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UK HE Information

2024年12月英国高等教育及び学術情報

2025年1月29日

(1) UKRIが地域課題研究のため地域域コミュニティに900万ポンドの提供

(2) REF2029の主要パネル議長発表

(3) 社会的流動性で伝統的な大学を凌駕する新しい大学

(4) University of Oxford : 米国の新興技術研究所が共同プログラムに投資

(5) REF「人・文化・環境」パイロットプログラムの審査員が決定

(6) 大学の苦境がEUの若者移動計画を「英国にとって困難」に

(7) 英国とスイス、科学分野の提携を深める 1600万ポンドを支援

(8) 2024年学生家賃調査:ロンドンの平均学生家賃が生活費ローンの上限を上回る

(9) ロンドン・ハイヤー: 都市の研究開発範囲の対話型地図を公開

(10) 新報告書:情報の充実が、より多くの人々にレベル4/レベル5の資格取得の恩恵を受ける

(11) REF2029:オープンアクセスに関する方針発表

(12) 民間研究開発投資の減少を浮き彫りにする新データ

(13) 学生局:新戦略提案で今後5年間のビジョンを発表

(14) HEPIの報告書:中国人留学生が英国の大学で十分な支援を受けているかどうかを問う

(15) 2024年の18歳の大学・カレッジ進学者数

(16) 英国半導体の韓国代表団募集

(17) 人工知能研究所:理事長、不信任書簡を受けたCEOを支持

(18) 優先的な技術に対する日英の共同投資

(19) University of Edinburghでのスコットランド出身学生の少数派状況と差別

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(1) UKRIが地域課題研究のため地域域コミュニティに900万ポンドの提供

2024年12月2日UK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)は、地域住民を研究プロセスに参加させるため、900万ポンドを投資し、地域の研究課題設定を支援する取り組みを発表した。この5年間の公共参画投資は、地域の優先課題に取り組むことを目的としており、コミュニティが「自分たちにとって重要な問題に取り組むための知識やスキル、ツールを開発する」ことを支援する。

この背景には地域優先の研究への関心が高まっており、科学工学キャンペーン(Campaign for Science and Engineering: CaSE)や労働党、保守党の政治家たちは、地域開発における研究開発の重要性を強調しているためである。UKRIのCEO Ottoline Leyser氏は、「R&I(研究とイノベーション)は、誰もがどこでも参加できるものであるべき」という信念を述べ、このプログラムを「地域の重要な課題解決に向けて、コミュニティに資金を直接提供する大きな転換点」と位置づけている。

その取り組みの内容として、英国全土の9つのセクター横断型ネットワークに資金を提供し、地域主導型研究の能力構築を目指し、困窮地域、メンタルヘルス、観光、文化、遺産などのテーマに取り組むことも含まれている。

国立公共参画調整センター(National Coordinating Centre for Public Engagement)の共同ディレクターであるPaul Manners氏は、この新しい投資が「研究テーマ決定のプロセスを再調整し、多くの人々が研究に参加できるようにする意義」を強調した。

非営利研究組織ヤング・ファウンデーション(Young Foundation)はUKRIと協力してこのネットワークを構築しており、同組織のCEO Helen Goulden 氏は、「地域のニーズを最もよく理解しているのは地域住民であり、複雑な社会課題解決の鍵を握る」と述べた。このプログラムを通じ、英国全体のコミュニティ研究を支える新しいインフラの形成に寄与することを目指している。

UKRI: https://www.ukri.org/news/investment-to-address-regional-priorities-with-uk-communities/

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-research-councils-2024-11-ukri-gives-local-communities-9m-to-set-research-agendas/

(2) REF2029の主要パネル議長発表

2024年12月3日、REF 2029の4つの主要パネルの議長が発表された。主要パネルは、REF評価を行うサブパネルへの指導や支援を提供し、REF 2029の計画と実施に関する助言を行う。また、議長は研究セクター内でREFの使節団的な役割を果たし、主要パネルおよびサブパネルの募集・育成にも取り組む。

REFディレクターのRebecca Fairbairn氏は、「REF 2029の主要パネル議長に経験豊富なリーダーを迎えられることを嬉しく思う。彼らの専門知識と献身は、REFチームやステアリンググループ、そして研究セクター全体に大いに貢献することにあるであろう。」と述べている。

各主要パネルの議長:

