2025年6月10日
(1)新報告書:高等教育機関の選択に関する意識調査
(2) 2023/24年度の授与修士号の数は過去最高
(3)Times Higher Education:日本の大学ランキング2025
(4) 英国政府:イノベーション・雇用・成長を促進に、記録的139億ポンドの研究開発資金を発表
(5) 英国政府「AIエネルギー評議会」発足:AIとクリーンエネルギー連携で経済成長を後押し
(6) イノベートUKの次期リーダーは組織内の「危機感」を求める
(7) 語学力の軽視は、英国の研究の範囲と影響力を制限するリスクがある
(8)英国の公的研究開発費は世界の競争相手との格差を縮小
(9)英国高等教育機関が深刻な財政的課題に直面、長期的な持続可能な資金制度の必要性を訴え
(10) 今後10年間、英国の成長の半分は新興ハイテクが担う
(11)米国での反移民政策と英国の対応への提言
(12) 学生局:国境を超える教育と提携機関のデータ収集に関する変更
(13)王立協会:Summer Science Exhibition 2025を発表
(14)量子テクノロジーに1億2,100万ポンド:経済成長や社会課題の解決のため
(15)留学生誘致:低収入を正当化する
(16) Trump米国大統領就任3か月後
(17)英国の国際教育戦略の見直しに向けて:過去の反省と将来への提言
(18)ARIA:地球工学実験は“気候科学”の失われた部分として擁護される
(19)Paul Nurse卿:早急な10年間の研究計画が必要
(20)日英データの妥当性:共同声明発表
(21) 英国のグローバル研究開発資金削減は10万人の命を危険にさらすと報告書が警告
(22) University of Edinburgh 職員350人解雇:スコットランドで大学改革検討
(23) エンジニアリング・バイオロジーの力の開放
(24)新報告書:大学への柔軟な資金提供が卓越した研究を促進する
(25) 革新の開放: 大学と企業の連携に関する20年間の定量的分析
(26) 英国研究者が量子および宇宙関連研究でホライズンヨーロッパ資金をさらに獲得
(27)学生からの苦情が過去最高
(28) 英国のエリート大学らがMetaから多額の資金援助
(29) 欧州初の半導体施設がUniversity of Southamptonに
(1)新報告書:高等教育機関の選択に関する意識調査
2025年4月2日 高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)が発表した新しい報告書では、学部生と卒業生の大多数が学位取得の重要性を信じている一方で、後悔の念から、何をどこで学ぶかについて異なる決断をしただろうと答えた人が多いことを明らかにした。
University of Bristol、HEPI、Advance HE*が共同で発表した報告書「The benefits of hindsight: reconsidering higher education choices(後悔の恩恵:高等教育の選択を再考)」は、キャリアと卒業後の選択肢に関するアドバイスとガイダンスを改善し、より慎重な選択を促すべきだと提言している。また、在学中に考えが変わった学部生は、方向転換の選択肢についてもっと知るべきだとも述べている。
主な調査結果は以下の通り:
報告書は、学校、大学、保護者、政策立案者が、学生が最適な選択をできるよう、より良い準備をすることを目的としている。また、学生が在学中に方向転換をする選択肢について、より多くの情報とガイダンスを提供すべきだとしている。
Advance HE*:世界中のパートナーと協力してスタッフ、学生、社会のための高等教育の向上に取り組んでいる、高等教育セクターの会員主導で、卓越性、インクルージョン、リーダーシップの促進を通じて、世界中の高等教育の未来を形作ることに尽力している慈善団体である。
【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)
(2) 2023/24年度の授与修士号の数は過去最高
2025年4月3日高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency: HESA)は2023/24年度の英国高等教育修士号に関する統計データを発表した。
修士課程の学位授与数は増加したものの、新規入学者数は減少。特に、留学生比率が高いビジネスや工学分野で顕著な減少が見られた。
2022/23〜2023/24年度にかけて、授与されたコースワーク修士号(taught Masters)の総数は22%増加。この増加は2022/23年度の学位授与の遅延も一因と考えられる。
一方で、同期間における新規修士課程入学者数は6%減少。ビジネス・マネジメント分野では、修士号授与数が37%増加した一方、新規入学者は12%減少。この分野では新規入学者の84%が留学生であり、留学生数の減少が影響していると考えられる。工学分野の修士課程では、海外からの新規入学者が16%減少(英国からの入学者は1%減)。この分野でも留学生の比率が非常に高く、4対1で英国人学生を上回っている。
一方で、医療関連分野(主に看護)では、新規入学者数が1%増加し、そのうち英国人学生の増加が4%と成長を牽引。
学士課程では、コンピュータサイエンス分野で新規入学者が10%増加し、留学生は20%増加。
対照的に、教育・教師養成分野では10%、言語・地域研究やメディア・ジャーナリズム・コミュニケーション分野では8%の入学者減少が見られた。
この統計データは、2023/24年度における学生の出身地、在籍校、専攻分野、取得資格などの詳細な内訳を含む「公的統計」として公開されている。
【英文記事】高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency: HEPI)
https://www.hesa.ac.uk/news/03-04-2025/record-number-masters-degrees-awarded-2023-24
(3)Times Higher Education:日本の大学ランキング2025
2025年4月3日Times Higher Education の日本大学ランキング2025が発表された。
国際的な特色を持つ日本の大学が、2025年版の国内大学ランキングで順位を上げた。一方で、コロナ後の海外留学の回復状況にはばらつきが見られる。
東北大学が引き続き1位を維持し、東京工業大学(現東京科学大学)が2位(前回4位)に上昇、東京大学は3位に後退(前回2位)。
秋田国際教養大学は2020年以来、再びトップ10に返り咲き(15位→10位)。
東京外国語大学、神田外語大学、神戸市外国語大学、聖路加国際大学、宮崎国際大学なども順位を上げた。
一方で、京都外国語大学は18ランクダウンして97位、国際基督教大学(ICU)も10位から11位に下がっている。
政府は2033年までに年間50万人の日本人学生を海外に送り出す目標を掲げている(2019年は約22万人)。これは非常に野心的な目標であり、コロナ禍で激減した留学数の回復は大学によって進度が異なる。
留学経験者の割合が高かった27校は、コロナ前の90%の水準に回復。留学率が3%未満だった105校は86%に回復。中間層の大学では回復が最も遅い傾向にある。
東京では留学を後押しするための助成制度の導入も進められているが、専門家の星野達彦氏(JAOS事務局長)は、「企業側が留学経験をもっと評価する必要がある」と指摘。企業が国際展開を進める中で、海外経験を持つ若者の価値が高まると前向きに見ている。
「日本はこれまで国内だけでも十分に暮らせたが、少子化やコロナの影響でその考えは変わりつつある。若者は今、世界とのつながりなしには生きていけないと実感し始めている。」と星野氏は述べた。
【英文記事】Times Higher Education :
https://www.timeshighereducation.com/news/japan-university-rankings-2025-outbound-students-rise
(4) 英国政府:イノベーション・雇用・成長を促進に、記録的139億ポンドの研究開発資金を発表
2025年4月3日英国政府は、成長と革新を促進するために、過去最高額となる139億ポンドを研究開発に投資する方針を発表した。
この資金は、ライフサイエンス(生命科学)、グリーンエネルギー、宇宙開発、エンジニアリングなど多岐にわたる分野に分配され、人々の生活向上と経済成長を支えることを目的としている。研究開発への公的投資は、質の高い公共サービスの提供、新規ビジネスチャンスの創出、そして経済成長の原動力とされている。
英国の研究資金助成機関であるUKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)は88億ポンドを受け取り、革新的なプロジェクトの推進を行う。
支援される具体例としては、認知症の早期診断を可能にする血液検査、風力発電における世界最先端のテスト施設、抗菌薬耐性(AMR)への対策などが挙げられる。これらの研究により、医療の質の向上、雇用創出、新興企業の誕生が期待されている。
宇宙分野にも約6.7億ポンドが投じられ、英国企業による衛星通信技術の発展や、宇宙探査への参画が進められている。
気候変動対策として、気象庁(Met Office)にも3.1億ポンドが配分され、先進的な気候モデルの開発が支援される。
この取り組みは、英国政府の「変革のための計画(Plan for Change)」の一環であり、国民の生活向上、経済の持続的成長、そして国際的競争力の強化を目指す。
【英文記事】
関連記事①
2025年4月4日、ラッセルグループのCEOであるTim Bradshaw博士による、2025/26年度の英国政府の研究開発(R&D)予算配分に関するコメント:
厳しい財政状況の中、英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)の2025/26年度R&D予算が実質的な増額となったことを歓迎する。特に、EUの「ホライズン・ヨーロッパ」への英国の参加と、それを保証する「ホライズン保証」への資金が確保されたことは、英国にとって研究が成長と繁栄の礎であることを再確認する重要なステップである。この投資により、大学は最先端の研究を推進し、産学連携を強化し、次世代の人材を育成することが可能となる。それにより、雇用創出、地域経済への投資、公共サービスの向上などが期待される。
UKRIの予算の中では、「QR資金研究(Quality-related Research)」のような柔軟で長期的な資金が優先されるべきである。これは、革新的なアイデアや人材、研究基盤の維持に不可欠である。政府が昨年10月の予算でコア研究資金の増額を約束したことは、特に歓迎すべき点である。
また、大学の研究成果や学生のアイデアを社会的・経済的利益へとつなげる高等教育イノベーション基金(Higher Education Innovation Fund: HEIF)のような実績あるファンドの継続的な支援も重要である。
補足情報:
2025年のレビューによると、HEIFへの1ポンドの投資は、英国に14.8ポンドの経済的リターンをもたらすとされている。大規模な研究集約型大学では、スピンアウト企業の成果も含めると、最大20倍のリターンがあるとされている。
QR資金は、画期的な研究を生み出す上で、何ものにも代えがたい重要な役割を果たしている。
【英文記事】ラッセルグループ:
https://www.russellgroup.ac.uk/news/response-dsits-rd-budget-allocations-202526
関連記事②
2025年4月4日UKRIの2025/26年度予算、前年度比で3億ポンド減少。政府の科学予算は増加するも、UKRIの取り分は縮小となる。
英国の研究資金助成機関であるUKRIは、2025/26年度に88億ポンドの予算を受け取ることが決定された。これは、前年度の実際の支出91億ポンド(補正後)から約3億ポンド減である。
当初、2024/25年度のUKRI予算は89億ポンドとされていたが、英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)が追加で2億2000万ポンドを拠出した結果、支出は91億ポンドに拡大となった。
一方、DSIT全体の研究開発(R&D)予算は、125億ポンドから139億ポンドに増加する見通しで、UKRIが占める割合は減少傾向にある。
その背景として物価上昇の影響もあり、実質的には予算据え置きまたは減少と見られている。
UKRIのCEOであるOttoline Leyser 氏は、「今回の配分は、英国の研究・イノベーション基盤の維持を可能にし、政府の5つの重点ミッションへの投資を支えるもの」とコメントした。
ただし、各研究評議会の具体的な配分は今後発表予定で、厳しい予算状況の中、戦略的な投資判断が求められる。
UKRIは、将来的な財政ショックに対応するため、長期契約に固定される資金の比率を減らし、柔軟性のある予算運用を目指している。
例えば、英国科学技術施設会議(Science and Technology Facilities Council : STFC)では、自主退職制度の導入や大型研究施設の規模縮小、助成金削減などが検討されている。
2025年6月11日には、英国財務省が今後4年間の中期支出見直し(Spending Review)を発表予定。この見直しでは、財政の健全性を保ちながら、限られた資金をどう配分するかが問われ、UKRIにとっても困難な交渉が予想される。
Leyser 氏(6月退任予定)は、「経済成長なしには、NHS(National Health Services: 国民医療制度)や大学研究など、すべてに必要な資金を回すことはできない」と厳しい現実を強調した。
つまり政府全体のR&D投資は増えている一方で、UKRIの予算は実質減少し、資金の戦略的・効率的な使い道が一層重要となっている。
【英文記事】 Research Professional News:
(5) 英国政府「AIエネルギー評議会」発足:AIとクリーンエネルギー連携で経済成長を後押し
2025年4月8日 英国政府は、AI(人工知能)の発展と持続可能なエネルギー供給を両立させるために「AIエネルギー評議会(AI Energy Council)」を発足させ、第一回会合を開催した。これは「Plan for Change(変革のための計画)」の一環で、AIによる成長と雇用創出を実現しつつ、クリーンな電力供給を進めることが目的。
主なポイント:
評議会は、AIのエネルギー利用だけでなく、AI自体を使ってエネルギー網の効率性・安全性を高めることにも取り組む。
今後は四半期ごとに会合を開催予定。
【英文記事】 英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)
(6) イノベートUKの次期リーダーは組織内の「危機感」を求める
2025年4月8日英国下院の科学・イノベーション・技術委員会は、UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation:UKRI)内のInnovate UKの次期リーダーとされるTom Adeyoola氏に対し、質疑応答を行った。
Adeyoola氏は、Innovate UKは「企業中心、成果中心の組織」であるべきだと述べ、組織に「緊急感」を持たせることの難しさを指摘した。彼は自身を「スタートアップの人間」と称し、過去にInnovate UKと協力して助成金における多様性を改善した経験も語った。
Adeyoola氏は、8月にUKRIのCEOに就任するIan Chapman氏と話をしたとし、I Chapman氏も自身と同じく「実用的で先見の明のある人物」であり、組織をインプット重視からアウトプット重視に変えようとしていると述べた。また、Innovate UKの予算については、先週発表された2025/26年度の9億4800万ポンド(2024/25年度の9億7000万ポンドから減少)以上の情報は知らないとした。
質疑応答の中で、保守党のGeorge Freeman議員(元科学担当大臣)は、Innovate UKが廃止されUKRIに統合されるという噂について質問した。Adeyoola氏はこれに対し、「Innovate UKの役割は今後も存続する」と信じており、そのような示唆は聞いていないと述べた。また、科学閣外担当大臣のVallance氏との会話でInnovate UKがUKRIの他の部門とは異なる方法で活動できることが明確に示唆されたと付け加えた。
【英文記事】 Research Professional News:
(7) 語学力の軽視は、英国の研究の範囲と影響力を制限するリスクがある
2025年4月9日英国学士院(British Academy: BA)の新しい報告書によると、多言語能力は英国の研究力を強化する可能性があるにもかかわらず、現在の学術界ではその価値が十分に認識・活用されていないと警鐘を鳴らしている。
報告書「Language Skills and Capabilities in the UK Research Base(英国の研究基盤における語学力と能力)」では、多言語を活用することで、研究テーマの選択肢が広がり、情報源へのアクセスが豊かになり、国際的な共同研究も促進されると指摘。また、研究者と一般社会との信頼構築にも重要な役割を果たすと述べられている。
しかし、多くの研究者が時間や資金、訓練機会の不足によって語学習得や維持が困難であり、これが英国研究の信頼性や影響力に悪影響を及ぼす恐れがあるとしている。
報告書は、研究評価制度(Research Excellence Framework: REF)の提出資料に言語スキルを反映する専用の枠を設けること、そして大学・資金提供者・政策立案者に対して語学トレーニングへの資金提供を求めるなどの提言をしている。
【英文記事】
(8)英国の公的研究開発費は世界の競争相手との格差を縮小
2025年4月9日英国国家統計局(Office for National Statistics:ONS)の新たなデータによると、英国の政府研究開発支出は、2022年から2023年にかけて実質1.9%増加した。この成長率はOECD諸国の平均0.6%を上回り、英国政府が長期的な経済成長の鍵となる公共研究開発への投資を重視している姿勢を示している。国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB)の政策・連携責任者であるRosalind Gill氏は、この継続的な公的投資を英国の繁栄と進歩に不可欠であると評価し、近年政府が公的資金による研究開発の競争力強化に努めていることの証であると述べている。
英国の成長率は、ドイツ、日本、フランス、イタリア、スイスといった他の主要先進国を上回る一方で、アメリカ、オランダ、デンマークと比較すると伸びは緩やかである。Gill氏は、長年の過少投資を経て、イギリスが公共研究開発の支出における世界的な競争力強化に向けて取り組んでいることは心強い兆候であるとし、2012年から2023年の間に公共研究開発支出が実質的に30%以上増加したことを強調した。
しかしながら、Gill氏は英国が現状に甘んじるべきではないと警鐘を鳴らしている。公共部門と民間部門の両方において、研究開発投資は依然として主要なグローバル競争相手に後れを取っており、持続的な成長が不可欠である。英国がグローバルな研究開発のリーダーとしての地位を維持するためには、政府は今後の支出見直しにおいて、イノベーション主導の成長を継続的に支援するための断固たる行動を取る必要がある。特に、英国の強みである大学の財政の安定と成功を確保することが重要である。加えて、国内の民間研究開発投資の減少傾向に対処し、イノベーションをさらに推進していく必要性も指摘されている。
【英文記事】 国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB
https://www.ncub.co.uk/insight/uk-public-rd-spending-reducing-the-gap-with-global-competitors/
(9)英国高等教育機関が深刻な財政的課題に直面、長期的な持続可能な資金制度の必要性を訴え
2025年4月9日、前日に行われた英国下院教育委員会(House of Commons Education Committee)、での証言において、ラッセルグループと英国大学協会(Universities UK: UUK)の代表者たちは、英国の大学が直面する深刻な財政難について説明し、政府に対して長期的で持続可能な資金支援制度の構築を強く求めた。
主なポイント:
要望事項:
Press教授は、Blue Skies Research (基礎的、探究的な研究)と即時的な成果が見込まれる研究へのバランスある投資が必要であると強調した。
また、将来的に英国は2035年までに1100万人の大学卒業者が必要とされ、新規雇用の88%が大卒レベルに相当するというデータを踏まえ、高等教育の成長は国家経済や産業戦略の達成に不可欠であると訴えた。
さらに、UUKは、効率化と変革のための特別委員会を発足しており、近くその初報告書が発表される予定。政府もそれに並行して、大学の将来を支える資金支援に取り組むべきとしている。
【英文記事】Russell Group:
(10) 今後10年間、英国の成長の半分は新興ハイテクが担う
2025年4月10日 政府科学庁(Government Office for Science)がコンサルタント会社であるPricewaterHouseCooper(PwC)委託しまとめた報告書「英国における新興技術の広範な経済効果」では、AI、エンジニアリングバイオロジーが今後最大の経済的影響をもたらすと予測されている。
投資規模と成長予測
2023年から2028年までの間、15の新興技術分野に対して約760億ポンドの企業投資が見込まれ、これらの技術の普及により2035年までに実質GDPに約8.4%の寄与が期待される。報告書は、将来のGDP成長の約半分がこれら新興技術の採用によるものであると推計している。
個別の技術分野の影響
技術の普及による課題
一方で、これらの新興技術の拡大は仕事の自動化による雇用の置き換えなど「混乱」をもたらす可能性があり、ブルーカラーだけでなく、データ分析やカスタマーサポートなどのホワイトカラー職も影響を受ける可能性があるため、政府と産業界がその影響を十分に理解し対応する必要があると指摘されている。
【英文記事】 Research Professional News:
(11)米国での反移民政策と英国の対応への提言
2025年4月11日米国サンディエゴで開催された大学会議で、トランプ前大統領時代の米国における研究助成金、学者、学生に対する圧力が明らかにされた。外国人留学生は駐車違反やスピード違反のような軽微な違反でも国外退去処分を受け、約500人の学生ビザが突然取り消される事態も発生している。このため、多くの留学生が帰国を避け、米国での留学をためらうようになっている。
これに対し、英国元大学担当大臣で上院教育委員長のJo Johnson氏は、「英国は世界中の学生に安全な避難所を提供すべき」と強調。外国人留学生は英国にとって財政的・経済的に極めて重要であり、約400億ポンドの経済効果をもたらしている。少子高齢化に直面する中、英国はこうした優秀な人材を歓迎すべきだと主張している。
しかし、英国内閣では移民削減の方針が共有されている一方で、経済成長には建設業、介護、医療、AIなど多様な分野での外国人労働者が必要とされており、政策の方向性が対立している。
国内の大学は経営的に厳しく、外国人留学生の授業料に大きく依存している。米国の評判が落ちている今こそ、英国が留学生を歓迎する好機といえる。
移民政策に関する議論では、亡命申請者の取り扱いや「危険な方法」で入国した人々の市民権制限などが問題視されている。移民に対する国民の意見は実は多様であり、学生に関しては61%が受け入れに賛成しているという調査結果もある。
提言としては、学生を含む移民統計を見直し、滞在を継続する人のみを「移民」としてカウントすることで、政策の透明性と一貫性を高めるべきとされる。成長を目指すなら、米国の排他的政策とは逆に、英国はより多くの留学生を歓迎すべき時である。
【英文記事】Guardian紙:
https://www.theguardian.com/commentisfree/2025/apr/11/uk-universities-overseas-students-immigration
(12) 学生局:国境を超える教育と提携機関のデータ収集に関する変更
2025年4月10日英国の高等教育監視機関である学生局(Office for Students: OfS) は、国境を超える教育(transnational education:TNE)およびパートナーシップに関するデータ収集アプローチを改訂することを発表した。主な変更点は以下の通り。
この変更は、高等教育機関からのフィードバックと、独立したPwCの報告書データフューチャーズ(Data Futures)で指摘された教訓を考慮したものである。OfSは、この改訂されたアプローチにより、教育機関の負担を軽減しつつ、TNEの状況をより明確に把握できると考えている。また、教育機関、Jisc、OfSは、2027-28年度の初期導入を目指す学生の年度内データ収集の実施に注力できるようになる。
OfSの戦略・実施担当ディレクターであるJosh Fleming氏は、TNEが英国の高等教育セクターにおいてますます重要になっていると述べ、今回の変更が、年度内データ収集への移行を進める中で、PwCの報告書の教訓を生かし、セクターからの貴重なフィードバックを取り入れたものであると説明した。彼は、この改訂されたアプローチが、データ担当者の 仕事量を軽減しつつ、学生の保護を向上させることを期待してる。
OfSは、5月初旬に大学やカレッジに対し、年度内データ収集に関する計画を改めて通知する予定。
【英文記事】Office for Students
(13)王立協会:Summer Science Exhibition 2025を発表
2025年4月10日英国王立協会(Royal Society)は、最先端科学を紹介する年恒例の祭典「Summer Science Exhibition 2025」を7月1日から6日までロンドンで開催。今年は、英国各地の大学や科学機関から13の主要な展示が集まり、来場者は体験型活動、講演、インタラクティブな展示を通して、最新の研究に触れることができる。
主な日程
主な展示の見どころ(一部抜粋)
【英文記事】英国王立協会(Royal Society ):
https://royalsociety.org/news/2025/04/a-first-glimpse-at-summer-science-exhibition-2025/
(14)量子テクノロジーに1億2,100万ポンド:経済成長や社会課題の解決のため
2025年4月14日英国政府は、量子技術分野に新たに1億2,100万ポンドを投資することを発表した。これは、量子研究を推進し、同技術を社会に応用することで、経済成長・雇用創出・社会課題の解決を図る「Plan for Change(変革のための計画)」の一環である。この発表は「世界量子デー」(4月14日)に合わせて行ったものである。
■ 投資の目的と背景
■ 投資の具体的内容(総額:1億2,100万ポンド)
■ 期待される効果
科学大臣のPeter Kyle氏からのコメント:
量子技術は、我々の経済に数百万ポンドの恩恵をもたらし、数千の雇用を生み、詐欺やサイバー犯罪から人々を守る力を持っている。世界最高峰の研究者や企業を支援することは、我々の『Plan for Change』にとって極めて重要である。」
この発表は、量子技術の可能性を世界に示す「世界量子デー」の一環であり、53カ国で関連イベントが開催される。
【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)
(15)留学生誘致:低収入を正当化する
2025年4月14日Vincenzo Raimo氏(University of Reading の客員フェロー・国際高等教育コンサルタント)は、留学生の受け入れにおける財政的持続可能性の見直しが必要だと述べている。表面的には利益が出ているように見える留学生の誘致も、実際にはコミッション、奨学金、マーケティング、運営コストなどを含めると、収益が非常に低い、あるいは赤字になるケースもあると指摘している。
留学生募集は本当に“割に合う”のか?
英国の高等教育機関が財政的に厳しい状況にある中で、この問いは重要である。しかし、収益性が低くても戦略的に意味がある誘致もあるとRaimo氏は強調する。それが正当化されるのは、意思決定が明確で、透明性があり、大学の全体戦略と一致している場合に限られる。
収益が低くても戦略的に意味がある5つのケース:
Raimo氏は、こうした低収益の誘致が本当に戦略に合っているかを見極めるための質問リストを提供しており、これはチェックボックス的なものではなく、戦略的かつ証拠に基づいた判断を促すフレームワークである。
多くの大学が過去の慣習や他大学の真似、曖昧な市場機会に基づいて留学生を受け入れているが、コストやリスク、大学の強みに合っているかを十分に検討していないことが問題だとしている。
収益が低いからといって、それがすぐに「悪い」募集とは限らない。しかし、「なぜこの学生層を受け入れるのか」を真剣に問い直すことが不可欠である。英国の大学は、国際戦略を財務・非財務の両面から持続可能かつ効果的に進めるために、より成熟した透明性のあるアプローチが求められている。
【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute:HEPI)
(16) Trump米国大統領就任3か月後
2025年4月16日、Trump米国大統領の2期目が始まってわずか3ヶ月で、米国国内外の政策の急激な変化が世界経済や研究分野に大きな影響を与えている。保護主義的な「アメリカ・ファースト」政策は、国際的な同盟関係や貿易構造を揺るがし、世界に不確実性をもたらしている。
特に、科学・研究・高等教育への影響は深刻である。連邦政府の研究助成金の凍結、NASAやNIHなどの主要機関への予算削減、多くの研究プロジェクトの停止、Harvard Universityへの20億ドルの資金凍結など、米国の研究基盤が大きく揺らいでいる。
また、エリート大学は博士課程やポスドクの受け入れを縮小し、科学分野の公務員も解雇されている。これらの政策は裁判で一部差し止められていますが、研究者の将来への不安や、米国の研究・技術革新の持続性に疑問が生じている。
このような混乱の中で、英国には国際研究ネットワークの中でリーダーシップを発揮するチャンスがある。英国の大学は世界的に高い評価を受けており、今こそ優秀な研究者やプロジェクトを受け入れる機会である。
また、研究者向けのビザ制度(Skilled Worker、Scale-Up、High Potential Individualビザ)の改革を通じて、国際的な人材を引きつけやすくすることも求められている。加えて、英国の産業戦略では、米国での予算削減により影響を受ける分野(製薬、化学、科学研究など)に重点投資を行うことで、競争優位を確保するべきである。
米国の不安定な状況は、英国が世界の研究・イノベーション分野でリーダーシップを取る絶好の機会で、これを逃すべきではない。
【英文記事】国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB)
https://www.ncub.co.uk/insight/trumps-america-three-months-in/
(17)英国の国際教育戦略の見直しに向けて:過去の反省と将来への提言
2025年4月16日、英国の大学関係者は、労働党政権による新たな国際教育戦略(International Education Strategy:IES)の発表を待ち望んでいる。その中で、2019年の戦略を立案した当時の大学・科学・研究・イノベーション担当大臣Chris Skidmore氏は、同戦略に重大な欠陥があったと認めた。
同戦略では、2030年までに60万人の留学生受け入れを目標としていたが、これを10年早く達成したことで「政策の空白」と「油断」が生じたと述べまた。彼はこの教訓を踏まえ、今後は一貫した戦略的な取り組みが必要だと強調している。
Skidmore氏が共同設立した国際高等教育委員会(International Higher Education Commission:IHEC)は、政府の戦略的不在を埋めるために2023年に発足し、様々な関係者を集めて議論を進めてきた。2025年4月に発表された最終報告書では、「レジリエンス、目的、精度」をキーワードに、より持続可能な戦略を提案している。
報告書の主な提言:
1.政策の安定性とビザ制度の信頼性確保
2.四半期ごとの留学生データの公開
3.留学生の声を政策に反映
4.数値目標を超えた多様性の重視
5.EUとの連携強化と学生の海外留学促進
6.国境を超える教育(transnational education:TNE)アカデミーの設立
英国の国際高等教育は、自動的に成長を見込む時代から、戦略的・持続可能な成長を目指すフェーズへと移行すべきとされています。Skidmore氏やIHECは、数値ではなく「質」と「多様性」、「制度の安定性」を重視し、大学・政府・留学生が共に将来を形づくる体制の構築を呼びかけている。
【英文記事】University World News:
https://www.universityworldnews.com/post.php?story=20250416082511212
(18)ARIA:地球工学実験は“気候科学”の失われた部分として擁護される
2025年4月22日、英国の先端研究・発明庁(Advanced Research and Innovation Agency:ARIA) が主導する5700万ポンドのプログラム「気候冷却の探求」の責任者であるMark Symes教授(University of Glasgow)は、小規模な地球工学の野外実験が、気候科学者が地球を冷却する方法を理解する上で「極めて重要な欠落部分」であると述べた。
Symes氏は、ARIAが進めるこのプログラムの開発において、多くの気候科学者と議論を重ねた結果、制御された小規模な屋外実験を通じて現実世界の物理データを収集することが、地球冷却アプローチの理解における重要な欠落部分(理解不足および実験データ不足)であるとの結論に至ったと説明した。このような実験は、潜在的なアプローチの有効性や影響を評価する上で不可欠である。
ARIAのプログラムは、気温上昇に対抗するためのさまざまな地球工学的手法を対象としており、過去の同様の試みであると、研究コミュニティ内で議論を呼んでいる。University of Pennsylvania学のMichael Mann教授やUniversity of OxfordのRaymond T. Pierrehumbert教授からは、公的資金の浪費であるとの批判も出ている。
これに対しSymes氏は、気候の転換期による潜在的な損害を考慮すれば、ARIAによるこの規模の投資は正当化されると反論した。ARIAは、そのような気候が大きく変化する時期の予測に関する姉妹プログラムも実施している。
ガバナンスに関する懸念に対して、Syme氏は、ARIAが資金提供する屋外実験の規模制限や有害物質の放出禁止などの複数の措置を講じていると説明した。また、すべての屋外実験には環境影響評価が必要であり、独立したプログラム監視委員会が計画を精査し、実験の実施の是非について勧告を行うとしている。最終的な実施判断は、議会に責任を負うARIAの最高経営責任者によって行われている。
Symes氏は、ARIAのプログラムの成功は、有望な研究開発対象を特定してさらなる研究開発につなげることと、実験を行うリスクが地球温暖化の影響を軽減できる可能性を上回ることになれば、研究対象から除外することの両方にあると結論付けした
【英文記事】Research Professional News:
(19)Paul Nurse卿:早急な10年間の研究計画が必要
2025年4月22日ノーベル賞受賞者でありFrancis Crick Institute の所長であるPaul Nurse卿は、英国が「厳しい財政状況」の中で、科学分野における10年計画の早急な策定を求めた。これは、英国の基礎研究に安定した資金提供を実現するための重要なステップと位置付けている。
主なポイント:
10年計画の必要性: Nurse卿は、科学が英国と政府の中核的な使命であることを明示する長期的な計画が必要だと強調した。この計画があれば、研究者コミュニティにも「将来は良くなる」という自信を与えることができると述べた。
UKRIと科学省(DSIT)の役割: 計画は科学イノベーション技術省(Department for Science・Innovation and Technology:DSIT)が主導し、UK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation:UKRI)と連携して進めるべきだと述べた。また、UKRIには現状よりも広範な政策的役割を担わせる必要があると主張した。
UKRIの現状への批判: Nurse卿は、UKRIが自身の構想に比べて「スーパー研究会議」になりすぎており、本来は研究会議の協働を促進し、政府政策に対応するための統合機関であるべきだったと指摘した。
政府の取り組み: 政府は2024年秋の予算案で、10年単位の予算を通じて研究開発(R&D)活動に安定と長期的な確実性をもたらすと述べており、2025年6月11日の支出見直しで詳細が示される予定。
今後の改革: 科学閣外担当大臣のPatrick Vallance氏は、長期的なR&D改革を策定中であり、その焦点は「限られた長期優先事項」に置かれる予定である。この改革はNurse卿が2023年に発表したR&Dレビューなどを基に進められる。
Nurse卿は、英国の科学政策をより戦略的かつ持続可能なものにするため、政府とUKRIの積極的な関与とリーダーシップの強化を求めている。
【英文記事】Research Professional News
(20)日英データの妥当性:共同声明発表
2025年4月23日日本の個人情報保護委員会の大島周平委員と、英国の科学・イノベーション・テクノロジー省のデータ保護・電気通信担当大臣Chris Bryant氏がロンドンで会談した。
両者は、高度な保護基準を備えた自由なデータ流通を確保し、「信頼ある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust:DFFT)」を運用するという共通のビジョンを再確認した。2020年に確立された日英間の十分性認定は、安全かつ自由な個人データ流通に関する両国の協力における重要な要素の一つである。
日本のデータ保護法制の2021年の改正を踏まえ、日本と英国のそれぞれの十分性認定の範囲を拡大することで、学術分野や公共部門といった新たな領域に保護が拡張され、日本と英国の既存のパートナーシップの範囲を超えた共同研究や行政協力が促進される。これは、日英デジタル・パートナーシップと日英包括的経済連携協定の恩恵を補完・増幅し、個人データの交換に大きく依存する他の協力分野を強化する可能性も秘めている。
大島委員は、日本と英国が自由、民主主義、法の支配、人権といった共通の価値観を共有するグローバルな戦略的パートナーであり、グローバルな影響力を持つ外向的で自由貿易を推進する島国として、ルールに基づく国際システムを共に支持していると述べた。そして、この相互的な枠組みが持つ潜在能力を実現するための関連作業を加速させ、国際的なフォーラムを通じてDFFTを推進・運用するなど、グローバルな協力をさらに継続していくことを歓迎した。
Chris Bryant氏は、高度なデータ保護基準は英国と日本が共有する重要な価値であり、両国の成長を支え、より強固で効率的な公共サービスに貢献すると述べた。この合意により、両国間の情報流通は、生物学や神経科学分野における重要な研究とイノベーションを推進し、生活水準の向上という使命を後押しするなど、社会に具体的な利益をもたらし続けることになる。また、安全で信頼できるデータ流通の実現に不可欠なグローバルな規制協力の推進における個人情報保護委員会の役割を称賛した。
両国は、それぞれの歴史や文化によって形成された差異を尊重しつつ、個人データ保護に関する法制度の共通の本質を認識することが、将来の相互運用性を育むことに貢献するという共通理解に基づき、継続的な協議の着実な進展を歓迎し、2026年春までに拡大された枠組みを実現することを目指して作業を加速させることに合意した。今後数ヶ月で、現在の取り決めに関する見直しを含むさらなる技術的な作業が完了した後、両国が拡張を実施するかどうかについての決定が行われる予定。
【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science・Innovation and Technology:DSIT)
(21) 英国のグローバル研究開発資金削減は10万人の命を危険にさらすと報告書が警告
2025年4月25日英国政府が国際開発援助(Official Development Assistant: ODA)予算を防衛費の増加のために国民総所得(Gross National Income: GNI)の0.3%に削減した決定により、世界の保健研究開発(R&D)への資金が枯渇することで10万人以上の命が失われる可能性があるとする懸念が広がっている。
非営利組織Impact Global Healthが発表した報告書によれば、2020年以降すでにODAは0.7%から0.5%に削減されており、今回の追加削減が研究資金にさらなる打撃を与えるとしている。
Liverpool School of Tropical MedicineのDavid Lalloo学長とLondon School of Hygiene and Tropical MedicineのLiam Smeeth所長は、「これまでの成果が無駄になる非常に現実的なリスクがある」と述べ、命を救う研究の進展が止まる恐れがあると強調した。
報告書では、現在進行中の製品開発が資金不足で市場に出られなければ、113,000人以上の命が失われる可能性があると試算。また、1994年以降に英国が出資した22億ポンドの投資が、さらに8億ポンドの追加投資によって2040年までに143万人の命を救うと予測している。
さらに、顧みられない病気の研究開発に対する英国の投資は、1兆3,900億ポンドという世界的な社会的見返りを生み出す可能性があり、英国だけでも約77億ポンドの経済活動が追加されることがわかった。
報告書は政府に対し、「2018年のピーク時(インフレ調整後)までODAを回復させるべき」と求めており、投資は倫理的責任以上に、経済的・社会的利益をもたらすと訴えている
【英文記事】Research Professional News:
(22) University of Edinburgh 職員350人解雇:スコットランドで大学改革検討
2025年4月25日スコットランドの高等教育は深刻な財政難に直面しており、英国議会とスコットランド議会で議論が行われている。スコットランドの高等教育担当大臣Graeme Dey氏は、持続可能な長期モデルの策定に取り組んでいるとスコットランド議会で述べた。ただし、策定には時間がかかる見通し。
現在、スコットランドの大学は厳しい状況にあり、University of Dundeeは3500万ポンドの赤字が予想され、2200万ポンドの救済資金を受け取った。University of Edinburghも1億4000万ポンドの支出削減計画を発表し、350人が自主退職した。大学側は今後もスタッフ削減やコスト削減策を進める予定である。
他にも、University of Aberdeenが数百万ポンドの削減を検討しており、Robert Gordon University では教職員がリストラに抗議してストライキを行っている。University of Dundeeでは600人以上の職が失われる可能性があり、スコットランド資金協議会が原因調査を始めた。
政府は大学に対して、スタッフと十分に協議し、強制的なリストラは最終手段とするよう求めている。
一方、4月23日に行われた英国政府での議論では、現在の問題は「構造的なもの」であり、資金モデルの見直しが必要だとの指摘があった。自由民主党のChristine Jardine議員は、現行モデルが機能していないと批判し、労働党のIan Murray議員も「新たな方向性が必要」と述べた。
また、労働党スコットランド支部のリーダーであるAnas Sarwar氏は、スコットランドでの授業料無償政策を維持すると表明したが、カーネギートラストの調査によると、スコットランド人の約半数が授業料導入に前向きであることも分かっている。
【英文記事】Research Professional News:
(23) エンジニアリング・バイオロジーの力の開放
2025年4月25日英国政府の主席科学顧問Angela McLean教授は、「Engineering Biology Aspirations(エンジニアリング・バイオロジーの展望)」という新しいフォーサイト報告書を発表した。この報告書は、エンジニアリング・バイオロジー(EngBio)が現代の重要課題に対して革新的な解決策をもたらす可能性を強調している。
EngBioは、生物システムやプロセスに工学的原理を応用する急速に発展する技術で、医療、環境、農業、エネルギーといった分野における課題解決に貢献すると期待されている。
報告書は、持続可能な未来を実現するためにEngBioをどう活用できるかを探り、政府、産業界、学術界、一般市民へのインスピレーションを与えることを目的としている。
具体的には、人工血液が医療に与える可能性、環境負荷の少ないバイオ素材による持続可能なファッション、窒素固定能力を持つ穀物の開発、廃棄物から微生物によって燃料や化学物質を生産する技術などが紹介されている。
科学閣外担当大臣Vallance卿は、政府がEngBio分野に1億ポンド以上を投資し、規制の整備も進めていることを強調した。
報告書は、政府と科学者たちの連携によって作成され、EngBioが今後の課題にどう対応できるかを示す貴重な資料となっている。
【英文記事】英国政府科学局(Government Office for Science) :
https://www.gov.uk/government/news/unlocking-the-power-of-engineering-biology
(24)新報告書:大学への柔軟な資金提供が卓越した研究を促進する
2025年4月28日ラッセル・グループは、ウェルカム財団の資金提供を受け、PwCに依頼して国際的な研究開発システムの比較分析を行った。対象国はカナダ、ドイツ、オランダ、韓国で、政府の戦略的優先事項への整合性、効率性、安定性・持続可能性、自律性、外部投資誘導力の5つの基準で評価した。
分析結果から、英国の強みとして「業績に基づくブロックグラント(基盤的研究費)と専門家主導のプロジェクト型資金のバランス」が研究の卓越性に貢献していると指摘されている。また、産学連携を支援する対策がイノベーション推進に効果的であることも明らかになった。一方で、イノベーションを重視しすぎて基礎研究を犠牲にするべきではないとも警告している。
PwCの分析を基に、ラッセル・グループは以下の主要傾向を特定した:
長期的な戦略的研究や新興分野の探求に安定性と自律性を提供し、プロジェクト型資金と補完的な役割を果たしている。例として、オランダはブロックグラント比率が68%と高く、研究の卓越性も高い水準にある。
韓国では、産業界資金が高い割合を占め、産学連携を促す長期的な政府推進策がイノベーションを支えていると分析されている。
過度な事務負担は進展を妨げるため、カナダのように中央機関(Tri-Agency)による一元管理が効率向上に寄与しているとされている。一方、ドイツは制度の分散と重複により効率性が低いと評価されている。
この比較分析により、イギリスの「デュアルサポートシステム」(QR資金とプロジェクト資金の併用)の独自の強みが再確認された。しかし、QR資金やイノベーション資金(HEIFなど)の価値低下と上限設定が効果を損ないつつあるとも指摘している。
これらを踏まえ、ラッセル・グループは英国の研究開発資金制度に対して以下を提言:
【英文記事】Russell Group
(25) 革新の開放: 大学と企業の連携に関する20年間の定量的分析
2025年4月28日、国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB)が新しく発表した報告書”Unlocking innovation:A 20-year quantitative analysis of university -business collaboration(革新の開放:大学―企業提携20年間の定量分析)“は過去20年間の大学と企業提携による収入を分析したものである。その内容の一部として:
Unlock innovation: A 20-year quantitative analysis of university-business collaboration: https://www.ncub.co.uk/wp-content/uploads/2025/04/6485_NCUB_Unlocking_Innovation_V2.pdf
【英文記事】国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB):
https://www.ncub.co.uk/insight/unlocking-innovation/
(26) 英国研究者が量子および宇宙関連研究でホライズンヨーロッパ資金をさらに獲得
2025年4月29日、英国訪問中の貿易/経済安全保障担当の欧州委員は、内閣府憲法・欧州連合関係担当大臣であるNick Thomas-Symonds氏と共に、ホライズン・ヨーロッパからの資金援助を受けたImperial College London の教授らと会談をした。
Thomas-Symonds大臣は、Maroš Šefčovič委員(外務・英連邦・開発省、ビジネス・貿易省、北アイルランド省の各大臣とも会談)と共に、離脱協定合同委員会の共同議長を務めた。
Nick Thomas-Symonds議員のコメント:
1ヶ月足らずで、英国はロンドンで英国・EUサミットを開催する。今日は、交渉とこれまでの進捗状況を評価する機会となった。私たちは、英国とヨーロッパの人々にとって、より安全で、より安心で、より繁栄した未来を築くという目標において完全に一致している。私たちは、英国市民と企業に新たな機会を開き、ヨーロッパのパートナーとの強固で持続可能な戦略的パートナーシップに向けて努力する中で、常に国益のために行動する。
英国科学閣外担当大臣であるPatrick Vallance氏のコメント:
この歓迎すべきニュースのおかげで、量子、宇宙、そしてそれ以外の分野で活躍する英国の研究者と企業にとっての機会は拡大する一方である。彼らは今や、世界有数の研究開発資金の提供機関の一つへのアクセスが向上し、知識の進歩、世界最大の課題への取り組み、そして政府の変革計画の中心にある経済成長の実現に不可欠な国際的な 絆 を構築するより大きなチャンスを得た。英国中のイノベーターに、目の前にあるこの機会を捉えてほしいと思う。ホライズンの扉は開かれており、私たちはあなた方を支援するための体制を整えている。今こそ、資金を申請し、コンソーシアムを構築し、あなたの研究を次のレベルに引き上げる時である。
英国は2024年にプログラムに参加した際、ホライズン・ヨーロッパの資金調達募集の大部分(95%以上)にアクセスできるようになったが、一部の新興技術についてはごくわずかな例外がある。今日の画期的な進展は、英国とEUのチーム間の建設的な協力期間を経て実現したものであり、宇宙と量子に取り組むより多くの英国の専門家が、ホライズン全体で利用可能な約800億ポンドの資金の一部を自信を持って申請できるようになることを意味する。彼らはまた、ヨーロッパ全体、そしてカナダ、スイスなどの研究パートナーとコンソーシアムを構築することもできます。これには、ホライズン・ヨーロッパのすべての量子資金調達募集への完全なアクセスが含まれている。
ホライズン・ヨーロッパは、AI、通信、高性能コンピューティングなどの最先端技術に焦点を当てる企業や研究者にとっても、欧州高性能コンピューティング共同事業 (European High-Performance Computing Joint Undertaking:EuroHPC)を通じた最先端のコンピューティングリソースへのアクセスなど、大きな機会を提供する。最近の英国とEUの連携により、英国はこれらの分野のすべての募集に制限なく参加が可能となる。ホライズン・ヨーロッパプログラムはイノベーションの強力な推進力であり、2023年には3800億ユーロ以上を研究開発に費やしており、大陸の最も優秀な人材と英国の人材との間の深く質の高い連携を促進することは、経済成長、NHSの改善と健康成果の向上、変革計画の下でのクリーンエネルギーの実現という政府のミッションを支援するために、科学技術イノベーションの約束を捉える上で不可欠である。宇宙や量子などの革新的で潜在力の高い分野は、経済の基盤を再構築し、成長を促進する上で不可欠となる。
宇宙と量子が経済と社会にとってますます重要になっていることを考えると、ホライズン・ヨーロッパへのより積極的に参加することは英国にとって有利である。英国の宇宙セクターはすでに52,000人を雇用し、年間189億ポンドの収益を生み出している。一方、量子における新たなイノベーション(亜原子粒子のユニークな特性を利用して情報を処理し問題を解決する)は、すでに医療、物流、金融サービスなどで革新を引き起こしている。これに加えて、AI、高性能コンピューティング、将来の通信などの分野の専門家は、食品・農業技術、デジタル、産業など、他の多くの分野と同様に、価値あるホライズン・ヨーロッパへのアクセスを享受し続けている。
英国の研究者がより多くのホライズン・ヨーロッパの科学資金調達募集に参加できるようになったことは、英国のEUのコペルニクス地球観測プログラムへの参加の価値をさらに強調するものである。さらに、英国とEUは、確実で独立したヨーロッパの宇宙への到達する能力の開発をするという強い共通のコミットメントを持っている。これは、英国自身の宇宙打ち上げへの野心の重要な部分を形成する取り組みである。今年後半にシェトランド諸島のサクソヴォードからの最初の打ち上げが計画されており、英国はヨーロッパの宇宙への野心における主要な国際パートナーであり協力者であり、英国の研究者がヨーロッパの野心をさらに推進するのに役立つ募集に参加できるようになることは心強いことである。
