JSPS London Materials

Home > JSPS London Materials > UK HE Information > 2024年6月英国高等教育及び学術情報


UK HE Information

2024年6月英国高等教育及び学術情報

2024年9月25日

(1) 2025年版QS 世界大学ランキング発表:英国大学は”取り返しのつかない衰退に直面

(2) 教育評価制度(TEF)の優秀獲得の傾向:”金賞受賞“大学の共通する特徴が明らかに

(3) ラッセルグループ:イノベーション主導の経済が英国をより健康的で、グリーンで、経済的に強靭にする

(4) メディア・コミュニケーション学は依然人気、ラッセルグループやロンドンの大学への進学者増加

(5)オープン・アクセス:REFからのオープン・アクセスの負担削除

(6) 新政権は緊急の技能格差に取り組むべきとNCUBが指摘       

(7)保守党の公約、国際教育の関係者から非難の声

(8) Advance HEとHEPIが2024年版学生学術経験調査を発表

(9)英国卒業生調査2021/22年度発表

(10)研究評価制度(REF):英国の偉大な輸出品

(11)2024年総選挙:学生有権者が50の接戦選挙区で勢力均衡を握る

(12)最新の高等教育卒業生の雇用および収入に関する統計(LEO) (2021/22年度)

(13) 2024年のビザ費用分析の要約

(14) REF 2029 政策更新 – 2024年春版

(15)高等教育の財政:これまでどのように対処し、次期政権にどのような選択肢があるのか

(16)2022年年度末結果:英国の公的資金による各地域への研究開発資本支出および非資本支出

(17)シンクタンクからの指摘:大学の留学生への過度の依存を是正し、長期的な財政の持続可能性を改善すべき

(18)Francis Crick Institute は日本の天皇陛下の訪問を歓迎

(19)ングランドの女子生徒、GCSEでの コンピューターサイエンスでの受験数が減少

(20)QAAが新英国品質コードを発表

(1) 2025年版QS 世界大学ランキング発表:英国大学は”取り返しのつかない衰退に直面

2024年6月4日Guardianによると、英国の大学は、資金不足の影響で国際的な評判が傷つき、一部の大学は閉校となる可能性があると、権威あるQS世界大学ランキングが指摘しているという。このランキングでは、Imperial College London がOxfordやHarvardを抜いて世界第2位となり、Massachusetts Institute of Technology (MIT)が一位となった。しかし、全体的に、英国の大学は苦戦しており、University of Cambridge は2位から5位に下落し、90の英国大学のうち52校がランクを下げた。上昇したのは20校のみで、University College Londonは9位を維持した。QSの副社長Ben Sowter氏は、現在、資金政策のために一部の英国大学が閉校を余儀なくされる可能性があり、高等教育部門が重要な指標で「困難な状況に陥る」と指摘している。また、英国内の学生数が減少し、それに伴って雇用が減少し、留学生による経済的影響に依存する大学が財政的困難に直面していると語った。Imperial College Londonの学長であるHugh Brady氏は、同大学のランクが高いことは「素晴らしい」が、英国の大学が国際競争力を維持するためには、現在の教育と研究の資金モデルの持続可能性が問題であることを強調した。また、Brady氏は、英国の大学が留学生からの収入に依存している現状を指摘し、特にSTEM分野のコースは国際市場で人気がなければ成り立たないことを語った。QSのCEOのJessica Turner 氏は、英国の高等教育が現在の問題に対応しなければ、さらに衰退する可能性があると警告し、次期政府には、高等教育部門への適切な資金提供を優先することが求められることを語った。

QS World Rankings 2025: https://www.topuniversities.com/world-university-rankings

https://www.theguardian.com/education/article/2024/jun/04/uk-universities-face-irreversible-decline-global-league-table-suggests

 

(2) 教育評価制度(TEF)の優秀獲得の傾向:”金賞受賞“大学の共通する特徴が明らかに

2024年6月5日、Advance HEは、「TEF 2023: 卓越の具体的な特徴」という報告書を発表した。これは、2023年にTEF(Teaching Excellence Framework)金賞を受賞した40の高等教育機関の提出物での具体的な特徴を詳細に分析したものである。

主な発見と共通の特徴

1.高等教育全体的な教育卓越戦略: 学生の多様性(学生構成、学問分野、プログラムの種類など)に対応しつつ、一貫性を保つために高等教育全体的な戦略やフレームワーク、ポリシー、スタッフのプロセスを導入し、大規模に実施されており、組織全体で一貫性を追求する傾向が見られた。

2.データの戦略的活用: 大学は、成果が低い分野を管理するために、戦略的なアプローチをサポートするデータを積極的に活用した。データの体系的な収集、パフォーマンスの監視、教育的成果の評価が重視されていた。