パネルA(医学、健康、生命科学)

議長:Louise Kenny CBE教授(University of Liverpool)

コメント:「UKは健康・生命科学の研究革新で世界をリードしており、REFは政府や資金提供者、国民に対して研究の質と影響を示す重要な枠組みである。」

パネルB(物理科学、工学、数学)

議長:Tom Rodden教授(University of Nottingham)

コメント:「REFは、大学が実施する素晴らしい研究とその影響を示す重要な仕組みです。同僚と協力しながらプロセスを導くことを楽しみにしている。」

パネルC(社会科学)

議長:Jane Falkingham教授(University of Southampton)

コメント:「REFは独立した研究を追求するための重要な支援を提供するもので、特に2029年の新しい研究文化への重点を歓迎する。」

パネルD(芸術・人文科学)

議長:Greg Walker教授(University of Edinburgh)

コメント:「芸術・人文科学の研究とその社会的利益を祝う機会を得られることを光栄に思う。」

各議長はそれぞれの分野におけるREFの重要性を強調し、公平で透明性のある評価を実現するために尽力する意欲を示している。

【英文記事】 REF2029:

https://2029.ref.ac.uk/news/chairs-confirmed-for-the-four-ref-2029-main-panels/

 

(3) 社会的流動性で伝統的な大学を凌駕する新しい大学

2024年12月3日2024年の「イングランド社会的流動性指数(Social Mobility Index)」では、不利な立場にある学生への社会的価値を測る指標として、新設大学が上位10校の大半を占めた。この指数は、高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute:HEPI)がLondon South Bank Universityと共に作成したものである。

1960年代に大学となったUniversity of BradfordとAston Universityが1位と2位を獲得。1992年以降に大学となったUniversity of Wolverhampton(3位)とUniversity of Bolton(4位)が続き、1967年に大学となったUniversity of Salfordが5位にランクインしました。ラッセルグループで最も上位にランクインしたのは、10位のLondon School of Economics(LSE)であった。

教育大臣Bridget Phillipson氏は、自身が「大変不利な地域で育ったにも関わらず大学に進学できた」ことに触れ、「若者の成長地と機会の関係を断ち切ることが重要」と述べた。さらに、「大学を機会や成長、希望のエンジンに戻すため、包括的な改革を通じて、労働者階級の若者の進学機会を拡大する」と表明した。London South Bank Universityの学長であり、この指数を作成したDavid Phoenix氏は、「全国の大学が障壁を打破し、機会を広げていることを再確認させる」と述べた。また、この指数が大学にとって「不利な学生を支援するための優秀な事例を特定し、各大学の使命に応じた方法を考えるための有用なツールになる」と期待を寄せている。 

HEPI 2024 English Social Mobility Index: https://www.hepi.ac.uk/2024/12/03/social-mobility-index-2024/

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2024-12-new-universities-outdoing-older-institutions-on-social-mobility/

 

(4) University of Oxford : 米国の新興技術研究所が共同プログラムに投資

2024年12月3日米国の億万長者Larry Ellison氏が設立した新しい技術研究所「エリソン・インスティテュート・オブ・テクノロジー(The Ellison Institute of Technology: EIT)」は、University of Oxfordとの共同プログラムに1億3000万ポンドを投資することを発表した。この取り組みでは、科学的発見の商業化における英国の不安定な実績を改善することを目指している。EITは、英国で課題とされている科学的発見の商業化を改善することを目指しており、英国のスタートアップや大学発の企業が国内で資金を調達できず、外国に買収されるケースが多い状況を改善することが狙いである。

Ellison氏は、2027年までにOxford Science Parkに1億ポンドを投入してキャンパスを建設中である。2023年12月3日、EITはUniversity of Oxfordとの共同研究プログラムに少なくとも1億ポンドを投資することを発表した。また、さらに3000万ポンドを人工知能(AI)分野の博士課程教育に特化した共同センター設立に充て、5年間で100名以上の大学院生を育成する計画である。

University of Oxford の学長であるIrene Tracey氏は、このパートナーシップを「人類が直面する最も差し迫った課題に取り組むためのユニークな機会」と表現した。また、EITの支援が学生の能力開発や研究の社会的・経済的インパクトの加速において変革的な役割を果たすと述べた。この連携では、EITの科学者が同大学で学術職を得る機会を持つ一方、同大学の研究者がEITで活動することも予定されている。

