めるために必要である」と述べた。
研究者キャリア向上対策委員会の相談は、あと数週間で終了予定であるが、引き続き委員会に協力し、知見を共有することができる。このプロジェクトには100人以上の関係者が参加しており、9月にはロンドンを拠点とした対面イベントを開催する予定である。
National Centre for Universities and Business: (NCUB)
https://www.ncub.co.uk/insight/taskforce-members-meet-to-unlock-researcher-career-pathways/


(3) 世界初の人工知能に関する首脳会議が英国で開催される
2023年6月7日、英国首相官邸は、世界が人工知能(Artificial Intelligence: AI)の急速な発展に伴う課題や機会に取り組んでいる中、AIの安全性に関する初の世界的な首脳会議を英国で開催する予定であることを発表した。
• 首脳会議では、主要国、大手ハイテク企業、研究者が一堂に会して、AIがもたらす最も重大な危険の評価や監視を行うための安全策について合意を求めるものとなる。
• 英国首相と米国大統領のBiden氏は同日、ホワイトハウスでの会談で新興技術の可能性と課題に対して協調的な取り組みを約束した。
• 世界の企業が英国内でAIの研究の事業の拡大を行っており、英国首相は英国-米国間の技術リーダーシップの向上のため新しい大学奨学金を発表した。
英国首相は、AIの安全性に関する初の本格的な首脳会議のホスト国になることを発表した。AIの急速な発展は、麻痺による歩行困難者を支援する技術から、殺菌力の強い抗生物質の発見まで、私たちの生活の改善を続けている。しかし、AIの開発は目まぐるしく急速に進んでおり、この変化についていくために機敏なリーダーシップが求められる。この技術が安全かつ責任を持って開発され、採用されることを保証するため、世界全体で協力する必要があり、英国はこの問題に取り組む意向である。先週、何十人もの優秀な専門家たちが感染症の流行や核兵器と同様に、AIが人類を危険にさらす可能性を警告した。同日、ワシントンDCでの会談で、Sunak首相は、同様の志を持つ同盟国と共に、企業がAIの安全性と信頼性のある開発と使用に関して、国際的な構想を開発する重要性を強調した。今秋に開催される英国主催の首脳会談では、スーパーコンピューターのフロンティアシステムを含む、AIのリスクに関する議論が行われ、国際的に協調した行動でリスクを緩和する方法について話し合われる予定である。また、これらのリスクを軽減するための共有したアプローチをさらに開発し、各国が協力するための基盤を提供する予定である。ここ数週間、Sunak首相は何人かのビジネス関係者や世界のリーダーたちとこの課題に関して会談を行った。先月行われた広島サミットでも、この問題に対して共通の方法をとると一致したG7の各首脳とも会談を行っている。また、5月にはSunak首相が首相官邸で最先端のフロンティアラボのOpenAI、Deepmind、Anthropicの各最高責任者と面会し、また科学、イノベーション、テクノロジー大臣はAI企業の役員達とのラウンドテーブル会談を主催した。AIの安全性に対する首脳会議の取り組みは、最近開催されたG7、OECD、AIに関する世界のパートナーシップの会議での内容に基づいている。7月には外務大臣が国連安全保障理事会で、国際的な平和と安全のためAIの機会とリスクに関する初めての短いスピーチを行う予定である。英国はAIの将来に関する議論を開催する最適な場所であり、米国、中国に次ぐ世界第3位のAI先進国でもある。英国のAI分野はすでに英国の経済に37億ポンド貢献し、全国で5万人の雇用がある。英国がEUから離脱したことで、この急速に変化する市場に対してより早く、機敏に対応できる立場でもある。英国はAIの安全と責任のある開発のための青写真を設定した最初の先進国の一つであり、この急速な技術の発展に対応していくことになる。そして英国は、専門家の対策委員会を設置し、次世代のためのAIの安全性を築き、対応している。委員会はは1億ポンドの資金投資と、英国にあるエクサスケールのスーパーコンピューターを含むコンピューター能力開発に9億ポンドを費やすことを約束している。
英国首相Rishi Sunak氏のコメント:
「AIは私たちの生活をより良く変えていく素晴らしい可能性がある。しかし、その開発と使用が、安全で確実な方法によるものであることを確認する必要がある。歴史上において、我々は何度も固定観念を覆すような新しい技術を発明し、それを人類の利益のために活用してきた。それをまた再現しなければならない。どの国もこれを単独で行うことはできない。これには世界の協力が必要である。しかし、膨大な専門知識と、開放的で民主的な国際システムを取り入れている英国は、同盟国と力を合わせ、道を切り開くために共に立ち上がるつもりである。」
GOV.UK:
https://www.gov.uk/government/news/uk-to-host-first-global-summit-on-artificial-intelligence#:~:text=US%20tech%20leadership-,As%20the%20world%20grapples%20with%20the%20challenges%20and%20opportunities%20presented,today%20(Wednesday%207%20June)


(4) 研究開発支援用ホライズン・ヨーロッパ保証制度が再度延期
2023年6月8日 科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)は英国のホライズン・ヨーロッパへの申請者に提供される支援を2023年9月末まで延長することを発表した。
• 政府はホライズン・ヨーロッパ保証制度を2023年9月末まで延長し、英国の研究者、企業、イノベーターを引き続き保護する
• UKリサーチ・イノベーション(UK Research & Innovation: UKRI)は2021年11月にこの制度が成立して以来、10億ポンド相当の助成金を提供している
• 政府の優先事項は、英国の研究開発部門が画期的な研究や国際的な提携先とのコラボレーションに対して引き続き最大の支援を行うことである
英国のホライズン・ヨーロッパの申請者への支援がさらに3か月延長された。2021年11月から開始されたこの制度では、UKRIが2023年4月末までに2,000件以上の助成金申請を承認し、総額10億5,000万ポンド相当を支払っている。今回の延長で、対象となる英国のホライズン・ヨーロッパ資金獲得者は、助成金が保証され、引き続き重要な研究やイノベーションに取り組むことができることとなる。この保証制度は、2023年9月30日以前に締め切りとなるすべてのホライズン・ヨーロッパの募集に適応される。ホライズン・ヨーロッパの資金獲得者は、助成金の期間中に英国のホスト機関で助成金を全額受け取ることができる。
科学大臣のChole Smith氏のコメント:
「今回の延長は、ホライズン・ヨーロッパへの参加の交渉が続いている間、これまでに資金獲得者に対する10億ポンド以上の支援を行っており、我々の世界クラスの研究者が、画期的な研究を継続するために必要な支援を間違いなく受け取ることができることを示している。」
資金獲得者は資金を受け取るために英国を去る必要がなく、それにより将来のコラボレーションに対する心配が不要となり、提携が決まった場合やそうでない場合でも英国の研究者を支援することになる。政府はEUの研究プログラムの参加に関して引き続き交渉中であり、ホライズン・ヨーロッパへの参加が成功することを望んでいる。しかし、英国の参加が英国の研究者、企業、納税者にとって公平なものでなければならないため、EUが英国の参加を遅らせた2年間を考慮するものでなければならない。政府は引き続き交渉を進める間でも、企業、研究やイノベーションの関係者と協力を続けていくだろう。政府の優先事項は、英国の研究開発部門が画期的な研究や国際的なパートナーとのコラボレーションを引き続き行えるように最大の支援をすることで、今回の保証制度の延長は交渉を継続する間に、研究者に安心を与えるものである。

