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UK HE Information

2025年2月英国高等教育及び学術情報

2025年5月07日

(1)英国主要大学で予算不測のため人員削減

(2)通学大学生のための高等教育の再定義

(3) 政府は画期的な技術導入を加速するために諮問委員会に専門家を募集

(4)ブリティッシュ・カウンシルがユニセフと提携しエジプトの中等教育向けのカリキュラム開発協力

(5)研究者は大半がAIのほうが自分たちより優れていると認識

(6)「既存の枠組みを打ち破る機関」に対する資金格差是正が、生涯学習資格の目標達成にどうつながるのか?

(7)英米への留学生ビザの遅延が障害

(8)リサーチ・イングランドの知識交換基金に関する新しい評価

(9)UUKからの警告:大学財政によって研究が圧迫

(10)面接にAIを使った”ディープフェイク“を利用する申請者が問題に

(11) Elon Musk氏の会員資格をめぐって英国王立協会の会員2名が辞任

(12) HEPI新報告書:学校と大学のカリキュラムが学生を大学進学に備えさせているか

(13)HEPIの新しい報告書:学校のカリキュラムは大学進学への準備ができているのか?

(14)UCAS: 2025年入学の学部課程における1月末締め切り対象出願者データを発表

(15)大学はNHSにとって重要なパートナー

(16)大学の学費値上がりにもかかわらず留学生の減少が英国の大学に打撃

(17)イングランドの大学トップたちの”規制の重荷“の再考を求める声が増加

(18)なぜウエールズの18歳の多くの若者は大学を目指さないのか?

(19)ラッセルグループ:2025年包括的支出見直しへの提言

(20)気候の転換時期の早期警告システムに8100万ポンドの資金援助

(21)米国大統領の再選は留学誘致で英国の大学に有利?

(22)留学生を狙った就職詐欺に対抗するためのキャンペーン実施

(23)報道があったにもかかわらず英国はEUの若者の移動制度に対して計画なし

(24)Ian Chapman教授が次期UKリサーチ・イノベーションのCEOに任命

(25)英国の大学は92%の学生がAIを利用しているため”ストレステスト“を行うことを警告

(26)脅威にさらされている科学

(27)政府はUKRIの新しいCEOに何を期待するか

(28)単位互換の理想な方法とは?

(29)英国の医学部に入学した労働者階級はたったの5%

(30)University of Sussexは英国初となる気象正義の学位を設立

(31)英国の「科学技術ネットワーク(STN)」が発足:研究・大学分野での国際協力を強化

(1)英国主要大学で予算不測のため人員削減

2025年2月1日現在、英国の主要大学の約4分の1が、予算削減や最大1万人の人員削減を進めており、高等教育の国際的地位が損なわれることへの懸念が高まっている。特にCardiff University を含む90以上の大学が、教職員の削減を進めており、人文科学や看護学などの分野にも影響が及んでいる。

看護学分野では、王立看護協会(The Royal College of Nursing:RCN)が「財政危機が看護学部を直撃している」と警告。すでに4万人以上の看護師不足が深刻化している中、Cardiff Universityの看護学部削減は、ウェールズ最大の医療機関への人材供給に悪影響を及ぼすと指摘された。

この財政難の背景には、国内学生の学費収入の減少や、留学生のビザ規制の強化による留学生減少がある。イングランドの大学は2017年以降、授業料が9,250ポンドに据え置かれており、インフレの影響で実質的な収入が減少。政府は2025年に9,535ポンドへ引き上げるが、それでも総額16億ポンドの財政赤字が見込まれている。

その結果、優秀大学(高Aレベル成績が必要な大学)が入学基準を引き下げ、より多くの国内学生を受け入れる傾向にあり、中堅以下の大学が学生確保に苦しむ事態となっている。また、化学専攻の学部生数は2019年以降4分の1減少し、University of Hullは化学コースの維持が困難になった。

この状況に対し、大学組合(University and College Union: UCU)のJo Grady氏は、政府による「緊急対策」を求め、経営陣が適切な対応をしない場合は「深刻な労働争議もあり得る」と警告している。一方で、大学側も「財政難の中で教育・研究の革新が必要」との見解を示している。

【英文記事】Guardian:

https://www.theguardian.com/education/2025/feb/01/quarter-of-leading-uk-universities-cutting-staff-due-to-budget-shortfalls

 

(2)通学大学生のための高等教育の再定義

2025年2月2日英国では初めて、「自宅からの通学学生(Commuter students)」 の数が、大学近くに移り住む「大学近隣居住学生(traditional residential students)」 を上回った。驚くべきことに、自宅からの通学生自身も自分たちが多数派であることを認識しておらず、教育政策や大学運営に関わる人々も依然として「普通の学生=大学近隣居住学生」という前提で考えている。

自宅からの通学学生は多様だが、その「普通でない学生」とは大学進学が少ない地域の出身者、家族の世話をしている人、25歳以上の学生、就労しながら学ぶ人など、大学参加の取り組みの対象となる学生が多い。学費の高騰や生活費の負担増、学生寮不足の影響で、従来は移り住んでいた学生も通学を選ぶ傾向が強まっている。また、留学生や大学院生もコミューターである割合が高い。

データによると、通学学生は大学生活全般で不利な立場に置かれ、学業成績や卒業後の成果も低い傾向がある。

  • 通学時間の制約で、授業や課外活動への参加が難しい
  • 学習コミュニティから孤立しやすく、帰属意識を持ちにくい
  • 大学の教育・支援体制は大学近隣居住学生向けに設計されており、通学学生のニーズが考慮されていない

例えば、授業の時間割、サポート体制、課外活動の開催時間などが、大学の近くに住んでいることを前提に設定されているため、通学学生は参加しにくい状況にある。

今後の課題と解決策として:

  • 通学学生を「見える存在」にする:統計を取り、彼らの存在を認識しやすくする
  • 大学の施設を活用:空きスペースをコミューター専用の休憩室や仮眠スペースにする
  • ポリシーの見直し:時間割の柔軟化、オンライン学習の活用(ただしハイブリッド授業には慎重に)
  • 通学環境の整備:交通手段の確保や、費用負担の軽減策

通学学生が直面する課題は、単なる距離や交通の問題ではなく、学外での生活や責任とも密接に関連している。

大学がこうした学生のニーズに適応できるかどうかは、大学個々の存続だけでなく、高等教育全体の持続可能性にも関わる重要な課題 となっている。

【英文記事】WonkHE:

https://wonkhe.com/blogs/shaping-higher-education-for-commuter-students/

 

(3) 政府は画期的な技術導入を加速するために諮問委員会に専門家を募集

2025年2月4日英国政府は、量子技術の分野におけるリーダーシップを強化するため、国際量子年(2025年)の開始に合わせて、様々な取り組みを発表した。

まず、量子技術の恩恵をさらに加速させるため、産業界と学界の専門家から意見を募る「量子戦略諮問委員会(Quantum Strategic Advisory Board:SAB)」のメンバーを新たに募集する。

また、英国は世界で2番目に大きな量子セクターを有しており、その重要性を広く認識するため、国家技術顧問(National Technology Advisor)のDave Smith氏率いる代表団がパリのユネスコ本部を訪問し、量子力学の初期開発から100年を祝うイベントに参加する。このイベントは、量子科学教育、研究、産業応用の優秀実例を共有する場となる。

量子技術は、サブアトミック粒子のユニークな特性を利用して情報処理を行い、様々な問題を解決する技術ある。英国政府は、量子技術の可能性を最大限に引き出し、量子技術立国を目指しており、SABの拡充はその一環である。

科学閣外担当大臣のPatrick Vallance氏は、SABへの参加は量子技術の可能性を理解している人々にとって、経済と社会のために量子技術を活用する手助けをする絶好の機会であるとことを述べている。また、国家技術顧問のDave Smith氏は、量子技術が過去100年間の画期的なイノベーションの中心であったことを強調し、今後のイノベーションが学界、政府、民間セクターの長期的なパートナーシップによって生まれ、国民生活を豊かにし、イギリス企業の成長と雇用創出に貢献すると期待を示した。

SABは、Peter Knight卿が議長を務め、学界と産業界の第一人者がメンバーとして参加し、政府に量子技術に関する助言を行う。量子技術は、ヘルスケアからエネルギーまで、ほぼすべての分野でソリューションを提供できる重要な技術であり、政府が策定する産業戦略においても重要な役割を果たす予定である。

【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/uk-government-seeks-out-quantum-industry-experts-for-advisory-board-to-accelerate-deployment-of-game-changing-technology

 