3.教育的成果の共通アプローチ: 教育的成果には4つの主要な次元があるが、各大学のミッションやアプローチに合わせて細かく調整されていた。

4.成功への「多面的な目標」: 3つの分野で金賞を受賞している機関が、目標としていることは学生の高等教育の間の成功だけではなく、卒業後の社会貢献を視野に入れている。

5.  継続的なプロフェッショナル開発(CPD)を目標とする方法:   教育の卓越性を確保するために、リソースの配分とCPDがより具体的に取り組まれた。

6.学生とのパートナーシップ: 質保証と教育の向上において、学生とのパートナーシップが強化されている。

7.学生体験の最大化: すべての学生に対して、個別に合わせた支援を行い、特定の介入が行われている。

8.個別指導の重要性: 個別指導は、学生中心の関係を構築し、支援を個人的に利用する重要な仕組みであった。

この報告書は、2023年のTEFで金賞を受賞した教育機関の特徴を明らかにし、教育の卓越性をどのように示しているかを深く理解するためである。また、すべてのTEFの分野で金賞を獲得した機関(「トリプルゴールド」)の詳細な分析も含まれている。

https://advance-he.ac.uk/news-and-views/tef-2023-patterns-excellence-reveals-features-common-gold-achievers

 

(3) ラッセルグループ:イノベーション主導の経済が英国をより健康的で、グリーンで、経済的に強靭にする

2024年6月6日ラッセルグループ(RG)は、新しい政府が英国の研究集約型大学の力を活用し、公共サービスの改善、カーボンニュートラルの達成、そして経済成長の推進を目指すべきだと提案している。

London Economics の分析によると、RGの大学による研究・イノベーション活動は年間で英国経済に約376億ポンドの利益を出し、25万人以上の雇用を支えている。1ポンドの公的資金の投資で、8.50ポンド以上の経済効果が生み出されている。

次期政府への提言として:

  • GDPの3%を研究開発(R&D)に投資: 経済強化とG7のリーダーシップ確立を目指す。
  • イノベーションと新興技術の支援: 生産性の課題に取り組み、研究の画期的な発見などを大規模な成功事例に育てる。
  • 国際教育戦略の継続: 学生移住政策の安定性を保ち、未来の労働力を育成する持続可能なモデルの構築。

 

具体的な提案:

  • FP10への早期コミットメント: Horizon Europeの後継プログラムであるFP10に参加し、世界最大の研究・イノベーションプログラムの恩恵を受ける。
  • 新しい「スパークファンド」の創設: 深い技術を持つ大学発スピンアウト企業を支援し、2030年までに10億ポンドの公的・民間投資を目指す。
  • UK研究セキュリティファンド: 大学の世界クラスの研究を保護し、外国の干渉に対抗するための新しいファンドの設立。
  • 医療研修タスクフォースの設立: NHS長期労働力計画の目標を達成し、国内の医療・社会ケアのスキルを確保、待ち時間の短縮。
  • Green Boostの実施: エネルギー料金の削減と効果的なカーボンニュートラルイニシアチブの実現に向けたR&Dプログラムを支援。
  • 国際教育戦略の原則と目標の再確認: 学生の移住政策の安定性を維持する。

A Bright Future: https://russellgroup.ac.uk/media/6219/f_russ_j013015-manifesto_full_a4_jun24_singles_lo.pdf

https://russellgroup.ac.uk/news/an-innovation-driven-economy-will-help-the-uk-become-more-healthy-green-and-economically-resilient-says-the-russell-group/

関連記事:

2024年6月6日高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)によると、イギリスの大学は、大学学費の上限、持続不能な研究資金、そして留学生の勧誘に対する圧力のために深刻な財政的課題に直面しているという。そのため、それぞれの大学が厳しい選択を迫られているが、高等教育機関の将来の規模や形についての長期的な影響についてはあまり注意が払われていない。King’s College London の政策研究所がスポンサーとなったHEPIの報告書「Four futures: Shaping the future of higher education in England」では、イギリスの高等教育の長期的な将来を考察している。著者で教授であるChris Husbands 卿は、イングランドの高等教育の将来について、4つのシナリオを提示し、それが学生、大学、および政府にとって何を意味するかを検証している。この報告書は、新政府の主な選択肢を示し、大学やそのリーダーが高等教育政策の議論に建設的に影響を与える方法を説明している。。Husbands 卿は、「イングランドの大学が直面している問題を考える上で、高等教育機関の将来の形や規模を考慮しないければならない。2024年の高等教育の形は、以前の大学と政策の相互作用の結果であり、これを変わることは可能である。7月4日の選挙で勝利した人は、国が必要とし、支援する意志のある高等教育について真剣に考える必要がある」と語っている。

https://www.hepi.ac.uk/2024/06/06/four-possible-futures-for-english-higher-education-after-the-election/

