2025年5月07日
(1)科学者たちの反感にも関わらずElon Musk氏は王立協会フォローの資格維持
(2)大学の職が今年1万人以上の削減の可能性
(3)University of Sheffieldの工学研究資金と投資でトップ
(4)City St George’s, University of Londonの誕生
(5)EPSRCの多様性データ分析に関する報告書の概要
(6)英国のAI研究のエコシステムを敵対的な国からの保護するため緊急な行動が必要
(7)UUKの次期会長決定
(8)新分析結果:政府の産業戦略の鍵を握るのは大学卒業生
(9)David Willetts氏規制革新局の初代議長に
(10)記録的な契約と政府目標を伸ばした英国宇宙庁の功績
(11)REF2029:オープンアクセスに関するよくある質問回答を公開
(12)University of Dundee : 632人の雇用を削減し、「機関資金による」研究を縮小へ
(13)2023/24年度:UKRI支出の多くはイングランド南東部以外へ
(14)企業と大学のリーダーたちが成長の障害を取り除く産業戦略を要求
(15)英国留学ビザ申請が3か月連続で増加、期待が高まる
(16)英国の研究・イノベーションにおける女性の重要な役割が明確に
(17)移民諮問委員会: 英国への学生移民最新情報
(18)国会議員が大学財政の「最悪の事態」を調査へ
(19)英国:ホライズンヨーロッパ再加入1周年を迎える
(20)英国科学大臣、米国とのAIパートナーシップ強化を求める
(21)大学のスタートアップ事業の増加、しかし競争国に流出の危険
(22)2023/24年度の英国高等教育の公式統計発表
(23)50万人の男性が高等教育を受けられず
(24)UKRIの研究資金政策の変更と財務持続可能性の向上
(25)英国王立協会:議員、公務員と研究者の交流スキーム2025
(26)教育大臣:学生ローンの不正疑惑に対して調査を指示
(27)大学財政悪化による無料学費に対するスコットランド有権者の意見が分裂
(28)英国の高等教育機関における外国人職員についての概要
(29)英国春季財政声明の要点:軍事支出拡大と技術革新への影響
(30スコットランドの研究結果:FP10提携参加はより迅速、簡素に
(31)UKRI:男女賃金格差報告書を発表
(32)第3回「ChipStart」半導体スタートアップ支援プログラムが始動
(33)英国とウクライナ姉妹都市提携3周年目
(34)大学への追加技術革新資金は数十億ドルの経済効果を得られる
(35)ヨーロッパ発の火星探査機を英国が請け負う
(36)Jis:英国研究保護のためサイバーセキュリティセンターを設立
(1) 科学者たちの反感にも関わらずElon Musk氏は王立協会フォローの資格維持
2025年3月3日、米国の起業家であるElon Musk氏の英国王立協会(Royal Society)のフェロー資格は、協会の会合後も維持されたことが明らかになった。しかし、さらなる対応が取られるかどうかは不透明である。
Musk氏は2018年に王立協会のフェローに選ばれたが、最近ではその行動が協会の倫理規範に反するのではないかとの批判が高まっている。これに抗議し、著名な科学者2名がフェローを辞退し、3,400人以上の科学者が公開書簡に署名した。AIの先駆者であるGeoffrey Hinton氏もMusk氏の除名を支持した。
Musk氏はSNSでこれに反論し、「賞や会員資格を気にするのは臆病で不安な愚か者だけだ」とコメントし、具体的にどの行動が問題とされているのか問いかけた。批判の一因には、Musk氏の攻撃的な発言や、科学予算削減に関与する立場である。
王立協会は会合後、「科学と科学者を擁護する必要性」を強調する声明を発表したが、Musk氏のフェロー資格については触れなかった。この対応について、一部の科学者は「協会が倫理規範を順守する意思があるのか不透明だ」と疑問を呈している。
【英文記事】Guardian紙:
(2) 大学の職が今年1万人以上の削減の可能性
2025年3月4日英国の大学組合(University and College Union: UCU)によると、今学年度中に1万件以上の大学職が削減される可能性がある。既に5,000件以上の削減が発表されており、さらなるリストラも進行中である。財政赤字を埋めるために追加で5,000件の職が失われる恐れがあるという。
UCUは「Stop the Cuts, Fund Higher Education Now(今すぐ削減をやめて高等教育に資金を)」というキャンペーンを開始し、政府に緊急の資金援助を求めた。UCUのJo Grady事務局長は「高等教育は危機的状況にあり、多くの職とコースが消滅し、学生に深刻な影響を及ぼしている」と述べ、長期的な新たな公的資金制度の必要性を訴えた。
また、大学の学長らを「無責任」と批判。学生数の急増と縮小を繰り返し、適切な投資を怠った結果、現在の危機を招いたと指摘した。さらに、大学の管理体制の監督機関が機能しておらず、副学長が高額な報酬を受け取る現状を問題視し、労働党に対し包括的な見直しを求めた。
【英文記事】Research Professional News:
(3)University of Sheffieldの工学研究資金と投資でトップ
2025年3月4日、英国の高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency:HESA)の最新データによるとUniversity of Sheffieldは、工学研究への研究資金と投資額で英国トップとなったことが明らかになった。
University of Sheffieldの主要な研究プロジェクト
University of Sheffieldの工学研究の意義
University of Sheffieldの工学研究は、英国の産業競争力強化とイノベーション推進の重要な役割を担っていることが、今回のHESAデータで示された。
【英文記事】国立大学産業センター:(National Centre for Universities and Business: NCUB)
(4)City St George’s, University of Londonの誕生
昨年2024年8月1日にCity, University of LondonとSt George’s, University of Londonが正式に統合し、新たな大学「City St George's, University」が誕生した。これにより、専門教育と最先端の研究に特化した大規模な多学部制大学が誕生した。
統合の概要と影響
統合による主なメリット
今後の展望
「City St George's, University」は、学問と実践を融合し、新たな研究と教育の可能性を切り開く場として発展していくことが期待されている。
【英文記事】Pie News:
https://thepienews.com/two-london-unis-merge-to-become-powerful-multi-faculty-institution/
(5) EPSRCの多様性データ分析に関する報告書の概要
2025年3月6日英国の工学・物理科学研究会議(Engineering and Physical Sciences Research Council : EPSRC)が依頼し、王立統計学会(Royal Statistical Society: RSS)が独自で実施した報告書が発表された。本報告書では、初めて審査員のコメントやスコアを含む詳細なデータ分析が行われ、EPSRCの資金提供ポートフォリオに関する新たな知見が得られた。
新たな知見:
今後の重点的な取り組みの検討事項:
次のステップ:
透明性の向上とEPSRCのEDIへの取り組みとしてこの報告書は、EPSRCが独立機関によるデータ分析を公表した初の研究資金提供機関となったことを意味し、透明性向上の重要な一歩である。
EPSRCはすでに以下のEDI施策を実施している内容として:
EPSRCは、より公平で多様性に富んだ研究環境を実現するため、今後もデータ分析と施策の強化を続ける。
