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UK HE Information

2025年1月英国高等教育及び学術情報

2025年5月07日

(1)英国の留学生数が31%の増加に回復

(2)留学先国の変化最新情報

(3)英国のHorizon Europe参加1年後のEUの前向きな評価

(4) IFS : 学費上限計画に対して一定の確実性を持たせよ

(5)新たな大学のElsevier との契約解除

(6)2024年度の大学院生留学者数の減少

(7)英国首相、AI強化の計画書を発表

(8)大学生活体験の短期コース開始

(9)Study London:第2弾のキャンペーン開始

(10)UKRI: 2024年職員の38%がメンタルヘルスの悪化を報告

(11)REF(Research Excellence Framework)2029:人々、文化、環境のパイロット版のガイダンス発表

(12)工学生物学の衰退を食い止めるための「緊急措置」を要求

(13) 時間的な課題:なぜ大学はパートタイム大学院生を理解しないのか?

(14) 政府、大学における言論の自由を改めて強調

(15) REF 2029 ボリューム測定と関連する実践規範ガイダンスが公開

(16)ガザの停戦:英国研究者が高等教育の再建の必要性を警告

(17)英国ビザ事情:AI関連や優秀な人材獲得のためビザ規制緩和か?

(18)トランプ米国大統領の復帰は世界の科学界への影響が懸念される

(19)新しい英国政府の留学生促進動画発表

(20) 変革計画を実行のためNHSや公共サービス全体でテクノロジーとAI使用を刷新

(21)英国の大学の財政危機に直面する中、「トランスナショナル教育」の必要性を提唱

(22)DeepMindの共同創業者:AIが研究作業を100倍高速化

(23)MRCのトップ、資金制度改革への不安に配慮

(24)労働者階級の卒業生がキャリア向上のルートを失う一方、雇用者は無給のインターシップ禁止を指示

(25)学生の住民税免除が税収不足の一因に

(26)ブリティッシュ・カウンシルが深刻な財政難に直面

(27)大学ランキングを見直す時が来ているのか?

(28)学生局は器用に効率的に動く必要がある

(29)英国高等教育職員統計2023/24年度

(30)英国財務大臣、経済再生へさらに迅速な対応と新たな一歩

(31)新たに4大学が人員削減を発表

(32)英国、EUとの研究協力を強化:Horizon Europeへの参加促進

(33)臨床研究者の減少に早急な対策が必要

(34)UKRI:博士号奨学金の増加と学生支援の強化

(35)英国大学、留学生減少でコース削減もTNE拡大が加速

(1)英国の留学生数が31%の増加に回復

2025年1月6日、英国の大学で、留学生数の回復が期待されている。特に2025年1月の入学における確定受け入れ数は前年同期比31%増加した。このうち、インドからの受け入れ数が11%増加し1月入学の主要な市場となっている。パキスタンからの受け入れも91%増加したが、インドに比較すると規模は小さい。

1月入学の主なプログラムは、ビジネス・経営やAI・データサイエンスに重点を置いたコンピューティングの修士課程である。特に、伝統的に人気の高いビジネス系修士課程での需要が、2024年の落ち込みから回復傾向にある。

2024年にはナイジェリアやインドからの需要が減少したが、2025年1月に向けた需要の回復が見られている。一方で、ナイジェリアでは通貨の不安定性が留学希望者に影響を与えており、英国の扶養家族同伴禁止政策も一部の市場で留学をためらわせる要因となっている。

英国が留学生市場での地位を維持・回復している理由として、カナダやオーストラリアが学生ビザ発行を制限していることが挙げられる。カナダは2024年にビザ発行数の制限を発表し、オーストラリアも特定条件に基づくビザ発行方針を採用しているため、主要市場の学生が英国に目を向けているとの見方が示されている。

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/january-acceptances-up-31-uk/

 

(2)留学先国の変化最新情報

2025年1月7日 世界の学生移動トレンドは大きな変化を見せており、米国、英国、カナダ、オーストラリアの「ビッグ4」に代わり、新興の留学先が注目されている。2030年までに9,000万人以上が留学を目指すと予測されており、以下の国々が「ビッグ4」に続く人気留学先として浮上している:

ドイツ

2024/25年冬学期には40万人以上の留学生がドイツで学ぶとことを見込まれている。5万人で最大の層を占め、中国からは約4万人が留学しているただし、ビザ取得や住居探し、生活費の問題が課題とされている。

フランス

2023/24年度の留生数は前年から4.5%増加し、43万人以上がフランスで学んでいる。フランス政府は2030年までに3万人のインド人学生を受け入れる目標を掲げているが、政治的変動が留学生に及ぼす影響を懸念する声もある。

韓国

韓国では文化的影響力と技術革新を背景に留学生が増加中で、現在20万人以上が留学中。2027年までに留学生30万人を目指しており、中国、ベトナム、ウズベキスタンが主要な受入国である。また、英語で教えるプログラムの普及が留学人気を後押ししている。

日本

日本では現在28万人の留学生が学んでおり、2033年までに40万人を目標としている。中国が最大の受入国で、その他ネパール、ベトナム、韓国、ミャンマーからの学生も多い。一部の大学では英語と日本語で授業を行うプログラムを拡大しているが、留学生の国内就職の可能性に課題があるとの指摘もある。

中国

中国には35万人以上の留学生がおり、安価な授業料、奨学金の増加、大学の世界ランキング向上が魅力となっている。また、新たな「学位法」により国際提携を進め、海外での学位授与や留学生への支援を強化する方針である。

そのほかニュージーランド、マレーシア、アイルランド、トルコ、イタリアも挙げられた。

これらの国々は、留学生の受け入れを通じて自国の教育水準を高め、国際競争力を向上させることを目指している。

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/top-study-destinations-outside-the-big-four-in-2024/

 

(3)英国のHorizon Europe参加1年後のEUの前向きな評価

2025年1月7日 英国のHorizon Europe参加により、EUと英国の研究・イノベーション分野での連携が大幅に強化された。初期データによると、英国の研究者や組織のプログラムでの成果は好調で、特に欧州研究会議(European Research Council :以下ERC)で大きな成功を収めている。

ERCの成功として:

  • 2024年7月に発表された商業化支援のProof of Concept(概念実証)助成金で英国はトップ受益者。
  • 同年9月発表のStarting Grantsと12月発表のConsolidator Grantsでは3位。
  • 2024年のSynergy Grantsで前年の参加数を倍増。 

英国政府は、Horizon Europeへの参加を促進するため、2024年にはイングランド、北アイルランド、スコットランドでのイベント開催や情報発信を行った。2025年にはさらに取り組みを強化し、ネットワーキング支援のための助成金提供や、国際的な共同研究者探しを支援する活動を計画している。

英国とEUは2025年初頭に貿易交渉を予定しており、青年の交流を促進する計画が議題に挙がる可能性がある。また、EUはスイスとHorizon Europe参加について合意し、韓国の第2ピラー(共同研究)への参加も発表された。

これらは、英国の研究・イノベーション分野におけるEUとの関係改善を象徴するものとされている。

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-europe-horizon-2020-2025-1-eu-diplomats-hail-positive-trend-after-year-of-uk-in-horizon-europe/

 

(4) IFS : 学費上限計画に対して一定の確実性を持たせよ

2025年1月8日 イングランドの大学学費上限引き上げ計画で、英国政府は大学や学生に「一定の確実性」を提供するべきだと、英国財政研究所(Institute for Fiscal Studies: IFS)が述べた。2025/26年度には学費上限が現在の9,250ポンドから9,535ポンドに引き上げられるが、これ以降のインフレに基づく増額は、政府が求める「持続的な効率化と改革運営」が条件となっている。

IFSは、将来の学費上限計画への不確実性が大学に負担を与えていると指摘し、政府が方針を明確に示すよう求めた。また、2017年以降のインフレにより学費収入の実質価値が大きく目減りしており、多くの大学は留学生の募集を通じて教育や研究活動を補助していると述べた。しかし、2024/25年度の留学生の新規入学は23%の減少が予想され、大学財政の不安定さが続く見込みである。

さらに、留学生数の減少や雇用者に対する保険料引き上げによる追加コストが財政状況を悪化させており、学費上限の引き上げだけでは十分でないと指摘している。大学の財政問題は2025年の予算見直しにおいても大きな課題となり続けると警鐘を鳴らしている。

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2025-1-ministers-urged-to-provide-certainty-on-tuition-fee-plans/

 

(5)新たな大学のElsevier との契約解除

2025年1月8日University of Yorkは、財政的に持続可能な方法を採用するため、学術出版大手Elsevierとの包括的な契約を更新せず、代わりに個別のジャーナルを購読する新たな契約を結んだことが明らかになった。この決定は、財務上の理由からElsevierとの契約を解除したUniversity of Sheffieldと University of Surreyに続くものである。

Jiscが英国高等教育機関を代表して交渉した契約の一環だったこれらの大学は、いずれも大学の厳しい財政状況を背景に、契約解除を決断した。Elsevierは現在も英国の150以上の機関と契約していると述べる一方、厳しい財政状況の中で必要に応じた支援を提供するとしている。