 

(4) メディア・コミュニケーション学は依然人気、ラッセルグループやロンドンの大学への進学者増加

2024年6月11日、英国学士院(British Academy:BA)の新しい報告書によるとメディア、スクリーン、ジャーナリズム、コミュニケーション学(MSJC)の科目は依然として英国の学生に人気があり、ラッセルグループの大学やロンドン大学でこれらの科目を学ぶ学生が増加していることを伝えた。この報告書の中ではほかに:

  • 過去10年間、これらの科目の大学院生数は着実に増加。
  • 特にEU以外からの留学生数は、大学院プログラムで増加。
  • ロンドンと南東イングランドはこれらの科目の大学院教育の中心地であり、他の地域に影響を与える可能性がある。
  • これらの科目は重要ではないと見なされることがよくあるが、報告書では、メンタルヘルス、児童の権利、デジタルリテラシーなどの分野への貢献を強調している。

この報告書は、HESAやREF 2021などのデータに基づき、学生とスタッフの数、研究の多様性と影響、卒業生の成果など、これらの分野における主要な要因を詳細に分析しており、これらの科目の否定的な認識に異議を唱え、英国の創造産業と経済における重要性を強調している。

https://www.thebritishacademy.ac.uk/news/media-and-communication-studies-remain-popular-with-students-increasingly-drawn-to-russell-group-and-london-universities/

 

(5) オープン・アクセス:REFからのオープン・アクセスの負担削除

2024年6月11日、高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)のブログで掲載されたREFのオープン・アクセス(OA)政策に対する疑問を取り上げている。そこのは4つの懸念がある。

  1. コストと事務負担の増加: 
  • 15,000件以上の研究成果の審査と処理が必要。
  • 長編出版物の OA 準拠コストは大学だけで2,000万ポンド。
  • 研究者と専門サービスチームの負担増加。
  1. OA と研究成果の質の関係:
  • OA であることと研究成果の卓越性は必ずしも結びついていない。
  • REFの準拠中心となり OA への見方が研究者の思考を狭めている。
  1. オープンリサーチの取り組みへの影響:
  • 研究の検証、再現、発展を促進する機会が損なわれる。
  • 研究成果の種類、出版形式、貢献者の多様化を阻害。
  1. REF の歪み:
  • 資金的に対応できる研究成果のみが評価対象。
  • 小規模大学は特に不利な状況に置かれる。
  • OA 支援の強みは REF の「人材、文化、環境」要素で評価すべき。

結論としてREF 2029 から OA ポリシーを撤廃し、オープンリサーチの取り組みを促進すべきであり、また大学は研究成果の質に基づいて評価されるべきである。

https://www.hepi.ac.uk/2024/06/11/open-excess-remove-open-access-burden-from-ref/

関連記事①

2024年6月18日 英国学士院(British Academy:BA)がREF2029のオープン・アクセス(OA)方針に懸念を示した。同院の代表者たちは、REF2029のオープン・アクセス(OA)に関する提案が研究と研究者に悪影響を及ぼす可能性があると警告した。同院の会長であるJulia Black 教授、副会長のSimon Swain教授とLindsay Farmer 教授は、イギリスの高等教育資金提供機関に対し、提案を一時停止し、さらなる調査とモデル構築を行うよう求める書簡を提出した。この書簡は、REF2029のオープンアクセス枠組みに関する協議への同院の回答と時期を同じくしており、学士院は提案された変更の完全な影響評価を求めるだけでなく、オープン・アクセス制度は適切に資金提供される必要があることを強調している。また、資金提供機関、図書館、高等教育機関、出版社間で議論をまとめるために、協議会と協力することを提案している。この議論は、オープン・アクセスを支援するための共同作業的でより効果的な資金配分モデルを特定することを目的としている。

https://www.thebritishacademy.ac.uk/news/pause-of-ref-29-open-access-proposals-pending-further-analysis/

関連記事②

2024年6月20日、高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)の記事において、オープン・アクセス(OA)政策を研究評価制度(REF)から除外すべきではないと議論している。OAは研究の透明性と公平なアクセスを促進するという。University of OxfordからのOA義務化に対する批判に反論し、OAの利点と費用対効果を指摘している。人文学分野においてもOA化を進めることで、一般市民への研究成果の公開と人文学の重要性の主張につながると論じている。大学がOA対応のための適切な準備と出版モデルへの投資を行えば、REFのOA義務は合理的なコストで実現可能であると主張している。つまり、OAの重要性を強調し、REFにおけるOA義務付けの正当性と実現可能性を説いている。

https://www.hepi.ac.uk/2024/06/20/open-access-a-benefit-not-a-burden-that-is-worth-the-cost/

 

