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UK HE Information

2024年11月英国高等教育及び学術情報

2024年12月11日

(1) 学生支援と大学の安定化のための処置

(2) 大学組合書記長がREF廃止を訴える

(3) 教育大臣:大学の“無駄遣い“の抑制を指示

(4) CERN:次期事務局長にMark Thomson氏選出

(5) DSITの理事会が刷新:公共サービス変革とデジタル格差の解消に向けた計画を指導

(6) 2025年大学進学10月15日申請書締め切り分の詳細発表

(7) 労働党政権は生涯学習資格(LLE)に何を求めているのか?

(8) 橋渡し研究の推進

(9) ケンブリッジ大学、300人の「将来の博士号取得者」に資金提供する計画を開始

(10) 新報告書:英国の公共政策の形成に役立つ社会科学研究を前面に押す

(11) REF2029:審査員の募集が12月に開始

(12) 大学長の警告:英国の研究資金機関は“崩壊している“

(13) 英国大学に4,700以上の大学院生の枠を新たに設け、新世代のエンジニアと科学者を育成

(14) クリエイティブ産業への介入における明らかな階級格差が判明

(15) 学生局が国際品質保証機関ネットワークの最新メンバー

(16) 「対立的な」オックスブリッジ教育が女性の地位を低下と報告書が指摘

(17) 黒人、アジア人、および少数民族の大学職員数増加

(18) 学生局:財政の持続可能性に取り組むには「大胆かつ変革的な行動」が必要

(19) University of Oxford: 不安定な有期契約で雇用された学者に依存

(20) 門戸の開放:IELTSが難民に無料英語テストを提供

(21) 政府は資金増額でスピンアウト企業を「繁栄」を要請

(22) 引用数の割合で中国研究者が台頭し、米国は減少

(23) 戦争開始1000日でウクライナの大学の危機が浮き彫りに

(24) 社会科学、人文科学、芸術(SHAPE科目)の地域格差

(25) 新分析結果:すべての地域で大学卒は最低でも30%以上多く稼ぐ

(26)) 研究ジャーナル:インパクトファクターの低下による投稿数の減少を報告

(27) 元保守党党首がUniversity of Oxfordの次期総長に選出

(28) University of Cambridge:人種差別を見過ごしたと非難される

(29) HEPI報告書:生涯学習制度の成立の危機

(30) UKRI 最高責任者:いじめやハラスメントに関して更なる取り組みを

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(1)学生支援と大学の安定化のための処置

2024年11月4日 英国政府は2024年11月4日、学生支援と大学の安定化を図るための新たな措置を発表した。生活費の高騰に直面している学生に対し、奨学金のインフレに連動した引き上げを行い、低所得家庭の学生への支援を強化を行う。また、財政的に厳しい状況にある大学にも支援提供を行う。

主なポイント:

学費の引き上げ

2025/2026年度から国内のフルタイム学生の年間学費上限が3.1%引き上げられ、9,250ポンドから9,535ポンドとなる。これは7年間据え置かれていた学費上限の初めての改定となる。パートタイムの学費は6,935ポンドから7,145ポンドに、加速コース(通常の2倍速で学位を取得するコース)は11,100ポンドから11,440ポンドに引き上げられます。基礎課程の1年間のコースは5,760ポンドに設定され、より費用を抑えた提供がされることになる。

奨学金(メンテナンスローン)の引き上げ

奨学金も3.1%増額される。引き上げ額は場所によって異なる。

ロンドン居住の学生は、年間13,762ポンド(414ポンドの増額)を受け取る。

その他の地域では、年間10,544ポンド(317ポンドの増額)。

海外で学ぶ学生には、年間12,076ポンド(363ポンドの増額)。

自宅から通学する学生は年間8,877ポンド(267ポンドの増額)。

大学の財政安定と公平性の向上

約40%の大学が赤字になると予測される中、今回の学費引き上げは大学の財政安定化を支援し、高品質な教育を維持するための資金提供が期待されている。また、教育機関が地域社会や経済成長に貢献する役割を強化するための改革も進められる予定である。この新しい政策により、大学は財政基盤を強化し、低所得家庭出身の学生が高等教育に進学しやすくなるよう努めることが求められる。

【英文記事】 科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DIT):

https://www.gov.uk/government/news/higher-education-reform-to-back-opportunity-and-protect-students

関連記事①

2024年11月4日、英国大学協会(Universities UK: UUK)CEOのVivienne Stern氏は、政府の学費引き上げと奨学金増額の発表について、「困難な決断であったに違いありませんが、正しい判断」と述べた。Stern氏は、活気ある大学はイギリスの成長、公的サービスの向上、そして個人の人生の改善に不可欠であると強調している。

イングランドでは過去10年にわたる学費と奨学金の凍結がインフレによりその実質価値を約3分の1減少させ、大学と学生双方にとって持続不可能な状況が続いていた。インフレに対応することで、学費の価値が年々下がることを防ぐ。また、この引き上げによって学生が入学時に多くを支払う必要はなく、返済は年収が£25,000を超える場合に収入に基づいて行われるため、負担増にはならない。

奨学金増額も歓迎すべき措置であり、特に生活費の高騰が続く中、学生にとって必要不可欠な支援となる。UUKは、大学が国のニーズに応えるために効率的かつ効果的であることも重要とし、政府と協力して効率向上・変革タスクフォースを通じて課題解決に取り組んでいる。

【英文記事】 英国大学協会(Universities UK: UUK):

https://www.universitiesuk.ac.uk/latest/news/vivienne-stern-mbe-comments-university

関連記事② Pie newsより(抜粋)

授業料は2017年以降、年間9,250ポンドに設定されており、大学が財政を維持するために留学生が支払う高額な授業料に過度に依存するようになっていると多くの人が主張している。教育省は、今回の発表による留学生の授業料への影響はないことをThe PIE Newsに確認した。

【英文記事】 Pie news:

https://thepienews.com/tuition-fees-to-rise-in-england-education-secretary-announces/

関連記事 ③ 国立大学産業センターより

2024年11月6日英国の高等教育システムは世界的に高い評価を受け、100校中11校がトップランクに位置し、スキル開発やイノベーションの推進において重要な役割を担っている。しかし、大学には将来のスキルや経済成長を支えるための十分な資源が不足しており、40%の大学が予算不足に陥ると予測されている。授業料の凍結やわずかな増加が続いた結果、実質価値が約3割減少している。

政府は2025-26年度から授業料を3.08%引き上げ、今後はインフレに連動させると発表したが、増加分は大学の支出増加分を相殺する程度にとどまり、十分な財政支援にはならない。学問の質を維持し、成長を促進するための資源不足が続き、教員の給与問題や学生の抗議活動を招くことになる。