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2025-1-another-uk-university-drops-big-elsevier-deal/

 

(6)2024年度の大学院生留学者数の減少

2025年1月9日2024/25年度、英国の大学における留学生の大学院登録が20%減少したと内務省(Home Office)のデータとBUILA(British Universities’ International Liaison Association)の調査でわかった。特にナイジェリア(-65%)、インド(-34%)、パキスタン(-31%)からの申請が大幅に減少した。BUILAのAndrew Bird議長は、過去数年の混乱が留学生の不安を生み、英国の「世界的な教育地位」を危険にさらしたとして、政策の安定を求めている。

2024年1月の「扶養家族同伴禁止」政策により、扶養家族の申請数が84%減少し、英国の魅力がさらに低下させた。2022/23年度の統計では、全日制大学院生の71%が留学生であり、この減少は大学院課程に特に大きな影響を及ぼしている。また、政府のGraduate Routeの見直しや移民・留学生への否定的なメッセージも問題視されている。

一方、2024年7月に発足した労働党政権は留学生を歓迎する姿勢を示し、教育大臣Bridget Philipson氏は「以前の保守党政権の無意味な大学との対立は終わりだ」と述べた。BUILAも政府の留学生を重視する姿勢を歓迎し、長期的で持続可能な計画を支える安定した政策を求めている。

また、UniQuestのデータによれば、2025年1月の学生登録に関して31%の成長が見られ、ポジティブな傾向が期待されている。

【英文記事】 Pie News:

https://thepienews.com/international-student-applications-uk-dip-2024-home-office-buila/

 

(7) 英国首相、AI強化の計画書を発表

2025年1月12日人工知能(AI)を活用し、英国を成長と生活水準向上の中心に据える「AI Opportunities Action Plan」が発表された。首相Keir Starmer氏は、Mat Clifford氏*の提言50項目をすべて採用し、AI産業を支援する政府の方針を明確にした。この計画は、公共サービスを変革し、経済成長を促進するため、AIを活用した新たな施策を実実現する。

主要な施策

  • AI成長ゾーンの設置: AIインフラの計画承認を迅速化するための特区を設置し、初期ゾーンはオックスフォードシャーのカルハムに。
  • 計算能力の向上: 公的なコンピューティング能力を20倍に増加、新しいスーパーコンピュータ建設に着手。
  • 国家データライブラリの創設: 公共データの価値を安全かつ効率的に活用し、AI開発を支援。
  • AIエネルギー評議会の設立: 科学イノベーション技術大臣とエネルギー安全保障・ネットゼロ(Department for Energy Security &Net Zero: DESNZ)大臣が主導し、AIに必要なエネルギー供給の課題に対応。
  • 専門家の起用: Mat Clifford氏が首相のAIアドバイザーに、さらにDemis Hassabis卿も政府に助言を提供。

投資と雇用創出

Vantage Data Centres社、Nscale社、Kyndryl社が総額140億ポンドを英国に投資。

  • Vantage Data Centre社は、ウェールズを拠点にヨーロッパ最大規模のデータセンターを建設予定。
  • Kyndryl社はリバプールにAI関連職1,000件を創出。
  • Nscale社はエセックスに英国最大の主権AIデータセンター建設を計画。

社会と経済への効果

AIは教師や医療従事者の業務を効率化し、道路管理や計画審査の迅速化にも貢献。

国際通貨基金(IMF)によれば、AIの導入で年間1.5%の生産性向上が期待され、10年で470億ポンドの経済効果が見込まれる。

政府は、これまで慎重だったAIの活用に対し、積極的な姿勢を示し、英国をAI産業の世界的ハブにすることを目指している。計画は「Plan for Change」の一環として実施され、技術・デジタルセクターの成長戦略を基盤にしている。

Mat Clifford氏*:英国の起業家で、英国の先端研究発明庁(Advance Research Invention Agency: ARIA)の議長を務め、2024年7月から英国労働党政権のAI活用機会の見直しを主導している。

【英文記事】 英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)

https://www.gov.uk/government/news/prime-minister-sets-out-blueprint-to-turbocharge-ai

 

(8)大学生活体験の短期コース開始

2025年1月13日University of Chichesterは「大学生活を味わいたい」という人のために短期で安価なコースを提供することを発表した。これらは5週間および10週間のコースで主に退職後の人々やギャップイヤー(「高校卒業」から「大学入学」までの期間)中の若い学生、また大学への再入学を考えている人々を歓迎している。

2月に開始予定のコースは9つで、科目は「チューダー朝」、「初期現代ヨーロッパの魔法と魔術」、「ブレグジット: 前、中、後」や「ロシア・ユーラシアにおけるアイデンティティと対立」などがある。その他にも、アドルフ・ヒトラーや世界文学、環境などの内容も提供される。

これらのコースは専門家によって教えられ、「最前線の研究に直接触れられる機会」として提供され、コースは、5週間で475ポンド、10週間で950ポンドである。

【英文記事】 BBC News:

https://www.bbc.co.uk/news/articles/ckgy2xklzkno

 

(9)Study London:第2弾のキャンペーン開始

2025年1月13日London Higherは「Study London」キャンペーンの第2弾として、新たに4本の魅力的な動画を公開した。この動画シリーズは、ロンドンでの学生生活をリアルに紹介し、留学生に対して英国内で学ぶための真実の情報を提供する。

新しい動画シリーズでは、ロンドンでの学びに必要な主要な側面について、実際の学生が体験をシェアしている。内容は以下の4つのカテゴリーに分かれている。:

  1. 住居: ロンドンでの学生向けの住居選択肢や、その課題、完璧な住まいを見つけるための戦略。
  2. 交通: ロンドンの広範な交通網と、学生がどのように市内を移動しているか。
  3. 仕事の経験とキャリアの機会: インターンシップやパートタイムの仕事の可能性について、さまざまな分野での実態。
  4. 学生の一日: 学生がロンドンで過ごす日常を追いかけ、学業・社会生活・個人的な体験を紹介。

新しい動画シリーズは「Study London」公式ウェブサイト(www.studylondon.ac.uk)と主要なSNSチャンネルで公開され、2025年1月13日よりロンドンの大学が#StudyLondonハッシュタグを使って参加が可能。

【英文記事】 London Higher:

Study London campaign launches second phase with content on accommodation, transport and work experience

 

(10)UKRI: 2024年職員の38%がメンタルヘルスの悪化を報告

2025年1月13日 2024年の調査によると、UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)の職員の約40%が「精神的健康状態が悪い」と報告しており、特に仕事に関連したストレスで体調が悪化したと感じている人が多いことが明らかになった。2024年の調査では、34%の職員が仕事に起因するストレスによる健康問題を認めており、これは2023年の37%からやや減少した。

また、2024年の調査結果では、7%の職員が過去12ヶ月間にいじめや嫌がらせを受けたと回答しており、これは2023年よりも2ポイント増加した数値である。さらに、13%の職員が他の人が職場でいじめや嫌がらせを受けているのを目撃したと報告している。

UKRIのCEOであるOttoline Leyser氏は、いじめや嫌がらせはUKRIでは容認できないと述べ、職員の健康と福祉が最優先であることを強調した。2024年の調査によれば、いじめや嫌がらせの中で最も多く報告されたものは同僚の評価を貶める行為(67%)、不愉快な発言(65%)、不適切な管理(53%)であった。

また、2023年にはUKRIにおけるいじめや嫌がらせの苦情が急増し、報告件数は2022年の6件から22件に増加。UKRIはこの増加を、報告機能の改善と、いじめや嫌がらせ、差別の定義についての理解促進活動によるものだとしている。

2024年の調査には5,130名の職員が回答し、回答率は59%だった。

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-research-councils-2025-1-ukri-38-of-staff-reported-negative-mental-health-in-2024/

 

(11)REF(Research Excellence Framework)2029:人々、文化、環境のパイロット版のガイダンス発表

2025年1月14日同日に公開されたガイダンスは、REF 2029のPCE(People, Culture and Environment)評価の開発に関連する作業の一環として作成された。これに関連して、2つの主要プロジェクトが進行中である。:

  1. PCEインジケーター・プロジェクト:TechnopolisおよびCRAC-Vitaeが主導し、複数のセクター団体と協力して、PCE評価のための指標を開発した。リサーチコミュニティとのワークショップやセクター調査を通じて、PCE提出を支援する指標のリストを作成した。
  2. PCEパイロット:REFチームが進行中のこのパイロットでは、REF 2029のPCE評価を試験的に実施している。参加する高等教育機関は、選ばれたREFユニットで提出を準備し、PCEインジケーターを使って評価される。

パイロットガイダンス

このガイダンスは、参加する高等教育機関が提出方法や評価方法に柔軟性を持てるように設計されており、パイロットを通じて最適化される。そのため、最終的なPCE評価の基準やテンプレートはパイロットの結果によって大きく変更される可能性がある。最終的な基準は2025年9月に発表され、REF 2029用の最終的なガイダンスは2025年冬に公開される。