Department for Science, Innovation and Technology (DSIT):
https://www.gov.uk/government/news/horizon-europe-guarantee-scheme-newly-extended-to-support-uk-rd

関連記事 2023年6月8日掲載 
Science Business: UK forced to extend Horizon Europe safety net by another three months 
https://sciencebusiness.net/news/Horizon-Europe/uk-forced-extend-horizon-europe-safety-net-another-three-months


(5) 英国科学担当大臣、カナダとの共同研究のため、2,400万ポンドの新科学イノベーション合意を発表
2023年6月8日 科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)は、英国科学担当大臣であるGeorge Freeman氏がカナダ滞在中に下記の提示に合意したことを伝えた。
• 英国とカナダの大臣たちは労働力のスキルアップと経済成長の促進のため、量子、気候変動、バイオマニュファクチャリングにおいて提携を深める
• カナダは英国の1億1,900万ポンドの国際科学パートナーシップ基金計画のパートナーとして、初期資金として4,500万ポンドを投資する
• 大臣らは2,000万ポンドの共同プログラムを含み、バイオマニュファクチャリングの協定覚書に署名
英国とカナダは同日、二国間における科学とイノベーションの協力をより深めることを目的とした合意内容の一部として、バイオマニュファクチャリング、量子、気候変動、代替タンパク質研究に対して協定を発表した。英国の科学担当大臣であるGeorge Freeman氏は、オタワにてカナダの科学・イノベーション・産業大臣であるFrancois-Phillipe Champagne氏とバイオマニュファクチャリングにおける協定覚書に署名し、2,000万ポンドのバイオマニュファクチャリングの共同プログラムを開始した。バイオマニュファクチャリング共同プログラムは、それぞれの政府から1,000万ポンドを受け取り、両国が将来の感染流行に完全に備えることを目的とし、英国とカナダ間のバイオマニュファクチャリング分野の促進を図るものである。このプログラムでは、バイオマニュファクチャリングのための人材育成を行い、将来においてこの分野の成長に必要な熟練した労働力を整え、英国とカナダの企業や研究所が将来の製品やサービスを開発する共同プロジェクトのための資金提供、投資家と知識の共有を通じたこの分野の迅速な成長、及び規模拡大の支援も含まれている。バイオマニュファクチャリングの共同研究とは、カナダと英国の補完的な強みを一つにまとめ、この分野のビジネス成長を支援するため、両国の高スキルな雇用を創出すること、及び経済成長に重点を置いている。覚書は、両国の世界で直面する最も大きな課題である気候変動から、将来的に必要なワクチンの生産能力を確実にするための取り組みを目的とした、2つの科学とイノベーション大国によって合意されたいくつかの取り組みの一つに過ぎない。粒子やバイオテクノロジーなどの高成長産業が両政府からの投資や親密な国際協力によって恩恵を受けるように、英国とカナダの経済成長を促進していくことが狙いである。
英国、科学担当大臣であるGeorge Freeman氏のコメント:
「英国とカナダは何世紀も前からの文化、経済、歴史的な絆を共有し、最近では科学やイノベーションにおいて農業技術からゲノム、宇宙まで、様々な主要な分野で提携してきた。大変親密なパートナーであり、世界的な科学とテクノロジーへの投資競争において、世界的に緊急の課題に取り組むための技術革新を進める際、英国とカナダは科学を世界のために活用する深い価値と利益を共有している。主要な研究開発国と世界の科学技術の提携を深めることで、人工知能、バイオセキュリティ、工学生物学から量子、宇宙の持続可能性、極地研究まで、我々の長年の提携を深めるために、様々な分野で合意することは大変嬉しく思う。」
カナダの科学・イノベーション・産業大臣であるFrancois-Phillipe Champagne氏のコメント:
「英国とカナダは共通の歴史と価値によって培われてきた、大変独特で深く積極的な関係を持っている。本日のバイオマニュファクチャリングの協定覚書と量子研究技術における共同声明は、我々の世界クラスの能力を利用するための重要なステップであり、両国のイノベーションと経済成長を促進することとなる。我々は将来の経済を形作るため、科学と研究におけるより良い共同研究を作り上げて行くために引き続き協力していく。」

また、バイオマニュファクチャリングの協定覚書とともに、英国とカナダは以下の通り様々な協力に合意した:
・カナダは英国の1億1,900万ポンドの国際科学パートナーシップ基金(International Science Partnership Fund: ISPF)のパートナーとして発表された。当初はカナダが主導する気候変動の適応と緩和における国際共同イニシアティブに英国の研究者が参加できるように450万ポンドの資金提供がされることになっており、これは気候変動により最も立場の弱い人々を支援するための計画とされている
・量子科学研究に関する主旨書は、共同プログラムの導入や研究者の移動の増加等の活動のロードマップとなっており、共同研究は直ちに開始され、この夏には20人の博士課程学生がカナダから英国に訪れ、英国-カナダ間の量子科学のサマースクールが実施される。
・Innovate UKとProtein Industries Canadaは、カナダと英国の企業を研究機関との共同研究開発プロジェクトを通じて植物性の食品のイノベーションの促進を行う
Department for Science, Innovation and Technology (DSIT):
https://www.gov.uk/government/news/uk-science-minister-unveils-over-24m-in-new-science-and-innovation-agreements-to-deepen-collaboration-with-canada