教育大臣のBridget Phillipson氏は、大学に対し、恵まれない学生への支援やアクセス拡大を強化するよう求めており、政府は今後、改革案を発表する予定ではあるが、大学が持続可能な資金源を得て地域社会やビジネスと連携しない限り、改革の実現は困難といわれている。

さらに、資金不足は教育だけでなく、大学が担う研究開発にも影響を及ぼしている。英国のR&Dの約25%を占める大学の研究活動の公的資金価値は近年低下しており、全経済コストをまかなえない状態が続いている。このため、大学は留学の高額な授業料に依存する傾向が強まっており、ビジネス界はこの不安定な状況がイノベーションや経済発展を阻害すると警告している。

【英文記事】 国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB)

https://www.ncub.co.uk/insight/tuition-fee-rise-will-limit-autumn-budget-damage-for-universities/

 

(2) 大学組合書記長がREF廃止を訴える

2024年11月4日大学組合(University and College Union: UCU)のJo Grady書記長は、BBCの番組で政府に対し、評判が悪い「研究評価制度(Research Excellence Framework: REF)」を廃止し、その資金を大学に投資するよう訴えた。シンクタンク「UK Day One」もREFの廃止を提言しており、これにより4億5,000万ポンドが大学や研究機関に再投資できると試算している。Grady氏は、最近の予算発表での教育投資の増額を歓迎しつつ、高等教育では資金不足が続いていると指摘。学長の平均年収が325,000ポンドである一方、学生は約50,000ポンドの負債を抱える現状に触れ、政府が他の重要な経済分野にも投資する必要があると述べた。また、REFのような指標に多額の資金が「無駄遣い」されていると批判し、その資金を再配分すべきだと強調した。

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2024-11-ucu-leader-attacks-widely-loathed-ref-in-tv-interview/

 

(3) 教育大臣:大学の“無駄遣い“の抑制を指示

2024年11月5日英国の教育大臣Bridget Phillipson氏は、大学改革の一環として「持続的な効率向上と改革プログラム」の実施を求め、大学が5つの優先課題に取り組むことが必要だと述べた。大学の財政安定のため、既に70以上の大学でリストラや部門再編などのコスト削減策が進められていると報告されている。

Phillipson氏が示した5つの優先課題は、(1) 恵まれない学生の支援と成果向上、(2) 経済成長への貢献、(3) 地域社会での役割強化、(4) 教育水準の向上、(5) 効率性向上である。特に、業界全体での効率的な資源管理や透明性が強調されている。

また、学生の負担増に見合うリターンを提供するため、政府は大学と協力し、これらの優先課題を達成するための改革案を来夏までに発表する予定である。Phillipson氏は、高等教育の将来を持続可能にすることが学生と国全体の成功に重要であると強調している。

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2024-11-phillipson-orders-universities-to-curb-wasteful-spending/

 

(4) CERN:次期事務局長にMark Thomson氏選出

2024年11月6日英国の物理学者Mark Thomson氏が、世界有数の素粒子物理学研究センターであるCERNの次期事務局長に選出された。Thomson氏は2026年1月1日から5年間の任期を開始する。英国の科学技術施設会義(Science and Technology Facilities Council: STRC) の会長を今年いっぱいで退任する予定であるThomson氏は、英国政府の強力な支持を受けて、CERN評議会によって選出された。Thomson氏は、CERNの科学ミッションを推進し、社会全体に利益をもたらす技術の開発を促進することを約束している。CERN評議会会長のEliezer Rabinovici氏は、Thomson氏がCERNを成功に導くことを確信していると述べている。英国科学大臣のPeter Kyle氏も、Thomson氏の選出を歓迎し、彼の科学的資格、経験、ビジョンがCERNの将来を輝かせることを確信していると述べている。Thomson氏は、CERNの予算確保に向けてヨーロッパ全体で合意を築くことを目指すと述べている。また、Thomson氏は以前、CERNで研究員として6年間勤務し、2018年からはCERN評議会の代表を務めている。

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-europe-infrastructure-2024-11-cern-names-uk-s-mark-thomson-as-next-director-general/

 

(5) DSITの理事会が刷新:公共サービス変革とデジタル格差の解消に向けた計画を指導

2024年11月7日英国の科学・イノベーション・テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)は、公共サービスの改革や経済成長の促進を目指し、新たに4名の非業務執行取締役(non-executive directors:NEDs)を任命した。今回任命されたのは、University of Birminghamの学長であるAdam Tickell氏、IBM UK & Ireland CEOのNicola Hodson氏、慈善団体Good Things Foundation代表の Helen Milner氏、LEGO Brand GroupのデジタルアドバイザーであるPaul Willmott氏。これらのNEDは、デジタル包摂や技術革新による成長支援などでDSITをサポートする。

科学大臣のPeter Kyle氏は、ビジネスや学術、慈善分野からの専門知識がDSITの目標達成に役立つと述べました。NEDを率いているDominic Field氏も、才能あるチームと協力することに期待を示している。この新しいNEDチームは一時的に最大9か月間務め、今後長期的なポジションに向けた選考プロセスが開始される予定。

【英文記事】 科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DIT):

https://www.gov.uk/government/news/refreshed-dsit-board-to-guide-plans-to-transform-public-services-and-close-digital-divide

 

(6) 2025年大学進学10月15日申請書締め切り分の詳細発表

2024年11月7日、大学入試機関(Universities and Colleges Admissions Service: UCAS)の新しいデータによると、2024年10月15日の早期申込締め切りである、医学、歯学、獣医学、University of Cambridge およびUniversity of Oxfordのコースに出願提出の結果を発表した。大学出願者数は昨年より1.3%(990人増)増加し、73,720人が出願した。

英国の18歳の出願者数は0.9%(370人減)減少したが、成人学生層(21歳以上)の出願者は3%(190人増)増加した。地域別ではスコットランドの18歳出願者が8%(110人増)増加しており、ウェールズは横ばい、北アイルランドは6%減、イングランドは1.2%減となった。

医学部の出願者数は3.3%(800人減)減少し、特にイギリスの18歳の出願者数が減少した。ただし、21歳以上の成人学生出願者はわずかに増加した。医学部の出願者数の減少はパンデミック時の高い需要からの下降傾向が続いていることが原因とされている。また、英国高等教育は依然として国際的に人気があり、留学生出願者数は4.7%増加した。特に中国からの出願者は昨年比で14%増加し、イギリスを目指す学生が増加した。

UCASのCEO であるJo Saxton氏は、成人学生の増加と国際的な関心の高さを歓迎し、特に新しい給食無料対象者向けの出願料免除が出願者の支援に寄与していると述べた。また、さらなる支援と高等教育の機会の拡大に取り組む意向を示した。

【英文記事】 大学入試機関(Universities and Colleges Admissions Service: UCAS)

https://www.ucas.com/corporate/news-and-key-documents/news/ucas-releases-undergraduate-application-data-15-october-deadline

 

(7) 労働党政権は生涯学習資格(LLE)に何を求めているのか?