PCE評価のフレームワーク

パイロットの評価フレームワークは、積極的な研究文化を促進する5つの要因(戦略、責任、接続性、包括性、発展)に基づいている。各要因に対して、どのインジケーターが有効かを異なる分野や高等教育機関の形態で検証しており、このパイロットを通じて最も適切な指標が選ばれる。

REF との関係

パイロットは、知識と理解への貢献(Contribution to Knowledge and Understanding: CKU)やエンゲージメントとインパクト(E&I)については評価しない。パイロットはPCE要素の新しい部分に焦点を当て、収入、インフラ、施設については引き続きREFの他のガイダンスに従って評価される。

詳細に関して:

PCEの開発についてはまだ議論は継続する。2月4日のタウンホールミーティングで、パイロットガイダンスを議論し、参加者の質問に答える予定。また、パイロットテンプレートとガイダンスに関する定期的なフォーラムも開催される予定である。

【英文記事】 REF2029:

https://2029.ref.ac.uk/news/guidance-published-for-the-people-culture-and-environment-pilot/

 

(12)工学生物学の衰退を食い止めるための「緊急措置」を要求

2025年1月14日英国が生物工学分野での世界的リーダーの座を失い、「深刻な危機」に直面しており、競争力を取り戻すためには「緊急の措置」が必要であるとの警告が発表された。同日に公開された英国貴族院の科学技術委員会の報告書によると、英国はこの分野の経済的・産業的利益を確保するために「わずかばかりのチャンスの機会」を持っているという。

2023年に前政権では生物工学分野に対し、今後10年間で20億ポンドの投資を行うという「国家生物工学ビジョン」を掲げたが、委員会は新政権にこの投資目標の再確認を求めている。また、他国との競争に勝つためには、少なくともこの規模の投資が必要であるとしている。

委員会はまた、企業に革新的なバイオテクノロジー投資を促すインセンティブを提供し、生物工学分野を産業戦略の中心に据え、外国からの優れた人材を引きつけるための効果的な政策を整備することも求めている。また技能実習制度(apprenticeships)など、より多くの進路を開発することも必要だとしている。

委員会の議長であるJulia King氏(元Aston University の学長)は、英国が科学革新の世界的リーダーである一方で、企業が国外に移転し投資における「死の谷」に陥ることが多い問題を指摘した。これを解決するためには、政府全体での緊急かつ連携した取り組みが求められている。

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2025-1-peers-demand-urgent-action-to-stem-engineering-biology-decline/

 

(13) 時間的な課題:なぜ大学はパートタイム大学院生を理解しないのか?

2025年1月15日英国の大学のウェブサイトに対する初期分析によると、大学院のパートタイム学習に関する実務的な情報に不足があり、これらの学習者が直面している課題への認識も不十分であることがわかった。University of Edinburghの大学院学生募集担当マネージャーであるEwan Fairweather氏は、「多くの大学でパートタイムの大学院生の採用に苦労していることは、本当に驚くべきことなのか?」と疑問を投げかけている。

現在、1月は「この一年抱負」を考える時期であり、多くの大学はこの自己改善の傾向を活用し、大学院学習希望者へのアプローチを強化している。しかし、13,000以上のパートタイム修士課程コースの選択可能であるにもかかわらず、学習者が直面する最大の課題は、学費の負担と時間の確保である。特に大学院進学希望者の中の割合が多い30歳以上の成人学生は、キャリア、人間関係、家族、養育/介護の責任、ボランティア活動、住宅ローンやその他のローンなど、時間やエネルギーを求められる責任が多いため、パートタイムを選ぶことが多い。

しかし、パートタイムプログラムに関する情報は、しばしば不明確であり、学習者にとって生活を調整する上での具体的なガイダンスが不足している。例えば、授業スケジュールが確定しない、事前に提供されないといった内容が多く、学生が重要な決定を下すのは難しくなっている。

Fairweather氏は、University of Edinburghのウェブサイトの改善に向けて調査を実施し、パートタイム大学院プログラムについての具体的な情報(「どこで、いつ、誰が、どのように」といった詳細)を提供することの重要性を指摘した。調査を通じて、いくつかの大学が示している成功事例として、University of Leeds、University of Bedfordshire、Birkbeck, University of Londonなどが、タイムテーブルや講義の詳細な情報を提供しており、特にパートタイム学生のニーズに深い配慮をしていることが挙げられた。

パートタイム大学院学生に向けた明確な情報提供をするために、以下の改善提案がなされている。:

  1. サンプルタイムテーブルの公開
  2. パートタイム学習情報の統合
  3. パートタイム課程のカリキュラムの詳細提供
  4. パートタイム学生への共感を示す温かい雰囲気でのコミュニケーション

これらの取り組みは、学生にとって役立つ情報を提供し、パートタイムプログラムをより効果的にするために重要である。 

【英文記事】 高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute:HEPI)

https://www.hepi.ac.uk/2025/01/15/a-matter-of-time-why-our-universities-cant-crack-the-part-time-postgrad-code/

 

(14) 政府、大学における言論の自由を改めて強調

2025年1月15日2023年高等教育「自由な言論」法(Freedom of Speech Act)の主要条項が当初の計画通りには施行されず、一部修正された上で施行されることになり、学生や学者、講演者の自由な言論の権利が保護されることが発表された。この法案では、大学に自由な言論を守るための実行可能な規定を求め、違反があれば学生局(Office for Students: OfS)が調査や罰則を行える権限を持っている。

主な詳細は:

  1. 言論の自由と大学の責任
  • 大学規制局(OfS)の役割

言論の自由に違反した場合、OfSが調査を行い、罰金や最悪の場合登録の停止などの制裁を課す可能性がある。

  • 大学の義務強化

大学は、自由な言論と学問の自由を確保するための実行可能なポリシー(規定)を策定・遵守することを義務付けられる。

  • 学生の権利強化

学生は、自由な言論の侵害について独立苦情調査機関(Office of the Independent Adjudicator : OIA)に直接苦情を申し立てることも可能である。

  1. NDA(秘密保持契約)の禁止

大学キャンパスにおいていじめ、ハラスメント、性的不正行為を受けた被害者を沈黙させるための秘密保持契約(non-disclosure agreement: NDA)の使用は禁止される。これもOfSによって監視・執行される。

  1. 修正と見直し
  • 不要な条項の削除

一部の過度に負担の大きい条項(例:訴訟費用が大学に多大な負担を与える法的不正行為が削除された。これにより、すでに財政的に苦しい大学にさらなるコストがかかることを防ぐ。

  • 学生組合の負担軽減

学生組合に過度な法的責任を課していた条項を削除。これにより、コスト負担や管理業務の増加を防ぎ、本来の「学生支援活動」に集中することを可能にする。

  1. 外国の影響に関する透明性
  • 外国の干渉対策

外国からの資金や影響力の透明性を高める施策が検討されている。ただし、大学やOfSへの不必要な負担を回避するため、施策は慎重に進められる。

外国の干渉に関する登録制度(Foreign Influence Registration Scheme)の導入も計画されている。

  1. 懸念と批判への対応
  • 法案の導入が一時停止されたのは、少数派学生(例:ユダヤ人学生など)の安全や福祉への悪影響が懸念されたためである。これにより、特にヘイトスピーチを助長する可能性がある条項について、政府が内容の見直しを行った。
  • 見直しの結果、「過度な制約や負担」を回避しつつ言論の自由を守る、よりバランスの取れた内容へ修正された。
  1. 政府の姿勢
  • 教育大臣Bridget Phillipson氏は、「言論と学問の自由を守る一方で、大学の財政負担や学生・職員の安全を損なわないバランスの取れた法案を目指す」とコメント。
  • 法案は今後も見直しが行われ、大学や関係者からの意見を取り入れつつ、学生や学問の場での健全な議論を促進するとしている。

この法律の変更により、大学は自由な言論を守りながらも財政負担を軽減でき、学生・職員の安全や少数派への配慮が図られるようになる。また、外国からの影響力を管理し透明性を高める施策も進められる予定。

【英文記事】 英国教育省(Department for Education:DfE)

https://www.gov.uk/government/news/government-reaffirms-commitment-to-free-speech-in-universities

関連記事:

ラッセルグループのCEO、Tim Bradshaw博士は、政府が昨夏、高等教育「自由な言論」法(Freedom of Speech Act)の施行を一時停止し、その影響を検討する時間を確保したことを評価した。今回発表された修正内容、とくに法的不正行為の削除について、不要な訴訟や高額な法的コストを回避できるとして支持を述べた。

また、大学は引き続き言論の自由を重要視し、物議を醸す意見を含め、あらゆるアイデアが議論される場を提供することに努力をしていると述べ、今後、政府やOfSと協力し、大学キャンパスにおける言論の自由と学問の自由の保護を進めていく意向を示した。

【英文記事】 Russell Group:

https://russellgroup.ac.uk/news/response-to-the-government-update-on-free-speech-at-universities/

 

(15) REF 2029 ボリューム測定と関連する実践規範ガイダンスが公開

2025年1月16日REF 2029に関する主要な変更点と新しいガイダンスを発表された。その内容は:

  1. REF 2029の量的指標と変更点
  • 量的指標:各「評価単位」(Unit of Assessment: UoA)の提出に必要な成果物とインパクトケーススタディの数を決定。組織の研究能力に比例させる仕組み。
  • 今回初めて成果物が個人ではなく「契約」に基づいて評価される。
  • 提出物はボリュームメジャーに縛られず、幅広い成果物の提出を奨励。
  1. HESAデータの活用 
  • REF 2029は、初めて高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency:HESA)のデータを利用して量的指標を算出。過去の教職員調査とは異なり、HESAデータを利用する初めての評価となる。
  • 試行期間:2024-25年度HESAの職員の記録をパイロットデータとして使用(正式算出には使用しない)。
  • 実際に量的指標の算出に用いられるデータは2025-26年度および2026-27年度。
  • 一部の機関で契約がHESAに反映されていない問題については、代替方法を開発中。
  1. ガイダンスと活用法
  • 高等教育機関のHRチームとREFマネージャー向けの新しいガイダンスを公開。具体的なデータフィールドやHESAスタッフレコードの記入方法を詳細に説明。
  • 新たな「REFQUALCONフィールド」などのフィールドや定義が明記。研究に関わる「重要な責任」や「研究の独立性」の定義はREF 2021から変更なし。
  1. コード・オブ・プラクティス(CoP)の要件
  • REF 2029に参加するHEIは、提出計画を示した「コード・オブ・プラクティス(CoP)」を承認取得する必要がある。
  • CoPは、提出物の選定やボリュームメジャーに貢献する契約の識別など、重要な決定に関する指針。
  • CoPは以下の原則を支持:
    • 正確性:提出物がセクター全体を反映する正確なものとなるように。
    • 透明性:決定プロセスの理解と公平性を確保。
    • 公平性と包括性:多様な研究者や研究成果を支援。
  1. REFディレクターのコメント
  • HESAデータの使用によりUKの研究能力の変化をより正確に把握でき、成果物と個人の結び付けを排除する助けになると指摘。
  1. 今後のイベント

REF 2029ボリュームメジャー政策とCoPに関する説明会を2025年2月11日にオンラインで開催予定。

REF 2029は、公平性と包括性を重視しながら、データ駆動型の新しいアプローチに移行していることが強調した。

【英文記事】 REF2029:

https://2029.ref.ac.uk/news/volume-measure-and-associated-code-of-practice-guidance-published/

 

(16)ガザの停戦:英国研究者が高等教育の再建の必要性を警告

2025年1月16日 英国の学者たちは、イスラエルとハマスの停戦合意を受け、ガザの高等教育の再建に向けた取り組みを開始すべきだと訴えている。

University of Birminghamの研究員Nora Parr氏によると、現地の学者たちはテントで生活しながら、ダンボールにメモを取ったり、カフェでZoom会議を行ったりして学術活動を続けている。しかし、避難者の帰還や生活環境の改善の見通しは立っていない。

Middlesex UniversityのNeelam Raina氏は、「ガザが元の状態に戻るには最低でも20年かかる」とし、教育は戦時下では優先されないと指摘。ガザの12大学のうち、つい最近まで2校が残っていたが、現在は全て破壊されたという。ガザではAIや建築学などの分野で優れた研究が行われていたが、これらの貴重な知識が一瞬で失われたと嘆く。

英国の慈善団体”危機にある学者のための評議会“(Council for At-Risk Academics Cara)のStephen Wordsworth事務局長は、単なる停戦ではなく、恒久的な戦争終結とガザの復興が必要だと強調。Caraはすでにガザの学者15人の英国大学への受け入れを確保しており、平和が確立された後も再建支援を続けると表明した。

University of GlasgowのAlison Phipps教授は、英国の高等教育大臣やUK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation:UKRI)が、ガザの学者を支援する具体的な措置を講じるべきだと主張。また、大学は学問の自由と科学的探求の自由を擁護し、沈黙を避けるべきだと訴えた。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-world-middle-east-2025-1-gaza-ceasefire-uk-academics-call-for-support-to-rebuild-universities/

 

(17)英国ビザ事情:AI関連や優秀な人材獲得のためビザ規制緩和か?

2025年1月17日、英国政府は、海外から高度なAI人材を誘致するため、ビザ政策の変更を検討している。この取り組みは、最近発表された「AI機会行動計画」に沿ったもので、AIの導入促進と経済成長を目指す50の提言が含まれている。

Keir Starmer首相は、この計画を支持し、提言の実施を目指すと表明した。その中で特に注目されるのが、Indian Institutes of TechnologyやCarnegie Mellon Universityなど、現行の「グローバル大学リスト」に含まれていないトップAI教育機関の卒業生を対象にした移民システムの改訂案である。このリスト外の卒業生は現在、”優秀人材ビザ(High Potential Individual: HPI) が利用できない状況である。

提案されている移民改革

行動計画の提言21では、新たなビザ制度の開発や、スタートアップ企業や国際人材を妨げるコストや複雑さなどの障壁を取り除くことが求められている。政府はこの提言に「部分的に合意」しているものの、既存の移民ルートも十分利用可能であると指摘している。

AI人材向けの主なビザオプションは以下の通り:

  • Skilled Worker Route:英国の認可スポンサーからの雇用オファーを持つ個人向け。
  • Innovator Founder Route:英国市場に存在しない革新的なビジネスアイデアを持つ起業家向け。
  • Global Talent Route:学術、芸術、デジタル技術分野のリーダーやリーダー候補者を対象。
  • Scale-up Worker Route:急成長する英国企業に参加する専門家向け。
  • Government Authorised Exchange Route:認可された交換プログラム下での職業訓練、研究、ワークエクスペリエンス向けの一時的なビザ。

政府はこの計画の採用によって、企業が国際的なAI専門家を雇用する手続きが簡素化される可能性を示唆している。企業は適切な移民制度を活用し、効率的に世界中の優秀な人材を確保することが求められる。

【英文記事】The Economic Times:

https://economictimes.indiatimes.com/nri/work/uk-considers-relaxing-work-visa-rules-for-top-ai-talent-from-iits-other-top-indian-schools/articleshow/117323338.cms?from=mdr

 

(18)トランプ米国大統領の復帰は世界の科学界への影響が懸念される

2025年1月20日Donald Trump氏の米国第2期大統領任期が就任式と共に始まり、世界中の科学者たちは科学、公共衛生、気候変動、研究資金に与える影響について懸念を示している。特に、前政権でのように米国がパリ協定や世界保健機関(World Health Organization: WHO)を離脱する可能性が再び懸念されている。

Trump氏が指名した科学関連の主要連邦機関の候補者にも批判がある。反ワクチン活動家のRobert F Kennedy Jr氏が保健福祉省の長官、コロナロックダウンに批判的だったJay Bhattacharya氏が国立衛生研究所(the National Institutes of Health: NIH)の所長、Lee Zeldi氏が環境保護庁の長官候補として指名され、科学的見解への懸念が高まっている。

科学界の反応と懸念

米国非営利団体「科学者連盟(Union for Concerned Scientists)」は、科学の政治利用に反対する公開書簡を発表した。署名者たちは、議会に科学的整合性を尊重し、適格性や利益相反が疑われる候補者を拒否するよう要請した。環境保護庁長官候補のZeldin氏に対しては、環境保護を軽視してきた過去の投票記録を理由に環境団体が強く反対をしている。

一方、Trump氏の長官候補選びはBhattacharya氏がNIHの長官として明らかな資格がないことも特別驚くことではない。London School of Tropical Hygiene and MedicineのMartin McKee教授は、「組織運営経験が不足しており、その影響は予測不能。科学的に言うとパンデミックの経過をこれほどに誤った見解をした人物がこの地位にいることは憂慮するべきである。」と述べた。

WHOからの離脱懸念

米国がWHOを再び離脱する場合、その影響は甚大であり、特に米国が同機関への最大の資金提供国であることを考えると、世界の健康問題への悪影響が懸念される。「米国の技術的専門性とリーダーシップを失うことは、世界と米国双方にとって壊滅的な結果を招く」とWellcome TrustのJohn-Arne Røttingen氏は述べた。

これらの懸念は、Trump政権下での科学政策がもたらす将来的な課題への警鐘として広く共有されている。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-world-2025-1-trump-s-return-prompts-concern-over-impact-on-global-science/

 

(19)新しい英国政府の留学生促進動画発表

2025年1月20日英国の教育大臣Bridget Phillipson氏が、新しいビデオメッセージで英国留学の魅力を強調し、留学後の就労機会のPRを行った。このメッセージは、英国留学生問題評議会(the UK Council for International Student Affairs: UKCISA)を通じて発信され、留学生を歓迎する内容となっている。

Phillipson氏は、英国が世界トップ10大学のうち4校を有する安全で素晴らしい学びの場であり、英国の大学教育は多くの世界的リーダーを生み出してきたと述べている。また、留学生に対して手厚い支援があることに触れ、学生生活支援、奨学金、職業体験の機会などが提供されていると紹介した。

特に「Graduate Route」を推奨し、卒業後に英国での就労や生活を通じて貢献する機会があることを強調。さらに、留学を通じて国際的な友情を築き、各国間の橋渡し役となれる点を指摘した。