(6) 新政権は緊急の技能格差に取り組むべきとNCUBが指摘

2024年6月11日国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB)は英国国家統計局(Office for National Statistics: ONS)の新しいデータから、英国の失業者数が3か月間で13万8,000人増加し、失業率は4.4%に上昇したことを発表した。NCUBのRosalind Gill氏は、新政府が直面する困難な雇用市場を強調し、今後の経済に必要なスキルを教育機関、企業、政策立案者が連携して備える必要性を強調した。

Labour market overview, UK: June 2024 (by ONS): https://www.ons.gov.uk/employmentandlabourmarket/peopleinwork/employmentandemployeetypes/bulletins/uklabourmarket/latest#main-points

https://www.ncub.co.uk/insight/new-government-must-tackle-urgent-skills-gap-says-ncub/

 

(7) 保守党の公約、国際教育の関係者から非難の声

2024年6月12日 Pie Newsによると、保守党は7月4日に来るべき総選挙向けの公約を発表し、学生向けの移民健康追加徴収の割引を廃止することを挙げたことを伝えた。。また、保守党が選挙に勝利した場合、すべてのビザ料金が引き上げられることも明記されている。これにより公共サービスの資金を増やすことが目的である。しかし、この提案は留学生からは不要かつ不公平な資金調達手段として見なされ、英国の競争力を低下させる可能性があるとの批判がありました。全国学生連合(NUS)はこの動きを非難し、英国の教育制度や社会に貢献している留学を罰するものだと主張し、さらにビザ料金の増加と健康追加徴収の引き上げは、英国での教育費用を増加させる要因となると指摘されている。

https://thepienews.com/conservative-manifesto/

 

(8) Advance HEとHEPIが2024年版学生学術経験調査を発表

2024年6月13日高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)と Advance HEが2024年版の学生学術体験調査を発表した。この調査では10,300人以上の学生が回答しており、英国の大学生は教育体験について概ね好意的な見解を示している。しかし、生活費の危機がメンタルヘルスや学業負担に影響を与えており、学生たちのコストパフォーマンスに対する認識が改善している。特に評価と教育内容に対する満足度が高まっており、多くの学生が授業時間に満足していると報告している。一方で、生活費の負担が大きな不満要因であり、学生の約半数がその影響を感じている。また、学生のAI利用に対する格差や選挙登録における選挙に対する関心の低下が浮き彫りとなった。調査は大学セクターと政策立案者に向けての改善点を示唆しており、英国の高等教育の抜本的な改善の取り組みを求めている。

 

https://www.hepi.ac.uk/2024/06/13/advance-he-and-hepi-publish-the-student-academic-experience-survey-2024/

 

(9) 英国卒業生調査2021/22年度発表

2024年6月13日、高等教育統計局(Higher Education Statics Agency: HESA)は2021/22学事年度の卒業生の成果が発表した。卒業生成果調査は、英国で最大の年間社会調査であり、870,295人の卒業生が対象。そのうち、381,945人が有効な回答を提供し、回答率は44%だった。この調査は卒業後約15ヶ月時点での活動について尋ねるもので、今回の発表は「認定された公式統計」の認証を受けている。統計規制局(Office for Statistics Regulation: OSR)の報告では、この調査の高い回答率が他の大規模な社会調査と比べて優れている点として評価されている。その結果は以下の通り。

雇用状況と今後のキャリアプラン

  • 卒業生の89%が何らかの仕事か、さらなる進学をしている。
  • 卒業生の77%が、現在の活動が今後のキャリアプランに合致していると回答。
  • 卒業後15ヶ月時点での雇用状況は以下の通り。
    • 83%が雇用、無給労働、またはその両方。
    • 61%がフルタイム雇用。
    • 6%がフルタイムのさらなる進学。
    • 5%が失業中。
  • 英国国籍の学士課程卒業生では、アジア系卒業生の51%がフルタイム雇用であるのに対し、白人卒業生は59%。失業率は、アジア系卒業生が9%、白人卒業生が5%。

学習成果の活用と給与

  • 英国国籍の学士課程卒業生でフルタイム雇用されている者の給与の中央値は前年の26,000ポンドから27,500ポンドに上昇。
  • 医学・歯学を専攻した卒業生の平均給与が最高で34,950ポンド。
  • 英国国籍の学士課程卒業生の83%が、調査時点で、自身の活動に意義を感じていると回答。75%は今後のキャリアプランに沿っており、65%は学んだ知識を活用していると回答。失業中の卒業生はこれらの項目への同意率が低い。

https://www.hesa.ac.uk/news/13-06-2024/graduate-outcomes-data-and-statistics-202122

 

(10) 研究評価制度(REF):英国の偉大な輸出品

2024年6月17日高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)のブログにてUlster University の医学部開発部長のHugh McKenna CBEとUniversity of Hullの看護学名誉教授のRoger Watson教授からの寄稿を載せた。