2024年11月7日London South Bank University (LSBU)の副学長であるDeborah Johnston教授によるHEPIのブログによると、生涯学習資格(Lifelong Learning Entitlement: LLE)の導入が再び遅延し、2026年9月から申請可能となり、2027年1月以降に始まるコースに適用される予定となった。政府はまだLLEの詳細を確定しておらず、多くの高等教育機関もそのインフラが整っていない状態であるという。

LLEは柔軟なモジュール学習を推進する政策であるが、その学習者の需要は不確かであり、LSBUが実施した短期コース試験でも個別モジュールへの関心は限られていた。LLEの導入には学生ローンシステムの抜本的な改革が必要で、これにより職場で学ぶ人々が再スキル取得しやすくなるメリットが期待されている。

労働党が考慮すべきもう一つの点は、生涯学習権利(LLE)が、同党のスキル・アンド・グロース・レヴィ(技能育成税)とどのように整合性を図るのかということである。LLEは一部の雇用主により多くの利点をもたらすを可能にする一方で、状況をさらに複雑にするリスクもある。政府が税金で集めた資金の使い道を対象となる訓練とすれば雇用主ががLLEの資格を自費で学んでいる学生に対してその学費を肩代わりする可能性が出てくる。このような透明性のないアプローチは非効率である。その代わりに、雇用主と教育機関は、スキルズ・イングランドを通じて、スキルギャップを特定し、有意義な資格を構築するために、真のパートナーシップで協力すべきである。

またこれを防ぐためにシステムには適切なガードレールが求められている。LLEの中核目標であったレベル4および5の資格拡大も重要で、これを促進するため、1・2年目の時点での中間資格の授与が提案されていいる。政府はLLEを長期的な経済成長と機会拡大の柱として位置づけ、課題に対応するべきだと指摘している。

【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute:

https://www.hepi.ac.uk/2024/11/07/what-does-the-labour-government-want-from-the-lifelong-learning-entitlement/

 

(8) 橋渡し研究の推進

2024年11月7日高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)は、報告書「Advancing Translational Research」を発表した。この報告書は、学術研究の発見を現実社会で応用する「橋渡し研究(トランスレーショナル・リサーチ:Translation Research:TR)」*の役割について分析しており、著者は出版社Taylor & Francis,のLan Murdock氏とHEPIのRose Stephenson氏。

報告書では、TRが生物医学分野に限らず、社会科学や人文学でも複雑な社会問題の解決に貢献できると強調されている。応用研究の推進には、学際的な協力や資金面、規制面の課題があり、出版社も知識の普及を通じて支援が可能である。

主な発見:

定義と重要性: TRは、基礎研究の知識を人々の健康や福祉の向上につながる実用的な応用へと転換することを指し、初期段階から「目標指向型」のアプローチを採用することで特定の課題解決を目指す。この研究は学際的な協力を促し、社会的課題に大きな影響を与える可能性がある。

課題: 科学的、規制的、財政的、インフラ面、文化的な障壁があり、これらを克服するには革新的な解決策と協力が必要。

出版社の役割: 出版社は、科学知識をよりアクセスしやすくし、学際的な連携を促進することで、研究成果を実用的な洞察へと変換する支援を実施。

主な提言:

大学・研究機関向け: 応用研究のフレームワーク構築や人材育成、研究者の奨励。

資金提供者・政策決定者向け: 多様な資金支援の確立、資金戦略の調整。

大学運営: 施設改善、利害関係者の参加促進、チーム科学の評価。

出版社: 新しい研究発信フォーマットの開発、アクセス向上。 

自動車産業のCO2排出削減の事例を通して、応用研究が社会に与える具体的な効果も示されている。

HEPIは、TRが英国や世界のコミュニティに革新と成長をもたらす支援となるよう、政策立案者や資金提供者との連携を求めている。

「トランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)」*:基礎研究の知識を実用化すること 。主に医学や生物学における基礎研究の成果の中から有望な知見を選び出し、通常の医薬品や医療機器の開発に要する試験物製造から臨床研究に至るまでの工程を一体的に捉えた開発戦略を策定することにより、効率的・効果的に医療としての実用化につなげることを目的とする医学研究の一領域。

【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute:

https://www.hepi.ac.uk/2024/11/07/advancing-translational-research/

 

(9)ケンブリッジ大学、300人の「将来の博士号取得者」に資金提供する計画を開始

2024年11月11日University of Cambridgeは、次世代の英国ノーベル賞受賞者を支援するため、最大4800万ポンドの資金提供を目指す博士課程奨学金プログラム「トリニティ・ケンブリッジ・リサーチ・スチューデンシップ(Trinity Cambridge Research Studentships)」を発表した。このプログラムは、博士課程の研究資金の減少に対応するもので、今後10年間で300名の博士課程学生を支援する予定。初年度は大学とTrinity College が全額出資し、さらに協賛資金を確保することで目標額達成を目指す。

ノーベル賞受賞者であるトリニティのフェロー、Venki Ramakrishnan氏は、「博士課程の学生は新しい研究の生命線」であり、優秀な人材をUniversity of Cambridgeに引き寄せることが重要であることを述べた。同じくノーベル賞受賞者でトリニティのフェローであるDidier Queloz,氏も多様な文化とアイデアの融合が魅力であると強調している。このプログラムの最初の支援学生は2025年10月から開始予定で、2025-26年度の博士課程申請者が対象となる。

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2024-11-cambridge-launches-scheme-to-fund-300-future-laureate-phds/

 

(10) 新報告書:英国の公共政策の形成に役立つ社会科学研究を前面に押す

2024年11月11日英国社会科学アカデミー(Academy of Social Sciences )が発表した報告書「Beyond the ballot: social science insights on eight key policy challenges」(『投票を越えて:8つの主要政策課題に対する社会科学的洞察』)は、英国の政治や社会問題の解決に役立つ社会科学の研究や証拠を紹介している。特に、社会科学者が持つ社会、経済、市民文化、地域、行動についての理解は、新しい英国政府が抱える社会・経済的課題に取り組む上で大いに貢献できるといわれている。

この報告書には、100名以上の社会科学者による健康と社会福祉、不平等と福祉、住宅、マクロ経済、地域間の公平性と成長、国境と移民、知識と技術、エネルギーと気候といったテーマでの調査結果がまとめられている。具体的な政策提案を出してはいないが、以下の5つの方針が英国政府に有益であるとされている:

  • 幅広いエビデンスを活用した透明で確かな政策形成プロセスを整えること。
  • 政策立案において、より連携したアプローチをとること。
  • 論争が多い政策分野でのエビデンスを重視することで冷静な議論を促すこと。
  • 地域や各国で成功した実践から政策の革新を図ること。
  • 社会的要素を十分に考慮できる政策開発の場を設けること。

アカデミー会長のWill Hutton FAcSS氏は、現代の英国が重大な分岐点に立っており、特に社会的不平等の問題を解決するためには、社会科学的な洞察が必要不可欠であると述べた。また、報告書の筆頭著者Ed Bridges博士は、この報告が政策立案者との重要な対話の始まりであると強調し、今後も英国の社会科学研究が政策を強化する役割を果たしていくことへの期待を示した。

報告書:

https://acss.org.uk/wp-content/uploads//Beyond-the-ballot-social-science-insights-on-eight-key-policy-challenges.pdf

【英文記事】 英国社会科学アカデミー(Academy of social science)

https://acss.org.uk/publications/beyond-the-ballot-social-science-insights-on-eight-key-policy-challenges/

(11) REF2029:審査員の募集が12月に開始

2024年11月12日REF2029の審査員の募集が12月に開始される。審査員は、各分野の専門家で構成され、研究成果の質を評価する重要な役割を果たす。審査員の評価結果は、研究機関へのブロックグラント研究資金の配分、研究への公的投資のアカウンタビリティ、英国の研究機関の研究状況の把握に役立てられる。

今回の募集では、従来のセクター団体からの推薦ではなく、誰でも応募できるオープンなプロセスを採用している。これにより、透明性を高め、応募者の幅を広げ、審査員の多様性を確保することを目指している。

幅広い専門知識と経験を持つ人材を募集している。研究成果、研究インパクトとエンゲージメント、人材、文化、環境、国際的な専門知識、学際的な専門知識を持つ人材で、また、学術界以外の研究に関わる人々も対象である。

研究団体との連携も強化する。アカデミーや学会などのセクター団体と協力し、審査員の機会を広め、多様な候補者からの応募を奨励し、REF2029のパネルが分野の多様性を反映することを目指す。研究団体は、募集プロセスに積極的に参加し、REF2029のパネルの形成に貢献する予定である。応募方法などの詳細は、12月に公開される。REF2029のメインパネルとサブパネルの募集に関する最新情報は、メール配信やLinkedIn、X/Twitterで確認可能。

【英文記事】 REF2029:

https://2029.ref.ac.uk/news/main-panel-and-sub-panel-recruitment-launch-december/

 

(12) 大学長の警告:英国の研究資金機関は“崩壊している“

2024年11月12日英国の大学は、留学生に対するビザの変更の影響を受け、その基盤が崩壊しつつあると、Cranfield Universityの学長が警告している。

Cranfield Universityの学長であるKaren Holford氏は、11月12日の下院科学・イノベーション・技術委員会の公聴会で、研究開発予算の決定を歓迎しつつも、英国の研究の大部分を大学が担っており、そのエコシステムは留学生からの相互補助によって財政的にバランスが取れていたと述べた。しかし、ビザの変更やコスト上昇などの政策変更の影響により、この研究エコシステムが脅かされていると指摘している。また、University of Manchester の地域イノベーション・市民参画担当副部長であるRichard Jones氏は、英国は公的研究の多くが大学で行われるという点で「国際的な例外」であると述べた。政府は2025-26年度の学費を9,250ポンドから9,535ポンドに引き上げることを発表したが、Jones氏は、予算と学費の引き上げがシステムを安定させる可能性はあるものの、研究開発投資の収益性や、研究エコシステムのクロスサブシディの長期的な持続可能性について疑問を投げかけている。

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2024-11-uk-research-foundations-crumbling-warns-vice-chancellor/

 

(13) 英国大学に4,700以上の大学院生の枠を新たに設け、新世代のエンジニアと科学者を育成

2024年11月13日英国政府は、全国の45の大学で生物科学、工学、環境科学などを専攻する4,700名以上の大学院生を支援するため、5億ポンドを投資を発表した。この支援により、新薬開発やクリーンエネルギー研究など、経済成長や生活向上に寄与する最先端の研究が促進され、将来の高度な技術者や研究者が育成されことになる。また、この資金は大学の研究を支え、研究成果が商業化されることで収益をもたらす可能性もある。過去には、空気汚染モニタリング技術や作物の成長を促進するバイオテクノロジーなどがこの資金を活用して成功を収めている。教育大臣や科学大臣は、この支援が次世代の科学者育成や持続可能な経済の発展を後押しすると強調している。

政府やUKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)、王立工学アカデミー(Royal Academy of Engineering)などの関係者も、エンジニアリングと科学の分野で新しい製品やサービスが社会に与える恩恵を強調し、この分野の重要性を再確認した。

【英文記事】科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DIT)

https://www.gov.uk/government/news/over-4700-newly-funded-post-graduate-places-in-uk-universities-to-create-new-generation-of-engineers-and-scientists

関連記事 :ラッセルグループ:

ラッセル・グループの政策部長である、Lily Bull氏は、科学・イノベーション・テクノロジー省(Department for Science Innovation and Technology: DSIT)が発表した4,700名を超える新たな大学院生支援についてコメントをした。

Bull氏は、この発表は、英国の高スキル人材の育成に貢献すると述べた。教育省は、2035年までに学士号以上の学位を持つ労働者への需要が53%増加すると予測している。しかし、2018/19年から2022/23年にかけて、大学院進学者の数は12%減少しており、地域間でばらつきがある。そのため、この減少傾向に対応する措置が講じられていることは喜ばしいと述べた。また産業戦略を成功させるためには、研究人材の不足に対処し続け、新興技術の活用や気候変動などの複雑な課題の解決に貢献する人材を確保することが重要であるとことも指摘した。。政府、スキルズ・イングランド、UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation:UKRI)、また我々のような研究集約型大学との連携を継続し、現在の研究人材の不足や将来のニーズを特定し、研究分野への人材の流入と定着を促進するための最善策を開発することを期待していることを語った。

【英文記事】Russell Group

https://russellgroup.ac.uk/news/russell-group-response-to-new-postgraduate-funding-announcement/

 

(14) クリエイティブ産業への介入における明らかな階級格差が判明

2024年11月13日英国のクリエイティブ業界は、富裕層、特に私立学校出身者の独占傾向が強いことが明らかになった。Sutton Trust の調査によると、労働者階級の若者は、中産階級の同世代と比較して、クリエイティブ業界で働く可能性が4倍低いことが明らかになった。また、トップミュージシャンやBAFTAノミネート俳優は、一般人口よりも私立学校出身者の割合が6倍高く、クラシック音楽は特にエリート主義的な傾向が見られる。一方で、ポップスターは一般人と同様な教育背景をより反映している。この不平等に対処するため、Sutton Trustは、学校における芸術教育の充実、音楽学校などのオーディション料の廃止、芸術分野の雇用機会の拡大など、さまざまな対策を提唱している。