このビデオの公開に際し、UKCISAのAnne Marie Graham CEOは、Phillipson氏のメッセージを歓迎。英国教育がもたらす双方向の恩恵について述べ、留学生の支援において政府との協力を続ける意向を示した。

UKCISA学生諮問グループのPedram Bani Asadi氏も「Graduate Route」の重要性を強調し、自身のキャリアへの恩恵と英国で得た経験を述べた。

労働党政権に移行して以降、留学生への歓迎姿勢は従来の保守党政権と対照的にポジティブなものになっているが、修士課程留学生の扶養家族同伴を禁止する保守党時代の決定は撤回されておらず、依然として移民政策が注目されている。

現在、英国の国際教育戦略が見直されており、新しいアプローチは今年4月から実施される予定。昨年末の「QS Reimagine Education」サミットでは、戦略の刷新に向けて卒業後の就労権改善などが議論された。

【英文記事】Pie news:

https://thepienews.com/new-uk-government-video-targets-international-students/

 

(20) 変革計画を実行のためNHSや公共サービス全体でテクノロジーとAI使用を刷新

2025年1月21日 英国政府は、AIツール「ハンフリー(Humphrey)」を含む技術やAIを活用して公共サービスの効率化、データ共有の改善、コスト削減を図る新計画を発表した。この計画により、行政手続きの遅延解消や市民の負担軽減が目指す。

主なポイント:

  • 公共サービスの近代化:行政間のデータ共有を改善し、歳入関税庁(HM Revenue & Customs:HMRC)や運転免許庁(Driver and Vehicle Licensing Agency:DVLA)などの煩雑な手続きや古い通信手段を刷新。例えば、地方自治体での死亡登録のための行列をなくし、企業が迅速に許認可を取得できる仕組みを導入。
  • AIツール「ハンフリー」の導入:新たに導入されるAIツール「ハンフリー」は、以下の機能を提供する:
  • Consult: 政府が受け取る政策に関する意見を迅速に分析するツール
  • Parlex: 議会での過去の議論を検索・分析するツール
  • Minute: 会議録を自動生成する安全なAI音声認識ツール
  • Redbox: 日々の政策要約やブリーフィング資料作成を支援する生成型AI
  • Lex: 法律の分析や要約を行うツール
  • 効率とコスト削減:ハンフリーの導入により、従来は外部コンサルタントが高額(10万ポンド規模)で対応していた作業をAIが短時間で行い、政策決定の迅速化とコスト削減を実現する。
  • 長期計画と新たな支援体制:英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)を中核とする新チームが省庁間の連携を強化し、デジタルサービスの見直しを実施。また、AI導入拡大を支援する責任あるAI諮問パネルや新しい技術設計評議会も設置。さらに、デジタル分野の専門職の報酬体系を見直し、競争力向上を図る。
  • 患者や市民サービスの改善:NHSアプリの活用による患者の自主的な医療管理や、障害者や慢性疾患を抱える人々への適切なサービス提供を進める計画が進行中。

この計画は、英国をAIの世界的リーダーとするための「AI Opportunities Action Plan」の一環で、毎年450億ポンドの生産性向上を目指している。 

 【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)

https://www.gov.uk/government/news/shake-up-of-tech-and-ai-usage-across-nhs-and-other-public-services-to-deliver-plan-for-change

 

(21)英国の大学の財政危機に直面する中、「トランスナショナル教育」の必要性を提唱

2025年1月21日SOAS University of Londonの学長であるAdam Habib氏は高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute:HEPI)に寄稿し、英国の「壊れた」高等教育資金システムに改革を必要としており、特に国際教育へのアプローチの見直しが急務であると主張した。

背景

以前の政府による移民抑制政策の影響で、留学生の募集が大幅に減少。特に、収入源として重要な大学院生の減少が問題視されている。Habib氏によれば、英国大学の修士課程を選ぶ主な理由は「就業のための資格取得」または「特定の資格の習得」であるが、前者は政治的に困難になり、後者のみでは大学の経済的維持は難しいと指摘。

「トランスナショナル教育」の提案:

Habib氏とMichael Hastings,氏(SOAS理事長)は共同執筆したブログ記事で、海外市場へのアクセス手段として、「グローバルサウス」の大学との提携によるカリキュラム開発を提案。共同教育や共同評価により高等教育のコスト構造を抑え、授業料を引き下げることで新たな市場を開拓できると述べている。

技術とスケールの活用:

パンデミック時に導入されたオンライン授業やグローバル教室を活用し、規模の拡大でコスト削減を目指すべきだと提案。学生数を増やすことで1人あたりのコストが低減し、授業料の競争力を高められるとしている。

英国大学の財政危機:

英国の大学の72%が2025-26年度までに赤字に陥る可能性があり、授業料上限の引き上げ(9,250ポンドから9,535ポンド)だけでは解決困難と警告されている。

結論:

「提携型のモデルは、英国大学と世界の大多数を占める国々の大学の財政的安定を競合させるものではない。公平な教育提携は、英国大学と世界の大多数を占める国々の大学の協力と相互利益を高める新しいビジネスモデルの一環を切り開くことを可能にする。」

HEPI: Rethinking the Financial Challenge of English Universities: https://www.hepi.ac.uk/2025/01/21/rethinking-the-financial-challenge-of-english-universities/

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2025-1-uk-universities-urged-to-look-to-global-south-for-new-markets/

 

(22)DeepMindの共同創業者:AIが研究作業を100倍高速化

2025年1月22日ノーベル賞受賞者でDeepMindの共同創業者の一人であるDemis Hassabis氏は、AIが実験作業の速度を10〜100倍向上させる潜在能力を持つと指摘している。AlphaFoldの成功によるタンパク質構造予測の広がりに加え、AIは薬剤設計や未探索分野の発見など、新たな課題にも活用されている。今後、AIは研究仮説を生み出し、新しい科学分野を切り拓く可能性があり、特に次の5〜10年が重要な変革期となると述べている。他の専門家も、AIと生物学の融合が非常に有望であることを強調し、この技術が新しい研究分野の創造を加速させると期待を示している。

【英文記事】Research Professional News :

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-world-2025-1-deepmind-boss-ai-could-speed-up-research-tasks-100-fold/

 

(23)MRCのトップ、資金制度改革への不安に配慮

2025年1月22日、英国医学研究会議(MRC)が資金提供モデルを見直し、大学内の研究ユニットへの直接支援を2025年から終了し、新しい「Cores」モデルに移行する計画を発表した。この移行に伴い、研究者や技術スタッフの給与全額支援がなくなる可能性があるため、雇用不安が広がっている。University of Glasgow やUniversity of Cambridgeの研究ユニットでは、すでに多くの職員が解雇の危機に直面している状況である。科学界からは、この移行が持つ影響を過小評価しているとして批判が出ており、600名以上の科学者が計画の一時停止を求める公開書簡を提出した。

一方、MRCの議長であるPatrick Chinnery氏は、計画を継続する方針を示しており、「影響力の大きい科学を支援する」という目標のために、新しい資金モデルの導入が必要であると述べている。このモデルでは、既存の研究ユニットが競争的な提案書を提出することでCoresへの転換を目指すことが求められている。雇用への懸念と科学研究の未来をめぐる議論が起こっている。

【英文記事】Research Professional News :

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-research-councils-2025-1-mrc-chief-listening-as-fears-mount-over-funding-overhaul/

 

(24)労働者階級の卒業生がキャリア向上のルートを失う一方、雇用者は無給のインターシップ禁止を指示

2025年1月23日に公表されたサットン・トラスト(Sutton Trust)の新しい調査によると、キャリアへの重要なルートであるインターンシップへの参加率で、労働者階級と中産階級の卒業生の間の格差が拡大していることが明らかになった。この要因として、企業がインターンに十分な報酬を支払わないことや、雇用機会を家族や知人に優先して与え、公に募集しないことが挙げられている。また、政府は企業がインターンに無償または最低賃金以下で働かせる違法行為に対する規制強化を発表する予定である。

調査結果の概要:

  • 51%の卒業生がインターンシップを経験しており、2018年から12ポイント増加。
  • 中でもロンドン在住の卒業生の参加率が高く、西ミッドランド、ヨークシャー、スコットランド、ウェールズなどと比べて顕著な地域差がある。
  • 卒業生の約3分の1が、インターンシップが現在の仕事に就くきっかけとなったと回答。

階級間格差の拡大

  • インターン経験者の割合は、中産階級で55%、労働者階級で36%と、2018年の12ポイント差から20ポイント差に拡大。

報酬に関する問題

  • 近年でも61%のインターンシップが無報酬または低報酬。
  • 無償または低報酬のインターンシップ経験者は、親からの資金援助(40%)、無料での実家暮らし(39%)、貯蓄の利用(29%)に依存。
  • 法律では最低賃金の適用が義務付けられているものの、法の解釈や執行の不備で、違法行為が見逃されている。

企業の意見と現状

  • 17%の企業が最低賃金以下のインターンシップを提供し、9%が無償で提供。
  • しかし、大多数(75%)が無償インターンシップの禁止は提供機会を減少させないと回答。
  • 無償インターン禁止を支持する企業は38%、現行法のより良い執行を求める企業は30%。