(6) 革新的な医療技術が治療に変革を与えるか
2023年6月9日、UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)は、3,650万ポンドの投資により、アルツハイマーやがんなどに対する患者への治療方法が変わる可能性を伝えた。
2,000万のポンドの援助は、最新の進展した量子、ロボット工学、画像診断等を利用した革新的な治療や診断機器の開発、検査を実施する研究者の支援に充てられる。さらに、イングランド全土において新しいデジタルヘルスハブに1,650万ポンドの投資が行われ、知識やスキル等が以下のパートナー間で共有されるよう促す。
• NHS
• ソーシャル・ケア関連機関
• 大学
• 企業
新しいヘルスケア技術
新しいヘルスケア技術に関する5つのプロジェクトは、工学・物理研究科学会議(Engineering and Physical Sciences Research: EPSRC)からの200万ポンドの支援を受け、将来のヘルスケア技術の創出を目指す。これらのプロジェクトが開発するものは以下のとおり:
自走内視鏡ロボット
Imperial College Londonの研究者が開発したもので、絶え間なく稼働し、小型の手術用レーザーや細胞の強力な分析技術を持つもの。初期の腸がんの発見と治療を行い、手術の必要性を減らす。
低出力超音波を用いた革新的な疾患の管理方法
University of Oxfordの研究者達は、超音波の光で刺激を与えることができる画像造影剤としてマイクロバブルを使用する方法を開発した。ガン、脳卒中、アルツハイマー病、薬物耐性による感染症の管理に応用される可能性がある。
デジタルツイン補助手術
デジタルツインや正確なコンピューターモデルを使用して、医師が手術の検査や結果を予測し、患者に合った治療を行えるようにする方法を開発し、術後の結果や回復のための時間を改善することを目指す。
脳卒中の患者のためのポータブル脳画像
Imperial College Londonの研究者が開発した超音波を利用する携帯の脳画像機器は、脳卒中や他の神経疾患の診断と治療に役立つ高解像度、高コントラスト画像を生成し、超音波を使用した初の成功例となる。
白血病のコンピューターモデル化
University of Glasgowの研究者達は、体内で変化する初期の細胞を検出するメカノバイオロジーの分野を使用して、白血病の発見と病気の予測、医薬品の検査経過の改善を目指す。
さらに、デジタルヘルスハブに対する1,650万ポンドの投資は、革新的なデジタル技術の開発を促進するため、Bristol、Newcastle、Sheffield、University College London、King’s College Londonの大学が主導することになり、病原菌の薬剤耐性、病院外の医療とケア、デジタル医療技術の開発、医療の不平等、健康増進のための症状追跡アプリや身につけることができるデバイスの開発など、5つのヘルスケアの課題に焦点を当てている。この投資は、ロボット工学、コンピュータモデリング、画像処理などの最新の技術を活用して、病気を治療し、診断する方法を変革しようとする研究者や技術者を支援するものである。EPSRCのCross-Council Programmesの責任者であったKedar Pandya博士は、これらのプロジェクトとハブが、患者のための医療の向上を図るための革新的方法の実現であり、病気を治療し、診断する方法の変革を目指す取り組みを支援するものであるとコメントしている。
UK Research and Innovation (UKRI):
https://www.ukri.org/news/innovative-healthcare-tech-could-transform-medical-treatments/


(7) 英語関連の学位コースは過去10年間にわたりスコットランドで人気である一方、全体的には衰退気味
2023年6月13日、英国学士院 (British Academy: BA)の新しい報告書によると、英語関連の学位コースで学ぶイングランドの学生数は2012年から2021年にかけて29%も減少している一方で、スコットランドでは12%増加していることが分かった。この報告書“English Studies Provision in UK Higher Education (英国高等教育における英語関連研究コース)”は英国高等教育での英語関連研究コースの詳細な実態調査である。これはBAで主要なシリーズの第3段目であるSHAPE分野(Social sciences: 社会科学、humanities: 人文学、 arts for people:芸術学 , economy:経済学) の実態と持続可能性を監視しているものである。その中には英文学、英語言語学、クリエイティブ・ライティングの学位コースを含んでおり、報告書は、英語関連コースの学生、職員、教育、研究データと見通し等、英国高等教育全体におけるこの分野の複雑な傾向をより理解し、将来のための、根拠に基づいた見解がまとめられている。この報告書はSHAPE分野を監視し、根拠となるデータを提供するため、BAのSHAPE Observatoryによって製作された。また英国高等教育の神学・宗教学の状況の報告書(2019年)、ビジネス・経営学(2021年)に続く同様な報告書のシリーズの一環である。この報告書では、学生や職員数の変動、多様性や保護特性、研究資金、その卓越性等を含み、その分野で不可欠な特定テーマの分析に対する詳細が記載されている。また、英語関連コースの重要な特性、英語関連のコースを構成する分野の概要、GCSEやNational 5、A level、Scottish Higher、Advanced Higher levelsなどの高等教育以前の資格試験における変化など、幅広い内容が含まれている。
主な結果
• 英語関連の学問において、英国全体で世界のトップに位置している。研究評価制度(Research Excellence Framework: REF)の2021年版の結果では、英語関連の研究は4もしくは世界のトップに評価され、REFに提出した機関はすべて4の評価を受けた。
• 2012年から2019年の間に、イングランドの学部生は20%減少し、2019年から2021年の間にさらに3%減少した。しかし、この減少率はすべての高等教育機関や英国の分権行政国で同様の結果というわけではなかった。
• 大学院における英語関連の研究は、修士課程、博士課程において増加している。2012年から2019年にかけて、英語関連の研究の座学の学生数は27%増加した。また、さらに博士課程の学生は2019年から2021年にかけて8%増加した。
• 2021年のイングランドとウェールズの国勢調査のデータを比較すると、黒人と分類される学生はすべての学位レベルで過小評価されており、混血と分類される学生は英語関連の研究全体において評価が高かったことがわかった。
BAの研究・高等教育政策担当の副長であるSimon Swain FBA教授のコメント:
「この報告書は、高等教育の英語関連研究の進化を適時に概要として示しており、これまで見過ごされてきた傾向にスポットライトを当てている。また、地域の不平等さから医療の進歩まで、様々な英語関連研究の貢献を示している。英語関連研究のコミュニティは優れた研究内容に誇りを持ち、また励みになる。このデータと結果を基に、英語関連研究のコミュニティ、政策立案者、一般の人々は、英語関連研究が直面する複雑な課題を解決するために、新しい包括的な方法で学術的卓越性を確保し、次世代へ幅広い影響を持続させていくべきである。」
English Studies Provision in UK Higher Education: https://www.thebritishacademy.ac.uk/publications/english-studies-provision-uk-higher-education/
The British Academy (BA):
https://www.thebritishacademy.ac.uk/news/english-degrees-becoming-more-popular-among-students-from-scotland-but-experiencing-decade-long-decline-elsewhere-in-the-uk-british-academy-finds/