EITの研究対象は4つ分野に取り組む:

  • 健康と医療科学
  • 食糧安全保障と持続可能な農業
  • 気候変動とクリーンエネルギー
  • 人工知能時代における政府イノベーション

EITのJohn Bell会長は、「世界クラスの研究と長期的な資本投資、最先端施設を組み合わせ、社会の主要な課題に取り組む」と述べている。

 【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-innovation-2024-12-oxford-gets-commercialisation-boost-from-tech-billionaire/

 

(5) REF「人・文化・環境」パイロットプログラムの審査員が決定

2024年12月5日 研究評価制度(Research Excellence Framework: REF)のチームは、2029年のREFで新たに導入される「人材、文化、環境(PCE)」要素の試行パネルのメンバーを発表した。このPCE試行は、研究の卓越性をより広く定義することを目的とし、PCE指標プロジェクトの成果をもとに、大学や研究機関から提出されたデータの実用性と評価方法を検討する。試行には、40の高等教育機関が参加し、いくつかの評価単位(Unit of Assessment: UoA)について提出物を作成する。評価は8つのUoAレベルのパネルと、UoA共同議長が参加する機関レベルのパネルで行われる。このパネルは、REF 2021環境パネルの議長であったChris Day教授が主導する。

試行はREF運営委員会の監督下で進められ、最終的な報告書にパネルの経験とフィードバックが含まれ、2029年のPCEガイダンスの基礎となる。

【英文記事】REF2029:

https://2029.ref.ac.uk/news/panellists-confirmed-for-ref-people-culture-and-environment-pilot/

 

(6) 大学の苦境がEUの若者移動計画を「英国にとって困難」に

2024年12月6日英国の大学の財政問題が、EUとの学生交流スキーム実現の障害になっていると、Universities UK International(UUKI)のディレクターであるJamie Arrowsmith氏が述べた。EUが提案した「UK-EUユースモビリティスキーム」は、18~30歳の若者が互いの国で長期間滞在を容易にするものですが、現在の財政状況や国内学生との公平性の問題から、英国政府が同意するのは難しいとしている。EUはスキームの滞在期間を3年に短縮することを検討しているものの、EU学生が英国の大学で国内学生と同じ授業料を支払うことを条件に求めている。しかし、授業料が教育コストを十分にカバーしていない現在、政府がこの条件を受け入れるのは難しいと考えられている。

さらに、英国の大学は留学生からの授業料収入が減少し、財政危機に直面しており、このため、Arrowsmith氏は、自由な教育制度へのアクセスを提供するスキームは政府にとって負担が大きいと指摘した。

一方で、英国政府はEUのエラスムス+交換留学プログラムに再加入する予定はなく、現在「ユースモビリティスキーム」を導入する計画もないと述べている。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2024-12-eu-youth-mobility-proposal-difficult-for-uk-to-agree-to/

 

(7) 英国とスイス、科学分野の提携を深める 1600万ポンドを支援

2024年12月9日 英国とスイスは、科学と研究のパートナーシップを更新し、現在、最も重要な課題に焦点を当てることを発表した。これには、公共衛生の向上やグリーンエネルギーへの移行が含まれる。両国は、ヨーロッパのトップ20の研究大学のうち10校を共有しており、さらなる協力を進めるため、Innovate UKとスイスの技術革新局であるInnosuisseが共同で約1600万ポンドの資金を提供した。

この資金は、膝や股関節の置換手術において感染を防ぐ新しい抗菌コーティングの開発や、量子技術を用いた新型センサーの開発に使われる。また、両国のライフサイエンス分野でも新たな臨床試験を支援するため、800万ポンドの共同資金が提供され、病気の新しい治療法や診断法の開発を目指す。

このパートナーシップの更新は、英国の科学閣外大臣であるVallance卿とスイスの教育・研究・イノベーション担当国務大臣Martina Hirayamaがベルンで署名した。

【英文記事】科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)

https://www.gov.uk/government/news/uk-switzerland-deepen-science-ties-with-16-million-backing

 

(8) 2024年学生家賃調査:ロンドンの平均学生家賃が生活費ローンの上限を上回る

2024年12月10日 学生向け住宅関連の慈善団体であるUnipolと高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute:HEPI)の新しい報告書によると、ロンドンの学生向け住宅市場には懸念すべき動向があることが分かった。その内容として:

  • 最大の学生ローン額(13,348ポンド)が平均的な学生の家賃(13,595ポンド)を下回り、学生が基本的な生活費を賄えなくなっている。
  • 学生専用住宅(Purpose-Built Student Accommodation: PBSA)の家賃は過去2年間で18%上昇している。
  • ロンドンの学生専用住宅の14%は年間家賃が20,000ポンドを超えている。

この報告書「Priced Out? The Accommodation Costs Survey 2024: London Edition」(HEPI Report 182)は、70,000以上の学生向けベッドを対象にしたデータを基に、学生が直面するますます厳しい経済的圧力と、ロンドンで学ぶ学生にとっての手頃な価格の住宅の不足を強調している。この調査は1967年から始まり、2024年版はロンドンに焦点を当てた結果を示している。

【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI):

https://www.hepi.ac.uk/2024/12/10/average-student-rents-in-london-overtake-the-maximum-maintenance-loan-the-2024-accommodation-costs-survey/

 

(9) ロンドン・ハイヤー: 都市の研究開発範囲の対話型地図を公開

2024年12月10日 ロンドンの高等教育機関をメンバーとしているLondon Higher は英国全土(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)の地域社会に与える影響を示す対話型地図(Interactive map)を発表した。この地図には、70以上の事例が掲載され、地域別に事例を整理することも可能である。プロジェクトは、芸術・人文学、医学・健康・生命科学、物理科学・工学・数学、社会科学の4つのテーマに分類されている。この「研究成果拡大マップ(Capital gain map)」は、ロンドンの大学と他の大学とのコラボレーションを強調し、研究プロジェクトが地域コミュニティに与える影響を示している。

London Higher のCEO、Diana Beech博士は、「ロンドンの大学で行われた研究は、全国的に利益をもたらしており、地域社会に影響を与えるプロジェクトへの投資は、どこにお金が使われるかだけでなく、その成果がどこに流れるかを見ていくべき時だ」と述べている。このマップは、2021年に発表されたロンドン内の市民活動を記録するマップを基に拡充されたものである。

Interactive map: https://londonhigher.ac.uk/capital-gains-map/

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/london-higher-unveils-interactive-map-highlighting-citys-rd-reach/

 

(10) 新報告書:情報の充実が、より多くの人々にレベル4/レベル5の資格取得の恩恵を受ける

2024年12月10日 大学入試機関(Universities and Colleges Admissions Service: UCAS)が発表した報告書「Where Next? Who applies for Level 4 and 5 qualifications?」は、成人学生に対する英国のLevel 4およびレベル5資格への出願者の行動と経験を分析している。これらの資格は、AレベルやTレベルやBTECなどのLevel 3資格と学士号(Level 6以上)との間に位置する中間的な資格である。(スコットランドではSCQF Level 7および8)

主な内容と発見

出願傾向と地域差:

  • Level 4・5資格への出願は、高等教育の進学率が低い地域で特に多く、南西部(7%)や北東部(7.6%)が最も高い出願率である。一方、ロンドンや南東部(3%)では出願率が低い傾向がある。
  • 35歳以上の出願者は、18歳の若年層の2倍の割合でLevel 4・5資格に出願しており(出願者全体の9%)、特に医療関連分野が人気である。
  • 2023年に最も人気の科目は看護を含む医療関連分野であり、特に35歳以上の応募者の32%が選択した。
  • 出願者の49%は、これらの資格が希望の職業に就く助けになると感じており、20%はLevel 6以上のさらなる学習を目指している。

出願状況とその他の進路:

2023年には34,175人がLevel 4・5資格のコースに少なくとも1つ出願し、すべての進学者の5.7%を占めた。ただし、全体の出願数は2019年から12%減少しており、特にLevel 5の減少(21%)が顕著である。出願者の35%は同時に技能実習制度を検討しており、49%はフルタイムまたはパートタイムの仕事も考えている。

認知度と学生支援:

英国の出願者の3分の2は「Higher Technical Qualifications(HTQs)」という用語を知らず、学生ローン制度への理解も低いことが明らかになった。