採用プロセスの課題

  • インターンシップの多くが公募されておらず、家族・知人のネットワークで見つけたもの(20%)が、広告(11%)を大きく上回る。

この調査は、労働者階級の卒業生が社会資本の欠如によりインターンシップにアクセスしにくい現状を示し、インターンシップ政策やその公正な実施に向けた改善の必要性を明らかにしている。

【英文記事】Sutton Trust :

https://www.suttontrust.com/news-opinion/all-news-opinion/employers-support-ban-on-unpaid-internships-as-working-class-graduates-lose-out-on-growing-route-into-careers/

 

(25)学生の住民税免除が税収不足の一因に

2025年1月24日 ブリストル市議会の会合で、市の財政が学生の住民税(カウンシル・タックス)免除により年間260万ポンドの税収を失っていることが報告された。2023年には市内に43,700人の全日制学生(18歳以上)が住んでおり、ゴミ回収や公園管理などの公共サービスを利用しているにもかかわらず、税負担がないため、市の財政に負担がかかっている。

Caroline Gooch市議は、大学のある都市は非大学都市や農村地域に比べて学生の税免除の影響を強く受けるため、政府は地方自治体向けの補助金制度を導入すべきと主張。一方で、学生の存在が夜間経済やホスピタリティ業界に貢献している点も指摘された。

市議会では、学生用住宅の急増とその質の問題も議論され、一部の新築アパートでは国の居住基準を満たしていないケースもあることが懸念されている。

University of BristolとUniversity of the West of England(UWE))の広報担当者は、学生が地域経済に大きく貢献していると主張。UWEは「毎年4億ポンド以上を地域経済にもたらし、3,500以上の雇用を支えている」とし、University of Bristol「2022/23年度には学生とその訪問者が3億1,800万ポンドを地域経済に貢献し、5,270人分の雇用を支えた」と述べた。

【英文記事】BBC News :

https://www.bbc.co.uk/news/articles/c8r5g44gzvzo

 

(26)ブリティッシュ・カウンシルが深刻な財政難に直面

2025年1月25日 ブリティッシュ・カウンシルは今後10年以内に「消滅」の危機にあり、英国の文化的影響力や外交力を大きく損ねる可能性があると、同カウンシルのCEO であるScott McDonald氏が警鐘を鳴らした。同機関は現在、2億ポンドのコロナ下での融資返済に苦しんでおり、さらに年間予算削減が2.5億ポンドに及ぶため、100か国で展開している活動のうち30~40か国で事業撤退を検討している。

ブリティッシュ・カウンシルでは全収入の85%を英語教育事業や商業活動から得ているが、政府からの融資の金利や短期再承認の必要性が財政不安定となっている。

McDonald氏は「融資をより低金利で長期返済可能な条件に変更してほしい」と政府に訴えており、2.5億ポンドの予算削減が必要な現状では所有している芸術コレクションの売却も余儀なくされる可能性があると述べている。

同機関は英国のソフトパワーを支え、観光、留学、文化的交流の促進に寄与している。芸術家や教育分野でもその存在感が高く、カウンシルと連携したアーティストからは大きな影響を受けたとの声もある。所有している2億ポンド相当の芸術コレクションを政府に提供しローンの帳消しを提案したが叶わなかった。

同機関の撤退が進むと、ロシアや中国が代わりに影響力を強める恐れがあると指摘されている。

ドイツのゲーテ・インスティトゥート(Goethe-Institut)やフランスのアリアンス・フランセーズ(Alliance Française)が年間約900億ポンド~600億ポンドを受け取る一方、英国のブリティッシュ・カウンシルの政府補助金は1.6億ポンドである。McDonald氏は「小国ポルトガルですら2.5億ポンドを投資している」と指摘している。

政府は融資条件の改善や追加資金の提供を検討し、同機関の事業継続を支援する必要がある。

政府外務省は「融資の回収を進めるが、ブリティッシュ・カウンシルの財政安定を確保する」とコメントしたが、十分な追加資金の提供については明確ではなかった。

McDonald氏は「カウンシルの存在が英国の文化的地位と国際影響力に不可欠である」と強調した。

【英文記事】Guardian :

https://www.theguardian.com/politics/2025/jan/25/british-council-could-disappear-within-a-decade-says-chief-executive 

関連記事:

2025年1月25日 英国のソフトパワー機関であるブリティッシュ・カウンシルが財政難に陥る一方で、政府外務省がソフトパワー推進協議会を新しく設立したことは矛盾している。パンデミックで英語教育収入が激減した同機関は、このままでは2年以内に消滅する危機に瀕している。ソフトパワーの重要性は依然として高いが、その現在は文化交流から科学技術力へと変化している。ブリティッシュ・カウンシルとBBCワールドサービスは、英国のソフトパワーの核であり、特に英語は国際的な共通言語として重要性を増している。これらの機関への予算削減は、英国の国際的影響力を弱めることになるため緊急な対応を求めている。

【英文記事】Guardian :

https://www.theguardian.com/politics/2025/jan/25/why-the-financial-crisis-at-the-british-council-matters-as-uk-pushes-soft-power

 

(27)大学ランキングを見直す時が来ているのか?

2025年1月27日 大学を選ぶ際にランキングを参考にすることが多い。「ランキングは確実に信頼できる調査が行われているはず」と考えられており、多くの人がランキングを重要視しているのが現状である。しかし、教育の質やキャリアの向上などをランキングで直接比較することは難しいとの指摘もある。ランキングは学校のマーケティング手段として広く利用され、有用ではあるが、近年は学者や教育関係者から批判を受けることが増え、学生からも信頼が薄れてきている。例えば、収入など測りやすい指標ばかりに重点が置かれることや、学校がランキング向けにデータを操作する可能性があるといった課題がある。ランキングが注目されすぎることで、大学同士が競争を激化させている。

一方で、ランキングには学校を国際的にアピールする手段としての価値があるともされている。また、ランキングを改善する動きも見られている。例えば、順位付けではなく階層化するランキングや、持続可能性や社会的影響に特化したランキングの登場してきている。大学側もランキング基準をわかりやすく提示するなど、透明性の向上が求められている。

いずれにしろ、ランキングが教育の本質を完全に表せないのは明らかである。教育の効果を測る指標として、学生の社会的地位の向上や奨学金獲得者の数を取り入れるべきだという意見もある。ランキングを見ること自体を否定するのではなく、情報の一つとして参考にし、他の要素とバランスよく検討することが大切である。

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/is-it-time-to-rethink-university-rankings/

 

(28)学生局は器用に効率的に動く必要がある

2025年1月28日 元大学担当大臣で現FutureLearn議長のJo Johonson氏(貴族院・保守党議員)は、高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)に寄稿した。同氏は、David Cameron氏、Theresa May氏、Boris Johnson氏の各政権で大学担当大臣を務め、現在はDyson Institute of Engineeringの理事やKing’s College Londonの客員教授も兼任している。

その内容は英国の高等教育規制局である学生局(Office for Students:OfS) の新しい5年戦略案を評価しつつ、その問題点を指摘している。

良い点として、教育評価制度 (Teaching Excellence Framework:TEF)が重視されていることを挙げている。しかし、最大の問題点として、OfSが新規参入者の登録と学位授与権限 (Degree Awarding Powers: DAPs) の申請を「一時停止」したことを批判している。これは、財政的に苦境に立たされている既存の教育機関に焦点を当てるためという理由であるが、新規参入者、特に中小規模の専門教育機関のイノベーションを阻害するとしているという。

記事は、OfSが常に何かしらの理由をつけてイノベーションを後回しにしていることを批判し、これは法律で定められた義務を怠っていると指摘している。また、この一時停止が長期化する可能性を懸念し、政府が授業料の値上げを認めなければ、教育機関の財政状況はさらに悪化するだろうと述べている。

さらに、OfSが新規参入者の登録とDAPsの申請を停止している一方で、財政的に苦しい教育機関の救済にばかり注力している現状を批判し、他の機関が学位授与権限を引き継ぐための合併・買収を支援するよう求めている。そうでなければ、学生の利益を損なう可能性があると警告している。

最後に、OfSが高等教育質保証機関(Quality Assurance Agency:QAA)の後継となる新たな品質保証機関を任命しないことにも疑問を呈し、もしOfSが自身の重要な責務を速やかに再開できないのであれば、他の組織にその役割を委ねるべきだと主張している。

【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)

https://www.hepi.ac.uk/2025/01/28/the-office-for-students-needs-to-walk-and-chew-gum-by-jo-johnson/

 

(29)英国高等教育職員統計2023/24年度

2025年1月28日 高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency:HESA)より英国高等教育職員統計2023/24年度が発表された。2023年12月1日時点で、英国の高等教育機関に雇用されている学術職は246,930人で、前年より3%増加した。学術職の国籍は、英国籍が66%(前年67%)、EU籍が15%、非EU籍が18%だった。

教授職の割合:2023/24年には、教授職のうち女性の割合が32%となり、毎年1ポイントずつ増加する長期的な傾向が続いている。黒人教授の割合は1%のままで、人数は210人から250人(女性70人、男性180人)に増加した。