【英文記事】Sutton Trust

https://www.suttontrust.com/news-opinion/all-news-opinion/research-reveals-stark-class-inequalities-in-access-to-the-creative-industries/

 

(15) 学生局が国際品質保証機関ネットワークの最新メンバー

2024年11月13日学生局(Office for Students: OfS)は、高等教育の質向上に投資する300以上の組織に加わり、国際高等教育品質保証機関ネットワーク(International Network for Quality Assurance Agencies in Higher Education : INQAAHE)の認定会員となったこと伝えた。

INQAAHEは、高等教育の品質保証の理論と実践に携わる組織の世界的な協会である。

高等教育の卓越性を促進し、発展させることを目指す国際的なコミュニティに参加することで、OfSは世界的な品質保証機関としての地位を確立したことになる。

【英文記事】学生局(Office for Students)

https://www.officeforstudents.org.uk/news-blog-and-events/press-and-media/ofs-becomes-latest-member-of-the-international-network-for-quality-assurance-agencies-in-higher-education/

 

(16) 「対立的な」オックスブリッジ教育が女性の地位を低下と報告書が指摘

2024年11月14日高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)の報告書によると、対立的な教育スタイルは女性学生を不当に妨げ、オックスブリッジの女性卒業生が男性に比べてファースト(First )の学位を取得する割合が低くなっている原因の一部であるとされてる。英国では女性が学生の大部分を占め、ファーストの学位を取得する割合も高いが、University of Cambridge とUniversity of Oxfordの両大学ではこの傾向が逆転していることがHEPIの報告書でわかった。

報告書は、オックスブリッジの「有名な」教育スタイルは「攻撃的で対立的」と評されており、特定のグループを不利にし、試験成績に悪影響を及ぼすと考えられていると述べている。また、同報告書は、両大学が最終学年の試験に大きく依存しており、学生の最終的な学士号の成績を決定している点を指摘している。これは、女性が一般的にリスクをとりにくく、月経前症候群の影響を受けやすく、コースワークの方が成績が良い傾向があるため、女性にとって不利であるとされている。また、過去の研究では、女性学生が参加しようとすると男性学生がその議論を妨害することがあると述べていることも指摘されている。

報告書によると、ファースト学位の男女差が最も大きいのは、男性が43ポイント差で優位なUniversity of Cambridge の神学と、男性が29ポイント差で優位なUniversity of Oxfordの古典学である。

報告書の著者であるFamke Veenstra-Ashmore氏は、女性はUniversity of Cambridge とUniversity of Oxfordで最高レベルの学業成績を収めるために「大きな制度的障壁」に直面していると述べている。Veenstra-Ashmore氏は、「University of Cambridge とUniversity of Oxford両大学は緊急の措置を講じる必要がある。評価方法や教育方法の実験は可能です。このような大きな格差を早急に真摯に取り組むべき必要がある。」と述べている。

HEPIのRose Stephenson氏は、「多くの他の高等教育機関では女性が男性を凌駕していることを忘れてはならない。これらの機関は、男性に不利な学位授与の格差を縮めるために役立つかもしれない教育や評価の仕組みを理解するために、オックスブリッジに目を向けるかもしれない」と付け加えた。

HEPI: https://www.hepi.ac.uk/2024/11/14/new-hepi-report-tackles-the-big-gap-between-men-and-women-achieving-first-class-degrees-at-oxford-and-cambridge/

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2024-11-combative-oxbridge-teaching-holds-women-back-report-finds/

 

(17) 黒人、アジア人、および少数民族の大学職員数増加

2024年11月14日Advance HEの分析によると、過去20年間で、英国の高等教育機関における黒人、アジア人、および少数民族のスタッフ数が3倍以上に増加したことが明らかになった。また、31歳から55歳の間のスタッフが全体の64.9%を占め、専門職・サポートスタッフの年齢層は教員よりも若いことがわかった。さらに、過去5年間で、30歳以下の教員のうち、専任教員契約の割合が年々増加しており、25歳以下の教員では63%から68.6%、26歳から30歳の教員では33.7%から42.7%に増加しました。

Advance HEの平等、多様性、包括ディレクターであるDavid Bass氏は、この報告書は「高等教育機関内の誰もが、時間の経過とともにトレンドの変化を見ることができる、特にデータが不平等に対処するための積極的な行動の必要性を明らかにしたり強化したりするところを見ることができる」と述べている。また、「機関にとって、データは不平等に対処し、すべてのスタッフが繁栄するためのイニシアチブの有効性をベンチマークするのに役立つ。私たちは、平等、多様性、包摂に関する包括的なアプローチを開発およびテストするために、世界中のAdvance HE会員機関の同僚と協力していく」と述べてた。さらに、Advance HEの分析によると、身体的な障害を公表するスタッフの数は、2010-11年の全スタッフの3.2%から2022-23年の7.2%に増加し続けている。

【英文記事】Research Professional News:
https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2024-11-bame-university-staff-numbers-triple-in-two-decades/

 

(18) 学生局:財政の持続可能性に取り組むには「大胆かつ変革的な行動」が必要

2024年11月15日  イングランドの高等教育セクターにおける財務状況に関する、OfS(Office for Students)の最新分析報告書の要約:

学生数減少の影響: 高等教育への進学者数が減少しており、多くの大学が財務的リスクに直面している。2025-26年度までに、高等教育機関の72%が赤字、40%が30日以下の流動性資金しか持たないと予測されている。

国内学生の募集状況: 2024年の大学入試機関(Universities and Colleges Admissions Service: UCAS)を通じた国内学部生の受け入れは1.3%増加したが、予測されていた5.8%増にはいかなかった。特に、中小規模や専門性の高い機関では募集が減少しており、レベル4・5の資格提供に特化した機関では25%近く減少した。

留学生の減少: 2024年の国際学生のビザ申請数は前年比16%減少。一部の主要な送出国からの留学生数は40%以上減少している。

財務予測: セクター全体で2025-26年度に34億4500万ポンドの収入減、16億3600万ポンドの赤字が予測されている。特に、楽観的な予測をしていた教育重視型の大規模機関が、実際には厳しい状況に直面している。

リスクの分布: 大規模な研究・教育機関は比較的安定しているものの、中小規模や専門機関は厳しい財務状況にあるとされている。

OfSの対応と提言: 大学が財務リスクを管理するためには、大胆かつ変革的な行動が必要であると強調。早期にOfSに相談することで、協力的な解決策を見つけられる可能性があることを伝えている。

OfSのCEOであるSusan Lapworth氏は、学生への教育の質へのリスクを指摘し、持続可能性を確保するための迅速な対応の重要性を強調した。

Financial sustainability of higher Education providers in England: November update: https://www.officeforstudents.org.uk/publications/financial-sustainability-of-higher-education-providers-in-england-november-2024-update/

【英文記事】学生局(Office for Students)

https://www.officeforstudents.org.uk/news-blog-and-events/press-and-media/bold-and-transformative-action-needed-to-address-financial-sustainability-ofs/

 

 (19) University of Oxford: 不安定な有期契約で雇用された学者に依存

2024年11月16日 University of Oxfordは、多くの対話型個別指導をフードデリバリーの配達人のような不安定な有期契約で雇用された学者に依存していると批判されている。調査によると、個別指導の61%が固定契約や時給制の学者によって行われ、フルタイムの教授が担当するのは34%に過ぎない。一部の講師は時給制で、準備や採点を含めると実質的に最低賃金を下回る収入しか得られないことが明らかになった。

大学組合(University and College Union: UCU)は、University of Oxfordの豊富な資金力にもかかわらず、こうした学者が「貧困レベルの給与」で支えられていることを「スキャンダル」と非難し、学生や保護者も怒るべきだと述べている。一例として、Christ Church College では1年間の非常勤講師職に対し、約15,000~17,000ポンドの給与を提示している。この職はもともとフルタイムであったが、Observer 紙のよる問い合わせ後にフルタイムは削除された。また、多くの非常勤講師は、公式には時給37ポンドとされるものの、授業準備や採点にかかる膨大な労働時間は考慮されておらず、実際の報酬は非常に低いといわれている。講師の中には、この負担を補うため他の大学で働く者もいる。大学側は、若手研究者の負担軽減を目指した給与と待遇の見直しを進めていると説明しているが、これには大学ではなくカレッジが直接雇用する講師は含まれていない。教員たちは「授業自体はやりがいがあるが、給与には満足していない」と述べ、多くの準備時間が未払いである現状を批判している。

【英文記事】Guardian紙:

https://www.theguardian.com/education/2024/nov/16/oxford-deliveroo-contracts-tutorials-full-time-staff-gig-economy

 

(20)  門戸の開放:IELTSが難民に無料英語テストを提供

2024年11月18日  国連難民高等弁務官事務所(United Nations High Commissioner for Refugees: UNHCR)は、アイエルツ(International English Language Testing System: IELTS)と提携し、何百人もの難民に無料で英語試験を受ける機会を提供すると発表した。この提携は2023年11月11日に発表されていた。現在、世界では42%の若者が高等教育を受けられるのに対し、難民ではわずか7%である。University of Oxford の教育パートナーシップ担当マネージングディレクター、Jane Mann氏は「難民も他の人々と同じ教育の機会を享受するべきだ」と述べ、IELTS試験を無料で提供することで不平等を是正し、教育への障壁を減らしたいと語った。UNHCRは対象者を選定し、試験をオンラインまたは紙媒体で受けられる日程や場所を調整する。IELTSのスコアは世界25,000以上の機関で認められており、難民にとって教育やキャリアの機会を広げる鍵となる。

IELTSの共同運営者であるIDP Education のWarwick Freeland氏も、無料試験が難民の教育アクセスを向上させる一助になることを期待しているという。また、2023年には140以上の国で400万件以上のIELTS試験が実施されており、今回の提携でさらに受験者数が増えると見込まれている。過去にはDuolingo English Testが2023年に20人の難民を支援したが、今回のIELTSとの提携はより大規模な支援を目指すものである。また、英国政府は英語試験制度の改革を計画しており、新しいSecure English Language Test の導入を提案している。

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/opening-doors-ielts-offers-free-english-language-tests-to-refugees/

 

(21) 政府は資金増額でスピンアウト企業を「繁栄」を要請

2024年11月19日  国際的な技術移転グループであるTenUは、政策立案者に大学スピンアウト企業に関する政府委託の独立調査報告書の推奨事項を「完全に実施」するよう求めている。これには、概念実証資金の増額も含まれる。

英国の主要大学を含む10の国際的な大学技術移転事務所が連携するTenUは、政府に対し、英国で「繁栄する」スピンアウトエコシステムを構築し、企業への資金提供を増やすための取り組みを強化するよう呼びかけている。

政府は秋予算で、革新的なアイデアの実現可能性を市場化する前にテストすることを可能にする概念実証資金に5年間で4,000万ポンドを拠出しましたが、TenUはより多くの投資が必要だと述べている。

TenUは、大学、企業創業者、投資家が「レビューの推奨事項に沿って」行動しており、Research Englandや政府と協力して実施していると述べている。英国の大学は2023年に16億6,000万ポンドのエクイティ資金を調達し、これは英国企業が調達したエクイティの9.5%に相当する。

投資家のAndrew Williamsonは、スピンアウト企業が成長し、英国にとどまるためには投資が「不可欠」であると述べている。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-innovation-2024-11-get-spinouts-thriving-with-funding-boost-government-urged/

(22) 引用数の割合で中国研究者が台頭し、米国は減少

2024年11月19日  米国は依然として世界の「最も引用された研究者」の数でトップを維持しており、中国が2位として急成長し、英国が3位につけている。

2024年版「Highly Cited Researchers」リストによると、中国本土からは1,400人以上の研究者が選出され、それは全体の20.4%を占めた。これは前年より2.5ポイント増加し、2018年以降で割合が2倍以上となったことになる。米国は2,500人以上の研究者がリスト入りし、全体の36.4%を占めているが、前年より1.1ポイント減少している。

第3位は英国(563人)、次いでドイツ(332人)とオーストラリア(313人)。

また、リストには59の国・地域、1,200以上の機関から6,636人の研究者が含まれている。

大学別ではChinese Academy of Sciences(中国科学院) (308人)が最も多く、続いてHarvard University (231人)、Stanford University(133人)、Tsinghua University(清華大学)(92人)と続く。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-world-2024-11-china-increases-share-of-highly-cited-researchers-as-us-declines/

 

(23) 戦争開始1000日でウクライナの大学の危機が浮き彫りに

2024年11月19日  ウクライナ戦争開始から1,000日が経過し、英国の慈善団体”危機にある学者のための評議会”(Council for At-Risk Academics : CARA)がウクライナの大学が直面する危機の規模を明らかにした。

CARAは、1930年代以来最多となる支援要請を受けており、ロシアのウクライナ侵攻開始以来、約400人のウクライナ、ロシア、ベラルーシの学者が緊急支援を求めてた。このうち、約300人がウクライナから、100人がロシアとベラルーシからの依頼があった。しかし、支援は容易ではなく、英国の大学での受け入れには資金や雇用、生活支援を組み合わせたパッケージが必要で、調整に約6か月かかる。これまでに受け入れられたのは67人のみで、これは非常に限られた数である。

また、2022年4月から2023年4月にかけて実施された「危機下の研究者フェローシップ(Researchers at Risk Fellowships )」プログラムにより、180人のウクライナ拠点の学者が英国の大学で救済された。

戦争による影響:

ロシアは占領地域でウクライナ教育を禁止し、独自の教育システムを強制しており、国際法違反に該当する可能性がある。ウクライナ最大の国立高等教育機関であるTaras Shevchenko National University of Kyivに対する最近のドローン攻撃など大学も空爆や攻撃の標的になっている。CARAが支援したウクライナの学者の大半は女性で、成人男性は国内退去が禁じられているため、女性は子どもとともに避難するケースが多い。

ロシアの学者への支援:

CARAは戦争やプーチン政権に批判的なロシアの学者も支援しており、Moscow Higher School of Economics(英国のLSEのような大学)のSalavat Abylkalikov氏のケースを紹介した。彼は反戦活動により刑事訴追や強制徴兵のリスクがあったため、家族と共にロシアを脱出し、現在はNorthumbria UniversityでCARAのフェローとして活動している。

財政支援の訴え:

CARAは現在、英国の大学を巡りながら、学者支援に必要な資金を募るキャンペーンを展開している。この活動は、学術界の財政危機を背景に長期化する見込みである。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2024-11-cara-highlights-crisis-in-ukraine-s-universities-1-000-days-into-war/

 

(24) 社会科学、人文科学、芸術(SHAPE科目)の地域格差

2024年11月20日 英国の高等教育における社会科学、人文科学、芸術(SHAPE科目)の地域格差が、新たに公開されたインタラクティブマップにより明らかになった。特に、恵まれない学生に影響が大きいことが示されている。

主な内容:

社会科学や人文科学、芸術は、現代の社会問題やグローバルな課題に対応するための重要なスキルを提供している。マップは、SHAPE科目へのアクセスが限られている地域(需要不足)を示し、特に優秀な成績を取れない学生や地元から離れられない学生に影響が大きいことを強調している。例として、フランス語学や神学、人類学は、提供地域が減少傾向にある。北イングランド、スコットランド、ウェールズ、東ミッドランドなど、多くの需要不足のため低所得層や「取り残された」地域と重なっています。一方で、金融、法学、社会学などの科目は全国的に拡大している。マップはUCASの成績基準でフィルタリングが可能で、成績が平均以下の学生に対する科目提供が限定的である地域が明らかになる。例えば、神学ではスコットランドや東イングランド、デボン、コーンウォールで、低成績の学生が学べる選択肢がほとんどない。

SHAPE科目の提供減少は、学生のスキルや地元の雇用機会を制限するだけでなく、地域社会への貢献能力を持つ大学の役割を弱める可能性がある。創造産業やサービス業を支えるこれらの科目の価値を守る必要がある。このマップはSHAPE観測所の一部として毎年更新され、科目提供の状態を監視する。最近の財政的な圧力による学部閉鎖が相次ぐ中、英国学士院(British Academy)は政策立案者や教育機関と協力し、地域格差や不平等への対策に取り組む用意がある。SHAPE科目へのアクセス格差は、個人のキャリアや地域経済に重大な影響を及ぼす課題として注目されている。

【英文記事】WonkHE:

https://wonkhe.com/blogs/there-are-cold-spots-in-arts-humanities-and-social-sciences-provision/

 

 (25) 新分析結果:すべての地域で大学卒は最低でも30%以上多く稼ぐ

2024年11月21日  英国大学協会(Universities UK:UUK)の新しい分析によると、大学に進学した人は進学しなかった人に比べて、出身地域に関係なく、収入が大幅に高いことが示された。このデータはイングランド全域の卒業生の機会に関する新たな視点を提供している。

収入の差: 31歳時点で、大学卒業生の収入は、進学可能だった非卒業者に比べ平均で3分の1高く(32-37%増)、一部地域・業界では非卒業者の2倍近い収入を得ている。例として、西ミッドランドの宿泊業では96%、イングランド東部の金融サービス業では85%の差がある。経済への貢献: 大学卒業生のスキルは、2021-22年に全国で950億ポンドの経済的影響を与えたと推計されている。

地域ごとの生産性: 卒業生が多い地域ほど生産性が高く、経済成長を牽引している傾向がある。未来の産業: 創造産業(76%)、専門・ビジネスサービス(74%)、生命科学(73%)など、今後10年間で成長が期待される産業は卒業生のスキルに大きく依存している。大学卒業から10年後には、全体として卒業生の収入が非卒業者を3分の1上回っており、学位が収入を増加させる効果は明らかである。また、芸術やエンターテイメントなど、学位が必須とされない分野でも収入差は42%ある。

【英文記事】英国大学協会(University of UK:UUK)

https://www.universitiesuk.ac.uk/latest/news/new-analysis-reveals-graduates-every

 

(26) 研究ジャーナル:インパクトファクターの低下による投稿数の減少を報告

2024年11月25日研究ジャーナル「eLife」は、査読方針の変更に伴い中国からの投稿が「大幅に減少」した一方で、全体的な投稿状況に「勇気づけられている」と述べた。eLifeは昨年、投稿論文すべてを公開する方針に転換しました。これは、査読者が出版を推奨しない論文や、不十分と判断された論文も含むもので、研究の「門番」になることを避ける狙いがある。この方針変更により、Clarivate(Web of Scienceの提供元)は、同ジャーナルのインパクトファクター(IF)の提供を停止すると発表した。IFは平均被引用数を示す指標で、多くの研究者にとって論文の認知度向上を期待する重要な要素とされている。

2023年10月の発表以降、特に中国からの投稿数が大幅に減少しており、10月前半の約150件から11月前半には約35件に減少した。中国ではIFへの依存が強いことが背景にあるとされている。一方で、英国やイタリアなどの国からの投稿は増加または安定しており、全体的な査読対象論文の数には影響が出ていない。

ジャーナルは、「商業的なジャーナル指標の支配に挑むコミュニティの準備が整っている」との見方を示し、この変化を歓迎している。さらに、今後もデータを収集し、進捗状況を共有するとしている。このような方針変更を通じて、eLifeは研究評価の多様性を推進し、IFへの過度な依存に対抗する姿勢を明確にしている。

【英文記事】Research Professional News

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-world-2024-11-elife-reports-submissions-shift-over-impact-factor-loss/

 

 (27)元保守党党首がUniversity of Oxfordの次期総長に選出

2024年11月27日 元外務大臣のWilliam Hague氏が、University of Oxfordの次期総長に選出された。これにより、University of Oxfordの800年の歴史の中で初めて女性がこの役職に就く可能性が消滅した。

今回の選挙は初のオンライン投票で行われ、Hague氏はSt Hugh’s Collegeの校長で元スコットランド法務長官のElish Angiolini氏や、Somerville Collegeの校長であるJan Royall氏を破った。オンライン投票の導入にもかかわらず、約35万人の卒業生や職員のうち投票したのは24,900人に留まった。以前の選挙では、卒業生が直接投票所に足を運ぶ必要があった。

Hague氏は最終的に勝利を収めたが、元保守党大臣のDominic Grieve氏や労働党のPeter Mandelson卿は、優先順位投票の初期ラウンドで敗退した。Mandelson卿は積極的な選挙活動を行ったものの、最終的に4位に終わった。

総長はUniversity o fOxfordの名誉職であり、主要な式典を取り仕切るとともに、大学の大使として地域・国内・国際的なイベントに参加する。また、学長の選任委員会の議長も務めるが、近年では実務的な権限は持たない役職となっている。

Hague氏は1979年から同大学のMagdalen Collegeで哲学・政治学・経済学を学んだ。その後、1989年にヨークシャーのリッチモンド選挙区から保守党議員に選出され、1997年から2001年には保守党党首を務めた。2010年から2014年にはDavid Cameron政権で外務大臣を務めた。今回の選出についてHague氏は「人生で最も名誉なこと」と述べ、同大学の発展に尽力する決意を表明した。任期は10年間で、前任者のChris Patten氏(元香港総督)から引き継がれる。

【英文記事】 Guardian

https://www.theguardian.com/education/2024/nov/27/william-hague-elected-chancellor-of-oxford-university

 

(28) University of Cambridge:人種差別を見過ごしたと非難される

2024年11月27日University of Cambridge の獣医学部が、人種差別と学生福祉の軽視を非難されている。王立獣医師会(Royal College of Veterinary Surgeons: RCVS)による調査の結果、コースの専門的認定が引き下げられた。調査では、77の認定基準のうち50に満たないことが判明した。大学側は、指摘された問題に対処するため、すぐに外部の専門家を招致すると述べている。RCVSの報告によると、職員は調査員に対し、学生は実習中に問題を報告するのではなく、「男らしくなる」必要があると述べていた。また、黒人、アジア人、および少数民族の学生が実習で差別を受けた場合、その実習場所は大学のデータベースに残されていた。このコースは、Complete University Guideによると、英国で最もランクの高い獣医学部である。以前は完全な認定を受けていたが、現在は条件付き認定となっている。9月までに十分な改善が見られない場合、RCVSは卒業生に獣医学の開業免許を授与しないと述べている。代わりに、6年間の学業の後、海外の学生と同じ試験を受けなければならない。「主な懸念は、学校のイメージが悪くなり、就職が難しくなること」と、匿名を希望する5年生の学生はメディアに語った。「我々は他の学生と同じように有能ですが、このニュースは獣医学部の評判を悪くする。」RCVSの広報担当者は、RCVSの委員会のメンバーは「既存の学生と将来の志願者を支援し続ける必要がある」ことに「固く同意」したと述べている。獣医学部長のMark Holmes教授と生物科学学部長代理のJon Simons教授は、共同声明で、「深刻な問題に対処するため、大学はすぐに外部の専門家を招致する」と述べている。「学生がコースを修了し、完全な認定を受けるために、できる限りのことを行う」と述べている。

【英文記事】BBC News:

https://www.bbc.co.uk/news/articles/c8ekz2ell4do

 

(29) HEPI報告書:生涯学習制度の成立の危機

2024年11月27日 新しいスキル課税と生涯学習制度に一貫性が欠けると、両政策が失敗する可能性があると、シンクタンクが警告した。

英国高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)の報告書によると、「生涯学習資格(Lifelong Learning Entitlement: LLE)」と「成長とスキル課税金」の両政策が現在の形では目標を達成できない可能性があるとしている。

LLE(2026年開始予定)とは60歳までの成人が学生ローンを利用できる制度である。ただし、最近の予算案で開始が延期された。新しい成長とスキル課税金は現行の技能実習制度課税金(apprenticeships levy)に代わり、企業がより幅広いトレーニングに資金を充てることを可能にする。

HEPIは、これらの政策が独立したものとして実施されるリスクがあり、両政策がどのように連携するかを「緊急」に検討する必要があると指摘している。「高等教育と職業教育が交わる領域を理解することが、政策の成功には不可欠」と述べている。

主な提言:

  • 政策の一貫性を確保することで、個々のキャリア目標と英国労働力のニーズに対応する柔軟で統一された学習経路を作る。
  • 学生ローン会社に対し、モジュール制学習のための負担の少ない申請手続きの導入を提案。

教育省には、2つの資金システムがどのように連携するのかについて明確にするよう求めている。HEPIは、この改革がうまく実行されれば、スキル不足や社会的流動性の問題を解決する可能性があると結論づけている。

HEPI報告書“Aligning the Lifelong Learning Entitlement and the Growth and Skills Levy: how these policies could work together under a new Government”:

https://www.hepi.ac.uk/wp-content/uploads/2024/11/Aligning-the-Lifelong-Learning-Entitlement-and-the-Growth-and-Skills-Levy-4.pdf

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2024-11-lifelong-learning-entitlement-at-risk-of-failure-says-hepi/

 

(30) UKRI 最高責任者:いじめやハラスメントに関して更なる取り組みを

2024年11月27日UK リサーチ・イノベーション(UK Research Innovation :UKRI)の最高責任者Ottoline Leyser氏は、同組織におけるいじめやハラスメント問題について「さらなる取り組みが必要」とResearch Professional Newsによるインタビューで語った。全国的な研究資金配分機関であるUKRIでは、いじめや過重労働、燃え尽き症候群に関する懸念が以前から指摘されており、いじめの苦情件数は2022年から2023年にかけて3倍以上に増加した。また、医療研究評議会(Medical Research Council :MRC)の元長官Fiona Watt氏が職員への対応について謝罪する事態も発生した。Leyser氏は、「UKRIではいじめやハラスメント、差別は容認されない」と強調し、職員のウェルビーイング(心体の健全さ)が最優先事項であると述べた。2023年の内部職員調査では、7%の職員がいじめやハラスメントを経験したと報告されており、これは「受け入れがたい数字」としている。さらに、UKRIは2023年7月に、いじめやハラスメント、差別に対抗し、尊厳と敬意の文化を促進するためのアクションプランを公表した。しかし、取り組みの進展について多くの職員が「実施が遅すぎる」と感じているのが現状である。

Leyser氏は「進展はあるものの、まだ多くの課題が残されている」と述べ、職員に対し、不適切な行為を直接的または間接的に経験した場合には既存の報告ルートを通じて報告するよう促した。UKRIは引き続き組織内の文化改善に努め、職員が尊厳を持って働ける環境作りを目指している。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-research-councils-2024-11-ottoline-leyser-ukri-has-more-to-do-on-bullying/