【英文記事】UKRI: https://www.ukri.org/news/independent-analysis-provides-insights-into-epsrcs-portfolio/
(6)英国のAI研究のエコシステムを敵対的な国からの保護するため緊急な行動が必要
2025年3月7日アラン・チューリング研究所に拠点を置く新興技術・安全保障センター(Centre for Emerging Technology and Security: CETaS)が発表した報告書によると、英国のAI研究はスパイ行為や技術窃盗、悪意のある協力関係といった脅威にさらされており、研究の安全性を確保するための緊急対応が必要とされている。特に、AI技術の二重用途性や機密データの使用、リバースエンジニアリング*のリスクが懸念されている。
報告書は、学術界全体で研究セキュリティに対する認識が不十分であり、政府の指針に従うための筋道が引かれていないと指摘。研究成果の公開を求められる学者の負担とのバランスをとりながら、研究セキュリティ文化の改革が急務であると主張している。また、国際的な研究パートナーのリスク評価や適正評価(精査)の実施が難しい現状も課題として挙げている。
政府への提言として、科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)が国際的なリスクの高い研究機関に関する定期的な指針を提供し、学術界の適正評価(精査)を支援するための資金を増やすことを求めている。また、国家保護安全保障局(National Protective Security Authority: NPSA)や国家サイバーセキュリティセンター(National Cyber Security Centre : NCSC)が出版業界や学術機関と連携し、研究セキュリティを強化する方針の策定を支援することも提案されている。
学術界に対しては、新規スタッフや大学院生向けにNPSA認定の研究セキュリティ研修を義務化し、中央集約型の情報共有システムを構築することを推奨。さらに、AI研究における論文の事前リスク評価を標準化し、研究倫理審査の一環として組み込むべきだとしている。
報告書は、英国政府と学術界の緊密な連携を通じて、AI研究の安全性を強化し、国家的資産を保護する必要があると強調している。
リバースエンジニアリング*:既存の製品を分解または解析し、その仕組みや仕様、構成部品、技術や設計、などを明らかにすること
【英文記事】アラン・チューリング研究所(Alan Turing Institute):
(7)UUKの次期会長決定
2025年3月7日Manchester Metropolitan Universityの学長であるMalcolm Press氏が、英国大学協会(Universities UK: UUK)の次期会長に選出された。彼は8月から2年間の任期 で、University of St AndrewsのSally Mapstone氏の後任 として就任する。
英国の高等教育分野は現在、財政難による人員削減やコスト削減 などの課題に直面しており、Press氏の任期は困難な時期と重なることになる。彼は2015年からManchester Metropolitan Universityの学長を務め、それ以前はUniversity of Birminghamの研究・知識移転担当副学長 や英国生態学会の会長を歴任した。
Press氏は就任に際し、「大学は経済の発展や学生の教育、重要な研究を担う存在であり、この重要な時期にUUKの会長を務めることを光栄に思う」と述べ、英国の大学が引き続き発展できるよう尽力する意向を示した。
UUKの最高経営責任者であるVivienne Stern氏は、Press氏のリーダーシップが英国の4つの国(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)それぞれの政府との良好な関係を築く上で重要になる とコメントした。
【英文記事】Research Professional News:
(8)新分析結果:政府の産業戦略の鍵を握るのは大学卒業生
2025年3月10日、新たな分析データによると、政府の産業戦略で成長が期待される主要セクターにおいて、大卒者が重要な役割を果たしていることが明らかになった。英国大学協会(Universities UK: UUK))の分析によれば、8つの優先産業セクターにおける労働力において平均64%が大卒者で占められており、今後の経済成長には高等教育資格を持つ労働者の確保が不可欠とされている。
政府の調査では、高等教育の普及が生産性の低下を防ぎ、労働力に占める学士・修士学位保持者の割合が2001〜2007年の22%から2014〜2019年には35%へ増加したことが示されている。
また、各大学は企業と協力し、産業界のニーズに合った高度なスキルを持つ人材を育成している。例えば、University of Debyはロールス・ロイスと提携し、英国の潜水艦プログラムに必要な核技術者を育成する「Nuclear Skills Academy」を開設。University of Liverpoolはスポーツ栄養企業「Protein Works」との提携を通じ、即戦力となる卒業生を輩出している。University of Plymouthでは、エンジニアリング企業「Babcock」とのメンター制度やスキルアカデミーを通じ、学生に実務経験を提供している。しかし、UUKの分析では、ロンドンや南東部に比べ、他の地域では大卒者の割合が大きく劣ることが判明。全国的な成長を目指す政府にとって、地方の教育・雇用機会の拡大が課題となっている。現在、ロンドンと他地域の格差を埋めるには約400万人の大卒者が必要とされる。
UUKの最高経営責任者であるVivienne Stern氏は、「大卒者の割合が高い地域ほど生産性が向上しており、十分な人材供給がなければ企業の成長が妨げられ、国外流出も懸念される」と指摘。「英国経済の競争力を維持するためには、高等教育の拡充が不可欠であり、大学の持続的な資金確保が求められる」と強調した。
【英文記事】英国大学協会(Universities UK: UUK)
https://www.universitiesuk.ac.uk/latest/news/new-analysis-shows-graduates-will-be-key
(9)David Willetts氏規制革新局の初代議長に
2025年3月10日英国政府は、新技術の市場投入を妨げる規制を見直すために設立した「規制革新局(Regulatory Innovation Office: RIO)」の初代議長に、元大学・科学担当大臣のDavid Willetts氏を任命した。RIOは、ドローンや自動運転車の普及加速のほか、エンジニアリングバイオロジー、宇宙、医療AIの分野を重点的に支援する。Willetts氏は現在、英国宇宙庁(UK Space Agency: UKS)の議長を務め、低・中所得層の生活向上を目指すシンクタンク「Resolution Foundation」の会長でもある。2010年から2014年まで科学担当大臣を務め、宇宙産業や合成生物学、自律システム分野に6億ポンドの政府支援を確保した実績を持つ。
科学大臣のPeter Kyle氏は、Willetts氏の専門知識とリーダーシップが、イノベーション推進と経済成長に貢献すると期待を寄せている。
【英文記事】Research Professional News:
(10) 記録的な契約と政府目標を伸ばした英国宇宙庁の功績
2025年3月11日英国の宇宙分野が過去最高の8億4400万ポンドの資金を獲得し、大学や研究機関の国際的な影響力が強まっている。
英国宇宙庁(UK Space Agency: UKSA)が主導する政府支援のタスクフォースにより、英国の投資に対する契約獲得率が2022年の93ペンス/1ポンドから現在99ペンス/1ポンドへ向上。さらに、国際協力による経済効果は1ポンドの投資に対し9.80ポンドの利益を生むとされる。