(8) 留学生の多様な誘致とその強化
2023年6月14日、英国大学協会(Universities UK: UUK)は、留学生誘致に関する新しい報告書を発表した。留学生は英国に多様な文化的、社会的、経済的利益をもたらす。英国の大学は世界中から学生を誘致し続けており、高等教育が英国で最も重要かつ成功した輸出の一つであることを誇るべきである。近年、多くの大学にとって、留学生誘致の地理的な多様化が優先事項となっている。留学生の全体的な増加と組み合わさり、大学は留学生の誘致に関連するさまざまな課題に取り組み、学生移民制度全体の高い水準のコンプライアンスを維持するために努力している。
報告書の要約
この報告書は、UUKのメンバーである大学に対する調査結果に基づいており、高いレベルの移民制度の規則遵守と共に、留学生の持続可能な成長及び多様性を両立させるための高等教育機関の取り組みを支援することを目的としている。この調査は、地理的、規模的、使命的な側面において広範なUUKのメンバーによって実施された。調査は、UUKメンバーの留学生誘致担当学長等で構成された国際的誘致に関するコンプライアンス会議の参加者や、会員との幅広い会話からの情報に基づいている。また、UK Council for International Student Affairs(UKCISA)やBritish Universities International Liaison Association(BUILA)とも協議が行われた。
調査結果
留学生誘致の多様化
・ 多くの大学は、現在留学生の誘致を多様な方法で行っており、調査への回答の90%がこれを示した。留学生市場は多岐にわたり、回答者は40か国以上を挙げた。
・ 大学は世界市場と応募者の行動の変化に適応し、留学生誘致の強化に取り組んでいる。具体的な取り組みとして、募集プロセスの改善、留学受諾証明書(Confirmation of Acceptance for Studies: CAS)の発行期限の変更、申請書と前払金の期限の前倒し、地域や申請書に基づくプログラムの制限の導入等がある。
前払金要件の見直し
大学は、前払金要件の見直しを検討することが望ましいと考えている。これは、申請者が本当に英国で学業を続ける意向があるかどうかを確認するための対策として導入される。回答者のほぼ全員(96%)が、自分の大学が少なくとも一部の留学生に前払金を要求していることを示した。また、回答者のうち67%が、前払金が特定の額で設定されていると回答し、17%が学費の一定割合で設定していると回答した。
CAS発行前の面接の活用
CAS発行前の面接の活用は、大学が留学生の動機や興味のレベル、学部での学習意欲などを把握するために役立つ。回答者の57%が、自分の大学がCAS発行前の面接を実施していると回答した。CAS発行前の面接を実施している大学のうち、ほとんどは特定の国からの留学生に対して実施している。面接内容は多岐にわたり、質問、身元確認、より集中した対話が含まれる。
扶養家族への対応
過去数年間、学生ビザ取得に付随して、英国に同伴する扶養家族用のビザ発行が増加していることから、大学はオファーを出す段階で留学生に同伴する家族がいるかどうかを確認することが重要である。これにより、適切な支援策を提供できるよう配慮し、対応策を変更する必要がある。
留学代理店との提携
大学は留学生誘致を支援するために、留学代理店との協力方法を検討するべきである。回答者の多くは、留学代理店を新しい市場に誘致したり、既存の市場で代理店を活用したり、代理店のトレーニングやサポートを行ったりする方法について話した。大学は留学代理店との協力にあたって、UK Agent Quality Frameworkに関する知識を持つことが推奨される。調査の半数以上(55%)の回答者が、自分の大学がこのFrameworkを利用していることを示した。このFrameworkは、代理店との契約内容に組み込まれたり、政策やプロセスの見直しが行われたりする等、留学代理店との協力を向上させるためのツールとして利用されている。
代理店と留学サービス提供者との協力
調査の半数以上(55%)の回答者が、大学が留学サービス代理店や留学代理店と提携していることを示した。このような提携を通じて、大学は透明性を高め、品質を維持するための対策を検討すべきである。回答者によると、パフォーマンス評価の監視が最も一般的な対策として挙げられた。この評価は、申請の品質や数量、入学率、入学後の違反、ビザの却下等の指標を対象としている。
Diversification and strengthening international recruitment practices: https://www.universitiesuk.ac.uk/sites/default/files/uploads/Reports/diversification-and-strengthening-international-recruitment-practices.pdf
Universities UK (UUK):
https://www.universitiesuk.ac.uk/what-we-do/policy-and-research/publications/diversification-and-strengthening


(9) 5,400万ポンドの投資で主要な課題解決に役立つAIの開発 
2023年6月14日、UKリサーチ・イノベーション(UK Research & Innovation)は、AI関連の投資を発表した。人工知能技術の先駆けとしての地位を持つ英国は、この分野においていくつかの資金投資を行い、強化している。
投資内容は以下のとおり:
・ 3,100万ポンドが、責任と信頼のあるAIの研究やイノベーションのため、英国および国際的なエコシステムを構築するコンソーシアムに割り当てられる
・ 200万ポンドが、Bridge AIプログラムの一環として、42件の企業の実現可能な研究プロジェクトに提供される
・ 1,300万ポンドが、英国がネットゼロの目標を達成するための13件のプロジェクトに提供される
・ 800万ポンドが、Turing AI World Leading Researcher Fellowshipとして2名に授与される
学術界と産業界の連携
今年のLondon Tech Weekでは、UKRIは学術界と産業界を結びつける様々なAIへの投資を発表した。政府はAIを英国科学技術フレームワークの重要な技術と位置づけており、また、急速に進化する科学技術分野であり、経済や社会に膨大な利益をもたらす可能性があると認識している。UKRI Technology Missions FundやTuring AI World Leading Researcher Fellowshipを通じて、これらの新たな投資により、英国はAI分野での世界的な強みをさらに築き上げていく計画である。また、AIは公益のための活動や世界の課題の解決にも貢献することを目指している。