これらの結果は、地域の進学率向上や医療・福祉分野の人材確保におけるLevel 4・5資格の重要な役割を示しており、さらに効果的な周知や支援が必要とされている。

【英文記事】大学入試機関(Universities and Colleges Admissions Service: UCAS):

https://www.ucas.com/corporate/news-and-key-documents/news/new-report-sets-out-how-enhanced-information-more-people-could-benefit-level-4-and-5-qualifications

 

(11) REF2029:オープンアクセスに関する方針発表

2024年12月11日 研究評価制度(Research Excellence Framework: REF)チームは、2029年の評価に向けたオープンアクセス(OA)方針を発表した。この方針では、ジャーナル論文と会議論文にはOA要件を課す一方で、書籍などの長編出版物にはOAの義務がないことが確認された。2023年12月11日に公開されたこの政策では、すべての研究成果をできる限りOAにするよう奨励しているが、長編出版物に対する義務化は見送られた。これにより、UKリサーチ&イノベーションのOA政策とのさらなる整合性やライセンスのオープン化の推進など、いくつかの提案は将来の目標にとどまった。

OA要件の実施時期は、当初の2025年1月1日から2026年1月1日に延期された。ただし、長編出版物に関するOA要件は、REF 2029の次の評価で導入される予定。

REF運営委員会の議長であるSteven Hill氏は、この方針について「現実的で達成可能」と述べ、研究成果をより効率的で影響力のあるものにするOAの可能性に期待を示した。

REF2029:https://2029.ref.ac.uk/news/ref-2029-open-access-policy-and-consultation-and-engagement-summary-published/   

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-research-councils-2024-12-ref-open-access-policy-published/

 

(12) 民間研究開発投資の減少を浮き彫りにする新データ

2024年12月11日  英国における企業の研究開発投資が減少していることが、新たなデータにより明らかになった。2023年の実質的な投資額は2022年に比べて3%減の500億ポンドとなり、2021年以降では実質的に6%以上(34億ポンド)と減少が続いている。この低下は、グローバル競争力を持つR&D環境を促進するために、政府が公的投資や企業、大学との連携を強化すべき重要な時期に起きている。国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB)の政策・エンゲージメント責任者であるRosalind Gill氏は、「このデータは厳しい状況を示している。英国における企業のR&D支出が減少しているようであるが、英国はR&D投資にとって非常に魅力的な国ですが、なぜ投資が減少しているのかを理解し、それを逆転させる方法を見つける必要がある。困難な経営環境や世界的な競争の激化が要因の一つと考えられる。」と述べた。

さらには、「政府の資金提供が重要な触媒として機能し、民間セクターの投資を促進していることが分かっている。最新の分析では、政府によるR&D支出1ポンドが、民間セクターの投資を3.09~4.02ポンド増加させると推定されている。これにより、公的R&D資金がいかに重要であるかがわかる。」と述べ、英国を研究・イノベーションのリーダーとして確立するための政府の取り組みを求めた。

最後にGill氏は、「我々は、企業主導のR&Dを促進し、イノベーションを活性化するための具体的で費用対効果の高い提言を開発するため、業界リーダーによる特別委員会を結成した。今こそ行動すべき時である。英国が研究とイノベーションの分野で世界的なリーダーであり続けるには、決断力と協調性を持ってR&Dの成長を再燃させる必要がある。」と強調した。 

【英文記事】国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB):

https://www.ncub.co.uk/insight/new-data-highlights-concerning-decline-in-private-rd-investment/

 

(13)学生局:新戦略提案で今後5年間のビジョンを発表

2024年12月12日 英国高等教育規制機関である学生局(Office for Students:OfS)は、2025年から2030年までの新たな戦略案を発表した。この戦略では、あらゆる背景からの学生が高品質な高等教育を受けられるようにすることを目指し、多様性と持続可能性を重視したセクターの発展を支援する。

主な内容:

この戦略では、学生局(Office for Students: OfS)が、学生、大学・カレッジ、政府と協力して、学生にとってポジティブな高等教育体験を確保するために以下の3つの柱を設けており。それぞれの柱の中で6つのゴールが示されている。

  1. 質の向上(Quality

目標1: 学生が高い質の教育を受け、その教育が人生やキャリアに持続的でポジティブな影響を与えるようにする。そのために、教育機関がコースの質を改善し続ける。

目標2: 学生が情報に基づいて適切な選択を行えるよう、多様で高い質の選択肢を提供し、内容や場所、時期、方法などについて自分に合った学びを選べるようにする。

  1. 学生体験の向上(The wider student experience)

目標3: 学生が高等教育の過程で約束された学びや体験を確実に受けられるようにする。

目標4: 学生が学びの環境で充実した体験を得られるようにし、その時間を最大限に活用できるよう支援する。

  1. セクターの持続可能性(Sector resilience)

目標5: 財政的に厳しい状況下でも、高等教育分野が質の高い教育と多様な学生の選択肢を提供できるよう支える。

目標6: 財政や戦略的なリスクが高まる中、効果的に運営される教育機関が学生に高等教育の恩恵を提供する。同時に、公的資金が適切に使用されていることを納税者が信頼できる体制を構築する。

この戦略は、高等教育の質や学生体験を向上させると同時に、教育機関やセクター全体が長期的に持続可能な発展を遂げることを目指している。

OfSは、学生や関係者向けのウェビナーを開催し、意見を収集する予定です。この戦略案の公開コンサルテーションは、2024年12月12日から2025年2月20日まで実施する。

【英文記事】学生局(Office for Students: OfS):

https://www.officeforstudents.org.uk/news-blog-and-events/press-and-media/ofs-sets-out-its-vision-for-the-next-five-years-with-new-strategy-proposals/

  

(14) HEPIの報告書:中国人留学生が英国の大学で十分な支援を受けているかどうかを問う

2024年12月12日 高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute:HEPI)と教育コンサルティング会社であるUoffer Globalによる報告書「How can UK universities improve their strategies for tackling integration challenges among Chinese students?(中国人留学生の統合課題に対する英国大学の戦略改善方法)」が発表され、中国人留学生が直面する全体的なの課題と、英国の大学が提供する関連サービスの質について調査を行った。この報告書では、中国人留学生の課題が特に深刻であり、改善が必要であると主張している。中国人留学生のより良い統合は、キャンパス全体や英国社会にとっても有益である。

主なポイント:

中国人留学生の重要性とリスク: 中国人留学生は英国大学の財政安定に大きく貢献しており、年間23億ポンドの学費を支払っている。しかし、2022年には中国人志願者数が4%減少しており、将来的に英国留学の人気が低下するリスクがある。

デジタルエコシステムの障壁: 中国の独自のデジタル環境が技術的障壁を生み出し、民族間の分離が進んでいる。多くの中国人留学生は、WhatsAppやInstagramのような非中国系アプリに不慣れで、代わりにWeChatや小紅書(Little Red Book)を利用している。

英語力の課題: 中国人留学生の英語力、特に会話能力は、インドやマレーシアなどの他の国の学生よりも低い傾向にある。IELTSスコアは会話能力を正確に反映しない場合があり、学生は私費で高額な英語教育を受けている。

社会的クラスターの形成: 中国人留学生は特定の大学に偏って在籍しており、ある大学では15,000人以上、別の大学では10人以下という状況である。この偏在が、同国出身者同士での社会的クラスターを形成する原因になっている。また、限られた宿泊情報の提供により、中国人同士での住居シェアが進む傾向がある。

キャリア支援の不足: 約80%の留学生が大学からキャリア支援を受けたことがなく、中国人留学生は他国の学生よりも就職が難しいと感じている。中国人留学生は全留学生の22%を占める一方、英国で卒業後に雇用される割合は10%にとどまっている。

学生の不満: 一部の中国人留学生は、自分たちが「収入源」として扱われていると感じている。

提言: IELTS以外の英語力評価: 面接やAIツールを活用した評価方法を検討する。到着前後の支援強化: “相棒制度(buddying System)“や情報提供を通じて、国内学生と交流する機会を増やす。

社会的分離の軽減: 中国人留学生に事前情報を提供し、キャンパス内の宿泊施設を割り当てる。

キャリア支援の強化: キャリアセンターで留学生向け支援を充実させ、インターンシップや実務経験を学位課程に組み込む。

この報告書は、中国人留学生の統合課題を解決するための具体的な戦略を提案し、英国の高等教育機関の改善を促している。

【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)

https://www.hepi.ac.uk/2024/12/12/hepi-report-challenges-whether-chinese-students-receive-enough-support-from-uk-universities/

 

(15) 2024年の18歳の大学・カレッジ進学者数

2024年12月12日英国の2024年における18歳の大学・カレッジ進学者数が過去最高を記録し、最も恵まれない背景の学生の進学者数も過去最高となった。

2024年、18歳の進学者数は279,550人で、2023年(271,735人)から2.9%増加。これはパンデミック時の数を上回り、全体の進学者数も1.9%増加し564,940人となった。

18歳の高等教育進学率は36.4%で、2023年より0.7ポイント上昇。2021年以来初の増加。

最も恵まれない背景の進学者数(地域別):

  • イングランド: 42,670人(前年比+5.0%)
  • スコットランド: 2,145人(前年比+12%)
  • ウェールズ: 1,430人(前年比-1.7%)
  • 北アイルランド: 1,100人(前年比+0.5%)

 海外からの進学者数: 2024年は前年比2.3%減(-1,665人)。

中国が最大のシェアを維持している一方で、トルコ(+33%)、クウェート(+50%)、ネパール(+19%)からの進学者が大幅に増加。

成人学生進学者: 21歳以上の進学者は109,780人で、2023年(106,195人)から増加。

クリアリングの利用増加: 当初オファーが出ていた進学先を辞退し、クリアリングを自発的に利用する学生が増加している。

【英文記事】大学入試機関(Universities and Colleges Admissions Service: UCAS)

https://www.ucas.com/corporate/news-and-key-documents/news/ucas-releases-undergraduate-end-cycle-data-2024

 

(16) 英国半導体の韓国代表団募集

2024年12月13日 科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)は、半導体分野の研究者や団体を対象に、韓国への訪問団に参加するメンバーを募集している。この訪問団は、韓国の研究者や企業とのネットワークを構築し、共同研究や革新的な取り組みの機会を模索することを目的としている。

募集対象は、半導体研究において韓国とのコラボレーションに関心があるすべての関係者で、訪問期間は2025年2月17日の週に予定されています。参加希望者は、2025年1月3日(金)午前9時まで。

【英文記事】科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)

https://www.gov.uk/government/publications/uk-semiconductor-stakeholder-forum-delegation-to-the-republic-of-korea

 

(17) 人工知能研究所:理事長、不信任書簡を受けたCEOを支持

2024年12月13日英国の国家データ科学・人工知能研究所であるアラン・チューリング研究所(Alan Turing Institute)の職員が経営陣への不信任の意を表明し、研究所の存続可能性に関する懸念を示した。この背景には、研究所のトップチームによる意思決定の問題や、科学者のリーダーシップ不足、資金調達の懸念、信頼の喪失があるとされている。

研究所の約90名のスタッフが、経営陣の包括的な評価を求める不信任書簡を研究所理事会に送付。そこでは、資金問題への対応不足により研究所の長期的な財政健全性が脅かされていると指摘されている。また、資金パートナーからの信頼低下や、意思決定の遅れが助成金の失敗につながったとも述べられている。

 理事長でUKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)の次期CEO候補とも言われるDouf Gurr氏 (実業家であり、現在はロンドンにある自然史博物館(Natural History Museum)の館長)は、2023年7月にCEOに就任したJean Innes氏が率いる経営陣を支持していることを全職員会議で述べた。一方、工学・物理科学研究会議(Engineering & Physical Sciences Research Council:EPSRC)からの5000万ポンドの助成金が2022-23年度に研究所収入の主要な部分を占めているが、EPSRCからの指摘を受けたパフォーマンス指標の達成遅延や目標未達成が懸念されている。

職員からは、「科学的リーダーシップの欠如」や「新戦略の実行計画の欠如」が批判され、モラルの低下、役職リスクの不安、そして科学的能力の低下が挙げられている。研究所は「職員との協議を通じて支援を提供する」と述べているが、現場での不信と不安は未解消のままである。

 【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-research-councils-2024-12-alan-turing-institute-chair-backs-ceo-after-no-confidence-letter/

 

(18) 優先的な技術に対する日英の共同投資

2024年12月20日、UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)は構成されている3つの研究会議と日本の多様なパートナーと連携して進歩の促進のため英国の研究者を支援している。

支援している研究評議会

  • 生物工学・生物科学研究評議会( Biotechnology and Biological Sciences Research Council :BBSRC)
  • 工学・物理科学研究評議会(Engineering and Physical Sciences Research Council:EPSRC)
  • 医学研究評議会(Medical Research Council: MRC)