大学の研究と技術革新の成果が、宇宙産業の成長を支えている。エアバス主導の「Vigil」ミッションでは最大5日先の宇宙天気予報を提供し、フランス企業であるタレス・アレニア・スペース社は月面への貨物輸送を可能にする次世代宇宙船を開発中。また、英国政府は宇宙打ち上げ産業の成長を後押しし、シェトランド諸島のサクサヴォード宇宙港からオーブックス社のロケット発射を支援するために2000万ポンドを投資した。
UKSAのCEO Paul Bate博士は、「英国の競争力向上と産業契約の獲得がESA加盟の大きな価値であり、新たな契約を獲得した関係者に祝意を表する」と述べた。ESAのJosef Aschbacher事務局長も、「英国の宇宙産業は欧州の経済成長、技術的自立、高付加価値の雇用創出に貢献しており、持続可能な宇宙開発を推進するパートナー」と評価した。
英国科学大臣Peter Kyle氏は、「宇宙分野での成功は、英国の科学技術の革新力と投資の魅力を示している」とし、「2035年に向けた産業戦略の一環として、英国経済の成長を牽引する重要な要素だ」と強調した。
【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)
(11) REF2029:オープンアクセスに関するよくある質問回答を公開
2025年3月11日 REF 2029 のオープンアクセス方針は、2024年12月に協議概要とともに公開された。2025年1月末に、ガイダンスに関する意見交換会を開催し、その録画とスライドはこちらから閲覧できる。https://2029.ref.ac.uk/resources/#openaccess
また同日には、方針に関するよくある質問への回答も公開した。一般からの意見を踏まえ、一部のセクションを更新または明確化した。 https://2029.ref.ac.uk/about/faqs/open-access-faqs/
【英文記事】REF2029:
https://2029.ref.ac.uk/news/open-access-faq-published/
(12)University of Dundee : 632人の雇用を削減し、「機関資金による」研究を縮小へ
2025年3月11日, University of Dundeeは、2024-25年度に予測される3,500万ポンドの赤字を解消するため、機関資金による研究の縮小と632人の人員削減を行うと発表した。
大学は学術および専門職の大幅な再編を実施し、現在の8つの学部を3つの学部に統合、研究も少数の研究所に集中させる予定である。
この財政危機の要因として、留学生の大幅な減少、高等教育の慢性的な資金不足、コスト上昇やインフレなどが挙げられている。また、研究の規模と強度が、教育や商業活動からの収入で維持できるレベルを超えているという構造的な問題も指摘された。
スコットランド政府は大学を支援するために1,500万ポンドの融資を行ったが、それでも赤字解消には不十分なため、資産(不動産や知的財産)を売却し、授業の効率化(モジュール提供の20%削減)、専門職サービスの簡素化、経営陣の見直しなどのコスト削減策を進めている。
臨時的な学長のShane O’Neill氏は、「現在の財政危機を受け、大学の規模・構造・バランスについて根本的な見直しが必要だ」と述べ、今後の改革が不可避であると強調した。また、財政悪化の原因を調査するため、スコットランド資金評議会と連携し外部調査を実施するとしている。
大学組合(University and College Union: UCU)のJo Grady書記長は、「職員にとって壊滅的な発表」と批判し、「解雇や教育削減以外の選択肢を模索すべき」と訴えた。
【英文記事】Research Professional News:
(13)2023/24年度:UKRI支出の多くはイングランド南東部以外へ
2025年3月12日2023/24年度、リサーチ・イノベーションUK(UK Research and Innovation:UKRI)による投資額は、グレーター・サウスイースト(ロンドン、イングランド南東部、および東部)よりも他地域の方が多くなった。UKRIのデータによると、グレーター・サウスイーストでは45.5億ポンド、その他の地域では46.1億ポンドが投資された。これは2019/20年度に現在の集計方法を導入して以来、初めてのこと。
UKRIの地域投資戦略責任者Jessica Corner氏は、政府の経済成長と地域格差是正の方針に沿い、研究・イノベーション投資が生産性や雇用の向上に不可欠であると強調した。
ロンドン・オックスフォード・ケンブリッジを結ぶ「ゴールデントライアングル」に過剰投資されるとの懸念がある中、地域への投資増加を歓迎する声もある。一方で、オックスフォード・ケンブリッジ経済成長地域への新規投資に対し、北部に位置するUniversity of Leeds大学の研究者が「南部へ移動しなければ先進的な研究を続けにくい」と懸念を示した。
2023/24年度におけるUKRIの一人当たり投資額は、グレーター・サウスイーストが183ポンド、他地域が106ポンドと依然として差があるが、その格差は縮小しており、2021/22年度の「2倍」から「73%増」に減少している。
UKRIの地方投資比率は年々上昇し、2021/22年度の47%から2023/24年度には50%超となった。
投資増加額が最も大きかったのは北西部(+1.74億ポンド)、東ミッドランド(+9600万ポンド)、西ミッドランド(+9100万ポンド)。唯一投資が減少したのはヨークシャー・ハンバー地域(-3600万ポンド)。投資増加率では、ロンドン・南東部・東部が下位5地域に入り、北アイルランド、ヨークシャー・ハンバーと並んだ。
なお、UKRIの投資にはイングランド限定のResearch Englandの資金が含まれるため、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドとの単純比較は困難である。
【英文記事】Research Professional News:
(14)企業と大学のリーダーたちが成長の障害を取り除く産業戦略を要求
2025年3月13日ラッセルグループ産業戦略専門家パネルが策定した「Future Ready: the Path to Growth」では、新規ビジネスの障害の撤廃、研究集約型大学の強みを活かした海外投資の誘致、英国の長期的な人材育成、そして全国的に恩恵をもたらす包括的な産業戦略の提言を行っている。
主な提言には、高成長の可能性を持つスピンアウトやスタートアップの促進、研究の商業化支援のための「高等教育イノベーション基金(Higher Education Innovation Fund : HEIF)」の拡充などが含まれる。HEIFの投資1ポンドあたりの経済リターンは14.80ポンドに上り、大規模研究大学では20ポンドに達することが示されている。
報告書の序文で元閣僚のGreg Clark氏は、「産業戦略を政府、ビジネス、公共部門、大学のパートナーシップの中心に据えるべきだ」と述べた。
政府と研究集約型大学に対する主な提言:
University of Warwickの学長であり、ラッセルグループの産業戦略専門家パネルの議長であるStuart Croft氏は、「産業戦略が生産性向上の障害を取り除くことが重要であり、大学はそのエコシステムの要となる」と強調した。ラッセルグループのCEOである Tim Bradshaw氏も、「大学の役割を教育・研究の枠を超えて捉え、経済レジリエンスの確保に活用すべきだ」と述べた。
政府は2025年6月の歳出見直しで産業戦略の計画を発表する予定。
【英文記事】Russell Group:
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2025年3月13日ラッセル・グループと経済界のリーダーは、政府の新たな産業戦略の中心に大学を据えるべきだと主張し、高等教育イノベーション基金(HEIF)の増額を求めている。
ラッセル・グループの産業戦略専門家パネルによる報告書では、HEIFの拡充が大学と経済・社会との結びつきを強化し、スタートアップの創出や研究成果の商業化を促進すると指摘。報告書は、GSKやNatWestなどの企業幹部と研究集約型大学のリーダーによって作成された。