雇用形態と職務内容:2023年12月1日時点で、有期契約の学術職は全体の29%(前年30%)。職務内容別では、43%が教育・研究の両方を担当し、36%が教育のみ、20%が研究のみを担当していた。

同日、公的統計データとして2つの公開資料が発表された。

Higher Education Staff Statistics: UK, 2023/24:https://www.hesa.ac.uk/news/28-01-2025/sb270-higher-education-staff-statistics

【英文記事】高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency:HESA)https://www.hesa.ac.uk/news/28-01-2025/higher-education-staff-statistics-and-data-202324

 

(30)英国財務大臣、経済再生へさらに迅速な対応と新たな一歩

2025年1月28日英国のRachel Reeves財務大臣は、政府の「変革計画(Plan for Change)」を加速させ、経済成長を促進するための新たな戦略を発表した。その中心となるのが、オックスフォード・ケンブリッジ経済成長地域(Oxford-Cambridge Growth Corridor)の開発計画 であり、2035年までに最大780億ポンドの経済効果 をもたらすと期待される。

主要施策と発表内容

  1. オックスフォード・ケンブリッジ経済成長地域の発展
  • 英国を「ヨーロッパのシリコンバレー」とする構想の一環として、AI・ライフサイエンス・高度製造業などの分野の成長を加速。
  • University of Cambridgeが大規模イノベーションハブを開設予定。
  • 科学閣外担当大臣であるLord Patrick Vallanceが「オックスフォード・ケンブリッジ成長地域推進役」に任命され、政府主導でプロジェクトを推進。
  1. インフラと住宅整備の強化
  • 東西鉄道(East West Rail)の拡充 により、オックスフォード〜ミルトンキーンズ間の新路線を開設し、ケンブリッジへのアクセス向上。
  • A428道路改良計画(ブラックキャット〜カクストンギベット間)を進め、ミルトンキーンズ・ベッドフォード・ケンブリッジ間の移動時間を短縮。
  • テンプスフォード(Tempsford)に新駅を建設 し、ロンドンへの直通アクセスを提供。
  1. 住宅開発と都市計画
  • 環境庁がケンブリッジ周辺の開発規制を緩和し、4,500戸の新規住宅を建設可能に。
  • ケンブリッジ・グロース・カンパニーと連携し、「インフラ優先型開発戦略」 を策定。
  • オックスフォードにも「成長委員会(Growth Commission)」を設置し、住宅・インフラ開発の課題を解決。
  1. 科学技術・医療分野への投資
  • 「AI成長ゾーン(AI Growth Zones)」の設立 を発表。初のゾーンはオックスフォードシャー州カルハム(Culham) に設置され、AIデータセンターや関連インフラを集約。
  • ケンブリッジがん研究病院(Cambridge Cancer Research Hospital)を新病院プログラムの優先案件として承認。アストラゼネカやCRUKと連携し、年間10件の臨床試験を実施 予定。
  1. 水インフラの強化
  • 政府が水道会社の水資源管理計画を承認 し、79億ポンドの投資を解禁。
  • 9つの新貯水池を建設(フェンズ貯水池・アビンドン貯水池など)し、ケンブリッジ・オックスフォード地域の成長を支援。

背景と政府の戦略

  • 低成長を克服し、地域経済を活性化するため、国家富裕基金(National Wealth Fund : NWF) や投資庁(OfI) を活用し、地域リーダーと連携。
  • 大手製薬企業モデナ(Moderna)がオックスフォードシャーに新ワクチン生産・研究施設を開設し、10億ポンドを投資。
  • 英政府は、地域ごとに特化した成長戦略を策定し、地方自治体や大学、産業界との連携を強化。

関係者のコメント:

Rachel Reeves財務大臣:

「英国は世界をリードする科学技術とイノベーションの拠点になれる。だが、その潜在力は長らく制約されてきた。私たちの「変革計画(Plan for Change)」 は、英国経済の行き詰まりを打破し、新たな成長の道を切り拓くものだ。」

Lord Patrick Vallance氏(オックスフォード・ケンブリッジ経済成長地域推進役):

「英国はシリコンバレーやボストンクラスターの成功を再現できる力を持っている。政府の「変革計画」 は、短期的な視点を超え、長期的な成長基盤を築くものだ。」

まとめ:

政府はオックスフォード・ケンブリッジ成長地域の開発を軸に、インフラ・住宅・科学技術・医療分野への大規模投資を推進することで、英国経済を再活性化させる計画である。特に、AI・ライフサイエンス分野の成長を加速し、「欧州のシリコンバレー」実現を目指す 取り組みが注目されている。

【英文記事】英国財務省(HM Treasury ):

https://www.gov.uk/government/news/reeves-i-am-going-further-and-faster-to-kick-start-the-economy

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2025年1月29日国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB)は財務大臣がオックスフォード-ケンブリッジ経済成長地域の経済成長を促進するための投資と規制改革を発表したことを歓迎した。

NCUBの政策・エンゲージメント責任者であるRosalind Gill氏は、同地域が欧州屈指のイノベーション拠点である一方で、インフラの未整備や住宅不足が成長の妨げとなっていると指摘。財務大臣の投資加速の方針を評価しつつ、英国全体のイノベーション強化が不可欠だと強調した。

また、英国の研究開発(R&D)投資の約500億ポンドは主に企業が担っているものの、近年その投資額が停滞していることを懸念。経済成長には、規制の障壁を取り除き、企業主導のR&Dを促進することが必要であり、「科学超大国(サイエンス・スーパーパワー)」実現には今すぐ行動を起こすべきだと訴えた。

 【英文記事】国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB):

https://www.ncub.co.uk/insight/ncub-backs-chancellors-push-to-break-barriers-and-boost-investment/

 

(31)新たに4大学が人員削減を発表

2025年1月28日英国の高等教育機関が財政危機に直面する中、Cardiff University、Durham University、University of East Anglia(UEA)、University of Kentが新たに人員削減を発表し、合計750人以上の職が失われる見通しとなった。

Cardiff University: 400人の学術職を削減し、古代史、現代語・翻訳、音楽、看護、宗教・神学などの学科を閉鎖予定。大学側は「教育と研究の向上のために困難な決断が必要」と説明している。

Durham University: 2024年から25年にかけて、職員の自主退職制度を導入し、200人以上の削減を計画。2年間で合計2000万ポンドの人件費削減を目指しており、強制解雇の可能性も否定できないとしている。

UEA: 財政健全化のため、163人の削減を計画。自主退職制度で対応予定だが、大学組合(University College Union:UCU)はストライキの可能性を示唆しており、強制解雇の有無が争点となっている。

University of Kent:「短期的な自主退職制度」を導入し、留学生の減少と国内学生の競争激化への対応を進める。一方、カリキュラム改革や雇用支援強化も計画中。

また、Newcastle University は研究時間の削減と300人の削減を含む3000万ポンドのコスト削減を発表しており、英国の大学全体で厳しい財政状況が続いている。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2025-1-university-of-east-anglia-to-cut-163-jobs-amid-11m-deficit/

(32)英国、EUとの研究協力を強化:Horizon Europeへの参加促進

2025年1月30日 英国の科学大臣Peter Kyle氏は、EUとの科学技術協力を強化するための新たな取り組みを発表した。同氏は欧州委員会の関係者と会談し、Horizon Europeへの英国の参加を促進するための全国的な広告キャンペーンを開始するとともに、英国が4つの欧州研究インフラコンソーシアム(European Research Infrastructure Consortia: ERIC)に参加することを発表した。

EUは2023年には3800億ユーロ以上を研究開発に投資しており、英国とEUの研究者の連携が、経済成長、医療改革、クリーンエネルギー推進などの政府の目標達成に重要であると強調されている。特に、AI技術の活用やスーパーコンピューター開発などでの協力が不可欠とされている。

Horizon Europeへの英国の参加は順調に進んでおり、最新のERC Synergy Grantsでは英国の採択プロジェクト数が18件となり、参加国中で2位となった。今後、政府はさらに英国の研究者や企業のHorizon Europeへの参加を支援するため、全国でのイベント開催や資金・ネットワーク支援促進する。

さらに、英国のイノベーターとEUの研究者とのネットワークを強化するため、UKRIに属するInnovate UKがイタリア、ドイツ、スペインで「Horizon Europe ブローカーイベント」を開催予定。

英国が参加する4つの欧州研究インフラコンソーシアムは以下の通り:

  • ヨーロッパ・ホロコースト研究インフラ
  • 文化遺産科学のための欧州研究インフラ
  • 低周波電波望遠鏡(LOFAR)
  • 河川・海洋システムの高度研究国際センター

これらの連携により、英国の研究者は歴史学、天文学、環境科学などの分野で国際協力を進めることが期待される。

【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/uk-redoubles-horizon-push-as-kyle-forges-deeper-ri-links-with-eu

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2025年1月30日 英国は、EUの研究助成プログラム「Horizon Europe」への参加を促進するため、新たな広告キャンペーンや説明会を開始した。これは、EU離脱後に弱まった研究協力の回復を目指している。

科学大臣であるPeter Kyle氏は1月29日にブリュッセルでEUの新欧州委員3名と会談し、「気候変動や公衆衛生などの課題解決には、英国とEUの優秀な研究者の協力が不可欠」と述べた。

英国は2023年の外交交渉の成果により、2024年から正式にHorizon Europeに再参加。ただし、2024年の助成獲得額は約3億ユーロにとどまり、前プログラム「Horizon 2020」では年間10億ユーロ以上を得ていたのと比べ大幅に減少。再参加決定が2023年9月と遅れたため、多くの助成金の申請期限を逃したことが影響している。

しかし、英国政府は楽観的な見方を示し、ERC(欧州研究会議)のSynergy Grantsで英国が18件の助成を獲得し、ドイツ(34件)に次ぐ成果を上げたことを強調。さらなる支援策として、Innovate UKがイタリア・ドイツ・スペインで研究者向けの交流イベントを開催予定。また、British Academyは最大1万ポンドの助成金を提供し、英国の研究者がHorizon Europeに応募しやすくする方針。

【英文記事】Science Business:

https://sciencebusiness.net/news/horizon-europe/uk-launches-fresh-push-drum-horizon-europe-interest

 

(33)臨床研究者の減少に早急な対策が必要

2025年1月30日 新たな報告書によると、臨床研究者の減少が国民の健康と経済に深刻な影響を及ぼすため、早急な対応が求められている。

臨床研究者(医師、歯科医、公衆衛生専門家、看護師、助産師など)が担う研究は、NHSの持続可能性向上や患者の治療・診断・予防策の改善に不可欠であるが、医学的訓練を受けた研究者の数は絶対数・割合ともに減少しており、特にNHSの拡大に伴い、臨床研究の人材育成が追いついていない現状が浮き彫りになっている。さらに、高齢化による研究者の退職が進み、新規参入者が不足していることも問題視されている。この減少は英国のライフサイエンス分野の国際競争力の低下にもつながり、医療研究への投資減少や、国外企業の撤退リスクを高める可能性がある。

この報告書では、特に医学的資格を持つ研究者(医師、外科医、麻酔科医、GPなど)に焦点を当て、以下の対策を提案している。

  1. 全国共通の臨床研究キャリア枠組みの確立:国際的に競争力のある研究者を育成するための統一的なキャリアパスを整備
  2. 柔軟な研修制度の導入:多様な進路を可能にする「出入り自由な」研修プログラムを設計し、キャリア選択の柔軟性を高める
  3. リーダーシップとメンタリングの強化:若手研究者が初期段階から指導を受けられるよう、経験豊富な研究者による指導体制を強化
  4. 公平な給与体系とキャリアアップの透明化:研究成果に基づく公平な昇給制度の導入
  5. 研究者の業績評価の適正化:研究成果や貢献度を正当に評価するシステムを確立
  6. 政策の効果的な監視と評価:導入された施策の進捗を継続的にモニタリングし、必要に応じて改善

英国医学研究会議(Medical Research Council: MRC)のPatrick Chinnery教授は、「臨床研究は医療のイノベーションを牽引する重要な要素であり、今回の報告書が提案する対策を政府と連携して迅速に実施することが必要」と強調した。

また、保健省(Department of Health and Social Care: DHSC)と国立医療研究・ケア研究所(National Institute for Health and Care Research:NIHR)の最高責任者であるLucy Chappell教授は、「高品質な研究を推進し、優れた臨床研究者を育成することで、英国の科学的卓越性をさらに発展させる必要がある」と述べ、政府や大学、研究機関と連携して課題解決に取り組む姿勢を示した。

 英国各地域の取り組み:

北アイルランド(Ian Young教授)

全国規模の臨床研究フレームワークの必要性を強調し大学や産業界との連携を強化。

スコットランド(Dame Anna Dominiczak教授)

NHSとライフサイエンス分野の発展のために臨床研究者育成が不可欠であると指摘。

ウェールズ(Monica Busse教授)

政府・大学・研究機関が連携して、臨床研究者が働きやすい環境を整備すべきと述べ、具体的な政策実施の重要性を訴える。

報告書の結論としては、臨床研究者の減少を食い止めるためには政府・NHS・研究機関・産業界が協力し、戦略的かつ迅速な対策を実施する必要があると強調している。特に、既存の制度を活用しつつ、より柔軟で公平なキャリアパスを確立することで、若手研究者の参入を促すことが鍵となる。この問題に対する対応が遅れれば、英国の医療と経済の将来に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、直ちに実行に移すことが求められている。

【英文記事】UKリサーチ・イノベーション(UK Research &Innovation:UKRI)

https://www.ukri.org/news/report-calls-for-action-to-tackle-decline-in-clinical-researchers/

 

(34) UKRI:博士号奨学金の増加と学生支援の強化

2025年1月30日 UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)は、2025年10月1日より博士課程学生への最低助成金を8%増額し、20,780ポンドとすることを発表した。これは2003年以来、実質的に最大の増額となる。また、博士課程の研修助成金に関する規約の改定も行い、2025〜2026年度から適用される。

主な変更点

  • 医療休暇の延長:最長28週間の取得が可能に
  • 延長手続きの緩和:医療休暇や追加休暇を取った学生が助成期間を延長しやすくなる
  • 障害のある学生への支援強化:支援を受ける際の障壁を取り除く
  • 透明性と公平性の向上:学生が適切に扱われるよう制度を改善

UKRIは「博士課程研究者の新しい支援制度(New Deal for Postgraduate Research)」の一環として、博士課程の研究環境を改善し、機会の平等を推進することを目指す。

キャリアの多様化とアクセス拡大

UKRIの最高責任者(CEO)のOttoline Leyser氏は、イノベーション主導型経済に必要な人材育成のために博士課程の支援が不可欠であると強調。今回の助成金増額と規約改定が、多様な人材の参加を促し、研究やイノベーション分野のキャリアにアクセスしやすくすることを目指していると述べた。

最低助成金の増額

助成金の増額は、博士課程学生の所得が全国最低賃金と同等以上となることを保証するためである。今後、最低賃金の変動やUKRIの財政状況を考慮しながら、さらなる調整を検討していく予定。

UKRIはまた、研究機関や助成金受給者からのフィードバックをまとめた報告書を公開し、最低賃金との整合性を図る方針を支持する声が多いことを示した。今後の最低助成金の設定方法については、低賃金委員会(Low Pay Commission)の動向やUKRIの予算状況を考慮しながら、随時更新していく予定である。

学生支援の強化と新規ルールの適用

助成金の新ルールは、2025/2026年度から適用され、UKRIの資金を受ける研究機関は準備を進める必要がある。また、今回の変更により、学生支援の柔軟性が向上し、各研究機関が学生のニーズに合わせたサポートを提供が容易になる。

この改革は、すべての学生が公平にサポートを受けられる包括的なシステムの構築を目指すものであり、より良い研究環境が最終的に学業成果の向上につながることを示すエビデンスに基づいている。

その他の変更点

  • 博士課程の最低授業料:2025年度から4.6%増の£5,006に引き上げ(過去数年の価値低下を補うため)
  • 博士課程の教育コストの再評価:2025年後半に研究機関のパネルを設立し、博士課程教育の経済的コストを検討
  • 研究助成データ管理の変更:
  • Je-S Studentship Details Functionality(SDF)の廃止(UKRI Funding Serviceへの移行のため)
  • 新たなUKRI学生助成データポータル(UKRI studentship data portal)の詳細は2025年春に発表予定

UKRIは、博士課程学生の経済的負担を軽減し、より多くの人が研究の道に進めるよう支援するとともに、助成制度の透明性と公平性を高める改革を進めている。

【英文記事】UK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)

https://www.ukri.org/news/ukri-is-increasing-phd-stipends-and-improving-student-support/

 

(35)英国大学、留学生減少でコース削減もTNE拡大が加速

2025年1月31日 Cardiff University は、留学生の減少と財政的圧力を理由に、400人の人員削減と看護・現代語・翻訳・音楽などのコース廃止を発表。特に看護学科の閉鎖は、深刻な看護師不足に直面するウェールズの医療機関に悪影響を及ぼすと懸念されている。

一方、英国の大学はトランスナショナル教育(TNE)を拡大しており、英国以外の国で英国の学位を取得する学生が増加。英国TNE学生数は2019-20年の約43万人から2022-23年には約58万人に増え、今後もさらなる成長が見込まれる。英ブリティッシュ・カウンシルの専門家は「TNE学生数が英国に来る留学生数を上回るのは時間の問題」と指摘。

この流れを受け、University of Surreyはインド、University of Exeterはエジプトに新たな海外キャンパスを設立すると発表。海外キャンパスはTNEの一部にすぎず、提携大学との共同プログラムやオンライン学習など、多様な形式で英国の高等教育が提供されている。

専門家によると、TNEは単なる留学生の代替ではなく、留学費用の節約や各国の教育政策と連携した持続可能な成長戦略として重要視されている。英国大学の国際戦略も、TNEの拡大を前提とした方向へシフトしつつある。

【英文記事】University World News:

https://www.universityworldnews.com/post.php?story=20250131095822109