(4)ブリティッシュ・カウンシルがユニセフと提携しエジプトの中等教育向けのカリキュラム開発協力

2025年2月4日エジプトの教育省とブリティッシュ・カウンシルは、新たな英語カリキュラムを開発し、グローバル化する世界に対応できるよう中等教育の生徒を準備することを目指している。このカリキュラムは、デジタル革新、ジェンダー平等、環境教育を組み込み、エジプトの教育改革2.0戦略に沿った「21世紀の重要なスキル」を育成することを目指している。エジプトは人口の約60%が30歳未満で、学校教育制度は中東・北アフリカで最大規模を誇り、2,300万人以上の学生がいる。

 政府は2030年までにK-12教育をスキルベースの学習とデジタル技術の習得に重点を置いて変革することを目指している。英語能力の向上は、若者が国際的な機会にアクセスし、世界市民としての生活をより良く準備するために重要だとされている。

ブリティッシュ・カウンシルは、カリキュラムの技術的な開発を主導し、教育省とともにその実施を確実にするための能力強化セッションを実施する。ユニセフは、関係者と協力し、ジェンダーに配慮したデジタル革新を取り入れたカリキュラムの開発を支援する。

エジプトの教育省は、この取り組みを教育分野での持続可能な開発目標の達成に向けた重要なステップと位置づけている。また、エジプトの若年層の活力に注目する大学が増え、Exeter Universityはカイロに新しいキャンパスを開設すると発表した。

一方で、ブリティッシュ・カウンシルは政府の負債問題により、今後10年以内に「消失するかもしれない」と発言し、国際的なパートナーに衝撃を与えた。しかし、エジプトでの活動は通常通り続けられることが確認された。

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/british-council-unicef-egypt-english-language-curriculum/

 

(5)研究者は大半がAIのほうが自分たちより優れていると認識

2025年2月5日2025年2月4日エジプトの教育省とブリティッシュ・カウンシルは、新たな英語カリキュラムを開発し、グローバル化する世界に対応できるよう中等教育の生徒を準備することを目指している。このカリキュラムは、デジタル革新、ジェンダー平等、環境教育を組み込み、エジプトの教育改革2.0戦略に沿った「21世紀の重要なスキル」を育成することを目指している。エジプトは人口の約60%が30歳未満で、学校教育制度は中東・北アフリカで最大規模を誇り、2,300万人以上の学生がいる。

政府は2030年までにK-12教育をスキルベースの学習とデジタル技術の習得に重点を置いて変革することを目指している。英語能力の向上は、若者が国際的な機会にアクセスし、世界市民としての生活をより良く準備するために重要だとされている。

ブリティッシュ・カウンシルは、カリキュラムの技術的な開発を主導し、教育省とともにその実施を確実にするための能力強化セッションを実施する。ユニセフは、関係者と協力し、ジェンダーに配慮したデジタル革新を取り入れたカリキュラムの開発を支援する。

エジプトの教育省は、この取り組みを教育分野での持続可能な開発目標の達成に向けた重要なステップと位置づけている。また、エジプトの若年層の活力に注目する大学が増え、Exeter Universityはカイロに新しいキャンパスを開設すると発表した。

一方で、ブリティッシュ・カウンシルは政府の負債問題により、今後10年以内に「消失するかもしれない」と発言し、国際的なパートナーに衝撃を与えた。しかし、エジプトでの活動は通常通り続けられることが確認された。

【英文記事】Researcher Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-world-2025-2-researchers-think-ai-outperforms-them-most-of-the-time/

 

(6)「既存の枠組みを打ち破る機関」に対する資金格差是正が、生涯学習資格の目標達成にどうつながるのか?

2025年2月5日University of Buckinghamの学術担当副学長であるHarriet Dunbar-Morris氏が高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)に寄稿した。その内容は:

政府が(生涯学習資格Lifelong Learning Entitlement:LLE)の具体的な運用方法の決定を現在待っているが、すべての成人学習者に対し、60歳までに最大4年間の学費ローンを提供するというLLEの基本的な考え方は良いものだと評価できる。

University of Buckinghamは英国で唯一の王室認可(Royal Charter)を受けた私立大学であり、小規模かつ独立した教育機関としての特性を活かしている。特に、2年制学士課程や4年半の医学部課程など、通常よりも短期間で学位を取得できる「短期集中修了学位」(accelerated degrees) 」を提供している。これにより、学生は1年早く労働市場に参入し、生活費や宿泊費を抑えられる。また、3年間で学士と修士を取得することも可能であり、より実務的な学習環境を実現している。

しかし、現在。政府の英国の高等教育機関は資金制度には2つのカテゴリに分類されており不公平がある。

  • 認可(上限付き)(Approved (fee cap))」:最大9,250ポンド(2025/26年度からは9,535ポンド)の学費ローンを利用でき、政府の補助金を受けられる。
  • 「認可(Approved)」:学費ローンの上限が低く(2年制で7,625ポンド)、政府補助も受けられない。University of Buckinghamはこのカテゴリに分類される。

この制度上の制約により、University of Buckinghamの学生は長期間学ぶにもかかわらず、より少ないローンしか受けられず、不利益を被っている。

 この不公平を是正するために、政府に対し以下の2つの改善を求めている:

学費ローンの上限額の見直し

大学のカテゴリに関わらず、すべての学生が同額(現在の上限である9,250ポンドまたは2025/26年度の9,535ポンド)の学費ローンを利用できるようにする。

単位(クレジット)ごとのローン制度の導入

LLEの導入により、学費ローンを学年単位ではなく、履修単位(クレジット)に基づいて提供することで、University of Buckinghamのような短期集中修了学位の学生も公平に学費ローンを受けられるようにする。

この改革は、より柔軟な学習を可能にし、働きながら学ぶ学生への支援を強化することにもつながる。University of Buckinghamは、雇用能力や起業家精神を教育課程に組み込むことで、政府の技能開発政策にも貢献しており、この制度改正がLLEの目的を達成するうえで重要であると訴えている。

【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI):

https://www.hepi.ac.uk/2025/02/05/how-removing-funding-disparities-for-disruptor-institutions-could-help-fulfil-the-ambition-of-the-lifelong-learning-entitlement/

 

(7)英米への留学生ビザの遅延が障害

2025年2月5日INTOの調査によると、2,000人以上の留学生のうち60%がビザ手続きの遅延により希望通りに大学の入学手続きを進められなかったと回答した。特に南アジアでは28%が主要な障害と指摘。ビザの遅れはオリエンテーションの参加にも影響し、45%が欠席の理由に挙げている。

また、留学先の競争が激化し、学生はより多様な国を検討する傾向にある。就職・インターン機会は重要な要因となり、約50%が就労経験を希望。特に東アジアと南アジアの学生は、卒業後の就労ビザを重視しています。大学ランキングよりも安全性や雇用機会が留学先選びで重要視される傾向が強まっている。

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/visa-delays-emerge-as-hurdle-for-uk-and-us-bound-students/

 

(8)リサーチ・イングランドの知識交換基金に関する新しい評価

2025年2月7日リサーチ・イングランド(Research England:RE)は、知識交換(Knowledge Exchange, KE)資金の効果を評価するため、3つの独立した評価を実施した。この評価では、高等教育イノベーション基金(Higher Education Innovation Funding: HEIF) と 連携能力促進基金(Connecting Capability Fund:CCF) の影響が分析された。

高等教育イノベーション基金(Higher Education Innovation Funding)

HEIFは大学の知識交換活動を支援する主要な資金であり、投資1ポンドあたり14.9ポンドのリターンが得られていると報告されている。特に研究の商業化や学生のスタートアップ支援に貢献しており、学生起業に対する投資では1ポンドあたり15.6ポンドのリターンが確認された。

連携能力促進基金(Connecting Capability Fund)

CCFは大学間および産業界との協力を促進し、研究の商業化を支援するための資金です。2017年から2023年にかけて1億ポンド以上の資金を提供し、18のプロジェクトを支援した。CCFは、研究成果を社会に還元し、新たなパートナーシップを構築することを目的としている。

今回の評価では、HEIFとCCFの両方が、知識交換を通じて経済・社会に大きな影響を与えていることが確認され、特に、大学が外部パートナーと協力しながら商業化を進めることの重要性が強調されている。

【英文記事】Research England: 

https://www.ukri.org/news/new-evaluations-of-research-englands-knowledge-exchange-funding/

 

(9) UUKからの警告:大学財政によって研究が圧迫

2025年2月10日英国大学協会(Universities UK: UUK)は政府の包括的な歳出見直し(comprehensive spending review : 2025年6月発表予定)に向けた提言の中で、英国の大学の研究活動が財政的に圧迫されていると警告した。特に、留学生からの収益など、不安定な資金源による研究費の他収益による補填(cross-subsidy: 他の収益で補填する仕組み)が持続可能ではないことが問題視されている。

UUKの調査によると、すでに14%の大学が研究活動を縮小し、34%が今後縮小を検討していることが明らかになった。このままでは、大学の研究開発活動が政府の経済成長戦略への貢献や社会への影響を弱める可能性があると指摘。