政府は6月の支出見直しで新たな産業戦略を発表予定で、報告書は、英国の大学が地域経済の成長を牽引する存在として海外投資を呼び込む可能性を強調している。また、地方経済成長の中心に大学を据え、中小企業との協力を促進する新たな連携促進策の導入を提案。
University of Warwickの学長でラッセル・グループ産業戦略パネルの議長を務めるStuart Croft氏は、英国の経済成長の課題解決には、大学が「革新者、教育者、協力者、主要雇用者」として重要な役割を果たすと述べた。適切な資金と政策があれば、大学はさらに成長と生産性を押し上げることができるとしている。
英国大学協会(Universities UK: UUK)の広報担当者は、全国の大学が高等教育を通じたスキル向上を支え、将来の労働力育成に貢献できるよう、持続可能な資金確保の重要性を訴えた。
【英文記事】Research Professional News:
(15)英国留学ビザ申請が3か月連続で増加、期待が高まる
2025年3月13日, 英国の大学への留学生ビザ申請数が3か月連続で増加し、昨年の大幅な減少から回復の兆しが見え始めている。
英国内務省のデータ(3月13日発表)によると、2025年2月の学生ビザ申請数は6,500件で、前年同月の3,700件から76%増加。1月は前年比12%増の28,700件、12月も15%増の35,200件となった。
英国の大学は留学生の高額な授業料収入に依存しており、昨年の留学生減少が大学財政の危機を招いた。これにより、多くの大学が人員削減や経費削減を余儀なくされている。
2025年2月までの1年間の留学生ビザ申請総数は41万3,900件で、前年同期比12%減少。しかし、直近3か月の連続増加により、回復への期待が高まっている。
高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)のNick Hillman所長は、「イングランドやスコットランドの大学を訪問すると、留学生数の回復に楽観的な雰囲気を感じる」と述べた。また、英国政府の前向きな姿勢や新たな国際教育戦略、米国・オーストラリア・カナダの留学生政策の厳格化が影響し、英国がより魅力的な留学先となっている可能性があると指摘した。
しかし、Hillman氏は「まだ祝うには早い」と警告。労働党政権発足後、留学生政策に大きな変更はなく、大学の財務状況は依然として厳しいと指摘した。「政府が留学生増加を歓迎し、明確な目標を設定することが必要だ」と述べた。
2025年2月までの1年間で、留学生の扶養家族のビザ申請数は2万800件となり、前年の12万5,500件から83%減少。2024年1月以降、政府の奨学金を受ける学生や博士課程の学生を除き、留学生が扶養家族を同伴することは禁止されている。
【英文記事】Research Professional News:
(16)英国の研究・イノベーションにおける女性の重要な役割が明確に
2025年3月13日, 新たな調査(Elsevier発表)により、英国の研究・イノベーション分野における女性の貢献が極めて重要であることが明らかになった。 現在、平等・多様性・包摂(Equality, Diversity and Inclusion:EDI)政策が議論される中、深刻な人材不足が続く英国では、女性研究者の役割を正しく評価することが不可欠である。
英国の女性研究者は、世界トップクラスの大学やビジネス分野で最先端のイノベーションを牽引している。今後も彼女たちの貢献を認め、支援を強化し、さらなる進展を促すことが重要である。
【英文記事】国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB):
https://www.ncub.co.uk/insight/celebrating-women-in-research-and-innovation/
(17) 移民諮問委員会: 英国への学生移民最新情報
2025年3月14日英国の移民政策に関するホワイトペーパーを前に、業界の有力者2人が重要な見解を示し、今後の課題について警告を発した。
その中で、留学生は英国の純移民統計に引き続き含まれることが確認された。移民諮問委員会(Migration Advisory Committee: MAC)議長のBrian Bell氏は「留学生を移民統計から除外するよう求めるのは時間の無駄だ」と強調し、統計の計算方法は政府ではなく独立機関である英国国家統計局(Office for National Statistics : ONS)が決定すると説明した。学生を除外することが政治的なデータ操作の前例になりかねないとも警告した。
University of Oxfordの名誉教授Simon Marginson氏も「学生も一時的な移民であり、他の労働移民と区別すべきではない」と述べ、移民政策の議論を政治的な駆け引きではなく、より経済や人口政策と結びついた具体的な議論にする必要があると訴えた。
一方で、MACは労働党政権の誕生後さらに多忙となり、Bell氏は現在この役職を専任で務めている。彼の知名度は、前政権が卒業生ビザ(Graduate Route)の迅速な見直しをMACに依頼した際に高まった。報告書は当初の予想に反し、卒業生ビザを維持すべきとの結論を出したが、一部の代理人の不正行為や政府の統合的な計画不足が指摘された。
英国政府の移民ホワイトペーパーは純移民の削減を最優先課題とし、特に卒業生の定住率や学生ビザ制度の見直しに重点を置く見通しだ。2023年6月までの1年間の純移民は約100万人だったが、2024年6月までの推定値は約72.8万人と20%減少。この減少には、大学院課程の学生に対する扶養家族の同行禁止が影響している。
政府は今後も純移民数をさらに抑制する方針で、特定の職業で一定期間後に賃金が上がらない場合、卒業生ビザの変更対象とする案も検討されていると報じられている。ただし、これが確定した政策ではないとの指摘もある。
Bell氏は「抜け道を悪用する大学は長くはもたない」と警告し、状況によっては扶養家族の帯同禁止が博士課程の学生にまで拡大する可能性があると示唆した。
【英文記事】Pie News:
https://thepienews.com/return-of-the-mac-uk-migration-update/
(18)国会議員が大学財政の「最悪の事態」を調査へ
2025年3月14日、英国の高等教育資金の危機について、下院教育委員会が4月8日に集中的な調査を実施する。委員長のHelen Hayes議員は「大学は危機的状況にある」とし、財政不安の中で多くの大学がコース削減や人員整理を余儀なくされていると指摘した。
授業料の据え置き、留学生の減少、コスト上昇(雇用者の国民保険料負担増など)が大学の財政を圧迫しており、全国の大学で再編が進行中。University of Dundeeは3月11日、632人の削減、資産売却、学内資金による研究の縮小を発表した。
政府は支援を求められているが、技能担当大臣Jacqui Smith氏は「高等教育への公的支出の大幅な増加は見込めない」としつつ、研究資金を持続可能な形にする方針を示した。
委員会は、①国内外の学生数の変動、②年金拠出、③授業料水準などの要因を精査。また、研究資金の役割や大学間の財政格差、資金難が学生・職員に及ぼす影響(教育の質、学生支援、給与・雇用条件など)も調査する。
昨年、同委員会が当初、高等教育の問題を調査対象としていなかったことに批判が集まった。6月には政府が複数年の支出見直しを発表し、16歳以降教育(高校卒業後の教育)の政策を示す白書を公表する予定。
Hayes議員は「専門家の意見を聞き、財政問題の規模と影響を明らかにする。学生と高等教育制度を守るための解決策を探る」と述べた。
【英文記事】Research Professional News:
(19)英国:ホライズンヨーロッパ再加入1周年を迎える
2025年3月14日ロンドンのオーバル(クリケット場)で500人以上の研究者・企業リーダー・学者が集まり、Horizon Europeの成功を祝うとともに、今後の展望を議論した。世界最大規模の国際研究プログラムであるホライズンヨーロッパ(総額800億ユーロ)は、英国と欧州の重要な協力関係の一部である。国際研究協力は経済成長の重要な推進力であり、政府の「変革の計画(Plan for Change)」の中核となっている。