これまでの日英協力を基に、1,300万ポンド以上が投資される。この投資は、日英科学技術協力協定(30周年)を背景に、人工知能(AI)、エンジニアリングバイオロジー、半導体などの革新技術の発展を支援し、課題解決を目指す。また、英国政府の科学技術フレームワークと整合している。 

国際科学パートナーシップ基金

全プロジェクトは国際科学パートナーシップ基金により支援されており、英国と世界中の研究者との協力を促進する。英国の世界トップレベルの科学力と、日本の先進的な技術革新の結合により、両国に繁栄と安全をもたらし、世界社会にも利益を提供する。

グローバルリーダーシップ

2024年12月5日、JST(科学技術振興機構)理事長の橋本和仁氏とUKRI最高経営責任者であるDame Ottoline Leyser教授がロンドンで会談し、協力関係の強化を話し合った。

  • Dame Ottoline Leyser教授のコメント:国際的な研究協力は、変化する世界で機会を最大化し、安全・繁栄・社会的回復力を高める鍵である。日英協力は新興技術分野でのリーダーシップを象徴する。
  • 橋本和仁氏のコメント:エンジニアリングバイオロジーやAIなどの分野で協力を拡大することは両国の相互利益を高め、国際的進歩を推進する。同時に、地政学的状況を踏まえ研究の安全保障リスクに対処することが不可欠である。

この協力は日英両国と世界の進歩に貢献するものである。

(英文記事では日英の提携例を挙げている)

【英文記事】UK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI):

https://www.ukri.org/news/uk-japan-collaborative-investments-in-priority-technologies/

 

(19) University of Edinburghでのスコットランド出身学生の少数派状況と差別

2024年12月26日Guardian紙は、University of Edinburghにおけるスコットランド出身学生の少数派状況と、それに伴う差別や社会的排除の問題が報じた。

以下がその内容:

スコットランド学生の現状

  • 学生構成:University of Edinburghの学生の約25%のみがスコットランド出身で、その多くが労働者階級出身。残りは英国の他地域や海外からの学生。
  • 学費システム:スコットランド学生は政府が授業料を負担するため年間受け入れ人数が制限される一方、他地域・海外の授業料支払可能な学生がその枠を補っている。

学生体験と差別

  • スコットランド出身の学生Shanley Breeseさんは、アクセントを侮辱されるなど、言語や文化の違いを理由に疎外感を持った。
  • キャンパスでは相続税に関して「金持ちは貧乏人より働いている」という発言で締めくくるような会話や、庶民的なファッションブランドへの蔑視を耳にする。

スコティッシュ社会的移動性協会の設立

  • Breeseさんは「スコティッシュ社会的移動性協会(Scottish Social Mobility Society)」を設立し、孤立感やマイクロアグレッション(無意識な偏見や思い込みが言葉や態度に出て、否定的なメッセージとなり伝わること)を経験するスコットランド出身の学生を支援。
  • 同協会は、大学が提示する「学生間の思いやりを求めるガイダンス」では“他人を見下さないように。”、経歴よりも興味や願望に興味を持つようになどアドバイスされているが、「問題の構造的・制度的な側面を軽視し、的外れである」と批判している。

制度的な課題

  • 教育システムの無理解:多くの大学職員がスコットランドの「ハイヤーズ」や「アドバンストハイヤーズ」についての理解が乏しく、スコットランド学生を適切にサポートできていない。(「ハイヤーズ」や「アドバンストハイヤーズ」とはイギリスのASレベル、Aレベルに相当するが受験の年齢その内容や標準基準、専門性が異なる)。
  • 経済格差の拡大:大学のアクセス拡大プログラムにより、スコットランドの低所得層からの学生が優先的に入学が可能であるが、イングランドや海外からの富裕層の学生との間に経済的格差が広がっている。

学生からの声と大学の対応

  • Breeseさんは、大学からのサポートが十分ではないと感じており、入学後に孤立感が強まったと訴えている。
  • 大学側は「尊厳と敬意に関するポリシー」に基づく行動を奨励し、学生への精神的・学術的支援モデルの改善を進めていると述べている。

【英文記事】ガーディアン紙(Guardian):

https://www.theguardian.com/uk-news/2024/dec/26/scottish-students-at-edinburgh-university-start-support-group-to-counter-alienation