UUKの提言:

  1. 研究資金の増額
    • 物価上昇を考慮した研究資金の増額
    • Charity Research Support Fund(慈善団体による研究支援基金)の拡充
    • 地域イノベーション基金(Regional Innovation Fund)の本格導入
  1. 学費上限のインフレ連動調整
  • イングランドの大学授業料の上限を毎年インフレに応じて引き上げる制度の導入が「不可欠」
  • 2025-26年度に授業料上限が9,250ポンドから9,535ポンドに引き上げられるが、これは8年間据え置かれた学費の修正の「第一歩」にすぎない
  • 今後も毎年のインフレ調整を恒常化することで、大学財政のさらなる悪化を防ぐべき
  1. 大学への直接資金提供(Strategic Priorities Grant)の機会拡充

しかし、政府は現時点で大学への大規模な財政支援を行う予定はないと述べており、大学の財政問題は依然として厳しい状況が続く見通し。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2025-2-research-squeezed-by-university-finances-uuk-warns-ministers/

 

(10)面接にAIを使った”ディープフェイク“を利用する申請者が問題に

2025年2月12日英国の大学が留学生の面接を自動化する動きが進む一方で、新たな脅威として「ディープフェイク」の利用が浮上している。

大学の出願プロセス自動化プラットフォームを提供するEnroly社は、オンライン面接でディープフェイク技術を使用している応募者を少数ながら発見した。ディープフェイクはAIを使って顔や声を置き換える技術で、応募者はより流暢な話し方にしたり、別人が回答していることを隠したりするために利用する。

Enroly社によれば、これまでのところディープフェイクの利用はごくわずか(2万件の面接中約30件)だが、「未来の詐欺」の兆候であると警告している。同社の担当者は、ディープフェイクは面接官にとって悪夢のような存在であり、発見が非常に困難だと述べている。しかし、リアルタイム技術と巧妙な手法によって、いくつかの試みを阻止しているという。

Enroly社のアナリストによると、2万件の面接のうち1.3%で明らかな不正行為が確認され、そのうちディープフェイクはわずか0.15%に過ぎず、なりすましや口パクといった従来の手法が依然として主流である。

Enroly社は、顔認識やパスポート照合など複数の方法で不正行為を排除している。英国の多くの大学では、特にビザ発給に必要なCAS(留学許可確認書)を発行する前に、自動オンライン面接や質問票を利用して留学生応募者を審査している。

自動面接は、ランダムに選択された質問に対する応募者の回答をオンラインプラットフォームを通じて録画させ、大学の入学担当者が後日確認する。不満や疑わしいものは、追加審査(応募者とのライブ面接など)の対象となる。

英国の大学は、留学生の応募者を慎重に審査する必要がある。内務省が年間10%以上の応募者のスポンサーを拒否した場合、UKVI(英国ビザ・入国管理局)を通じて学生をスポンサーするライセンスを失うリスクがある。

自動面接は、ライブオンライン面接よりも短時間で応募者のパフォーマンスや英語でのコミュニケーション能力を確認できる。

【英文記事】Guardian:

https://www.theguardian.com/education/2025/feb/12/uk-universities-automating-interviews-face-deepfake-applicants

 

(11) Elon Musk氏の会員資格をめぐって英国王立協会の会員2名が辞任

2025年2月12日英国王立協会(Royal Society)の会員2名が、Elon Musk氏の会員資格継続に抗議して辞任した。これまでにUniversity of Edinburghのシステム生物学教授Andrew Millar氏と、University of Oxfordの発達神経心理学名誉教授Dorothy Bishop氏が、Musk氏の偽情報の拡散と科学的根拠に基づく政策・科学的助言への攻撃に対する協会の対応を理由に辞任した。

Bishop氏は11月に、Musk氏の行動規範違反を理由に、協会がMusk氏を除名しないことを批判し辞任し、Millar氏は、Musk氏の現在の行動が証拠に基づく政策と科学的助言を攻撃していると述べた。

750人以上の科学者が、王立協会の対応の欠如を批判する公開書簡に署名しており、その中には少なくとも10人の王立協会フェローが含まれている。Stephen Curry教授は、Musk氏の最近の行動は「米国の科学研究に対する攻撃」であると非難している。

王立協会のフェローであるJohn Hutchinson教授は、自身が米国と英国の二重国籍者であり、科学者でもあることから、この問題に深く懸念していると述べた。また、著名な気候科学者は、Musk氏の会員資格は「王立協会の品位を落とす」と述べた。University of Pennsylvania の名誉教授であるMichael Mann教授は、Musk氏の行動は「容認できない一線を越えている」と批判している。

Musk氏の4つの企業は、コメントの要請に繰り返し応じていない。

【英文記事】Research Professional News :

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-charities-and-societies-2025-2-second-royal-society-fellow-resigns-over-musk-s-membership/

  

(12) HEPI新報告書:学校と大学のカリキュラムが学生を大学進学に備えさせているか

2025年2月13日高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)は、イングランドの学校・カレッジのカリキュラムが高等教育への準備にどのように貢献しているかを分析した報告書『One Step Beyond』を発表した。この報告書は、大学生1,105人を対象にした調査をもとに、カリキュラムの現状と改善点をまとめたものである。

主な調査結果:

  • 大多数の学生(83%)が、学校・カレッジのカリキュラムが大学進学に役立ったと回答。ただし、「社会や仕事に向けた準備ができた」と感じる学生は38%にとどまる。
  • 63%の学生が「より多くの職業スキルを学びたい」と回答し、52%がデジタルスキル、49%が会話力の向上を希望。
  • 英語・数学の18歳までの必修化には反対が多く、それぞれ73%(英語)と70%(数学)が否定的。
  • AレベルやBTECの科目選択について、50%の学生が2~3科目が最適とする一方、34%は4~5科目の履修がより充実感を得られると回答。
  • 39%の学生が「試験が多すぎる」と感じており、特に女性や特別支援教育(special educational needs: SEN)を受ける学生の間では、試験が大学進学への準備として不十分とする声が多い。
  • 59%の学生が「金融教育や予算管理の授業が必要」と回答し、44%はキャリアパスの教育を求めている。
  • 性と人間関係に関する教育の充実度について、「十分に準備できた」と感じる学生は47%(2021年の27%から増加)。
  • PSHE(個人・社会・健康・経済教育: personal, social, health and economic education)の18歳までの必修化には58%が賛成、36%が反対。
  • 41%の学生が「16歳時の科目選択をやり直したい」と回答し、特にAレベル選択者の3分の1以上が後悔している。
  • 外国語教育については、49%が現行の「推奨」制度を支持し、25%が必修化を、24%が完全な選択制を希望。また、手話など他の言語を学ぶ機会を求める声もあった。

提言:

  • 数学・英語の最低基準維持とともに、デジタルスキル、会話力、批判的思考力の強化。
  • クリエイティブ科目の復権(例:イングリッシュ・バカロレアに創造的科目を含める)。
  • 16~18歳のカリキュラム拡充(3科目から4~5科目選択へ)。
  • BTECの廃止は代替の進学ルートが確保されるまで実施すべきでない。
  • 試験の回数と内容を削減。
  • 金融教育の充実、ただしPSHEを不要な内容の寄せ集めにしない。
  • 全生徒にキャリアメンター制度を導入し、進学・進路選択のサポートを提供。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-world-2025-2-elsevier-parent-company-reports-10-rise-in-profit-to-3-2bn/

 

(13)HEPIの新しい報告書:学校のカリキュラムは大学進学への準備ができているのか?