英国のHorizon Europeへの参加状況
2024年の英国のホライズンヨーロッパへの参加は順調に進んでおり、最近のERCシナジーグラント(ERC Synergy Grants)では英国主導のプロジェクトが18件採択され、これは世界で2番目に多い実績。ホライズンヨーロッパを通じた資金提供により、医療の革新やAIの活用など社会課題の解決に取り組んでいる。
政府は2025年も支援を強化し、英国の研究者や企業がHorizonの機会を最大限活用できるよう、イタリア・ドイツ・スペインでのネットワーキングイベントや、欧州でのR&Dイベント参加費を補助する助成金を提供する。
科学担当閣外大臣であるPatrick Vallance 氏のコメント:
「科学は国際協力によって強化される。R&D投資は経済成長や雇用創出、イノベーションの推進につながる。我々はHorizonの機会を活かし、さらなる発展を目指すべきだ。」
【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)
https://www.gov.uk/government/news/ambitions-are-high-as-uk-celebrates-a-year-in-horizon-europe
(20)英国科学大臣、米国とのAIパートナーシップ強化を求める
2025年3月20日、英国の科学、イノベーション、テクノロジー省の大臣であるPeter Kyle氏は、3月18日から25日にかけて米国を訪問し、AI分野での投資拠点としての英国の魅力をアピールする。3月20日にサンノゼで開催されるNvidiaの年次会議では、英国経済をAI中心に再構築し、シリコンバレーやロンドン以外の地域でも成長を促す計画を発表する予定である。
英国のAI産業は920億ドル規模で、2035年までに1兆ドルを超えると見込まれており、AI投資を促進する「AI成長ゾーン」の設立が計画されている。これらのゾーンでは、規制の簡素化やインフラ整備が進められ、大規模なAI関連投資を呼び込む。
Kyle氏は米国の主要AI企業(OpenAI、Anthropic、Nvidia、Vantageなど)とも会談し、英国を「シリコンバレーの第二の拠点」として売り込む。すでにVantage Data Centersによる120億ポンド規模の投資(11,500人の雇用創出)や、AnthropicとのAI活用に関する協定など、多くの米国企業が英国での事業拡大を進めている。
英国政府はAIを経済成長の中心に据え、米国との協力を強化することで、今後さらに多くの投資を呼び込むことを目指している。
【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)
(21) 大学のスタートアップ事業の増加、しかし競争国に流出の危険
2025年3月20日,英国大学協会(Universities UK:UUK)の新たな分析によると、2028年までに英国の大学で約27,000の新規スタートアップが設立され、推定売上高は約108億ポンドに達する可能性がある。
HESAのデータによると、英国の大学は起業支援を強化しており、2014/15年以降、38,750の企業が大学の支援を受けて誕生し、学生スタートアップの売上は750%以上増加。さらに、外部投資も350%増加した。
成功事例:
課題と提言:
多くの大学発スタートアップがロンドンや海外に流出する傾向があり、「インキュベーター経済」として企業が成長後に国外に移ることが懸念されている。これを防ぐため、Northern GritstoneやMidlands Mindforgeなどの投資企業が大学と連携し、企業のスケールアップを支援。
また、高等教育イノベーション基金(Higher Education Innovation Fund: HEIF)の投資は、1ポンドあたり15.6ポンドの経済的リターンを生んでおり、UUKは政府に対し、長期的な資金提供と協力的な投資パートナーシップの確立を求めている。
UUKのCEO であるVivienne Stern氏は、「大学発スタートアップの成長は驚異的な成功であり、さらなる支援によって英国での定着と成長を促すことが可能」と述べ、政府と協力して経済成長を後押しする意向を示した。
【英文記事】英国大学協会(Universities UUK):
https://www.universitiesuk.ac.uk/latest/news/new-analysis-reveals-rapid-rise-uni
(22)2023/24年度の英国高等教育の公式統計発表
2025年3月20日、2023/24年度の英国高等教育に関する高等教育統計局(Higer Education Statistics Agency:HESA)の公式統計が発表された。
データ公開:詳細なデータは2025年4月3日に更新予定。
【英文記事】高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency: HESA):
Higher Education Student Statistics: UK, 2023/24: https://www.hesa.ac.uk/news/20-03-2025/sb271-higher-education-student-statistics
(23)50万人の男性が高等教育を受けられず
2025年3月20日高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute:HEPI)の新報告書によると、過去10年間で約50万人の若年男性が高等教育を逃している、という。これは、若年女性の高等教育進学率と同じ水準であれば進学していたで、あろう男性の推定数である。
この教育格差により、若年男性のニート(就業や就学をしない状態)が増加し、特に学歴の低い男性が政治的極端な立場に傾きやすくなるという影響が指摘されている。
この問題を解決するため、報告書では以下の10の対策を提言している。
2024/25年度には、英国の高等教育機関に入学した若年男性は女性より44,000人少なかった。
実際には男性の出生数が多いため、本来であれば男子学生の方が多くなるはずだが、実際には年間55,000人の「行方不明の男子学生(missing men)」が発生している。
過去10年間では約50万人が高等教育に進学できなかったと推定されている。
この教育格差を是正するため、政府・教育機関・社会が連携して取り組む必要がある。
【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute:HEPI)
https://www.hepi.ac.uk/2025/03/20/half-a-million-men-have-missed-out-on-higher-education/
(24)UKRIの研究資金政策の変更と財務持続可能性の向上
2025年3月21日 英国のUKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation : UKRI)は、研究資金の持続可能性を高めるため、設備費や資本支出の基準、マッチングファンド(共同資金負担)の指針を見直す。
これにより、英国の研究コミュニティはコスト回収の改善、資金調達プロセスの簡素化、公平な資源配分といった恩恵を受けることが期待される。
2025年4月1日から、UKRIの資金提供プログラムにおいて以下の変更が適用される。
主要な政策変更
財務持続可能性の強化
UKRIは、研究資金の「持続可能性ギャップ(sustainability gap)」に対処するため、資金提供ポリシーを実際のコストに合わせる方針を採用。
英国の研究の未来を支える改革
リサーチ・イングランドのCEO、Jessica Corne教授のコメント:、
「今回の政策変更は、英国の研究コミュニティにとって財務の持続可能性を強化する重要な一歩。研究機関が安心して予算計画を立てられるようになり、世界トップレベルの研究に集中できるようになる。」