大学で行われる研究は、多くの国で政府からの資金提供を受けている。そのため政府はこの資金が有効に費やすことに責任があり、そのためには研究の質を評価することが重要である。英国では、1986年にサッチャー政権の下で「研究評価(Research Assessment)」が始まり、1989年には「研究選択性演習(Research Selectivity Exercise)」が実施された。その後、1996年から2008年にかけて「研究評価演習(RAE)」が行われ、2014年には「研究評価制度(Research Excellent Framework:REF)」が導入され、継続されている。これらの評価プロセスは、レビューや試行を通じて慎重に開発され、特に、研究評価において英国は定量的な指標(例えば、論文の数や引用数)を用いず、ピアレビュー(専門家による評価)に依存しており、これにより、評価の公平性と信頼性が保たれている。英国の研究評価モデルは他国でも採用されており、香港でほぼ同様の形で導入されており、スウェーデンやポーランドでも参考にしている。しかし、どの国でも完全な評価システムを構築することは難しく、批判もある。2022年には、EUで「研究評価の前進のための連合(CoARA)」が設立され、研究評価の公正性と多様性を尊重することが求められた。英国の研究評価システムは1986年から進化し続けており、税金が質の高い研究に投資されることを保証するために重要な役割を果たしている。

https://www.hepi.ac.uk/2024/06/17/the-research-excellence-framework-uk-higher-educations-great-export/

 

(11) 2024年総選挙:学生有権者が50の接戦選挙区で勢力均衡を握る

2024年6月17日高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)と英国学生連合(National Union of Students:NUS)による新しい報告書では2024年の総選挙で学生有権者が選挙結果に大きな影響を与える可能性があることを報告している。以下がその要点:

  1. 学生有権者の影響力: 2021年の国勢調査データを基に、学生有権者が勝利候補者の過半数を上回ると予想される選挙区を特定。この選挙区では学生の投票が選挙結果を左右する可能性がある。
  2. 2019年の選挙の再分析: 2019年の選挙結果を2024年の選挙区境界に当てはめて考えた場合、学生が影響力を持つ選挙区は75か所。これには著名な保守党議員の選挙区も含まれている。
  3. 2024年選挙の予測: YouGovの調査に基づくと、学生有権者が投票結果に影響を与えるとされる選挙区は50か所。これらは全て2019年に保守党が勝利した選挙区で、多くは保守党の地盤にある。
  4. 夏休み期間の影響: 今回の選挙は夏休み中に行われるため、多くの学生が自宅住所で投票することが予想される。これにより、従来の労働党支持地域から保守党の新たな接戦選挙区に学生が分散します。この影響を受ける選挙区は35か所で、全て2019年に保守党が勝利した選挙区である。

これらを踏まえて政党の戦略を推奨すると、政党は学生の関心事(NHS、教育、貧困削減)に注意を払い、学生有権者を引きつける戦略を検討する必要であり、また学生は選挙での影響力を最大限に発揮するために、早めに投票登録を行うべきである。この報告書は、学生が選挙プロセスに積極的に参加する重要性と、政党が学生の優先事項に応じた政策を打ち出す必要性を強調している。

https://www.hepi.ac.uk/2024/06/17/student-voters-to-hold-the-balance-of-power-in-50-marginal-constituencies-in-the-2024-general-election/

 

(12) 最新の高等教育卒業生の雇用および収入に関する統計(LEO) (2021/22年度)

2024年6月20日、教育省(Department for Education:DfE)は長期的教育成果(Longitudinal Education Outcomes: LEO)2021/22年度を発表した。これはは英国の高等教育機関(HEIs)民間教育機関(Aps)継続教育機関(FECs)の大学生と大学院生の、卒業後1年、3年、5年、10年の雇用および収入の状況を示している。2021/22年度のデータを用いて、2015/16年度から2020/21年度までの過去のデータとの比較も行われている。主なポイントとして:

インフレ調整前の賃金の増加: 英国出身の大卒者と大学院卒者のインフレ調整前の中央値賃金は2021/22年度は前年度と比較して増加。大学卒業生(5年後)の中央値賃金は29,900ポンド(前年より3.8%増)。大学院卒業生(Level 7)は36,100ポンド(前年より3.1%増)。博士課程卒業生(Level 8)は41,200ポンド(前年より1.8%増)。

実質賃金の減少: インフレ調整後、実質賃金は2021/22年度に前年度と比較して減少。

大学卒業生(5年後)の実質賃金は2015/16年価格で25,800ポンド(前年より2.3%減)。大学院卒業生(Level 7)は31,200ポンド(前年より2.9%減)、博士課程卒業生(Level 8)は35,600ポンド(前年より4.1%減)。

雇用率の安定: 英国出身の大学卒業生および大学院卒業生の「持続的雇用」率は前年とほぼ変わらず。大学卒業生は87.8%、大学院卒業生(Level 7)は87.3%(0.6ポイント減)、博士課程卒業生(Level 8)は84.8%(0.2ポイント減)。

男女賃金格差の拡大: 男女の賃金格差は前年より拡大。大学卒業生(5年後)の女性の中央値賃金は男性より3,900ポンド(12.2%)低く、前年の11.8%から増加。

無料学校給食受給者の格差縮小: 無料学校給食(FSM)を受けた大学卒業生と受けていない卒業生の賃金格差は縮小。FSM卒業生の賃金は非FSM卒業生より8.5% (2,600ポンド) 低く、前年の11.3%から縮小。

留学生の賃金: EUおよび非EU出身の大学卒業生の賃金は英国出身卒業生より高く、その差は前年より拡大。EU卒業生は35,800ポンド(19.5%高い)、非EU卒業生は38,000ポンド(26.8%高い)。

留学生の雇用率の変化: EUおよび非EU出身の大学卒業生の持続的雇用率は前年とほぼ変わらず。EU卒業生は41.1%(前年より0.5ポイント低い)、非EU卒業生は15.1%(前年より0.2ポイント高い)。

これらのデータは、2021/22年度の雇用および収入に関する重要な傾向と、EU離脱やインフレなどの影響を反映している。

https://explore-education-statistics.service.gov.uk/find-statistics/leo-graduate-and-postgraduate-outcomes

 

(13) 2024年のビザ費用分析の要約

2024年6月21日、英国王立協会(Royal Society:RS)はFragomen LLPに、2019年の移民初期費用分析の更新として、英国および17の主要な科学国における移民コストの2024年版を委託し、その報告書を発表した。今回の調査は、長期間の仕事や学業のために英国に来る研究者向けの主要なビザカテゴリー(英国の技能労働者ビザ、グローバルタレントビザ、学生ビザ、卒業生ビザ)および他国の同等ビザについての情報を提供している。

コストの上昇:

2021年から2024年にかけて、英国のビザ費用は最大58%増加した。2019年からでは最大126%増加している。英国のビザ費用は、分析対象となった他のすべての国よりも高く、国際平均の6~8倍に相当し、英国を除いた国際平均と比較すると、最大17倍の差がある。

雇用者負担のビザ費用:

熟練労働者カテゴリーでは、英国は米国に次いで2番目に高い雇用者負担がある。

英国における最大の費用要素:

2024年2月に、移民健康サーチャージ(IHS)が66%増加し、年額624ポンドから1,035ポンドになりました。これにより、5年間の滞在でのIHS費用は5,175ポンド(1,035ポンド x 5 years)となり、ビザ手数料加算される。

技能労働者ビザの費用:

熟練労働者ビザのコストは、特に博士号以下レベルの職種(例:技術者)としては依然として高く、雇用者は組織の規模に応じて最大5,239ポンドの移民スキルチャージを支払う必要がある。同伴家族がいる場合、総費用は増加し。例えば、4人家族が5年間の熟練労働者ビザで英国に来る場合、博士号レベルの職種では最大24,129ポンド(博士号以下レベルの職種では29,368ポンド)となる。

グローバルタレントビザ(GTV):

GTVは、他国からの才能ある研究者や革新者のための主要なルートですが、IHSを含めると他の主要な科学国に比べて最も高価なビザである。申請者の支払うアップフロントコストと申請者および雇用者が支払う総コストの両方において、英国のコストは平均の1,583%高いです(英国を除く平均と比較すると719%高い)。IHSを除いても、GTVの申請者の初期費用は他の主要科学国の平均(2024年時点で716ポンド対270ポンド)と比べて依然として高い。家族4人で5年間のGTVを取得する場合、2021年から57%増加し、20,974ポンド。

定住費用:

ビザ保有者の定住費用では、英国はヨーロッパの他の国の専用研究ビザカテゴリーと比べて2番目に高い費用を持ち、2021年から2024年にかけて21%増加し、2,885ポンドとなった。(インフレ調整では7%増加)2021年に最も高い定住費用を持っていたフランス(4,500ポンド)は、95%減少して現在は194ポンドとなった。現在、英国よりも高い費用を持つのはスイスのみで、3,711ポンド。

https://royalsociety.org/-/media/policy/publications/2024/summary-of-visa-costs-analysis-2024.pdf

(14) REF 2029 政策更新 – 2024年春版

2024年6月21日REF2029は2024年春の政策更新を発表した。REF2029の策定工程はこれまでとは異なる方法を採用しており、段階的に公開されて、研究コミュニティとの協働と透明性が強調されている。2023年秋の初期決定の協議の結果が分析され、報告書として公開された。これにより、今後のポリシー開発に向けた貴重な内容が明らかになった。REF2029のスケジュールは更新されており同プロジェクトの概要は示されている。

REF2029の予定表:https://www.ref.ac.uk/about/timetable/

https://www.ref.ac.uk/news/ref-2029-policy-update-spring-2024/

 

(15) 高等教育の財政:これまでどのように対処し、次期政権にどのような選択肢があるのか

2024年6月22日、英財政研究所(Institution for Fiscal Studies:IFS)は次期政府が高等教育の財政課題にどう対処するかを決定する際の重要な課題を示した。

  1. 黒字の減少: 2022/23年度の高等教育機関の黒字は収入の7%(15億ポンド)で、2021/22年度の6.1%(25億ポンド)から減少。赤字の機関の割合は、総収入で重み付けして、10分の1から5分の1に増加。
  2. 近年の最低水準の黒字: 2022/23年度の黒字は2015/16年以降の多くの年に比べて低く、特に教育に重点を置く機関の黒字は過去8年間で最も低い。
  3. 国内学部生の学費凍結の影響: 国内大学生の学費は2012年に9,000ポンドに引き上げられて以来、2017年の9,250ポンドへの一度の増加のみ。2012/13年度以降、国内大学生の教育に対する1人当たりの資金は実質で18%減少。
  4. 留学生からの収入増加: 非EU国際学生からの収入は、2016/17年度の7億ポンドから2022/23年度には8.9億ポンドに倍増。もし留学生の収入が2017/18年度の水準で停滞していた場合、高等教育機関での黒字は現在の0.7%になっていた可能性。
  5. 2023/24年度の見通し: 非EU留学生の増加(16%)に基づいて、今年度は8%の黒字が予測されているが、内務省の学生ビザのデータは減少している。高等教育機関全体の純資産は約16ヶ月分の支出に相当し、教育に重点を置く機関では15ヶ月分であり、一時的な収入不足には耐えられる状況。
  6. 学費上限の解除: 政府が2024/25年度末に学費上限を解除することは、最も安価で簡単な対策であり、初年度に7億ポンド、2029/30年度までに18億ポンドの価値がある。この費用の約4分の1が税金で賄われ、残りは学生のローン返済の増加として負担される。
  7. 授業料補助金の増額: 学生1人当たりの授業料補助金を増やすことで、政府はどの科目を教えるかについてのコントロールを強化できるが、学費上昇よりも納税者に大きな負担がかかる。

Higher education finances: how have they fared , and what options will an incoming government have ?: https://ifs.org.uk/sites/default/files/2024-06/Higher-education-finances.pdf

https://ifs.org.uk/publications/higher-education-finances-how-have-they-fared-and-what-options-will-incoming

 

(16) 2022年年度末結果:英国の公的資金による各地域への研究開発資本支出および非資本支出

2024年6月24日、英国国家統計局(Office for National Statistics: ONS)による2022年度末の英国の地域別公的資金による研究開発(R&D)支出に関する統計が発表された。このデータは、各地域における研究開発活動への政府支出を示しており、主要なポイントは以下の通り:

全体の支出: 英国政府のR&Dへの純支出は、2022年に155億ポンドに達し、2021年の140億ポンドから10.5%増加した。EUのR&D予算への拠出と知識移転活動を含めた総支出は、164億ポンドで、2021年の150億ポンドから8.9%増加した。

主要な出資者:UKリサーチ・イノベーション(UKRI)が最大の出資者であり、全体の37.9%にあたる62億ポンドを支出した。

分野別の支出分布:民間のR&D支出は、13億ポンド増加し、合計134億ポンドに達した。これは、防衛R&Dの増加(2億1700万ポンド増加して合計21億ポンド)を上回る増加である。長期的には、民間R&Dと知識移転活動への支出は、2011年から2022年までに実質的に32.6%増加した。

地域別の分配:R&Dの支出は、英国の各地域に不均等に分配されている。このデータは、各地域のR&D能力と優先事項に基づいて資金がどのように配分されたかを反映している。

主要な機関:R&D資金の大部分は、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)、保健・社会福祉省(DHSC)、およびUKRIによって管理された。例えば、DHSCは、NHS(国民保健サービス)組織への支出を含む、健康関連の研究に資金を提供した。

方法論とデータソース:この支出データは、複数の政府機関から収集されており、英国全体の公的R&D資金の包括的な視点を提供している。これには、政府部門間および他のR&D活動に関与する組織への資金の流れも含まれている。

https://www.ons.gov.uk/economy/governmentpublicsectorandtaxes/researchanddevelopmentexpenditure/bulletins/ukpublicfundedgrossregionalexpenditureonresearchanddevelopment/financialyearending2022