量子、宇宙、そしてそれ以外の分野で活躍する企業、研究者、科学者は、このニュースを活用するために時間を無駄にすることはできない。なぜなら、新しいホライズン・ヨーロッパの資金調達募集は数週間以内に開始されるからである。新しい宇宙および産業関連の募集は5月22日木曜日から、デジタル関連の募集は6月10日火曜日から開始。
【英文記事】https://www.gov.uk/government/news/uk-researchers-access-more-quantum-and-space-horizon-funding
(27)学生からの苦情が過去最高
2025年4月29日、高等教育機関に対する学生からの苦情件数が、2024年に高等教育独立裁定局(Office of the Independent Adjudicator for Higher Education: OIA)に提出され、15%増加し過去最多を記録となった。
OIAが4月29日に発表した年次報告書によると、イングランドとウェールズの独立した学生苦情処理機構であるOIAは、2024年に3,613件の新たな苦情を受け付けた。これは2023年の3,137件から増加しており、2023年は初めて年間3,000件を超えた年となった。
全体として、24%のケースが学生の訴えが正当、一部正当、または学生に有利な形で解決された。さらに16%のケースは、大学側がOIAの考える合理的な提案を行った後に、訴えが認められなかった。学生は和解金として総額180万ポンド強を受け取った。最高額の賠償金は63,650ポンドで、143人の学生が5,000ポンド以上の金額を受け取った。
例年通り、留学生が苦情処理において過剰に多い割合を占めており、OIAが受け付けた苦情の34%が非EU圏の学生、5%がEU圏の学生からであった。
最も多かった苦情の種類は学術不服申し立て(全ケースの47%)で、次いでサービスに関する懸念(30%)でした。経済的な問題(7%)、学術的な懲戒処分(5%)、福祉・非コース関連サービスの問題(4%)という順になった。
OIAは、苦情を申し立てる学生の40%が障害を持つと回答しており、この割合は2023年の33%から増加したと報告している。「学生は精神的な困難、特定の学習障害、自閉症やADHDを含む様々な神経多様性の状態に影響を受けている」とOIAは述べている。「私たちが検討した苦情は、学生が最大限の能力を発揮できるよう適切な支援を特定し、資金を提供するシステムが遅れることがあり、それが障害を持つ学生を不利な立場に置いていることを明らかにしている」とOIAは付け加えた。また、そのような支援の提供方法に一貫性がないことが、「学生が懸念を声にすることを困難にする」とも述べている。
一方、OIAは、ハラスメントおよび性的不正行為に関する苦情の件数は「依然として少ない」(全ケースの5%未満)ものの、これらのケースが当事者に与える潜在的な影響が大きいことから、大学は「適切な支援」を提供しなければならないとしている。
OIAのHelen Megarry氏は、2024年も「苦情件数が増加傾向にある」と述べた。「私たちのチームの献身と努力のおかげで、これまで以上に多くの苦情を解決し、学生にタイムリーで有意義な解決策を提供することができた」と述べ、「これらの事例から得られた関連する教訓を共有し、良い慣行を啓発し促進した」と付け加えた。
OIAの最高責任者であるBen Elger氏は、「今は大学と学生にとって前例のない困難な時期であり、2024年を通じて、私たちは苦情から得た知識と教訓を活かし、メンタルヘルス、言論の自由、財政の持続可能性などの問題に対して、公平で連携したアプローチを促進した」と述べた。
【英文記事】Research Professional News
(28) 英国のエリート大学らがMetaから多額の資金援助
2025年4月30日、英国のエリート大学が、有害コンテンツの対応、政治的影響力をめぐり批判が高まっているFacebookの親会社Metaから多額の資金提供を継続して受けていることが明らかになった。ラッセル・グループの大学は昨年280万ポンド、過去4年間で770万ポンドの資金援助を受け、特にImperial College London は2021年以降360万ポンドを受け取っている。資金は寄付から共同研究まで多岐にわたる。ラッセル・グループの大学は昨年280万ポンド、過去4年間で770万ポンドの資金援助を受け、特にImperial College London は2021年以降360万ポンドを受け取っている。資金は寄付から共同研究まで多岐にわたる。
情報公開請求を受け、オンライン安全キャンペーンを行う人々からは、大学がMetaとの関わり方をより慎重にすべきとの声が上がっている。学術界でもMetaからの資金提供は議論の的となっており、過去に資金を受けた研究者の中には後悔を表明する者もいる。Beeban Kidron氏は、大学へのテック企業の資金提供はロビー活動の一環であり、資金源とその割合を開示すべきだと主張している。
Imperial College London が最大の受益者であり、University of Oxfordも過去4年間で180万ポンドを受け入れている。University of Oxfordへの資金は、大規模言語モデル(large language models :LLM)の改善研究などに充てられている。両大学とも、資金提供が学問の自由を損なわないようガイドラインに従っていると説明している。
ラッセル・グループは、大学が多くの分野のグローバル企業と協力し、研究とイノベーションを支援していると回答した。Loughborough UniversityのAndrew Chadwick教授は、Metaが近年多様な方法で学術研究に資金提供してきたと指摘し、過去には研究の信頼性を損なう事例もあったと警鐘を鳴らした。同氏は、大企業が資金提供を正当性の外観作りに利用することがあると指摘している。
一部の大学は資金提供の詳細を開示しなかった。Imperial College Londonの元博士課程の学生Abhinav Shukla氏は、Metaと大学間の協力は新たな知識を生み出すと主張した。
現在Metaはこの件でコメントを求められている。
【英文記事】Guardian紙:
(29) 欧州初の半導体施設がUniversity of Southamptonに
2025年4月30日、英国の科学閣外担当大臣Patrick Vallance 氏は、University of Southamptonにおいてヨーロッパ初となる最先端の電子ビームリソグラフィ施設を開設したことを発表した。この施設は世界で2番目、日本国外では初めてのもので、AIや医療技術に重要な極小のチップパターンを精密に作成することが可能となる。
この開設と同時に、英国政府は約475万ポンドの新たな資金支援を発表し、成長著しい半導体産業の人材不足に対応する。この支援で以下が含まれる:
これらは、ニュー ポート、ケンブリッジ、グラスゴーなどの半導体クラスターを中心に展開され、地域経済と国家経済の成長を後押しとなる。
英国の半導体産業は年間約100億ポンドの経済効果を持ち、2030年には170億ポンド規模に成長すると予想されており、この分野の人材育成と研究基盤強化が経済成長の鍵とされている。
【英文記事】科学・イノベーション・テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)
https://www.gov.uk/government/news/european-first-semiconductor-facility-launches-in-southampton