UKRIは今後も、資金提供の仕組みの改善、プロセスの効率化、研究機関と資金提供者の連携強化を推進し、英国の研究システムの持続可能性と国際競争力の向上を目指す。
【英文記事】UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation:UKRI)
https://www.ukri.org/news/ukri-updates-funding-policies-to-improve-research-sustainability/
(25)英国王立協会:議員、公務員と研究者の交流スキーム2025
2025年3月21日、3月24日〜27日の期間、英国の科学者30名が政治家や公務員と4日間職務を交換し、政治の世界を体験する「ロイヤル・ソサエティ・ペアリング・スキーム」に参加。
この制度は2001年から実施されており、政府科学局(Government Office for Science)のGSEプロフェッション・チームと提携している。科学者と政策立案者の関係を深め、科学的根拠に基づいた政策決定を支援することが目的である。今年はUniversity College LondonやUniversity of Edinburghなどの研究者が参加し、新議員5名を含む国会議員や公務員と共に活動する。
参加者は政策決定の過程を学び、政治家や公務員の業務を観察しながら、自らの専門知識を政策に生かす方法を探る。3月27日には、英国王立協会の会長であるのAdrian Smith卿らが登壇する議会レセプションが開かれる。
このプログラムの一環として、後日、議員らが科学者の所属機関を訪問する予定である。Smith会長は「科学と科学者が世界的に脅威にさらされる中、政策立案者と科学者の関係強化がこれまで以上に重要」と述べ、科学を政策に反映させる意義を強調した。
【英文記事】英国王立協会(Royal Society):
https://royalsociety.org/news/2025/03/pairing-scheme-2025/
(26)教育大臣:学生ローンの不正疑惑に対して調査を指示
2025年3月23日英国の学生ローン制度に対する不正行為の疑いを受け、詐欺専門家が調査を開始することを教育大臣であるBridget Phillipson氏が発表した。
調査の発端は、高級紙Sunday Times の報道で、学ぶ意思のない学生が不正にローンを取得している可能性があると指摘された。特に「フランチャイズ大学」と呼ばれる、既存の大学と提携するカレッジでの不正が懸念されている。また、ルーマニア国籍の学生が組織的に募集されている疑いも浮上している。
Phillipson氏は、「英国の大学制度史上最大級の財務スキャンダル」 と表現し、学生ローン会社(Student Loan Company: SLC)や法執行機関がすでに調査を進めていると説明。前政権(保守党)が2016年にフランチャイズ教育を拡大したものの、財政的なリスクへの対策を怠ったことが、不正の温床となったと批判した。
政府は、「規制を見直し、不正行為に厳しく対処する」 方針を示し、学生局(Office for Students:OfS)に強い介入権限を与える新法の制定を進めると発表。OfSのCEOである Susan Lapworth氏も、「公的資金の悪用は許されない」 と非難し、正規の学生が不利益を被っている状況を問題視した。
【英文記事】Guardian:
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2025年3月24日英国のThe Sunday Times紙による調査で、2022/23年度に最大6,000万ポンドに及ぶ疑わしい学生ローン申請が発覚し、実際の被害額は数億ポンドに上る可能性があると報じられた。特にフランチャイズ型の大学(既存大学と提携し、低い入学基準で学生を受け入れる小規模カレッジ)が関与しているとされる。
2023/24年度にはルーマニア出身の学生の申請数が8万4,000件に達し、このうち約15%が学生ローンを受給したとされる。EU出身の学生は2020年末のBrexit移行期間終了時点で英国に居住していた場合、ローン申請が可能。
政府はこれを英国大学史上最大級の金融スキャンダルとし、教育大臣であるBridget Phillipson氏は迅速な対応を表明。
保守党の元大学担当大臣であったDavid Willetts卿は、大学の少ない地域(コールドスポット)ではフランチャイズ大学の存在は正当化されるとしつつ、不正行為には厳しく対処すべきとの見解を示した。
フランチャイズ大学をめぐる問題は以前から指摘されており、2015年にはSt Patrick’s Collegeが不正なEU学生向けローンで調査され、留学生募集のライセンスを剥奪された過去もある。
【英文記事】Pie News:
https://thepienews.com/university-franchise-providers-under-scrutiny-after-times-expose/
(27)大学財政悪化による無料学費に対するスコットランド有権者の意見が分裂
2025年3月24日スコットランドの大学財政が悪化する中、スコットランド人学生への授業料無料制度 に対する世論が分かれている。
カーネギー・トラスト*の調査によると、48%の有権者が「支払い能力のある学生は授業料を負担すべき」と考えており、29%有料化を反対している。また、別の質問では「支払い能力がある人は負担すべき」との回答が43%、「全員無料が望ましい」との回答が44%と拮抗した。
スコットランドの大学は深刻な財政難に陥っており、University of Dundeeが最初の政府救済対象となる見込みで、University of Edinburghも1億4000万ポンドの削減を計画している。スコットランド政府は、スコットランド人学生1人あたり7,610ポンドを大学に支給しているが、イングランドやウェールズの大学が学生から直接徴収する9,250ポンドより少ない。このため、スコットランドの大学は外国人留学生の高額授業料で資金補填をしているが、2023-24年には留学生数が1万人減少し、財政問題が悪化した。
また、無料制度の維持のためにスコットランド人学生の入学枠が制限されており、希望の大学に進学できない学生が出ている。
カーネギー・トラストは、大学の資金調達方法を検討するため、22人の市民陪審を結成し、2026年1月に報告書を提出予定。
スコットランド政府は引き続き無料制度を維持する立場だが、大学代表団体は「無料か有料かの二元論を超えた議論が必要」と指摘している。
一方、財政難を理由にUniversity of Dundeeは635人の人員削減を計画 し、イングランドの大学でも大規模なリストラ が進行中。University of East Anglia(190人)、Newcastle University大学(300人)、Brunel University of London(400人以上)などが授業カットや解雇計画に対しストライキを予定している。
Carnegie Trust(カーネギー・トラスト)*:スコットランドの高等教育システムへのアクセスと改善を支援することにより社会的利益を確保することを目的とする財団)
【英文記事】Guardian:
(28)英国の高等教育機関における外国人職員についての概要
2025年3月25日、英国の高等教育部門は国際的な性質を持つとされることが多く、特に留学生に関する議論が中心となるが、外国人職員の存在も重要である。2022/23年度には、英国の高等教育機関に77,000人以上の国際的な学術職員が在籍し、全体の32%を占めていた。
現在の職員記録には職員の国籍データは含まれているが、ビザの状況については記録されていない。非英国籍の職員は、二重国籍、永住権(Indefinite Leave to Remain)、定住ステータス、または各種ビザ(就労・教育・家族など)により英国で働くことできる。
高等教育職員記録の大規模な見直しの過程で、UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)と英国教育省は、ビザの状況に関するデータが労働力計画に有益である可能性を指摘した。