社会のニーズへの対応
今回発表された投資の一部は、3,100万ポンドがResponsible AI UKと呼ばれる大規模なコンソーシアムに割り当てられる。このコンソーシアムは、University of Southamptonが主導しており、責任と信頼のあるAIのための英国および国際的な研究やイノベーションのエコシステムを構築することを目指している。このコンソーシアムはGopal Ramchum教授の指導のもと、大学、企業、第三セクター、一般市民の協力を得て、責任あるAIの開発について包括的かつ思慮深い方法で取り組んでいる。具体的には、信頼できるAIとは何か、どのように開発するか、既存のシステムに組み込む方法、および社会への影響を理解するための研究を支援している。
AIソリューションの責任ある展開
このコンソーシアムは責任あるAIの全国的な対話を促進し、AIエコシステムを結集し、政策立案者と緊密に協力して将来の政策や規制の根拠を提供し、責任あるAIソリューションの展開に向けたガイダンスも提供する。これには以下の活動が含まれる:
・ 大規模な研究プログラム
・ 学術界と産業界の連携
・ 一般市民や企業向けのスキルプログラム
・ 英国および世界のAIの状況に関する概要を提供する白書の発表
信頼と責任のあるAI
さらに、200万ポンドがBridge AIプログラムの一環として、42件の企業の実現可能な研究プロジェクトに提供される。これにより、信頼性のあるAIと機械学習(ML)技術の導入が加速する。これらのプロジェクトは以下の内容に関するAI技術の評価を容易にするツールの開発を検討する:
・ 管理と運用
・ 公平性
・ 説明責任
・ 透明性
・ 説明可能性
・ 安全性
・ 解釈可能性
・ プライバシーセキュリティ
成功したプロジェクトには、これらのAIソリューションをさらに発展させるための追加資金として1,900万ポンドが提供される予定である。
ネットゼロの目標達成
英国はネットゼロの目標を達成するために、13件のプロジェクトに1,300万ポンドの支援を提供する。これらのプロジェクトはEdinburgh、Aberystwyth、LeicesterからSouthamptonまでの英国の大学が主導し、以下のAI技術の開発を検討する:
・ より持続可能な土地管理
・ エネルギー効率の高い二酸化炭素回収の促進
・ 自然災害や異常気象への回復力向上、これにより英国のエネルギー消費者の光熱費が削減される可能性
・ 気候変動に強くと環境への影響を最小限に抑えるための高収量バイオ燃料作物の選択促進
これらの成果は英国の二酸化炭素排出量の削減や新しい方法の開発に寄与し、英国のエネルギー消費者にとってコスト削減につながる可能性がある。
2名に研究奨励制度
最後に、UKRIはTuring AI World Leading Researcher Fellowshipを2名に授与した。この名誉ある研究奨励制度は、2021年に最初の5人に授与されて以来、現在まで続いている。University of OxfordのMichael Bronstein教授とAlison Noble教授は、AIの最大の課題に対する画期的な研究を行う。Michael Bronstein教授は、幾何学的およびグラフベースのMLの新しい数学的枠組みを開発し、これを応用することで医薬品や食品分野の最も困難な課題に取り組むことができるであろう。これには新しい治療用分子の開発や"ダークマター"の分布の解明などが含まれる。一方、Alison Noble教授の研究は、AIの倫理と判断等を含むAIの信頼性に焦点を当てており、ヘルスケアの画像診断において、人間と機械の意思決定を共有するための新たなAIを研究する。また、ビデオやセンサーデータに基づくMLベースの分析を用いて、臨床業務のヒューマンスキルモデルの開発を行う。この研究は医療画像関連の領域で、英国の学術界と産業界の連携を促進し、AIの導入が人間のスキルに及ぼす影響を追求することを目指している。
UK Research & Innovation :
https://www.ukri.org/news/54m-to-develop-secure-ai-that-can-help-solve-major-challenges/


(10) REF 2028の初期決定
2023年6月15日、UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)の一部であるリサーチ・イングランド(Research England: RE)は、次回の2028年研究評価制度(Research Excellence Framework: REF)において、大局的な概要方針を示す初期決定を発表した。次回のREFは2021年から2027年の研究と影響の評価を通じて実施され、2028年に終了する。この制度は英国全体の研究の卓越性を推進し、研究への公共投資の説明責任を提供し、毎年約20億ポンドにのぼる政府からの助成金の配分情報を提供する役割を果たす。英国の研究資金機関は、国家的な評価の焦点を個人の成果から、機関や学問分野が、健全でダイナミックな、また包括的な研究環境にもたらす貢献へと変更しようとしている。また、研究の過程における幅広い貢献も評価に含めることを望んでいる。
士気の活性化
英国の研究評価の再編は教育システム内で士気を高め、何を認識し、どのような報酬を与えるべきかなどを見直す機会となるだろう。REF2028の改定では、研究の卓越性の定義を拡大し、英国の研究システムを支える人々、文化、環境の重要性が適切に評価されるか等が含まれる。前回のREFでの変更も考慮しつつ、REF2028はより包括的な研究評価を行い、様々な研究や支援するスタッフの貢献を適切に反映する予定である。
3つの評価要素
REF2028では、3つの評価要素を変更することで、より幅広い研究の成果、活動、影響を認識し、、積極的な研究文化を醸成し、研究を支援するスタッフを育成する機関に報いることができるようになる。資金機関は評価に関連する事務的な労力につり合いが取れるよう努力してきた。評価の3つの要素は、REF2028では名称が変更され、内容も調整され、内容間の比重も調整される。それぞれの内容について詳細に説明する。
人々と文化(25%)
この内容は、REF2014と2021の環境要素に代わり、研究文化の評価を含むように拡充される予定である。この内容の評価には、機関レベルと学術分野レベルの提出物が組み合わせて使用される。
知識と理解への貢献(50%)
この内容は、REF2014と2021のアウトプット要素を拡充したものである。評価の多くは引き続き提出されたアウトプットに基づいて行われるが、REF2028では少なくとも10%のスコアは学術分野全体の進歩に対する幅広い貢献の証拠に基づくものとなる。
関与とインパクト(25%)
この内容は、2014年の内容に似たものですが、REF2014と2021の内容のインパクトを代替するものである。提出物にはインパクトのケースステディと、それを超える関与と活動を証明する内容が含まれる。
新しいアプローチ
REF2028は研究の量に対するアプローチを変更し、個人の評価から完全に脱却する。研究の量は平均的な職員数に基づいて決定され、個々の貢献に対する最小値や最大値は設定されない。REF2028では、すべての研究を支えているスタッフが評価対象となる。これにより、評価の包括性が向上し、他の分野から移行してきた研究者を支援する環境が提供されることを目指す。
初期決定の発表
この初期決定は「初期決定報告書」として公表され、評価と協議の活動から導かれた主要な変更要因に対処するためのものである。また、英国内での広範な研究政策や開発、研究評価の改善を図るために国際的な取り組みも検討されている。これらの決定と協議内容は、REF2028の高レベルな内容と関連している。研究界は今後数か月でREF2028のさらなる展開に向けて準備を進め、2024年には規定設定の段階において、詳細なガイダンスやパネルへの意見提出の機会を持つことになるだろう。
Research Excellence Framework 2028: Initial decisions and issues for further consultation (REF2028/23/01)
https://repository.jisc.ac.uk/9148/1/research-excellence-framework-2028-initial-decisions-report.pdf
UK Research and Innovation (UKRI):
https://www.ukri.org/news/early-decisions-made-for-ref-2028/