 

(17) シンクタンクからの指摘:大学の留学生への過度の依存を是正し、長期的な財政の持続可能性を改善すべき

2024年6月24日シンクタンクであるSocial Market Foundation は英国の留学生受け入れ制限に関する提言として2つの報告書を発表した。

報告書①「Too much of a good thing?」:国内学生の授業料凍結により、大学が留学生の授業料に過度に依存している現状と、政府の制限が大学に与える影響について分析。

報告書②「Crazy for you」:英国が留学生受け入れ制限を再検討し、大学への財政支援を強化する必要があると主張。最近の制限は、大学の財政状況を悪化させ、すべての学生の教育体験を損なう可能性がある。ビザ制度を改革し、英国を留学生にとってより魅力的な留学先にすることも提言。留学生数の急増により、学生寮不足などの問題が発生している。

また提言として留学生数の増加を抑制する、インフレに連動した授業料助成金を増額し、大学への損失を補填する。また英国の留学生に対する魅力を高めるためにビザ制度を改革することを挙げている。

https://www.smf.co.uk/fix-universities-overreliance-on-international-students-to-improve-long-term-financial-sustainability-think-tank-says/

 

(18) Francis Crick Institute は日本の天皇陛下の訪問を歓迎

2024年6月26日、日本の天皇陛下は国際親善のため英国公式訪問の一環としてFrancis Crick Institute を訪問した。同研究所の英国人及び日本人研究者による、両国にとって重要な研究分野に関する発表が行われた。また天皇陛下は細胞周期研究室を視察し、癌などの病気の理解に繋がる細胞分裂の研究について説明を受け、また、研究所で働く日本人研究者とも面会した。研究所所長であるPaul Nurse 卿は、今回の訪問が国際関係や国境を越えた研究コラボレーションの重要性を示すものであると述べ、今後も日本との研究連携が強化されることを願っている旨を語った。

https://www.crick.ac.uk/news/2024-06-26_scientists-welcome-emperor-of-japan-to-the-crick#:~:text=The%20Emperor%20also%20had%20the,Emperor%20Naruhito%20to%20the%20Crick.

 

(19) イングランドの女子生徒、GCSEでの コンピューターサイエンスでの受験数が減少

2024年6月27日Guardian紙によるとイングランドにおいてGCSEのコンピュータサイエンスを受験する女子生徒の数が過去8年間で半減していることが、Kings College London の調査で明らかになった。要因として、政府によるカリキュラム変更が考えられる。以前のGCSEの ICT (情報通信技術)が廃止され、より理論的でプログラミングに重点を置いた新しいGCSEのコンピュータサイエンスに置き換えられた。この変更によって、より実践的な内容だった旧カリキュラムに比べ、女子生徒にとって難しく、キャリアプランに合わないと感じる傾向があり、受講率の低下につながったと考えられる。研究者たちは、カリキュラムの改善、教員へのサポート強化、コンピュータサイエンスのイメージ改善などを提言している。「現在の状況では、女子生徒がコンピュータサイエンスを学ぶ機会を逃しており、将来のデジタル社会で活躍するために必要なスキルを身につけにくくなっている。カリキュラムの見直しを行い、全ての生徒にとって魅力的で社会のニーズに応えるようなものに改める必要がある。」と専門家たちは指摘する。

https://www.theguardian.com/technology/article/2024/jun/27/number-of-girls-in-england-taking-computing-gcse-plummets-study-finds

(20) QAAが新英国品質コードを発表

2024年6月27日英国高等教育質保証機構(QAA)は新しい「英国品質コード」を発表した。前回の改訂は2018年で、今回の2024年版は高等教育関係者からのフィードバックを基に作成された。新版の特徴は、以下の通り:

  • 品質と基準の管理を支える主要な実践と原則についての高等教育機関の共通認識を、より詳しく説明。
  • 12の高等教育合意原則を明確にし、学生関与、持続可能性、パートナーシップ、自己監視、包括性など、新たな焦点が当てられる。
  • ヨーロッパ高等教育圏における品質保証のための欧州基準と指針に沿った内容となっており、国際基準への適合を行うことで、英国高等教育の価値を国内外で認知を目指している。

QAAのCEOであるのVicki Stott氏は、今回の改訂についてのコメント:

新版の品質コードは、高等教育環境における重要な発展を反映し、英国全土の高等教育関係者と4つの国の視点を網羅している。我々の共有する原則を明確にし、学生の積極的な役割を強調し、国際基準との整合性を確認し、世界中の人々に、教育が社会、文化、経済にもたらす価値、そして人々の生活を変える力を理解してもらえることを強調している。」

https://www.qaa.ac.uk/news-events/news/qaa-publishes-new-edition-of-the-uk-quality-code