熟練労働ビザ(Skilled Worker visa)は一定の給与基準を満たしたスタッフのみ取得可能であり、近年この基準が引き上げられている。これが外国人職員の採用に与える影響を理解するためにデータが求められている。
研究助成機関は、ビザスポンサーが必要な職員への依存度とコストを把握することで、助成金計画に活用したいと考えている。
UKRIは、政府のビザ政策に関する提言を行うため、異なる種類のビザ利用傾向を把握したいと考えている。
しかし、2023年秋の調査では意見が分かれた。
賛成意見:
懸念点:
現在のところ、UKRIと英国教育省のみがビザデータの収集を強く求めている状況である。その他の機関も関心はあるものの、現時点では正式なデータ収集義務の導入は未定である。
そのため、高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency: HESA)は職員記録の統計的変更に関する意見募集を開始し、高等教育機関全体の意見を求めている。
意見募集は現在HESAのウェブサイトで実施中、2025年4月3日(木)まで受付中。
【英文記事】高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency: HESA)
https://www.hesa.ac.uk/blog/25-03-2025/understanding-an-international-sector-staff-visa-status
(29)英国春季財政声明の要点:軍事支出拡大と技術革新への影響
2025年3月26日 英国財務大臣であるRachel Reeves氏より英国春季財政声明が発表された。
その要点として:
【英文記事】Research Professional News:
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2025年3月26日ラッセルグループの最高責任者であるTim Bradshaw博士は、議会での財務大臣の声明を受けて、政府が6月の支出見直し(Spending Review)に向けて課題に直面していると述べた。財政規律の維持、政府部門全体の節約、不安定な地政学的状況への対応と並行して、成長を達成するための的を絞った投資が必要である。同グループは、投資効果を最大化するために、政府に研究開発投資の保護だけでなく、拡大も強く求めている。これは、英国の世界をリードする研究者と大学の影響を最大化し、雇用を創出し、公共サービスを向上させ、民間投資を活用し、信頼できる国際パートナーとの英国の世界的評価を確立するのに役立つ。さらに、繁栄を促進するために、英国は大学の学生と教職員のための安定した、歓迎しやすく、手頃な価格のビザ制度で世界的な人材を引き付ける必要があり、これにはセクターの質と持続可能性を保護する長期的な資金調達ソリューションが伴うべきである。
【英文記事】Russell Group:
https://www.russellgroup.ac.uk/news/russell-group-response-spring-statement
(30)スコットランドの研究結果:FP10提携参加はより迅速、簡素に
2025年3月26日、スコットランドのUniversity of St Andrewsの国際マクロ経済学者であるGosia Mitka氏とGlasgow Caledonian Universityの研究者が実施した調査によると、EUの研究・イノベーションプログラムへの「アソシエーション(提携参加)」のプロセスは、より迅速かつ簡易にすべきだと提言された。
この調査は、現在のホライズンヨーロッパに続く2028年に開始予定の次期プログラム「Framework Programme 10(FP10)」に向け、制度改善を目的に、既に連携している国々の関係者にインタビューを行ったものである。
主な調査結果:
提言:
【英文記事】Research Professional News:
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2025年3月27日EUの研究枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」に参加する非EU諸国(ノルウェー、トルコ、スイス、英国など)が、自国の研究者の貢献にもかかわらず、特定の研究公募(特に量子や宇宙分野)から締め出され、不透明な協議プロセスに不満を抱いていることが、最新の調査で明らかになった。
現在、加盟国ではない国々が予算の20~30%を拠出しており、その影響力を強めるべきだと指摘されている。新たにシンガポール、日本、エジプトも参加交渉を進めているが、非EU国の意見が十分に反映されていないことが問題視されている。
特に、EUの研究公募策定や次期プログラム(FP10、2028年開始予定)の設計に正式な投票権がない点や、参加費の計算方法が不透明なことが批判されている。遠方の国(ニュージーランドなど)は成功報酬型の拠出方式を採用しているため、予想以上に多額の支払いが発生するリスクがある。
また、一部の国(オーストラリアなど)は正式な招待なしに協議を進められたとし、「透明性に欠ける」との声もある。今後、非EU加盟国同士の連携を強化し、共同委員会の設立などを通じて発言権を拡大する必要があるとの提案がなされた。
欧州委員会はこれらの意見を慎重に検討するとしているが、EUの競争力強化を重視する枠組みの中で、非EU国の役割がどうなるかは依然不透明である。
【英文記事】Science Business:
https://sciencebusiness.net/news/horizon-europe/associated-countries-set-out-horizon-europe-concerns
(31)UKRI:男女賃金格差報告書を発表
2025年3月27日、UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)が発表した第6回男女間賃金格差レポートでは、UKRI全体における男性と女性の平均時給の差を示すもので、同じ職務における賃金差ではない。
2024年のUKRIの平均男女賃金格差(gender pay gap:GPG)は9.0%で、2022年と比べ0.6ポイント縮小したが、前年(2023年)より0.7ポイント拡大した。これは英国全体のGPG(7.7%)より1.3ポイント高く、男性の1ポンドに対し、女性は91ペンスの収入である。
また、2022年の給与改定で研究職の給与が市場の動向に合わせて引き上げられたが、この職種は男性の割合が高いため、GPGの拡大要因となった。
UKRIの最高経営責任者であるDame Ottoline Leyser氏は、「平等・多様性・包括性は、誰もが貢献し恩恵を受ける研究・イノベーションシステムの重要な要素である」と強調し、GPGの解消に向けた取り組みを続ける意向を示した。
【英文記事】UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)
https://www.ukri.org/news/uk-research-and-innovation-publishes-gender-pay-gap-report/
(32)第3回「ChipStart」半導体スタートアップ支援プログラムが始動
2025年3月28日、英国政府は新しい半導体製品の市場に投入するために選ばれたスタートアップを発表した。
英国政府の支援を受けた半導体インキュベータープログラム「ChipStart」に、新たなスタートアップ企業が加わった。このプログラムは、英国の「Plan for Change」の一環として、企業の成長支援、雇用創出、経済成長を促進するものである。
半導体産業は、スマートフォンや医療機器、電気自動車、AIなどのテクノロジーの基盤であり、英国の市場規模は現在100億ポンド、2030年には170億ポンドに成長すると予測されている。英国は、欧州でベンチャーキャピタル投資が最も活発で、G7で最も低い法人税、優れた研究機関を持つなど、半導体分野での競争力が高い国である。