(11) イングランドの学生ローン債務が2,000億ポンド突破
2023年6月16日、Guardian紙はイングランドの学生ローンの債務が初めて2,000億ポンドを突破したことを伝えた。これは大学いおける学生数が予想よりも増加し続けている中で、以前の政府の予測を20年も早く上回る結果となっている。学生ローン会社(Student Loan Company: SLC) は、イングランドの学費と生活費のローンを管理しており、今学事年度のローンの残高が2,050億ポンドに達したことを伝えた。この数字はたった6年間でローン額が2倍に増加したことを意味する。2012年、連立政権が学費を3,600ポンドから9,000ポンドに引き上げる決定をした後、2016/17学事年度にはローン総額が100億ポンドに達した。SLCはまた、卒業生の負債平均額が上昇し、現在は45,000ポンド弱であることも明らかにした。卒業生による返済金も2022/23年度には40億ポンド以上となった。SLCによると、イングランドの学生の融資額は英国内で依然として高い水準にある。スコットランドでは学費が無料のため、住民の平均負債は15,400ポンドである。一方、ウェールズの学生は35,500ポンド、北アイルランドは24,500ポンドである。2013年の政府の予測では、学生ローンの負債は2042年までに2,000億ポンドに達するとされていたが、実際にはイングランドの学部生の人口が予想を上回り、大学院生もローンを利用できるようになった。英国下院図書館が最近引用した政府の予測によると、2040年代半ばまでには4,600億ポンドまで達する可能性がある。来年の総選挙では、学生の財政が争点となることが予想されている。政府は最近、ローン制度を改定し、低・中所得の卒業生がより多くの返済を行わなければならなくなった。2024/25学事年度からは、学部生の返済が開始される年収のラインが現在の27,295ポンドから25,000ポンドに引き下げられる。また、返済期間は現在の30年から40年に延長される。新規の借入を行う場合は金利が引き下げられるため、高収入の卒業生は早期に完済する利点がある。この改正により、全額返済する卒業生の数が倍増する見込みである。しかし、英国財政研究所(Institute for Fiscal Studies: IFS)は、この改定により最低所得層の卒業生の返済額が3倍以上に増加する可能性があると指摘している。労働党は、次回の総選挙で勝利した場合、この改定を撤回する方針であり、「次世代の看護師、教師、ソーシャルワーカーに打撃を与える」と政府を非難している。この2,000億ポンドの金額は、英国の公共部門の純債務2.5兆ポンド以上の8%に相当するが、学生ローンが国民勘定の中でどのように計上されるかは複雑であり、返済が見込まれている場合はローンとして計上され、負債が見込まれる場合は政府支出として計上されている。
The Guardian:
https://www.theguardian.com/education/2023/jun/16/student-loan-debt-in-england-surpasses-200bn-for-first-time


(12) 生涯ローン資格は良い機会、チャンスを掴もう
2023年6月20日、英国大学協会(Universities UK: UUK)は、貴族院で行われた生涯資格学習(Lifelong Learning Entitlement: LLE)に関する会議が前日に行われたことを受け、生涯ローン資格(Lifelong Loan Entitlement: LLE)に関する詳細な記事を掲載した。国家統計局(Office for National Statistics: ONS)のデータによると、英国では専門職の求人数が学位取得者の求人数を100万人以上、上回っている。熟練した専門職の需要が増加し、高齢化や生成的なAIの技術革命が進展する中、人々は生涯教育や訓練を受ける必要に迫られている。生涯ローン資格(LLE)は、これらの課題に対するいくつかの期待される回答の1つである。英国政府との協議が進行中であり、UUKはこれを成功させるために高等教育機関がどのような役割を果たせるかを探求している。
LLEとは何か?
LLEは、18歳以上の人々が高等教育にかかる4年間分(現在の37,000ポンド相当)の費用をカバーするものである。LLEは2つの側面を持っている。現行の高等教育学生資金制度の代替となる。つまり、通常の3年間の学士課程の学費も、LLEから資金提供されることになる。モジュール学習や柔軟な教育にも資金が提供され、学習者は自身の学問に集中するために学習を進めたり、途中で休学したりすることも可能である。これがLLEの革新的な側面である。この資格は、高度な技術資格(Higher Technical Qualifications: HTQ)や一部のAdvanced Learner Loanに対して2025年から利用可能となる。その後、2027年からはレベル4-6のモジュール教育にも適用範囲が広がり、LLEは新たな学習者や学業を再開する人々にも適用される。
積極的な政策の前途
高等教育機関はLLEの全体的な概念を活用すべきである。この政策は多くの人々が考えているよりも非常に急進的なものであるが、その方向性は間違っていない。柔軟な高等教育資金のアプローチは、学習者、雇用主、大学などの利益に寄与する可能性がある。
例えば:
・大学はこれまでと異なる教育提供方法を検討し、継続教育との提携を強化する可能性がある。
・雇用主は優れた人材を活用し、ニーズに合わせた少人数の学習を通じてスキルギャップを埋める機会を持つだろう。
・学習者にとって、LLEは個人的、職業的な成長を促進し、キャリアの変更や既存スキルの向上を可能にするだろう。
協議の過程では、同等もしくはそれ以下の資格(Equivalent or Lower Qualification: ELQ)に関連する要件の撤廃や、パートタイム学生向けの生活費サポートの拡大が検討されることが歓迎される。新たに学習を開始する人々や学業を再開する人々にとって、自己向上のためのコース提供は非常に有益である。つまり、この政策には楽観視できる多くの理由があるが、成功に向けて取り組むべき課題も存在する。大学がどのように対応するかについての考え方が問われる一方で、最近の試験的な短期コースの受講率の低さは、潜在的な学習者に対してこの機会を奨励し、需要と供給のバランスを保つ課題を示している。
LLEの実現
LLEの実現には協力が必要である。この政策の成功は、政策自体の正確性だけでなく、大学が雇用主と学習者をどのように巻き込むかにも依存する。今後数年間、教育省(Department for Education; DfE)と学生機関(Office for Students: OfS)は、次の5つの重要な分野で協力して取り組む予定です。それらは以下のとおり:
・学習者の選択を優先すること。
2027年から、レベル4-6の資格を取得するすべての学習者にモジュール基金の利用を可能にするべきである。モジュールの対象かどうかは任意の判断に委ねるべきではない。異なるコースには異なる規模と形態があり、LLEは4年以上のコースや、数年間の海外留学、プレースメント期間、学業再開等、適切な資金支援を提供する必要がある。複雑なスキルの需要に対応し、LLEは高等教育の多様性をサポートすべきであり、制約を設けるべきではない。
・新たな学習者を引き込む機会を拡大すること
高等教育をすでに受けている人々だけでなく、労働者や失業者にもLLEの恩恵を受けるチャンスを提供することで、より高いレベルの学習者の数を増やすためにLLEを活用するべきである。大学、政府、雇用主は、将来の需要を予測するために情報、アドバイス、ガイダンスを提供することができる。ただし、既存の労働力や新たにスキルを身につけたい人々、失業者などを取り込むためにも、アプローチを工夫する必要がある。
・適切な規制の制定に取り組むこと
規制上の負担は、大学の参加を制限する可能性がある。現行の学習成果測定が適切でないことは明白であり、OfSと協力して、モジュール学習下でどのような成果が望ましいかを定義する必要がある。
・持続可能な資金提供を確保すること
モジュール学習を提供する大学は、総合的なサポートサービスや運営コストに追加のリソースが必要である。特に大学の資金が実際に減少している場合、効果的にモジュール学習コースを提供するために高等教育機関と協力してベストプラクティスを共有することが重要である。ただし、政府はLLEや柔軟な学習の実施において財政的なプレッシャーが生じる可能性を考慮すべきである。
・分権政府との協力を強化すること
イングランドの学生は、LLEを利用して他の地域で学ぶことができるようにすべきである。この移動可能な資金(ポータビリティ)は、LLEの理念を示している。この目標を達成するために、モジュール学習コースの資金と品質に関する協議を行い、他の地方政府と連携して取り組むことが必要である。
これらの計画が正しいと考える場合、成功に向けた障害にどのように取り組むかを検討するために、高等教育機関が協力する必要があると確信している。このような大規模な変革を実現するには、大学やカレッジのスタッフの洞察力、経験、知識が不可欠である。大学は既にトレーニングや英国の労働力のスキル向上、柔軟な高等教育に関する豊富な経験を持っている。人口統計の変化と技術の進化により、英国が将来にわたって必要とする高等教育制度を確立する絶好の機会と言えるであろう。我々は大学や政府と協力して、このビジョンを実現していくことを楽しみにしている。

Universities UK (UUK):
https://www.universitiesuk.ac.uk/latest/insights-and-analysis/lifelong-loan-entitlement-opportunity


(13) HEPI/HE Advanceの 2023年学生学術経験調査結果:生活費の危機で学生の学術経験の改善に影
2023年6月22日、高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)とAdvance HEの共同調査である”2023年学生学術経験調査”の結果が発表された。この調査結果は、英国の教育機関でのフルタイム学部生の学術経験に関する最も包括的なデータを示している。また高等教育政策において確固たる地位を築いており、他の調査では踏み込めないようなところまで調査の対象とするため、しばしば閣僚のスピーチでその内容が引用されている。
今年の調査報告書は、Jonathan Neves氏と、Rose Stephenson氏の共著で、昨年と比べるとより熱心に学習し、より課題に取り組み、より多くの時間を授業に充て、自習を行っている。しかし、生活費の危機は学生の学術経験に対する認識に影を落としている。
1万件以上の回答から今年の調査で分かった主な内容は:
• 76%の学生が生活費の危機で学業に影響が出ていると感じている。50%は”多少の影響がある“、4分の1以上(26%)は”かなり大きな影響が出ている”と回答している
• 有給の雇用に就いている学生の数は、45%から55%へと大幅に増加している
• 講義、現地調査、自習等1週間の平均が30.7時間から33.4時間に増加した
• また同じコースを選択すると回答した割合はほぼ同じで58%、2022年は59%であった
• 37%の学生は学費に関して費用対効果が”良い”もしくは“非常に良い”としている
• “期待したより良い経験をした”と回答した割合は昨年の17%から19%に増加した
費用対効果の割合が多少改善されたことは、”価値が低い/大変低い“と回答した割合が多少減ったことに反映されている。費用対効果が悪いと判断された主な要因は生活費である。ストライキの実施の影響に関して今年の調査に新たに含められたが、6番目に顕著な要因となった。
有給の雇用に就く学生の数は明らかに増加しており、2021年には34%であったが、2023年には55%となった。これは学術経験にも影響を及ぼす可能性があると考えられる。例えば、有給の雇用に就いていない学生の65%は、同じコースを選択すると回答している。一方で、週に1から9時間の有給職に就いている学生は52%である。大学退学の理由として、”財政的な困難”が8%と報告されており、これは2021年のSAESの報告書の結果の2倍である。また、新たな質問として導入された介護の義務に関するデータでは、11%の学生が介護の責任を持っており、その要因は複数の義務から成り立っていることが示唆されている。具体的には、有給の仕事に従事したり、遠距離通学を必要とする学生の割合が不釣り合いに高いことを示している。
「所属先の大学において、あなたの学術経験を改善するためにできる1つのこと」について尋ねたところ、最も多かった回答項目は、試験や評価のサポート、教育と学習の支援、メンタルヘルスのサポート、大学組合(University and College Union: UCU)のストライキの影響、コミュニケーションに対する懸念、キャリア開発、生活費の問題であった。
今年の調査は、包括性と言論の自由に関する学生の意見を尋ねる2年目の取り組みである。65%の学生が、「他人が同意していなくても自分の意見を述べることに支障を感じていない」と回答した(2022年は64%)。一方、14%は「支障を感じている」と回答した(2022年も14%)。71%の学生が「キャンパス内で幅広い意見が尊重されている」と感じている(2022年は64%)。一方、8%は「そうではない」と回答した(2022年は9%)。71%の学生が「カリキュラムが十分に多様な内容を網羅している」と評価しており、8%が「そのようには感じていない」と回答した。これは2022年の結果と比較して変化がなかった。
特に黒人、アジア系、少数民族の学生は、費用対効果に関する評価(2021年には22%、2023年には30%)において、過去3年間で明確な改善が見られた。また、同じコースを選択するかどうかに関する質問に対する回答(2021年には48%、2023年には51%)も増加した。白人学生の経験は全体的により肯定的であり、同じ期間における割合は変わらなかった。ただし、今年の調査では、黒人学生のうち25%が「期待以上の経験をした」と回答し、特にポジティブな回答が増加した。ただし、「費用対効果」または「同じコースを選択する」という回答では割合が最も低くなった。
以上のデータは、SavantaやTorfacによって独自に行われたオンラインのパネルインタビューで、英国のフルタイム学部生10,163人を対象に調査された。すべての数値および表は2023年の調査結果に基づいて調整されている。
The Higher Education Policy Institute:
https://www.hepi.ac.uk/2023/06/22/student-experience-academic-survey-2023/


(14) 高等教育の需要の高まりは最も恵まれない環境の学生に対する高等教育進学の公平さが高まる可能性
2023年6月22日、大学入試機関 (Universities and Colleges Admissions Service: UCAS)は、2030年までに高等教育への進学希望者が30%増えると予想されており、大学進学率の公平さを促進する機会が開かれる可能性があると述べた。
大学進学率拡大のおかげで、最も恵まれない環境からの出身者(POLAR4 quintile 1)における18歳の大学進学者の数は過去最高となり、昨年は31,890人であった。10年後までに高等教育の志願者が100万人に達するという予想に伴い、UCASは英国の高等教育機関が最も恵まれない環境にある学生にとって進学可能なものとなるように、この需要の成長をいかに有効に活用することが大事かを強調している。新しいUCASの研究によると、最も恵まれている環境の学生と、最も恵まれていない環境の学生の大学やカレッジへの志願数の格差は狭まると予想されている。最も恵まれない環境の学生の志願率は2022年の29.4%から35%に上昇し、最も恵まれている学生(POLAR4 Quintile 5)は2022年の60.1%から65%に達する可能性がある。しかしこの分析では、需要の増加により内定を受けられない恵まれない環境の学生が、2022年の2.3%から2030年には8.6%となる可能性がある。現在、最も恵まれない学生のうち16人に1人が就職において1件の内定しかもらえず、2030年には6人に1人に増加し、3件以上の内定を得る割合が減少する可能性がある。これにより特定の学生にオファーを出す戦略等、現在のオファーを出す状況を変えることで、格差をさらに縮小する大きな機会となりうる。
UCASの最高責任者であるClare Marchant氏のコメント:
「大学進学率の拡大はUCASにとって主要な優先事項であり、英国高等教育全体でも大学進学が大きな前進を遂げているが、国民の論議では、学生間の競争の拡大と選択肢に関することに焦点が当てられている。オファーを出しているという状況に対応することは、18歳人口の増加に対応する我々のプロジェクト “Journey to Million”においてリスクを軽減し、進学希望者の増加により失望する者が増え、成績が低い者が進学を断念する状況を改善できる可能性がある。”Journey to Million”は新しい機会をもたらしてくれ、特定の学生にオファーを出す戦略、過小評価されているグループへの最低入学条件、アウトリーチ活動等を含む取り組みを通じて、アクセス拡大の大幅な進歩を維持することができる。Knight Frank とUnite Studentsとの提携で発表された “Journey to Million”に関するUCASの全国的な討論は、将来的な高等教育への進学率と、2030年までに英国の高等教育に最大100万人が進学する可能性に焦点が当てられている。」
Universities and Colleges Admissions Service (UCAS):
https://www.ucas.com/corporate/news-and-key-documents/news/growing-demand-higher-education-could-boost-equality-access-most-disadvantaged-students


(15) 英国がん研究機構の閉鎖が決定、英国の衰退する臨床試験部門に新たな課題に直面
2023年6月26日、バイオ医療品の情報を提供しているFierce Biotechは、英国の非営利団体である英国がん研究機構(National Cancer Research Institute: NCRI)が資金不足のため、腫瘍学研究と産業界のパートナーを結びつける役割を果たしてきた組織としての22年の歴史に幕を閉じることを発表したと伝えた。この団体の会長であるFiona Driscoll氏は、同日に社内の職員に向けた書簡の中で、この決定が「より広範な経済や研究環境の不確実性の影響」によるものであったことを述べている。NCRIは昨年、「関係者と共に将来に沿った戦略を生み出す」としていましたが、結局、修復不可の資金モデルを解決することはできなかった。
「従って理事会は、このまま運営を継続することは非常に多くのリスクを伴うため、不本意ながら閉鎖する決断をせざるを得なかった」とDriscoll氏は書簡で述べている。
NCRIは、知的財産やデータ等残りの財産を確認し、既存のパートナーがNCRIの業務を一部継続できるかどうかを検討する予定である。政府が国の臨床試験インフラを再活性化するため、新たな資金注入を発表した直後に行われたこの決定は、英国全土に波紋を広げる可能性が高い。今年の初め、政府はライフサイエンス産業のために8億ポンド以上の予算を確保したが、その多くは臨床試験の迅速化を図るためのものである。
NCRIの歴史は2001年に国民健康サービス(NHS)のがん計画に対応してを発足したことに遡る。NCRIの使命は、“研究が最も必要とされるところ、及びその進歩に最も貢献する場所を特定し、国内の主要な研究者を集結させる”ことであった。
同計画では、NCRIの目標として、「この国で急速に発展している分野において最前線に立つことを目指し、英国のがん遺伝研究を強化する」とされていた。しかしDriscoll氏は、研究資金を獲得することが激しい競争であることを認め、「NCRIは世界最大の独立したがん研究所であるCancer Research UKの補佐役に過ぎなくなっていた」と述べた。
Driscoll氏は書簡で、NCRIの全盛期以来、がん研究の環境が大幅に成熟し、当初の多くの目標は達成されたか、あるいはビジネスパートナーに引き継がれたことを明らかにしているが、「ただし、臨床実験の開始という重要な取り組みを除いては」と強調している。英国製薬産業協会(The Association of the British Pharmaceutical Industry)は、国内で行われるフェイズ3の臨床試験の数が2017年から2021年の間に48%減少したと報告している。ただ、革新的な新しいがん治療の開発を加速するための国の大きな努力において、悲観的な状況ばかりではない。例えば、BioTech社は英国政府と協力し、2030年までに1万件の個別のがん治療法を提供するという目標を1月に発表している。
NCRI letter:
https://www.ncri.org.uk/wp-content/uploads/NCRI-letter-26-June-2023.pdf
Fierce Biotech:
https://www.fiercebiotech.com/biotech/uks-national-cancer-research-institute-closing-due-lack-funding


(16) Open University 新キャンパスで対面授業ができるか
2023年6月27日、BBC NewsはOpen Universityが新たに”持続可能でグリーン“なキャンパス設置、及びキャンパス内での授業を実施することを検討していることを伝えた。ミルトン・キーンズの中心部、駅の隣にOpen University(OU)の移転を検討するための投資対効果検討書(Business case)が作成されている。この提案の中には、直接コースで学ぶ人々のための”姉妹大学”も含まれている。OUは1969年以来、230万人以上に通信教育を提供してきた。何百万ポンドもの投資が計画されており、Milton Keynes Development Partnership(MKDP)が所有する土地に”洗練され、利用しやすく、エネルギー効率の高いキャンパス”を建設する予定である。キャンパス内には科学研究所、作業スペース、図書館、学生センターも建設される予定である。OUのセールスポイントの一つは、大学の柔軟性とリモートで行う授業である。現在、学生のうち4分の3近くがフルタイムもしくはパートタイムで仕事を持っている。OUは英国でも最大の大学であり、1969年の開校以来、ミルトン・キーンズの郊外にあるWalton Hallを拠点としている。OUの学長であるTim Blackman教授は、「Walton Hallも将来の選択肢として残すつもりであるが、私たちは新しく市の中心に建設されるキャンパスの恩恵に焦点を当てて計画を進めている。ロンドン、ケンブリッジ、オックスフォード、ミッドランドから電車で30分以内で、ビジネスが集まる地域の中心にあるキャンパスは、数十年にわたり施設や設備を再構築していく良い機会となるだろう。」と述べた。
投資対効果検討書には市議会や地元企業、コミュニティからのアイデアも含まれており、「OUの将来の必要性と学生の将来のスキルの必要性に応えることができるだろう。」とOUの関係者は述べている。ミルトン・キーンズ市議会の議長であるPete Marland氏は、「OUが市の中心に移転することは地域社会に変革を起こす可能性がある。この移転は世界クラスの高等教育機関にとって2つの利益があり、地元の若者が引っ越すことなく勉学ができ、世界中から学生を集めることができる」と述べた。また、MKDPの会長であるNicola Sawford氏は、「OUと協力して、市の中心に高等教育を再創造することに大いに興奮している。」と述べた。
BBC News:
https://www.bbc.co.uk/news/uk-england-beds-bucks-herts-66022141