2025年2月13日高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)は、イングランドの学校・カレッジのカリキュラムが高等教育への準備にどのように貢献しているかを分析した報告書『One Step Beyond』を発表した。この報告書は、大学生1,105人を対象にした調査をもとに、カリキュラムの現状と改善点をまとめたものである。

主な調査結果:

  • 大多数の学生(83%)が、学校・カレッジのカリキュラムが大学進学に役立ったと回答。ただし、「社会や仕事に向けた準備ができた」と感じる学生は38%にとどまる。
  • 63%の学生が「より多くの職業スキルを学びたい」と回答し、52%がデジタルスキル、49%が会話力の向上を希望。
  • 英語・数学の18歳までの必修化には反対が多く、それぞれ73%(英語)と70%(数学)が否定的。
  • AレベルやBTECの科目選択について、50%の学生が2~3科目が最適とする一方、34%は4~5科目の履修がより充実感を得られると回答。
  • 39%の学生が「試験が多すぎる」と感じており、特に女性や特別支援教育(special educational needs: SEN)を受ける学生の間では、試験が大学進学への準備として不十分とする声が多い。
  • 59%の学生が「金融教育や予算管理の授業が必要」と回答し、44%はキャリアパスの教育を求めている。
  • 性と人間関係に関する教育の充実度について、「十分に準備できた」と感じる学生は47%(2021年の27%から増加)。
  • PSHE(個人・社会・健康・経済教育: personal, social, health and economic education)の18歳までの必修化には58%が賛成、36%が反対。
  • 41%の学生が「16歳時の科目選択をやり直したい」と回答し、特にAレベル選択者の3分の1以上が後悔している。
  • 外国語教育については、49%が現行の「推奨」制度を支持し、25%が必修化を、24%が完全な選択制を希望。また、手話など他の言語を学ぶ機会を求める声もあった。

提言:

  • 数学・英語の最低基準維持とともに、デジタルスキル、会話力、批判的思考力の強化。
  • クリエイティブ科目の復権(例:イングリッシュ・バカロレアに創造的科目を含める)。
  • 16~18歳のカリキュラム拡充(3科目から4~5科目選択へ)。
  • BTECの廃止は代替の進学ルートが確保されるまで実施すべきでない。
  • 試験の回数と内容を削減。
  • 金融教育の充実、ただしPSHEを不要な内容の寄せ集めにしない。
  • 全生徒にキャリアメンター制度を導入し、進学・進路選択のサポートを提供。

【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI):

https://www.hepi.ac.uk/2025/02/13/new-hepi-report-investigates-whether-the-school-and-college-curriculum-prepares-students-for-university/

 

(14)UCAS: 2025年入学の学部課程における1月末締め切り対象出願者データを発表

2025年2月13日のUCASの発表では2025年1月時点で、英国の大学・カレッジへの出願者数が過去最多を記録したと大学入試機関(Universities and Colleges Admissions Service: UCAS)が発表した。

  • 英国内の18歳の出願者数は、前年(2024年)の316,850人から323,360人へと1%増加。
  • 全体の出願者数も594,940人から600,660人へと0%増加。
  • 21歳以上の成人出願者数は65,450人から61,280人へと4%減少し、近年の減少傾向が続いている。
  • 海外からの出願者数は7%増加し、中国(+2,540人)、アイルランド(+750人)、米国(+700人)などからの出願が特に増加。

また、経済的に恵まれない層(IMD Quintile 1)の18歳出願者数も全英国内で増加し、イングランド(+1.4%)、ウェールズ(+4.5%)、スコットランド(+4.4%)、北アイルランド(+1.9%)と各地域で伸びていた。

【英文記事】大学入試機関(Universities and Colleges Admissions Service: UCAS):

https://www.ucas.com/corporate/news-and-key-documents/news/ucas-releases-undergraduate-january-equal-consideration-applicant-data-2025

 

(15)大学はNHSにとって重要なパートナー

2025年2月13日新しい報告書「Educating our future NHS workforce」の中で、ラッセルグループは、政府横断的な医療教育特別委員会の設置を改めて訴え、イングランドのすべての統合ケア委員会(Integrated Care Board : ICB)に高等教育機関からの代表者を少なくとも1人置くことを求めている。

現在、ICBに大学の代表を送ることは稀であるが、ラッセルグループは、大学を国および地域の workforce planning に正式に組み込むことで、障壁を特定し、持続可能で長期的な 労働力成長のための解決策を生み出すのに役立つとしている。

ラッセルグループの大学では現在、英国の医師と歯科医の4分の3を育成しており、一部は他の組織と連携して、医療スタッフ不足に悩む地域に医学校を設立している。しかし、英国は需要の高まりにもかかわらず、他の主要国に後れを取っており、政策専門家は、近年の一貫性のない予測不可能な拡張計画が、意味のある将来計画を妨げてきたことを指摘している。

利用可能な実習先の不足も障壁となっている。病院、GP診療所、地域ケアは、学生がトレーニング中に重要な実践経験を積むための十分な機会を提供することに苦労している。多くの大学は、最先端のシミュレーションユニットを開発して学生に適切なスキルと経験を提供したり、可能な限り施設を共有したりすることで対応している。しかし、ラッセルグループは、非効率的な資金調達の流れに対処し、初期的な医療サービスや主治医などへの圧力を軽減しなければ、この分野は医学生の大幅な増加をサポートできなくなると警告している。

ラッセルグループはまた、より多くの臨床教育者を雇用し、このキャリアパスへのより強力なサポートを提供する必要性を強調している。臨床研究と将来の医療従事者のための不可欠な教育との間で時間を分割する人々の高齢化とより大きなプレッシャーのために、近年、その数は減少している。研究者は仕事量のプレッシャー、財政的な懸念、および教育責任がキャリア形成を困難にしているという認識から、この道を選ばなくなっている。

Russell Groupの大学での実例:

2023年、King’s College London(KCL)はUniversity of Portsmouthと提携し、2024年秋に開校した新しい分校を通じてKCLの大学院医学コースを拡大し、医学学位を提供することになった。ポーツマス地区では、平均よりも高いレベルの社会的貧困問題 を抱えており、一般診療を行う主治医の数が不足しており、一次医療と二次医療の両方に大きな圧力がかかっている。この共同事業は、一般診療や他の専門分野への採用を改善するとともに、地域社会に幅広い利益をもたらすことを目指している。同様のパートナーシップは、University of NottinghamとUniversity of Lincolnの間でも行われている。University of Lincolnの医学校は現在、約400人の学部生にUniversity of Nottinghamの医学学位プログラムを提供しており、卒業生が地元でジュニアドクターのトレーニングを修了し、イングランド最大かつ最も分散した農村人口の1つに奉仕するために地域に留まることを奨励している。

University of Liverpoolは、同大学のSchool of Allied Health Professions and Nursingのフローレンス・ナイチンゲール&ローズ・トンプソン・シミュレーションスイートに最先端技術投資として100万ポンド以上を投資した。ここには、学生がシミュレーションされた学習環境で臨床スキルを練習するための病棟スペース、洗練されたトレーニングマネキン、インタラクティブなデジタル解剖テーブル、病院で使用されているものを再現したX線およびCTスキャナールーム、家庭訪問と地域アセスメントをシミュレートするモデルフラットが含まれている。

南ウェールズのCynon Valleyでは、推定1万人が歯科医にアクセスできないため、2012年にCardiff Universityは、最終学年の歯科学生による質の高い無料ケアを提供する最先端の初期治療の歯科ユニットを設立した。学生は、臨床および患者対応スキルの重要な実践経験から恩恵を受ける一方で、ニーズの高い地域で地域歯科サービスを拡大している。

【英文記事】Russell Group:

https://russellgroup.ac.uk/news/universities-are-critical-partners-in-the-fight-to-protect-the-nhs/

  

(16)大学の学費値上がりにもかかわらず留学生の減少が英国の大学に打撃

2025年2月16日英国の大学関係者によると、留学生のビザ申請の減少が大学の存続に対する脅威をさらに長引かせる可能性があると懸念されている。

  • 授業料の引き上げ効果が相殺

今年、英国の学生向け授業料は8年ぶりに9,535ポンドへ引き上げられたが、雇用主の国民保険負担の増加により、財政状況はむしろ悪化。既存の学生には適用されず、新入生のみが対象となるため、収益増にはつながっていない。

  • 留学生ビザの申請数が13%減少

留学生の家族帯同制限など政府の規制強化が影響し、留学生のビザ申請が前年比13%減少。英国大学は、留学生の授業料収入を国内学生の教育や研究の補助に充てており、この減少がさらなる財政難を引き起こす可能性がある。

  • 大学財政の赤字

研究活動では年間53億ポンド、国内学生向け教育では17億ポンドの資金不足が続き、赤字額は年々拡大している。

  • 留学生受け入れへの支持と懸念

世論調査では、61%が現在の留学生数の維持または増加を支持。一方で、「留学生の増加が住宅問題を悪化させるのでは」との懸念も指摘されている。

  • 政府と大学の動向

教育大臣Bridget Phillipson氏は留学生を歓迎するメッセージを発信し、大学側も政府に対し安定した移民政策を求める動きを強めている。また、アメリカ・カナダ・オーストラリアの留学生受け入れ環境が悪化する中、英国は比較的安定した留学先として有利になる可能性も指摘されている。

結論:

大学側は留学生の減少が財政危機を深刻化させると警告し、政府に対し安定した移民政策と資金支援を求めている。

【英文記事】Guardian:

https://www.theguardian.com/education/2025/feb/16/overseas-students-english-universities-fees-tuition-tax

 

(17) イングランドの大学トップたちの”規制の重荷“の再考を求める声が増加

2025年2月16日英国の大学のトップたちは、学生局(Office for Student: OfS)に対し、その戦略の見直しを求めている。特に、小規模な大学が規制対応のコスト増加により財政的な負担を強いられている点を懸念している。

主なポイント:

  • 小規模大学は、大規模大学と比べて学生1人当たりのOfS登録料が最大20倍高くなる。
  • 英国大学協会(Universities UK: UUK)は、すでに大学が規制対応のために平均18人の追加スタッフを雇用しており、さらなる規制強化は財政的に厳しいと指摘。
  • UUKのCEO、Vivienne Stern氏は「規制の負担増は教育や学生支援の資金を圧迫する」と批判。
  • OfSの戦略には、教育の質や財政健全性の監督強化、ハラスメント防止策の強化、海外キャンパスの監視などが含まれる。
  • しかし、大学側は「すでに国内規制すら十分に管理できていない」と懐疑的。
  • 2023年の上院委員会や独立調査では、OfSのデータ要件の負担や不公平な料金体系が批判された。
  • 英国政府は、登録料の公平性と持続可能性を見直すとしつつも、大学の規模に応じた料金体系があると主張。
  • UUKは、OfSの財務監督の強化を歓迎しつつも、「規制コストの最小化と合理的な優先順位付け」を求めている。

Office for Student: Consultation on OfS strategy for 2025 to 2030:

https://www.officeforstudents.org.uk/ofs-strategy-for-2025-to-2030/

【英文記事】Guardian:

https://www.theguardian.com/education/2025/feb/16/university-leaders-england-regulator-fees-office-for-students

関連記事

OfSの新戦略(2025-30)に対するUUKの意見を発表

全体的な評価

  • 高等教育の財政的課題や国際的な状況を考慮した戦略の方向性を歓迎
  • 英国の経済・社会・文化への高等教育の貢献を維持することの重要性を認識

主な論点と提言

  1. 財政的持続可能性
    • OfSが財政的持続可能性を優先事項とすることを支持
    • 規制コストの最小化、業務の優先順位付け、不要な業務の削減を求める
    • 大学との協力を強化し、良い実践の共有を促進
  2. 学生と機会
    • 学生中心の戦略を評価するが、「広範な学生の利益」の定義が拡大しすぎる可能性を懸念
    • 機会の平等を明確な優先事項とするべき
  3. 規制の負担
    • 新たな規制は公共の利益が明確で、コストが正当化される場合にのみ導入されるべき
    • 透明性のあるコスト・ベネフィット分析の導入を提案
    • 既存の取り組みを活かし、規制の過剰な拡大を防ぐべき
  4. 信頼の構築
    • 大学との信頼関係の構築が不可欠
    • 特に財政健全性の監督において、対話を強化する必要がある
  5. 品質とガイドライン
    • 教育の質に関する統合的な評価方法の開発を歓迎
    • 欧州基準(ESG)との整合性を強化する取り組みを支持
  6. リスク管理と進捗評価
    • 大学の財務データの活用は必要だが、負担を最小限にするべき
    • 市場退出時の対策を慎重に進め、影響を最小限に抑えるべき
    • 戦略の目標や進捗測定が不明確なため、戦略実施の具体的な枠組みを明示すべき

結論

  • 政府の高等教育改革の発表が予定されているため、OfSの新戦略は「暫定的なもの」とし、現行の規制の枠組み内で実行可能な領域に注力するべき。

【英文記事】英国大学協会(Universities UK: UUK):

https://www.universitiesuk.ac.uk/what-we-do/policy-and-research/publications/our-response-office-students

 

(18)なぜウエールズの18歳の多くの若者は大学を目指さないのか?

2025年2月16日英国大学協会(Universities UK:UUK)の下部組織である「Universities Wales」は、大学進学率の低下がウェールズ経済に不利な影響を与える可能性があると警告している。2024年1月のデータによると、ウェールズの18歳の大学出願率は32%で、前年比1ポイント減少し、UK全体の40.6%と比較して低い。代表のAmanda Wilkinson氏は、若者の学歴水準の低下を懸念している。

ウェールズ政府の高等教育担である当大臣Vikki Howells氏は、大学進学を希望する若者を支援するとともに、大学以外の進路(技能実習制度:apprenticeshipなど)も推奨している。また、Cardiff Universityの看護学科閉鎖計画についても、近隣大学への振り分けによって必要な看護師の確保は可能だと述べた。

さらに、社会的・経済的格差により、大学進学率に影響が出ているとの指摘もある。ウェールズ政府は1.5百万ポンドを投じ、大学進学率の向上や学校教育の改善に取り組んでおり、ウェールズ政府が優秀な学生を支援する「Serenプログラム」などを通じて、潜在的な大学進学者への支援を強化している

【英文記事】BBC News:

https://www.bbc.co.uk/news/articles/cjr8ewdy9n4o

 

(19) ラッセルグループ:2025年包括的支出見直しへの提言

2025年2月17日英国政府は国家再生のビジョンを掲げているが、厳しい財政状況の中で難しい選択を迫られている。ラッセルグループ(英国研究重視型大学の連合)は、2025年包括的支出見直し(Comprehensive Spending Review)に向けた提言を発表し、研究大学の強みを活かすことで経済成長、公共サービスの向上、生活水準の向上を目指すべきだと主張している。

ラッセルグループの主な提言

  1. 英国の研究開発(R&D)投資をG7トップレベルに引き上げ、イノベーション主導の成長を促進
  • 公的R&D投資を増やし、大学の研究資金の実質的な減少を補う。
  • 研究の商業化を支援し、高リスク・高リターンの研究を推進。
  • これにより、新たな技術スピンアウトや知的財産の創出を促進し、英国の研究基盤を強化。
  1. 安定した大学の資金環境を確保し、必要なスキルを持つ人材を育成
  • 学生1人あたりの資金を増やすために、授業料の上限をインフレに応じて調整。
  • 戦略的優先助成金(Strategic Priorities Grant)などを活用し、大学の教育資金を確保。
  1. 大学の国際的な地位を活用し、外国直接投資(FDI)と輸出を促進
  • 国際的に競争力のあるビザ制度を確立し、海外の学生や研究者を受け入れやすくする。
  • 大学の研究・教育を国際投資の魅力の一部とし、英国の産業成長に貢献。
  • 研究の安全性を強化し、英国の技術的優位性を守るための資金提供を求める。

ラッセルグループ大学の貢献

  • 研究・イノベーションを通じて地域開発を促進し、高付加価値の産業クラスターを創出。
  • 教育格差の解消と、英国のスキル需要に対応する教育の提供。
  • 産業戦略のパートナーとして企業と連携し、成長分野を支援。
  • NHS(国民保健サービス)を支える人材を育成し、医療イノベーションを推進。
  • 国家安全保障を支援し、研究の保護と輸出促進に協力。

CEOのコメント

ラッセルグループのCEO、ティム・ブラッドショー氏は、「政府の支出見直しは今後数年の政策の方向性を決める重要な機会である。大学は経済成長と機会創出の原動力となる準備ができているが、財政的な課題も大きい。大学は効率化を進めながらも、スキルギャップの解消や画期的な研究を提供し続ける。これを最大限活かすには、安定した政策と戦略的な投資が必要だ」と述べた。

【英文記事】Russell Group:

https://russellgroup.ac.uk/news/submission-to-the-spending-review-2025/

 

(20)気候の転換時期の早期警告システムに8100万ポンドの資金援助

2025年2月18日 ハイリスク・ハイリターンのプロジェクトを支援する英国の研究発明庁(Advanced Research Invention Agency: ARIA)は、気候変動の転換期を事前に察知する警報システムの開発を目指し、27の研究チームに総額8100万ポンドを助成する。

プロジェクトの概要

ARIAの5年間のプロジェクトでは、グリーンランドの氷床崩壊と北大西洋の海流(SPG)の崩壊という2つの重大な気候変動リスクに焦点を当てる。これらが起こると、海面上昇や降水パターンの変化による食糧危機が発生する恐れがある。

科学者たちは既に、アマゾン熱帯雨林や西南極の氷床が不安定化している兆候を観測しているが、いつティッピングポイントを超えるかを予測するのは困難とされる。このプロジェクトの最初の目標は、それが可能かどうかを明らかにすること。

主な研究手法

  1. 自律型ドローンと海洋ロボット

グリーンランドの氷床をモニタリングする小型高速ドローンを開発。

海中を自動で移動しデータを収集する自律型センサーをSPG監視に活用。

  1. プランクトンの変化を監視

ホログラフィック撮影装置をコンテナ船やクジラに取り付け、プランクトンの分布変化をAIで解析し、海の変動を察知。

  1. 宇宙線を活用した氷床の融解速度測定

宇宙線中性子センサーを用いて、極地の厳しい環境でも氷の融解データを取得。

振動を検知する地震計を活用し、氷の溶けた水の流出を測定。

  1. AIと数理モデルによる予測

過去の気候データを活用し、海流や氷床の変動をより正確にシミュレーション。

3Dの海水温・塩分パターンを分析し、転換期の兆候を特定。

プロジェクトの意義

  • 転換期を数十年前に予測できれば、気候対策の大きな後押しになる。
  • 予測できなくても、影響を軽減するための準備時間を確保できる。
  • 気候変動の壊滅的な影響と比較すれば、8100万ポンドの投資は小さな額と研究者は指摘する。

「気候変動の転換期予測は非常に困難だが、多様なアプローチを統合して研究できるこのプロジェクトは大きなチャンスだ」と関係者は期待を寄せている。

【英文記事】Guardian:

https://www.theguardian.com/environment/2025/feb/18/early-warning-system-for-climate-tipping-points-given-81m-kickstart

  

(21)米国大統領の再選は留学誘致で英国の大学に有利?

2025年2月21日 Donald Trump氏の米国大統領再選が英国の大学に予想外の恩恵をもたらす可能性があると、British Councilの報告書が指摘している。前トランプ政権下で米国への留学生数が減少したことに加え、オーストラリアやカナダでの留学規制強化により、英国が最も受け入れに積極的な英語圏の国と見なされる可能性があるという。

2017~2021年のトランプ政権時、米国の留学生数は毎年減少し、2019~2020年にはトランプ政権前より5万人減少した。特に中東・北アフリカ、北米・中央アメリカ、欧州からの留学生が減少し、一方で東アジアからの留学は増加した。

英国では2025年入学向けの留学生の出願が4.7%増加しており、前年の減少傾向を覆している。その背景には、過去3年間で約60%の英国の大学が学位プログラムを拡充したことや、留学生に人気のある1月開始のコースを増やしていることがある。

British Councilの教育部門責任者は、英国が競争力を維持するためには、新たな市場を開拓し、海外分校(トランスナショナル教育:Transnational Education: TNE)への投資を増やし、優秀な留学生を確保し続ける必要があると指摘。インドからの需要が鈍化し、東アジアの高等教育の質が向上する中、大学側は従来の市場に頼らず、よりコストパフォーマンスの良い選択肢を提供することが求められるとしている。

【英文記事】Guardian:

https://www.theguardian.com/education/2025/feb/21/trumps-re-election-to-boost-uk-universities-as-fewer-students-choose-us

 

(22)留学生を狙った就職詐欺に対抗するためのキャンペーン実施

2025年2月24日英国で留学生を狙った就職詐欺が急増しており、多くの学生が高額な金額を支払って被害に遭っている。

BBCの報道によると、偽のリクルートエージェントを装った仲介業者が「本来無料であるはずのスポンサーシップ証明書に最大17,000ポンドを請求」するなど、悪質な手口が横行している。

こうした被害を防ぐため、「Student Circus」という就職支援プラットフォームが、詐欺の警告サインや対策を学ぶ啓発キャンペーンを開始した。

共同創設者のTripti Maheshwari氏は、「留学生が安心して学業や将来に集中できるよう、情報提供とサポートを強化する」と述べている。

また、同団体は英国の複数の大学(University of Kent, Henley Business School, the University of Brighton, Queen Mary University, Robert Gordon University)と協力し、キャリアサービスやニュースレターを通じて情報を発信している。

「マヤ」(仮名)という留学生はIT研修・リクルート会社から「ビザ付きの仕事を保証」と言われ、2,500ポンドの保証金を支払った。しかし、提供されたのは質の低いeラーニング講座のみ。さらに、面接で虚偽の職歴を話すよう強要され、詐欺だと気づいた頃にはすでに遅かった。

Maheshwar氏は「教育・採用業界では、留学生が『金儲けの対象』と見られることが多い」と警鐘を鳴らしている。

留学生の英国就労ビザ申請は6倍に増加(前年3,966件 → 2022年6月~2023年6月で26,000件超)しかし、雇用市場の競争は激化し、2020年以来の正社員求人の減少が報告されている。

スポンサーライセンスを持つ10万社のうち、実際に留学生を雇う可能性があるのは1万社のみ(全体の約10%)。

「スポンサーライセンスを持つ企業が10万社ある」という情報は誤解を招く可能性があるとStudent Circusの報告書は指摘し、実際には「オンラインでの正当な活動」「企業登記」「適正な労働環境」などの条件を満たす雇用主は限られていると警告している。

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/increasing-job-scams-targeting-intl-students-in-uk-sparks-campaign/

 

(23)報道があったにもかかわらず英国はEUの若者の移動制度に対して計画なし

2025年2月24日英国がEUとの相互間の移動制度を検討しているとの報道があったが、政府はこれを否定した。

2月21日、政府報道官は「青年交流制度(Youth Mobility Scheme)を導入する計画はない」と明言し、「EUとの関係を見直すが、自由な移動、関税同盟、単一市場への復帰はない」と強調した。

英国は現在、オーストラリア、ニュージーランド、日本、カナダなど13カ国と青年移動協定を結び、最大2年間の就学・就労を許可している。

英国の英語学校団体English UKは、「EUとも同様の制度を導入すべき」と主張しており、教育機関、観光業、英EU関係にも好影響を与えると見ている。

「EUと協定を結ぶことで、若者の未来が広がる」とし、より多くの枠を設けるべきだと指摘。

また、欧州運動UK(European Movement UK)も「他国と協定を結んでいるのに、EUを除外するのは不合理」と批判し、「若者の雇用・学習機会を奪うことになる」と警告している。

政府は移民抑制を重視し、一部のEU加盟国との個別協定を好む立場を取っている。

また、英国大学も財政難のため慎重な姿勢を見せており、EU学生を「英国内学生」として扱うことで授業料収入が減る可能性がある。

政府は移民制限を重視しつつも、「合理的な提案には耳を傾ける」とし、交渉の余地を残している。

EUとの関係再構築が英国の教育・貿易・経済にどのような影響を与えるかが今後の焦点となる。

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/uk-has-no-plans-for-eu-youth-mobility-scheme-despite-reports/

 

(24)Ian Chapman教授が次期UKリサーチ・イノベーションのCEOに任命

2025年2月25日Ian Chapman教授が、UKリサーチ・イノベーション(UK Research Innovation:UKRI)の次期CEOに任命された。彼は、経済成長を公共の研究開発投資の中心に据え、科学技術の可能性を最大限に引き出すという新たな使命を担う。

UKRIは年間90億ポンドの予算を持つ国内最大の公的研究資金提供機関であり、国民の税金を有効活用し、英国全体の利益となる野心的な研究を支援する重要な役割を担っている。近年では、オックスフォード・アストラゼネカのCOVID-19ワクチン開発や、世界最先端の風力タービン試験施設の建設、AI研究開発への多額の投資などを支援してきた。

Chapman教授は、生命を救う医薬品の開発から環境保護まで、幅広い分野の研究者やイノベーターを支援し、政府の変革計画の中心となるミッションを推進する。彼の英国原子力エネルギー庁(UK Atomic Energy Authority: UKAEA)CEOとしての経験は、英国の優れた研究人材、施設、大学、企業を活用し、経済成長を促進し、クリーンエネルギーの超大国を築き、将来のNHSを構築する上で大きな資産となる。

Patrick Vallance科学閣外担当大臣は、Chapman教授のリーダーシップ経験、科学的専門知識、学術的業績を高く評価し、彼の任命がUKRIの野心的な研究とイノベーションを推進すると期待している。また、Ottoline Leyser氏の貢献に感謝の意を表した。

Chapman教授は、UKRIの優れたチームに加わることを喜び、研究とイノベーションが社会と経済の繁栄に不可欠であると述べました。彼は、UKAEAでの経験を活かし、英国の研究とイノベーション分野全体の発展に貢献することを目指す。

UKRIは、世界クラスの大学や研究所を通じて、将来の研究人材を育成し、英国が研究開発のグローバルハブとしての地位を維持できるよう支援している。また、ホライズン・ヨーロッパへの参加を促進し、研究資金調達の効率化を図り、英国の研究とイノベーションの力を最大限に引き出し、さらに、長期的な産業戦略を推進し、成長の障壁を取り除き、英国の基礎科学能力という戦略的優位性を活用している。

【英文記事】英国科学イノベーション技術省:(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/professor-sir-ian-chapman-appointed-next-ceo-of-uk-research-and-innovation-with-renewed-focus-on-economic-growth 

①関連記事

2025年2月26日英国原子力庁(UK Atomic Energy Authority:UKAEA)の最高経営責任者であるIan Chapman氏がUKリサーチ、イノベーション(UK Research and Innovation:UKRI)の新CEOに就任し、経済成長に重点を置くと発表された。しかし、それが具体的に何を意味するのかは不明瞭である。

科学閣外担当大臣のPatrick Vallance氏は、イノベーションと経済成長の関連性を強調し、特にシリコンバレーの成功例を挙げた。英国でもオックスフォード・ケンブリッジ経済成長地域の開発を進め、スタートアップを国内で成長させることが重要だと主張。しかし、企業が米国などに流出すれば、国内の地域格差が拡大するだけになると警告した。

現在、政府の科学予算(年間約140億ポンド)は3つの分野に分類されている。

1つ目は基礎研究、

2つ目は政府の成長戦略に沿った応用研究(官民3:1の出資比率を目標)、

3つ目は企業支援であり、特に国内での企業の成長と投資確保が重視される。

過去の政府とは異なり、Vallance氏は英国企業のスケールアップを積極的に支援する姿勢を示している。

今後の課題は、

  • バイオテクノロジーなどのスタートアップ向けインフラ整備(低コスト)、
  • 新興企業の初期資金支援(低コスト)、
  • 企業のスケールアップ支援(高コスト)

の3つに分かれる。特に3つ目は、英国政府系の「British Business Bank(英国の経済開発庁で中小企業への信用供給の増加やビジネスアドバイスを提供)」が中心的役割を果たす可能性が高く、どれだけの追加資本を確保できるかが鍵となる。

米国のようなテクノロジー主導の経済成長を実現するには、数十億ポンド規模の投資が不可欠であり、政府がどこまで本気で取り組むかが今後の焦点となる。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-views-of-the-uk-2025-february-what-does-the-government-want-from-ukri-s-next-boss/

②関連記事

2025年2月27日UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation:UKRI)の経済・社会研究評議会(Economic and Social Research Council :ESRC)会長である*Stian Westlake氏は、UKRIを英国のR&Dの「戦略的頭脳」とする構想を再び推進すべきだと提言した。これは、Ian Chapman氏がUKRIの次期CEOに選ばれた直後の発言であり、UKRIの役割を再定義し、研究投資の意思決定をより効果的にする必要性を訴えたものといえる。

Westlake氏は、「UKRI設立時の目的の一つは、英国のR&Dシステムの理解を深め、より良い公共投資を実現することだった」と指摘。AIや量子技術などの「重要技術」への投資を最適化する必要性が高まる中、限られた予算を戦略的に活用することが不可欠であると強調した。

またWestlake氏は、UKRIと科学・イノベーション・テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)で共有する新たなデータ分析ユニットの設立を提案。このユニットを通じて、R&D投資の詳細な分析を行い、政府支出の透明性を高め、研究者への説明責任を果たすことを目指す。

このシステムは、他国の研究機関の模範となるべきであり、民間が持つR&D関連データを活用するなど、柔軟なアプローチが求められる。また、UKRIとDSITの連携を強化し、より効果的なR&D投資を実現することが重要である。

Westlake氏は、「グローバル競争が激化し、予算が逼迫する中、自国のイノベーション環境を明確に把握できる国が戦略的に優位に立つ」と述べ、R&D分析の強化が不可欠だと主張。Chapman氏の新体制のもとでUKRIが戦略的役割を果たせるよう、積極的な改革を進めるべきだと訴えた。また、この提案に関心のある関係者に対し、「ぜひ連絡してほしい」と呼びかけた。

  • *Stian Westlake氏:これまで保守党政権で3人の科学担当大臣のアドバイザーを務め、英国王立統計学会(Royal Statistical Society)の元CEO(former chief executive of the Royal Statistical Society)という経歴を持つ人物である。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-research-councils-2025-2-ukri-should-be-strategic-brain-for-nation-s-r-d-says-esrc-chair/

 

(25)英国の大学は92%の学生がAIを利用しているため”ストレステスト“を行うことを警告

2025年2月25日 英国の大学は、ほぼすべての学部生が生成AIを学習に使用していることが新たな調査で明らかになったことを受け、すべての試験・評価方法を見直すよう警告された。

1,000人の学生(国内・留学生)を対象とした調査によると、過去1年間で生成AIの使用が急増し、2025年の調査では88%がChatGPTなどのAIを試験対策に利用(2024年は53%)。AI全般の利用も92%に達し、非利用者はわずか8%にとどまった。

◆大学への警告と対応

レポートの著者Josh Freeman氏は、「この変化は異例の速さであり、大学は生成AIの影響を真剣に受け止めるべき」と警告。

  • AIを使えば簡単に解答できる試験を見直す必要がある
  • 教職員向けのAI研修が不可欠
  • 大学間でベストプラクティスを共有すべき

大学の対応について、80%の学生は「方針が明確」と回答し、76%は「AI使用を見抜く能力がある」と評価。しかし、AIスキルの正式な研修を受けた学生はわずか36%にとどまった。

◆学生のAI利用実態と懸念

  • AIの主な用途: 概念の説明、記事要約、研究アイデアの提案
  • 18%はAI生成テキストをそのまま課題に使用
  • 利用理由: 時間短縮(51%)、課題の質向上(50%)
  • 懸念点: 学術不正と見なされるリスク、不正確な情報の危険性

ある学生は「AIを使うと課題が楽になるが、利用の発覚が怖い」とコメント。特に女性や低所得層の学生はAI利用への不安が強く、富裕層やSTEM分野の学生ほど積極的にAIを活用していることが分かった。

◆専門家の見解と今後の課題

  • AIを使わない学生は「少数派」
  • AIを避けるのは学習や就職で不利になる可能性
  • 大学はAIを活用しつつ、不正行為への厳格な対策を取るべき

大学のAI方針は「曖昧」と

【英文記事】Guardian:

https://www.theguardian.com/education/2025/feb/26/uk-universities-warned-to-stress-test-assessments-as-92-of-students-use-ai

 

(26)脅威にさらされている科学

2025年2月25日 王立協会(Royal Society:RS)は、科学研究とイノベーションが経済、社会、文化の発展に不可欠である一方で、現代社会の地政学的、技術的、環境的、人口統計学的変化によって、人類の利益のために科学を推進してきた価値観が脅かされていると発表した。

主な脅威として、財政難による科学資金の削減、イデオロギー的な動機による研究の抑制、科学的証拠とその擁護者への攻撃、誤情報や偏見に満ちた議論の蔓延、そして平等性の危機を挙げている。

RSは、これらの脅威に対抗するために、その声と専門知識を活用し、科学資金の重要性を訴え、証拠に基づいた議論を擁護し、平等性、多様性、包摂性を推進することを表明した。

具体的には、ワクチンや気候変動などの例を挙げ、科学的根拠に基づくオープンで透明性の高い議論の重要性を強調し、政府に対して、科学への投資が成長を促進し、人々の生活を改善することを訴えた。また、科学コミュニティ全体の多様性と包摂性を高めることの重要性を強調し、すべての人々が潜在能力を最大限に発揮できるような環境を求めている。

つまり、RSは、科学的証拠に基づく自由で開かれた研究と議論が脅かされている現状に警鐘を鳴らし、科学の発展と人類の利益のために、その役割を積極的に果たしていくことを宣言した。

【英文記事】英国王立協会(Royal Society):

https://royalsociety.org/news/2025/02/science-under-threat/

 

(27)政府はUKRIの新しいCEOに何を期待するか

2025年2月26日英国原子力庁(UK Atomic Energy Authority:UKAEA)の最高経営責任者であるIan Chapman氏がUKリサーチ、イノベーション(UK Research and Innovation:UKRI)の新CEOに就任し、経済成長に重点を置くと発表された。しかし、それが具体的に何を意味するのかは不明瞭である。

科学閣外担当大臣のPatrick Vallance氏は、イノベーションと経済成長の関連性を強調し、特にシリコンバレーの成功例を挙げた。英国でもオックスフォード・ケンブリッジ経済成長地域の開発を進め、スタートアップを国内で成長させることが重要だと主張。しかし、企業が米国などに流出すれば、国内の地域格差が拡大するだけになると警告した。

現在、政府の科学予算(年間約140億ポンド)は3つの分野に分類されている。

1つ目は基礎研究、

2つ目は政府の成長戦略に沿った応用研究(官民3:1の出資比率を目標)、

3つ目は企業支援であり、特に国内での企業の成長と投資確保が重視される。

過去の政府とは異なり、Vallance氏は英国企業のスケールアップを積極的に支援する姿勢を示している。

今後の課題は、

  1. バイオテクノロジーなどのスタートアップ向けインフラ整備(低コスト)、
  2. 新興企業の初期資金支援(低コスト)、
  3. 企業のスケールアップ支援(高コスト)

の3つに分かれる。特に3つ目は、英国政府系の「British Business Bank(英国の経済開発庁で中小企業への信用供給の増加やビジネスアドバイスを提供)」が中心的役割を果たす可能性が高く、どれだけの追加資本を確保できるかが鍵となる。

米国のようなテクノロジー主導の経済成長を実現するには、数十億ポンド規模の投資が不可欠であり、政府がどこまで本気で取り組むかが今後の焦点となる。

【英文記事】 Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-views-of-the-uk-2025-february-what-does-the-government-want-from-ukri-s-next-boss/

 

(28)単位互換の理想な方法とは?

2025年2月26日英国高等教育質保証機構(Quality Assurance Agency: QAA)のイングランド担当主任政策責任者のHelen Vine氏は米国の研究者であるLauren Schudde 氏とHuriya Jabbar氏の最近の研究である“信用を失った単位互換:権力、特権、そしてコミュニティカレッジ”から何を学べるかを考察している。

高等教育政策における複雑な問題、特に単位移行について、しばしば理想視されるアメリカの事例を検討し、その課題を明らかにした。

主なポイント:

  • 単位互換の理想と現実:
    • 英国では、単位互換が複雑で困難な問題とされており、アメリカのコミュニティカレッジ制度が理想視されがちである。
    • しかし、調査の結果、アメリカの制度も表面上ほど完璧ではなく、英国と共通する多くの課題が存在することが判明した。
  • 学生が直面する課題:
    • 英国と米国の両方で、単位互換のプロセスは学生にとって分かりにくく、情報不足や複雑な手続きが障壁となっている。
    • 学生は多くの情報源を照らし合わせる必要があり、プロセスを乗り越えるために多大な努力を求められる。
    • 米国では、コミュニティカレッジの学生が、4年制大学に移る際に、大学側から、学力が低いと見なされる傾向がある。
    • 制度的な課題:
    • 制度の標準化や合理化は、大学の自治を侵害するという懸念を引き起こし、抵抗を受けることがある。
    • 制度を改善するための努力は、学生の経路を容易にするように設計されていないシステム内では不十分である可能性がある。
    • 英国における解決策の提案:
    • 個々の大学レベルでの取り組みだけでなく、セクター全体での連携と標準化が必要。
    • QAAのような機関が中心となり、単位互換に関する共通のガイドラインを策定することで、学生と大学の負担を軽減が可能。
    • 米国の事例から、表面的な制度の改善だけでなく、根深い障壁に積極的に取り組む必要があることが示唆される。
    • 英国のUK Quality Code(高等教育機関が提供する教育の質を保障するための基準)とCredit Framework for England(イングランドの高等教育における単位制度の枠組み)などのように、共通の基準を設け、各大学が独自の状況に合わせて適応できるようなアプローチが有効である。

単位互換は、英国と米国の両方で複雑な問題であり、表面的な制度の改善だけでなく、制度全体の改革とセクター全体の協力が必要である。

 【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI):

https://www.hepi.ac.uk/2025/02/26/the-holy-grail-of-credit-transfer/

 

(29) 英国の医学部に入学した労働者階級はたったの5%

2025年2月27日英国の医学部に進学する労働者階級出身の学生は依然として全体の5%に留まり、この割合は過去10年間で倍増したものの、依然として低い水準にあることが、サットン・トラスト(Sutton Trust)とUniversity College London (UCL)の調査で明らかになった。

2012年から2022年にかけての約94,000人の医学部志願者を分析した結果、2021年の医学部入学者の75%が高い社会経済的背景を持つ学生だった。私立学校出身の学生は、公立の総合制学校(入学時に選抜を行わない中等学校)出身者よりも医学部の合格率が1.5倍高く、成績や社会経済的要因を考慮しても、私立学校出身者の方が有利であることが判明した。

また、一部の学校・カレッジが医学部進学者の大半を占め、全体の2%の学校(58校)が毎年20人以上の医学部志願者を輩出しているのに対し、80%の学校では年間5人未満だった。

Sutton Trust のCEOである Nick Harrison氏は、「NHSが医師不足に直面している中、医学部入学の不公平さは深刻な問題であり、多様な人材を増やすための対策が急務だ」と指摘。「医師は地域社会の多様性を反映すべきだが、現状はほど遠い」と述べた。

UCL医学部のKatherine Woolf教授は、貧しい家庭の学生にとって成績の低さが医学部進学の大きな障壁になっていると指摘し、進学前から医師としてのキャリアを積むまでの継続的な支援が必要だと強調した。

政府の報道官は、「教育における格差を是正し、医学を志望するすべての学生に機会を提供する」と述べ、NHSや大学と連携し、より多くの医師を国内で育成する方針を示した。

【英文記事】Guardian:

https://www.theguardian.com/society/2025/feb/27/only-5-of-uk-medical-school-entrants-are-working-class-data-shows

 

(30)University of Sussexは英国初となる気象正義の学位を設立

2025年2月27日University of Sussexは、英国初となる**「気候正義(Climate justice)」に特化した学士課程を2026年に開設する。新しい「気候正義・持続可能性・開発(Climate Justice, Sustainability and Development)」というBAコースでは、気候政治、環境人権、活動家としてのスキルとともに、実践的な環境技術を学ぶことができる。

本コースの共同責任者であるWill Lock講師(国際開発・人類学)は、大学が実践的な環境学習に力を入れており、新コースにもキャンパス内の森林食料庭園の活用などが含まれると説明。例えば、彼の担当する「政治生態学と環境正義」の授業では、従来の5000語の論文ではなく、学生がグループでポッドキャストを制作し、気候正義の問題を広く伝える方法を学ぶと述べた。

このコースの開設は、14〜18歳の72%が、より実践的で社会科学的な気候教育を求めているという調査結果を受けたもの。Lock氏は、気候変動が現実の問題として学生に影響を与えているため、彼らの関心が高まっていると指摘し、「気候変動は現代政治の中心課題であり、学生はより深く学びたいと考えている」と語った。

【英文記事】Guardian:

https://www.theguardian.com/education/2025/feb/27/sussex-to-launch-uks-first-climate-justice-undergraduate-degree

 

(31) 英国の「科学技術ネットワーク(STN)」が発足:研究・大学分野での国際協力を強化

2025年2月28日 英国政府は、科学技術分野での国際協力を強化するため、科学技術ネットワーク(Science and Technology Network: STN)を発足した。これは、従来の科学・イノベーションネットワーク(Science and Innovation Network:SIN)を刷新したものであり、65カ国に130人以上のスタッフを配置し、科学技術の国際的な連携を推進する。

STNは、英国の科学・技術の卓越性を世界に発信し、国際的なパートナーシップを構築することを目的としている。特に、英国の大学や研究機関と海外の学術機関の協力を促進し、研究成果の共有や技術革新を推進することが期待されている。

英国王立協会(Royal Society)の副会長であるMark Walport卿は、「英国の科学・技術・工学分野での国際的リーダーシップを維持することは、国の長期的な繁栄と国際的地位に不可欠である」と述べ、気候変動や生物多様性の喪失、パンデミック、食糧安全保障などの世界的課題に対する科学外交の重要性を強調した。

UKリサーチ研・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)の国際担当プロジェクトリーダーであるChristopher Smith教授は、「STNの再編は、国際的な研究とイノベーションの連携を強化する役割の進化を反映している」と述べ、英国の科学技術の世界的なリーダーシップをさらに強化することへの期待を表明した。

英国の大学はSTNと長年協力しており、その専門知識や国際的なネットワークが、学術研究や技術革新の発展に大きく貢献している。英国大学協会国際部(Universities UK International: UUKi)のJamie Arrowsmith氏は、「この再編によって、科学技術の急速に変化する環境に適応し、国際的な協力をさらに推進できる」と述べた。

また、英国の大学は世界で3番目に影響力のある研究成果を生み出しており、ブリティッシュカウンシルの教育部門ディレクター、Maddalaine Ansell氏は、「国際協力なしでは世界的な課題を克服できない」と強調し、STNが学術・研究分野の長期的な国際的パートナーシップを築く役割を果たすと期待を寄せた。

STNの主な目標

  1. 英国の科学技術とイノベーションの卓越性を世界に発信
  2. 国際的な科学技術協力を積極的に構築・促進
  3. 世界の科学技術トレンドや機会を分析し、英国の研究・産業界に提供

国際的な研究協力の成果

STNは、すでに以下のような重要な国際研究協力を支援している。

  • 英国・デンマークの北極研究(気候変動の理解を深める)
  • 英国・日本の半導体パートナーシップ(次世代技術の発展)
  • 英国・米国の量子技術協力(医療・ライフサイエンス分野への応用)
  • Zikaウイルス対策(ブラジル)や台風予測(東南アジア)などの研究支援 

STNの発足により、英国の科学・技術分野での国際的な協力がさらに強化される。特に大学や研究機関との連携が重要視されており、グローバルな課題解決や技術革新に向けた取り組みが加速することが期待されている。

【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT) 

https://www.gov.uk/government/news/uks-global-science-and-tech-ambitions-refreshed-under-new-banner