「ChipStart」プログラムの実績と成果
プログラムは、世界的なスタートアップ支援機関であるSiliconCatalyst.UKによって運営され、専門家の指導、業界とのネットワーク、最新の設計ツールへのアクセスを提供。
過去の参加企業は民間投資で4,000万ポンド以上を調達しており、その中には以下のような注目企業が含まれている。
英国政府は、半導体産業のさらなる発展を後押ししており、南ウェールズを半導体産業の拠点とする動きを強化。Vishay Intertechnologyが2億5000万ポンドを投資し、英国最大の半導体工場を設立する計画を発表した。
科学担当閣外大臣のPatrick Vallance氏のコメント:
「英国の半導体産業は革新性に富み、今回の第3回プログラムの参加企業も非常に有望である。この分野には大きな可能性があり、適切なパートナーシップを築くことで、経済成長と技術発展の推進を可能とする」
今後10年間で半導体市場は2兆ポンド規模に成長すると予測される中、英国のスタートアップ企業が世界市場での競争に勝つための支援が続けられている。
【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)
(33) 英国とウクライナ姉妹都市提携3周年目
2025年3月28日2025年3月28日、英国とウクライナの大学間提携(UK-Ukraine Twinning)が開始されてから3年となった。
この取り組みは、100以上のウクライナの大学と英国の大学を提携させ、戦争の影響を受けるウクライナの高等教育の強化と復興を支援している。
このプログラムは、Cormack Consultancy Groupが主導し、英国大学協会国際部(UUKi)、ウクライナ大統領基金(教育・科学・スポーツ)、ウクライナ教育科学省の支援を受けている。短期・長期の支援を通じ、持続的な大学間パートナーシップの構築を促進している。
提携校間の協力により、ウクライナの大学は戦時中・戦後の発展に必要な支援、リソース、専門知識を得られる。
具体例として、英国のEdge Hill Universityとその提携先であるYaroslav Mudryi National Law Universityは、サマースクールや英国議会での研究・交流イベントを共催した。さらに最近では、AI・デジタル・サイバー法に関するLLM(法学修士)のダブルディグリープログラムを開設した。
【英文記事】英国大学協会国際部(University UK International:UUKi)
(34)大学への追加技術革新資金は数十億ドルの経済効果を得られる
2025年3月28日ラッセルグループは、高等教育イノベーション基金(Higher Education Innovation Fund: HEIF)の増額が経済成長を促進し、数十億ポンドの経済効果を生む可能性があるとする報告書を発表した。HEIFは、大学が研究を社会・経済的利益へと転換するための活動に資金を提供する制度であり、現在の総額2億5000万ポンドおよび大学ごとの570万ポンドの上限が、その潜在力を制限していると指摘する。
調査によると、HEIFへの1ポンドの投資は14.8ポンドの経済効果を生み、HEIFがなければ知識交換活動の38%が実現しないと推定される。しかし、2024年の予算ではHEIFの資金は据え置かれ、インフレに応じた増額は行われなかった。
研究集約型大学は、追加の200万ポンドのHEIF資金があれば、技術移転オフィスの強化、概念実証資金の拡充、企業との連携強化に充てると回答している。HEIFは地域の特性に応じた投資が可能で、民間投資の活用や地域の生産性向上、雇用促進、公共政策の改善など政府の目標に貢献している。
ラッセルグループは、HEIFの増額を現在の配分方式に沿って行い、個別の上限も比例的に引き上げることを提案。また、英国の分権政府も同様の仕組みを導入すべきだと主張している。
University of Warwickの学長でラッセルグループ産業戦略専門パネルの議長であるStuart Croft氏は、限られた資金のために多くの有望な機会が失われていると指摘。HEIFは大学と企業の連携や起業家支援、高成長スピンアウトの育成に貢献しているが、現在の資金上限が活動を制限しているとし、「R&D予算全体の増額とともにHEIFを拡充すれば、大きな潜在力を引き出せる」と述べた。
【英文記事】Research Professional News:
(35) ヨーロッパ発の火星探査機を英国が請け負う
2025年3月29日Airbus UKが英国初の火星探査機の着陸プラットフォームを設計する契約の受注を獲得した。この契約は、英国政府と英国宇宙局(UK Space Agency)から資金提供を受けており、2030年に火星に着陸する探査機ロザリンド・フランクリンの安全な着陸を支援する。探査機は、火星で過去および現在の生命の痕跡を探るために地表を最大2メートル掘ることを目的としている。このプロジェクトは、英国の宇宙産業で約200の高度な技術職を支え、英国経済の成長を促進する。
探査機ロザリンド・フランクリンは、英国のスティーブナージでAirbus UKのエンジニアによって完全に製造され、NASAの支援を受けて2028年に打ち上げられ、2030年に火星に着陸する予定。この探査機は、火星の表面の下で生命の証拠を探すために重要な情報を提供することが期待されている。また、このミッションは、UKのロボティクスや自律ナビゲーション技術を活用し、核発電所や深海などの過酷な地球環境でも利用可能である。
このミッションには、英国国内の複数の大学や機関が関与しており、例えば、University College Londonのマラー宇宙科学研究所やUniversity of Aberystwythが科学機器の開発を行い、またBirkbeck College、University of Leicesterなども関与している。今回の契約により、英国は火星探査における重要な役割を果たし、技術革新や経済成長を促進している。
さらに、英国宇宙局は、今後の技術開発を支援するために1,700万ポンドの助成金を提供し、未来の宇宙技術を商業化するための競争を開始した。
【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT):
https://www.gov.uk/government/news/uk-firm-to-land-europes-first-rover-on-mars
(36)Jis:英国研究保護のためサイバーセキュリティセンターを設立
2025年3月31日、英国の高等教育分野の技術・デジタル組織であるJiscが、大学のサイバーセキュリティ対策を支援するためのセキュリティ運用センターを3月31日に開設した。
Jiscによると、大学は2024年に数百件のサイバー攻撃を受け、そのうち11件は重大な被害をもたらした。1件の大規模なサイバー攻撃による損害は平均約200万ポンドと推定されており、これは控えめな見積もりで、間接的な損失や規制当局による罰則は含まれていない。2023年には英国図書館がランサムウェア攻撃を受け、カタログが約3カ月間使用不能となり、損害は最大900万ポンドに達する可能性がある。
JiscのセキュリティディレクターであるDavid Batho氏は、「英国の教育・研究機関は日常的にサイバー攻撃を受けており、学習・研究・重要業務に影響を与えている」と指摘。セキュリティ運用センターは「より安全なデジタル環境へのコミットメント」であり、24時間365日の防御、脅威検知、迅速な対応を提供すると説明した。
このセンターは、Jiscが運営する教育・研究向けネットワーク「Janet Network」の既存のセキュリティ対策を強化する形で運用される。Batho氏は「このセンターは教育・研究機関向けに特化した防御を提供し、高度な脅威検知と対応機能により、教育コミュニティが安心してイノベーションを推進できるよう支援する」と述べた。
【英文記事】Research Professional News: