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UK HE Information

2025年5月英国高等教育及び学術情報

2025年6月18日

(1)英国大学:留学生が国内学生数を上回る

(2)ロンドンのライフサイエンスは民間投資の15億ポンドより活性化

(3)人材、文化、環境:卓越した研究を構築

(4)主要4か国で大学院入学者が大幅に減少

(5)英国の大学、財政難に直面し大幅なコスト削減を実施:選択肢の減少と研究への影響が深刻化

(6)英国-インドの貿易協定は留学生にとって何を意味するのか?

(7)英国政府の学生ビザ規制強化案、大学の財政危機をさらに悪化させる恐れ

(8)グローバル研究型大学ネットワークが「オタワ宣言」を発表

(9)政府、AI主導の成長加速と公共部門の近代化に向け、トップレベルの技術者25名の招致を開始

(10)政府、米国科学者の英国への呼び込みに「出遅れ」

(11)学生局による分析で明らかに、大学財政難は継続

(12)英国政府、地域研究クラスター支援に3,000万ポンドを投資へ

(13)英国ケンブリッジに最先端物理研究施設「Ray Dolby Centre」が開設

(14)英国首相、長年の制御不可能な移民法に終止符を打つ新計画発表

(15)アイルランド、自由な思考が冷遇される米国に代わり学者を誘致へ

(16)英国の海外人材誘致計画:個人と団体

(17)英国、R&Dへの長期(10年間)資金提供計画を発表

(18)学生局、2025/26年度のSPG(戦略的優先事項助成金)に関する政府方針を受領

(19) 若者の自由な移動(滞在、就労、就学など)とエラスムスが再度英国-EU間の議題に

(20)英国-ウクライナ:自由を守る戦いで果たした科学者の役割を高く評価

(21)BioNTechが英国に最大10億ポンドを投資へ、政府も最大1億2900万ポンド支援

(22)英国大学協会から財務大臣への書簡

(23)英国大学の学長採用に関する調査結果と提言

(24)英国とEU、エラスムス+再加盟に向けて前進

(25)留学生数の17%減少は大学の維持の脅威

(26)米国のHarvard Universityがトランプ政権の留学生入国禁止措置に対して提訴

(27)大学組合:大学財政問題で全国規模のストライキの準備へ

(28)イノベーションと研究の新たな可能性を拓く、AI分野での英EU協力

(29)魅力的で、将来にわたって続けられる学術キャリアのための基本原則

(30)研究の新時代へ:英国の大学が直面する価値観と資金のジレンマ

(31)FP10に関する準加盟国の3か国が共同声明発表

(32)研究インテグリティ研修は「形だけ」

(33)大学への資金不足が成長産業の人材育成を妨げる――包括的支出見直しを前にUUKが警鐘

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(1) 英国大学:大学院留学生が国内大学院生数を上回る

2025年5月1日の報道によると、2023/24年度、英国の大学における大学院留学生の総数が76万人から73万人に減少(4%減)したことが、英国高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency: HESA)の新しいデータで明らかになった。これは、留学生受け入れ政策が大きな転換点にあることを示している。

減少の背景:

  • 家族帯同ビザの制限強化
  • 卒業後の就労ビザ「Graduate Route」の将来性への不安
  • 前政権(保守党)による「歓迎されない」と感じさせる発信
  • ナイジェリアやガーナなどでの通貨下落(特にナイジェリアからの学生は23%減)
  • 2023年の学生ビザ申請は3%減少

大学院も留学生の存在感:

  • 留学生は英国の大学院課程の6割を占め、国内学生より多い
  • 大学院レベルでの留学生確保が、今後さらに重要に

アジアからの留学生が中心:

  • 大学院留学生の約70%がアジア出身
  • パキスタン(38%増)、ネパール(51%増)、ガーナ(20%増)などからの伸びが目立つ → 地域の多様化が進行

人気専攻:

  • 留学生が最も多く選ぶ専攻はビジネス・マネジメント分野(全体の40%)

 今後の見通し:

  • 2024年の主申請者による学生ビザ申請は12%減 → 2024/25年のさらなる減少も予想される
  • ただし、2024年第4四半期の学生ビザ申請は前年同時期比で9%増加 → 現政権の前向きな発信により回復傾向
  • 米国、カナダ、オーストラリアの政治的不安定さから、中国人学生などが英国に流入する可能性

英国政府は近く移民政策白書と国際教育戦略の刷新を発表予定で、これが各大学の留学生募集戦略に大きな影響を与えるとみられている。

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/international-postgraduates-outnumber-domestic-counterparts-uk/

 

(2) ロンドンのライフサイエンスは15億ポンド超の民間投資を経て活性化

2025年5月1日、サットン(ロンドン南部)に、総額10億ポンドの民間投資による大規模な癌研究・治療センター建設計画が提出された。Aviva Capital Partnersと開発業者Sociusによるこの計画は、ロンドン癌ハブを開発するもので、約100万平方フィートの研究・実験スペースを創出し、主に研究開発と小規模製造業で3,000人の新規雇用を支援するとされている。この施設は、癌研究・イノベーションを推進するInstitute of Cancer Research(ICR)、ロイヤル・マースデンNHS財団トラスト(Royal Marsden NHS Foundation Trust)、および民間ライフサイエンス企業との既存のパートナーシップの一部となる。建物には、大手製薬・ライフサイエンス企業だけでなく、ICRから将来的に生まれるスピンアウト企業向けの小型で柔軟なラボやインキュベータースペースも含まれる予定である。

この発表は、英国のライフサイエンス分野、特にロンドンへの投資が2025年第1四半期に増加しているというニュースと同時期に行われた。不動産コンサルタントのKnight Frankのデータによると、2025年第1四半期の英国ライフサイエンス分野へのベンチャーキャピタル投資額は11億ポンドに達し、前四半期比36%増、2021年以来最高の第1四半期となった。このうち5億7000万ポンド以上がロンドンを拠点とする企業によって確保され、特にAIを活用した創薬企業であるIsomorphic Labsの4億5000万ポンドの資金調達が大きく貢献しました。Knight FrankのJennifer Townsend氏は、2025年第1四半期には「より多くの機関投資家の資金が市場に流入し、新たなデータが英国の強力な学術基盤の強さを示しており、それは次世代の兆ドル規模の企業となる可能性を秘めた高成長のスピンアウト企業を一貫して生み出している」と語っている。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-innovation-2025-5-london-s-life-sciences-boosted-by-over-1-5bn-in-private-investment/

 

(3)人材、文化、環境:卓越した研究を構築

2025年5月2日リサーチ・イングランドの理事であるJessica Corner氏がREF2029に関して寄稿した。以下がその内容:

*REF 2029(研究評価制度2029:Research Excellence Framework 2029)は、英国が世界的な研究・イノベーションのリーダーであり続けるために、単に優れた研究成果を評価するだけでなく、そうした成果を可能にする「人材・文化・環境(People , Culture and Environment: PCE)」を重視する方向に進化している。

研究卓越性を支える環境の重視

  • PCEの導入により、研究者を育て、革新を促進し、経済的なインパクトを生む「土台」に光を当てる。
  • 多様で支援の行き届いたチームは、より革新的で影響力のある研究を生み出す。
  • 良好な研究環境は、人材の確保・定着、心体の安定の向上、創造的なコラボレーションの促進にもつながる。

抱える課題への認識

  • 不安定な雇用、職場文化の問題、キャリア構築の難しさといった課題が依然として存在。
  • 多様性と公平性の欠如も深刻。性別・経済状況・分野のバランス(例:男性の看護分野進出、女性の工学分野進出など)への配慮が必要。
  • 発表プレッシャーによる不正データの問題にも対処し、研究の信頼性を守る必要がある。

共同開発とパイロットテスト

  • REF 2029は大学関係者と共同で設計され、PCE部分はパイロット事業を通じて実用性、公平性、負担軽減を確認中。
  • 各大学の多様な環境に配慮しつつ、実効性のある評価基準を模索している。

長期的ビジョンと意義

  • REF 2029は、優れた研究環境を整備する大学を評価し、長期的により生産的で包摂的な研究基盤の構築を目指す戦略的枠組みである。
  • 研究の卓越性とは、人から始まり、文化によって形作られ、透明性ある制度によって支えられるものだという認識が基礎にある。

【英文記事】Research England:

https://www.ukri.org/blog/people-culture-and-environment-building-research-excellence/

 

(4)主要4か国で大学院入学者が大幅に減少

2025年5月5日の報道によると2025年1〜3月期の留学生の大学院入学に関して、「ビッグ4」(米国、カナダ、オーストラリア、英国)のうち、アメリカ、カナダ、オーストラリアではいずれも2桁台の減少が見られた一方で、英国は8%の増加を記録した。この期間は、留学生入学者数の約3分の1を占める重要な時期でもある。

英国が他のビッグ4諸国に比べて好調だった理由の一つは、他国の入学者数減少の恩恵を受けたためであり、加えて、前年に大きな影響を与えた配偶者ビザ制限などの政策の影響がやや緩和された点が挙げられる。

一方、オーストラリアは学部生の留学生入学が9%増加したものの、大学院生は13%減少。カナダでは学部生が33%減、大学院生が31%減という大幅な落ち込みとなり、特に学生ビザの大幅削減(2024年に45%削減、さらに翌年に10%追加削減予定)が影響した。

米国では大学院生が13%減少、学部生は横ばい。Trump大統領の再選によるビザ発給制限や留学生への対応が影響し、特にインド人学生へのF1ビザ発給数が前年同期比で約40%減少した。

一方、アジア(中国、日本、マレーシア)やヨーロッパ(フランス、オーストリア、アイルランド、スペイン)などでは留学生数が大きく増加し、教育を安定的かつ歓迎的に受け入れる政策環境が影響していると指摘された。

StudyportalsのCara Skikne氏は、「留学生は政治や政策の動向に非常に敏感で、英国は他国の制限的政策の反動で注目されている」と述べた。

さらに、伝統的な「ビッグ4」から、安定性と手頃さを求めて学生が他の国々へ流れる現象が進行中であり、今後は「ビッグ10」の時代になるとNAFSAの幹部は警告している。

【英文記事】University World News:

https://www.universityworldnews.com/post.php?story=20250505205911862

 

(5) 英国の大学、財政難に直面し大幅なコスト削減を実施:選択肢の減少と研究への影響が深刻化

2025年5月6日、英国大学協会(Universities UK:UUK)の調査によると、授業料の長期凍結や留学生数の抑制政策によって、英国の多くの大学が深刻な財政的圧力に直面しており、下記のような大規模なコスト削減策を講じていることが明らかになった。

 主な調査結果(60大学対象):

  • 49%がコースを廃止、55%が統合、18%が学科ごと閉鎖
  • 19%がすでに研究費を削減、79%が今後削減の可能性を検討中
  • 60%が施設の修繕・維持費を削減、今後89%がさらに削減の可能性あり
  • 25%が強制的な人員削減を実施(前年は11%)

 影響の詳細:

  • 学生の選択肢が著しく減少しており、提供される科目や学習機会が制限されている。
  • それにもかかわらず、学生満足度調査では高評価が続いており、現時点では「学生体験」よりも「選択肢の幅」が損なわれている。
  • 財政難が産業戦略や経済成長にも影響を与える可能性があると懸念されている。

 研究活動(R&D)への打撃:

  • 大学研究が英国経済に与える影響は年間630億ポンドとされる中で、研究関連支出を削減した大学は19%に増加。
  • 将来的に研究時間や若手研究者支援を削る可能性がある大学は79%にのぼり、研究基盤の弱体化が進んでいる。

UUKのCEO、Vivienne Stern氏のコメント:

大学はすでに限界に達している。各国政府は学生1人当たりの資金増額、ビザ政策の安定化、そして研究資金制度の見直しに協力すべきである。

 UUKは今後、「効率化と変革特別委員会(Efficiency and Transformation Taskforce)」の初期成果を発表し、大学間の連携強化と、持続可能な財政支援策の提案を進めていく予定である。

【英文記事】英国大学協会(Universities UK: UUK):

https://www.universitiesuk.ac.uk/what-we-do/creating-voice-our-members/media-releases/universities-grip-financial-crisis-what

 

(6) 英国-インドの貿易協定は留学生にとって何を意味するのか?

2025年5月6日、英国とインドが締結した自由貿易協定(Free Trade Agreement:FTA)は、経済効果だけでなく、将来的に国際教育や留学生にも恩恵をもたらす可能性があると報じられている。

■ 貿易協定の主なポイント:

  • 英国経済に年8億ポンド、賃金に2.2億ポンドの長期的な貢献が見込まれる。
  • 酒類、自動車、化粧品、航空宇宙、医療機器分野に焦点を当て、インド側の関税の90%を削減、85%は10年以内に完全撤廃。
  • 二国間貿易が最大255億ポンド増加する可能性。

■ 留学生への影響:

  • 学生ビザ自体は交渉対象外だったものの、他の措置が間接的に学生に好影響を与える可能性あり。
  • 特に、インド国籍の人が英国で一時的に働く場合、3年間の国民保険料(National Insurance)の支払いが免除される。
  • これは、卒業後に「卒業ルート」で2年間就労する学生にも恩恵があると見られる。

インド留学生・卒業生協会(National Indian Student and Alumni Union UK:NISAU UK)のSanam Arora氏は、「学生ビザに変更がなかったことは安心材料」とし、「卒業ルートの維持は両国の未来にとって不可欠」と強調。

■ 今後の教育連携と展望:

  • インドは、英国にとって最大の留学生送り出し国(2022/23年度に17万人以上)。
  • 英国の大学はインドとのTNE(国境を越えた教育)連携を強化。

(最近では、University Yorkが2026/27年にムンバイ校の開設を発表。)

■ 経済界の反応:

英印ビジネス評議会(UK-India Business Council)の会長Richard Heald氏は、「5位と6位の経済大国が協定を結んだ意義は大きい」とし、経済・戦略的関係の深化を評価。

【英文記事】Pie news:

https://thepienews.com/what-does-the-india-uk-trade-deal-mean-for-international-students/

 

(7)英国政府の学生ビザ規制強化案、大学の財政危機をさらに悪化させる恐れ

2025年5月6日英国政府は、学生ビザを利用した不正な難民申請を抑制するための新たなビザ制限を検討しており、これにより大学の財政状況が「さらに悪化する」と英国大学協会(Universities UK: UUK)のCEO、Vivienne Stern氏が警告した。

主な内容:

  • 学生ビザから難民申請に移行するリスクの高い国(ナイジェリア、パキスタン、スリランカなど)の申請者に対し、追加の審査・制限を課す案が浮上。
  • 昨年、労働や留学ビザで合法的に入国しながら難民申請をした人が約1万人に上り、政府は国立犯罪対策庁(National Crime Agency:NCA)と連携し、リスクプロファイリングを強化。
  • 以前のビザ制限(家族帯同制限など)により、すでに留学生数は急減しており、新たな制限でさらなる減少が懸念される。

UUKの懸念と批判:

  • Stern氏は、「今回の移民政策白書は、すでに危機的な大学財政をさらに悪化させる」と強調。
  • 政府が「学長(Vice Chancellor)の高額報酬」問題を同時に取り上げていることについて、「本質的な課題から国民の目をそらすための“目くらまし”だ」と批判。
  • 学長の報酬は「難しい仕事に見合っており、同規模の職務と比較して妥当」とも主張。

現在の大学の危機的状況(UUK調査より):

60大学中:

  • 25%が強制解雇を実施
  • 49%がコース廃止
  • 18%が学部閉鎖
  • 19%が研究費削減
  • 60%が施設の修繕を削減、51%が食堂費用削減、46%がIT費削減

 政府の見解:

教育省は、「前政権から深刻な財政問題を引き継いだ」とし、「高等教育の土台を立て直す」ために効率化と無駄の削減を推進していると表明。

【英文記事】Guardian紙:

https://www.theguardian.com/uk-news/2025/may/06/student-visa-crackdown-uk-university

 

(8) グローバル研究型大学ネットワークが「オタワ宣言」を発表

2025年5月6日、世界各国の主要研究大学が加盟するグローバル研究集約型大学ネットワーク(Global Research-Intensive Universities Network: GRIUN)は、国際的な不確実性が高まる中、国際的な研究協力の強化を求める共同宣言「オタワ宣言」を発表した。

このネットワークには、英国、カナダ、ヨーロッパ、アメリカ、日本、ドイツ、オーストラリアの主要研究大学が含まれており、世界158の大学を代表する組織が連携している。

宣言は以下の点を重視しており、大学が連携して公共の利益に貢献する姿勢を強調している:

  • 公共の利益のために行動する
  • 学問の自由と大学の自律性を維持する
  • 研究における誠実性・安全性・責任ある行動を守る
  • 透明性を優先する

この宣言は、カナダの研究大学団体「U15」が主催したオタワでの会合で発表された。国際政治が不安定化する中でも、研究を通じてより良い未来を築くために国際連携の継続と強化が不可欠であると訴えている。

*日本代表は学術研究懇談会(RU11)*

GRIUN Ottawa Declaration 2025: https://www.russellgroup.ac.uk/sites/default/files/2025-05/GRIUN%202025%20Ottawa%20Declaration.pdf

【英文記事】Russell Group:

https://www.russellgroup.ac.uk/news/global-research-intensive-universities-network-issues-ottawa-declaration

(関連記事)

2025年5月9日GRIUNは、研究と知的財産を盗取しようとする「敵対的行為者」の増加に対抗するため、連携を強化する宣言に署名した。

GRIUNに代表される158の研究大学は、オタワ宣言に署名し、この問題への共同での取り組みを強化することを約束した。このネットワークには、英国のラッセル・グループ、ヨーロッパ研究大学連盟、オーストラリアのグループ・オブ・エイト、米国大学協会などが含まれている。

宣言は、地政学的な変化と国際的な不確実性の高まりの中で、知識共有とイノベーションの機会を促進するために、グローバルな研究コミュニティが協力的なアプローチを強化する必要性を強調している。参加大学は、公共の利益、学問の自由、誠実さ、透明性のために協力することに合意した。

宣言は、資金調達、共著者、参考文献の透明性を優先することで、責任ある研究活動を確保すると述べている。また、不安定な国際情勢の中で研究活動を守るために透明性が特に重要であると強調している。GRIUNは、透明性を促進するために、可能な限りオープンな方法でグローバルな研究協力を実施することを約束した。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-world-2025-5-research-intensive-universities-fight-threat-of-hostile-actors/

 

(9)政府、AI主導の成長加速と公共部門の近代化に向け、トップレベルの技術者25名の招致を開始

2025年5月7日 英国政府は、科学者や技術者25名を対象とした1年間のフェローシップ制度を新たに募集開始した。これは、AI・量子技術・半導体・デジタル包摂・サイバーセキュリティなどの最先端分野において、政府の政策立案や技術実装を支援するためのプログラムである。

■ 主な特徴

フェローシップ期間:12か月(パートタイム)

受入先:科学・イノベーション・技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)

応募締切:2025年6月3日

対象:大学・研究機関・産業界で活動中の専門家(以下の団体に所属していること:

  • 王立協会 (Royal Society)
  • 王立工学アカデミー(Royal Academy of Engineering:RAE)
  • 英国、医学アカデミー(Academy of Medical Sciences:AMS)
  • techUK (英国テクノロジー業界の非営利団体)
  • 英国工学技術協会(Institution of Engineering and Technology:IET)
  • 英国規格協会(British Standards Institute:BSI)

■ 活動内容(テーマは4分野):

  1. AI分野(例:ディープフェイク、AI活用、規制策定)
  2. テクノロジー(半導体、通信インフラ、デジタル標準など)
  3. 未来戦略(Futures Thinking)(量子技術、気候安全保障、宇宙政策など)
  4. 公共部門イノベーション(デジタル包摂、商業イノベーション、科学的能力強化など) 

■ 目的とメリット:

  • 科学と技術の専門知識を政府に直接導入し、政策に反映させる。
  • フェローは政策チームの一員として実働し、現場で政府の意思決定に関わる。
  • 所属機関には、戦略的な視野や政府とのつながりを持った人材が戻るメリットあり。

■ 政府と業界・学術界の橋渡し:

本プログラムは、政府とR&Dセクター間の連携を深め、英国の科学技術主導の経済成長を加速する「Plan for Change」の一環。また、デジタル関連公務員の人数を倍増させる取り組みの一部でもある。 

■ 現役フェローの声:

University of Manchester のバイオメディカル工学教授 Alex Casson氏は、「単なる観察者ではなく、政策チームの一員として実務に関われる貴重な経験だった」と述べ、アカデミアが政策にどう関与できるかを深く理解できたとしている。

このフェローシップは、科学者・技術者が政策の現場で活躍し、帰属機関に知見とネットワークを持ち帰ることができる双方向の人材育成プログラムである。

【英文記事】英国科学・イノベーション・技術省(Department for Science, innovation and Technology: DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/applications-open-to-bring-25-top-tech-minds-into-government-to-accelerate-ai-driven-growth-and-modernise-public-sector

 

(10) 政府、米国科学者の英国への呼び込みに「出遅れ」

2025年5月7日、英国政府が外国人研究者の誘致に消極的であることについて、英国が他国に後れを取るリスクがあると、貴族院科学技術委員会のRobert Mair議長が警鐘を鳴らした。

これは、政府が約5,000万ポンドを投じて約10の国際研究チームを英国に誘致する計画を進めているという報道を受けたもので、Mair氏はこの取り組みを歓迎しつつも、規模拡大と十分な資金配分が必要だと主張した。

EUはこれに先立ち、7年間の「スーパーグラント」を含む5億ユーロの外国人研究者誘致プログラムを発表し、オーストラリアやフランスなども類似の政策を進めている。これに対し、英国政府は明確な支援姿勢を示しておらず、Mair氏はこれを「鈍重」と批判した。

また、英国の高額なビザ費用が研究者誘致の障害となっており、移民政策の見直しがなければ効果的な誘致策にならないと警告した。移民白書の発表が近く予定されているが、これまで政府はビザ費用削減に消極的である。

Mair氏は、研究者向けの移民政策を改善しなければ経済成長と研究基盤の強化の機会を逸し、国益を損なうと述べた。

要点としては:

  • 英国の研究者誘致策は他国と比べて遅れている
  • 高額なビザ費用が大きな障壁
  • 移民政策の見直しが不可欠
  • 機会を逃せば経済成長の妨げになる

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2025-5-ministers-flatfooted-on-attracting-us-scientists-to-uk/

 

(11)学生局による分析で明らかに、大学財政難は継続

2025年5月8日に本日公表された年次財政報告によると、英国の高等教育機関では2024–25年度に全体の43%が赤字を見込んでおり、前年の予測(好転傾向)とは対照的な結果となっている。主な要因は、予想を留学生の実際の受け入れが目標を下回ったことであった。

多くの大学は財政リスクへの対応としてコスト削減策(コース削減や不要資産の売却など)を進めていますが、今後も継続的な取り組みが必要である。2023–28年には英国人学生26%増、留学生19.5%増といった楽観的な入学者数の予測がなされているが、これが実現しない場合、財政状況の悪化はさらに続く可能性がある。

報告書では、他にも以下のようなリスクが挙げられている:

  • 英国人学部生からの収入の実質的な減少
  • インフレや経済的圧力による運営・維持費の増加
  • 特定国依存による留学生収入への過度な依存
  • 学生・教職員の生活費問題
  • 組織改革や財政再建に必要なスキル・人材の不足
  • 財政モデルに大きく関わるリスクの高い業務委託パートナーシップの急増

 

学生局(Office for Students:OfS)の規制部長であるPhilippa Pickford氏は、「今後も多くの大学が財政的困難に直面するリスクがある」と述べ、入学者数に過度な期待を寄せるべきではないと警鐘を鳴らした。また、コスト削減は教育の質や学生支援を損なわない形で行うべきだと強調した。

さらに、サブコントラクト方式(大学が自ら教育サービスを直接提供せず、他の教育機関や企業にその一部または全部を委託する契約形態)の急拡大には慎重であるべきとも述べ、学生と納税者を守る観点から高品質な教育の提供を求めている。

大学の閉鎖が差し迫っているとはしていないものの、閉鎖リスクのある場合は関係機関と連携し、学生の利益を最優先に対応する方針となっている。

【英文記事】学生局(Office for Students: OfS):

https://www.officeforstudents.org.uk/news-blog-and-events/press-and-media/ofs-analysis-finds-continued-pressure-on-university-finances/

(関連記事)

【英文記事】

同日に発表されたOfSの年次財政報告によると、英国の大学は2024〜25年度も3年連続で財政状況が悪化する見通し。これを受けて、英国大学協会(Universities UK)CEOのVivienne Stern氏のコメントを発表した。

“この報告は衝撃的ではあるものの、大学関係者や政府関係者にとっては驚く内容ではない。学生1人あたりの資金の減少、留学生向けビザ政策の変更による留学生数の減少、研究助成金がコストをカバーできないという長年の問題が、英国全体で大学財政に深刻な圧力をかけており、限界に近づいている。

大学はそれぞれコスト削減に努めており、効率化と改革の特別委員会がさらなる共同作業による改善を支援しているが、政府の支援なくしては抜本的な解決は難しい。“

大学の国際的競争力と雇用・経済成長の源泉としての役割を守るためには、次の3点が不可欠だと訴えている:

  • 学生1人あたりの資金の増額
  • 安定した国際学生ビザ政策の確保
  • 研究資金制度の維持と強化

【英文記事】英国大学協会(Universities UK):

https://www.universitiesuk.ac.uk/what-we-do/creating-voice-our-members/media-releases/universities-uk-responds-office-students

 

(12)英国政府、地域研究クラスター支援に3,000万ポンドを投資へ

2025年5月9日英国政府は、マージーサイド、イースト・アングリア、北東イングランド、ミッドランズにある4つの革新的な研究ハブに対し、3,000万ポンドの支援を発表した。この資金は、大学と産業界の連携により、研究成果を基にしたスピンアウト企業(研究機関発の新興企業)の創出・育成を目的としている。

これにより、未来の産業と雇用の創出、および経済成長が期待されており、「変革のための計画(Plan for Change」の一環として進められる。

また政府は、初の公的ガイダンスを発表し、政府系研究機関のイノベーションを民間市場に移すためのステップを示した。これにより、公的研究機関の成果を投資対象として育成し、ビジネス化を促進する

支援対処の4つのプロジェクト:

  1. SCENE(北東イングランド)
    5年間で800万ポンド超を受け取り、地域の研究商業化エコシステムを強化。
  2. Forging Ahead/Beyond(ミッドランズ)
    5年間で1,000万ポンド近くを投資。人材育成、先端製造、創造産業、医療などに重点。
  3. BRITE(マージーサイド)
    3年間で400万ポンド超を受け取り、ワクチンなどのライフサイエンス分野での研究成果をビジネス化。
  4. ACE(リンカンシャーとイースト・アングリア)
     3年間で500万ポンド近くを投入し、農業技術の研究商業化クラスターを形成。

王立工学アカデミー(Royal Academy of Engineering)のAna Avaliani氏のコメント:

大学と産業界の連携が現実の課題解決と経済成長を推進するうえで不可欠であり、今回の投資はスピンアウト企業の課題解決に大きく貢献する。

【英文記事】英国科学・イノベーション・技術省(Department for Science, innovation and Technology: DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/university-spinouts-to-grow-industries-of-the-future-with-new-government-backing

 

(13)英国ケンブリッジに最先端物理研究施設「Ray Dolby Centre」が開設

2025年5月9日 University of Cambridge のCavendish Laboratory(物理学部)の新拠点となる「Ray Dolby Centre」が正式に開所した。この施設は、AI、量子、半導体、気候研究などの分野での革新を後押しし、英国の物理学研究を大きく前進させると期待されている。

主なポイント:

設立の背景と資金:音響技術の先駆者で同大学卒業生でもあるRay Dolby氏の遺産から8500万ポンドの寄付により命名。さらに工学・物理科学研究会議(Physical Sciences Research Council : EPSRC)から7500万ポンドの支援を受け、施設整備が行われた。

施設の特徴:173の研究室、クリーンルーム、講義室、共同研究スペース、工房、オフィスなどを完備。英国全国の研究者がアクセスできる物理学のナショナルハブとなる。

CORDE設置:EPSRCが支援する物理共同研究環境(Collaborative R&D Environment for Physics: CORDE)を併設し、産業界と学術界の連携、研究成果の一般公開、機器の共有などを推進する。

教育と次世代育成:将来の科学者育成にも寄与し、英国の研究・イノベーション力の維持と発展を目指す。

立地と地域発展:「ケンブリッジ・ウエスト・イノベーション地区」の中心として、大学・企業・起業家の融合を促進し、ヨーロッパ有数の科学技術拠点となることを目指す。

【英文記事】UK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI):

https://www.ukri.org/news/ray-dolby-centre-opening-marks-new-era-of-uk-physics-research/

 

(14) 英国首相、長年の制御不可能な移民法に終止符を打つ新計画発表

2025年5月11日、同日に発表された移民白書によると、英国政府はトップレベルのグローバルな科学者にとってビザ取得の道を開きつつ、高度技能労働者ビザの最低給与額条件を引き上げる方針である。

政府は、「最も優秀な」グローバルな才能がターゲットとするルートを利用できるように、「さらに踏み込む」計画を示した。科学者向けのビザルートには、High Potential Individual (HPI) ルート、Global Talent ルート、Skilled Worker ルートが含まれている。白書では、前二者のルートを見直し、拡大し、改善することを約束しているが、後者のSkilled Worker ルートは制限される見込みである。

Kier Starmer 首相による白書の序文では、この計画が「英国が依然として世界最高の才能を引きつける競争力を持つ」新たな時代の到来を示すと述べている。しかし、これらの変更は「英国の国家経済を海外からの安価な労働力への依存から脱却させる」とも付け加えている。

政府は白書の中で、「非常に高い才能を持つ人々」の入国数を増やすため、HPIルートの「目標を絞った上限付きの拡大」を検討すると述べている。また、「トップレベルの科学およびデザインの才能がGlobal Talentビザをより簡単かつ容易に利用できるようにする」変更も行われる。

HPIルートに関して、政府は「資格のある機関の数を倍増させるとともに、英国の労働力に最大の利益をもたらす個人にルートの焦点を当て続け、必要な安全措置を講じる」ことを目指している。

白書には、人工知能分野で働く研究インターン向けの制度を強化する目標も掲げられている。

さらに、Innovator Founder visaを見直し、「現在英国の大学で学んでいる起業家精神を持つ人材がビザを取得し、英国でビジネスとキャリアを構築できるよう支援する」ことを提案している。

前政権下でSkilled Workerビザの条件は緩和されたが、白書では技能条件を学部卒レベルに引き上げ、最低給与条件額も引き上げる計画。白書によると、前政権下の変更により、「低技能労働者」が英国に急増したという。

科学工学キャンペーン(Campaign for Science and Engineering:Case)のエグゼクティブディレクターであるAlicia Greated氏は、白書でGlobal Talentルートの重要性が認識されたことを歓迎した。「世界中から才能ある科学者や研究者を英国に引きつけることは、経済成長に貢献できる活気ある研究部門にとって不可欠である」と述べた。また、Global Talentビザの利用促進と申請プロセスの合理化に関するCaseの提言が採用されたことも喜ばしいとしているが、これらの変更の詳細を確認し、政府の計画実施に向けて協力していく必要があると述べている。

Greated氏はさらに、「白書には学生ビザと大学院生ビザに関する規則の変更も含まれている。政府が財政の持続可能性という現在の問題を踏まえ、これらの変更が大学セクターに与える影響を理解し、軽減するためにどのような取り組みを行ってきたのかを明確にすることが重要」と述べている。

【英文記事】首相官邸、ダウニング街10番地(Prime Minister's Office, 10 Downing Street:

https://www.gov.uk/government/news/prime-minister-unveils-new-plan-to-end-years-of-uncontrolled-migration

【関連記事 ①】

2025年5月12日、国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB)の政策責任者であるRosalind Gill氏は政府が発表した新しい移民制度に関する法案に関しては、以下のようにコメントした。

「この法案は、熟練した海外人材の必要性を認識し、英国の移民制度を産業戦略に合致させるという点で注目すべき進展を見せているが、最高のグローバル人材に依存している大学や企業への影響は見過ごすことができない。我々は、高等教育と英国で最も成功している多くの企業の投資の両方を脅かす重大な変化に直面している。」

「企業は英国の大学を、我々の最大の戦略的資産の一つであり、投資する理由の一つだと認識している。長期的な経済成長を推進するためには、英国は革新的な企業が繁栄するための環境を創出するとともに、強固で多様性があり、グローバルにつながりのある高等教育機関を構築しなければならない。この移民法案は、このビジョンに大きなリスクをもたらす。」

「卒業ビザへのさらなる制限と、新たな留学生課徴金は、英国の大学の持続可能性とグローバルな接続性に危機を呼ぶことになるであろう。留学生は英国に大きく貢献しており、研究、イノベーション、グローバルなパートナーシップを推進している。この法案による制限は、グローバルな教育市場における英国の競争力を低下させ、大学が経済と国の繁栄にもたらす重要な貢献を損失することになる。」

「最近の留学生の扶養家族ビザの変更は、すでに発行されたビザ数を85%削減し、今後2年間で11億ポンドと推定される国際授業料収入の大幅な減少につながっている。大学の資金調達モデルが修正されないまま、この分野でさらなる制限が加えられることは、大学の財政安定と経済成長への貢献能力を損なうだけである。」

「今後予定されている改革は、追加投資という新たな要件を通じて、企業によるトップレベルの国際人材の雇用も脅かす可能性があり、これは今後導入される成長とスキル課徴金と相まって、企業にとって二重の打撃となるであろう。」

「英国の最も研究開発主導型で革新的な企業と大学は、研究者、起業家、イノベーターといった最高のグローバル人材を引き付けることで繁栄している。これは、我が国の世界的な魅力の証である。しかし、この法案の多岐にわたる影響は、人材を遠ざける可能性がある。移民法案の主要な規定が、最も革新的な企業にステルス税を課し、新たな企業や投資の拠点としての英国の魅力を損なうのではないかという懸念も高まっている。」

【英文記事】国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB):

https://www.ncub.co.uk/insight/immigration-bill-undermines-universities-threatens-economic-growth/

【関連記事 ②】

2025年5月12日、英国政府は、新たな移民白書で留学生の学費収入に課徴金を導入し、高等教育や技能分野に再投資する提案をした。留学生は英国経済に大きな貢献をしているものの、その恩恵を共有するためとしている。具体的な計画は秋の予算で発表される。

また、留学生の卒業生が卒業ビザで英国に滞在できる期間を18ヶ月に短縮する計画も発表された。これは、卒業ビザを利用して卒業レベルの仕事に就いていない卒業生が多いという認識に基づいている。

政府は、学生ビザの不正利用を防ぐため、スポンサー機関の条件を強化し、コース修了率の向上や成績評価の導入、エージェントの品質管理などを義務付ける。また、大学には留学生の受け入れが地域社会に与える影響を考慮することも求めている。

英国大学協会(Universities UK:UUK)は、卒業ビザの維持は歓迎するものの、課徴金が大学の財政や英国の留学先としての魅力に与える影響を懸念し、政府に財政の持続可能性への取り組みを求めている。大学・カレッジ連合(Universities College Union: UCU)は、この白書を「反成長的」と批判し、留学生の制限が大学の破綻につながる可能性があると警告している。

一方、政府はトップレベルの科学者向けの高度人材ビザを緩和する方針も示しており、グローバルな才能の誘致には引き続き積極的な姿勢を見せている。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2025-5-government-plans-levy-on-universities-overseas-fee-income/

【関連記事 ③】

先週発表された英国政府の移民に関する白書を受けて、5月21日に詳しい説明資料が公開され、今回の変更点に関するFAQが発表された。

これらの提案がいつから施行されるかはまだ確定していないが、2029年までの現議会期間中に順次実施される予定で、一部の措置は「今後数週間以内」に開始される見込み。

資料の中では、白書自体が法律や移民規則を変更するものではなく、政府の意向を示すものであると強調されている。そのため具体的な施行日を含む多くの詳細はまだ未確定である。

Penningtons Manches Cooper法律事務所の移民部門責任者であるPat Saini氏は、PIE Newsウェビナーで、「これらの変更がどれだけ実施されるかはまだ分からない」と述べ、関係者に対し引き続き政府への働きかけや議論を続けるように促した。

提案された変更のほとんどは、移民規則の改正によって実施可能であり、議会法や法定文書を必要としない。ただし、高等教育機関が留学生から得る収入に対する課徴金の提案は例外である。政府は、この物議を醸す課徴金が、大学から学生へ授業料の値上げとして転嫁され、英国留学の費用が高騰すると想定している。関係者は、既に高い留学生の費用に懸念を示しており、この課徴金が英国の留学先との魅力を損なう可能性があると警告している。

高等教育への課徴金は業界の多くを驚かせ、イングランドの大学財政がすでに不安定な状態にあることが指摘されている。この資金が「高等教育および技能システムに再投資される」という漠然とした言及はあるものの、政府はその具体的な使途についてほとんど詳細を提示していない。課徴金に関する最終決定は今年の秋の予算で示される予定ですが、白書では6%の課徴金が想定されている。

また、説明資料では、永住権(Indefinite Leave to Remain: ILR)の取得資格期間の延長が大きなメディアの注目を集めているが、これについては差し迫った変更は計画されておらず、今年の「後半」に協議が予定されていると示唆されている。

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/uk-reforms-to-begin-within-weeks-but-student-levy-requires-legislation/

 

(15) アイルランド、自由な思考が冷遇される米国に代わり学者を誘致へ

2025年5月13日、アイルランドは、米国のトランプ政権下で研究の自由が脅かされている現状を背景に、海外から優秀な学者や大学講師を積極的に呼び込む「グローバル人材誘致計画」を開始する予定である。

この計画では、特に米国から離れたがっている研究者に注目し、政府が大学と連携して給与の最大半額を負担し、有望な人材スカウトを行う。重点分野は再生可能エネルギー、食料安全保障、デジタル技術、AI、半導体、医療などである。

高等教育担当相のJames Lawless氏は、米国の研究環境が「自由な思想家や優秀な研究者にとって冷たい場所になっている」と述べ、「アイルランドは安定した開かれたEUの一員として、世界最高水準の研究者を受け入れる好機だ」と語った。

また、米国では学生の逮捕や追放、図書館資料の廃棄(“かつての焚書”を想起させる)などの事例も報告され、研究の自由が危機に瀕していると指摘された。

この取り組みは、米国からの研究者を受け入れようとする他の欧州諸国(ベルギー、フランス、オランダなど)の動きにも同調している。トランプ政権が研究予算を凍結し、学問の場に対して締め付けを強める中、才能の流出が米国にとって経済的な打撃となり、政策の転換を迫る可能性もあると論じられている。

【英文記事】Guardian 紙:

https://www.theguardian.com/world/2025/may/13/ireland-hopes-to-entice-academics-us-cold-place-for-free-thinkers

 

(16) 英国の海外人材誘致計画:個人と団体

2025年5月14日英国科学・イノベーション・技術省(Department for Science, innovation and Technology: DSIT)は、個々の研究者と研究グループ双方に対し「魅力的な提案」を行う国際的な人材獲得計画を発表する予定であると、Patrick Vallance科学閣外担当大臣が述べた。

先週、DSITは海外の研究者誘致を目的とした資金提供を発表することを明らかにしており、米国で不満を抱える科学者を英国がもっと積極的に採用するよう求める声が高まっている。フィナンシャル・タイムズ紙は、英国の産業戦略に合致する約10の国際的な研究チームを移転させるための約5000万ポンドの計画が進行中であると報じた。

5月13日の貴族院での質疑応答で、Vallance氏は「個人とグループ双方に魅力的な提案を行う計画に取り組んでいる」と述べた。

米国人研究者を対象とした計画を立ち上げている他国と同様に策を起こさない場合、「英国が遅れをとる本当の危険性があるのか」と議員から問われた科学大臣は、「世界中から最高の才能を引き付けるための強固なシステムを確保したいと考えており、これは特定の場所を対象としたものではない。それについては近いうちに発表する」と述べた。

Vallance氏はまた、「すでに多くの人々が英国に拠点を置きたいと考えて大学にアプローチしており、研究者が英国の世界トップのシステムで働くことができるよう、持続可能で効果的なシステムを持つことが重要」とも語った。

Trump大統領の科学と大学への予算削減によって米国を追われる研究者を利用するよう政府に圧力がかかる中、英国政府は移民白書を発表したばかりである。政府は海外の研究者が特定のビザルートを利用しやすくしたいとしているが、移民専門家は、英国の国境管理強化に関するメッセージによって多くの研究者が敬遠する可能性があると懸念を示している。

Vallance氏は貴族院に対し、政府は「最も優秀な世界の才能のための的を絞ったルートを利用し、トップレベルの科学者や研究者を含む非常に高度なスキルを持つ人々が英国に来て機会を得られるよう、さらに努力する」と述べた。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2025-5-uk-foreign-talent-schemes-lined-up-for-individuals-and-groups/

 

(17) 英国、R&Dへの長期(10年間)資金提供計画を発表

2025年5月19日、英国政府は、特定の研究開発(R&D)活動に対し、最長10年間にわたる資金提供を可能にする新しい計画を発表した。これは、研究者や産業界に長期的な安定性をもたらし、英国経済を変革しうる重要なR&D分野でのパートナーシップ機会を深めることを目的としている。

この変更により、政府機関や公共団体は、最大10年間にわたりR&Dに資金を提供できるようになる。またこれで、複雑な課題に取り組む世界クラスの研究機関は、より長期的な視点で研究を進めることができ、民間投資を呼び込み、経済成長を促進することが期待される。具体的には、抗菌薬耐性の研究や量子コンピューターの開発といった、長期にわたる取り組みが必要な分野などが想定されている。大規模な研究施設などのインフラへの長期資金提供も可能になる。

資金提供の対象となる活動を特定・優先するための基準は以下の4つの分野に焦点を当てている。

  1. インフラと中核機能:長期資金が不可欠な国家インフラの開発・維持。
  2. 人材確保・育成:英国の成長に必要な人材パイプライン構築。
  3. 国際協力:戦略的利益を伴う国際協力の機会。
  4. パートナーシップとビジネス連携:経済成長に関わる課題解決のための産業界との長期連携。

Vallance科学担当閣外大臣は、研究革新には資金の安定性が重要であり、この変更が研究セクターへのビジネス投資を促進すると述べている。この発表は、今後の英国の産業戦略にも貢献するものと位置づけられている。

公共団体は、R&D予算の中で長期資金に充てる割合に上限を設けることが推奨されており、これにより新たな優先課題への対応の柔軟性も維持される。具体的な資金配分や初期の受給者については、今後発表される予定。この取り組みは、政府がR&D優先順位を明確にすることで、セクターの安定性と確実性を提供するという、より広範なR&D資金改革の一環である。

【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/government-to-set-new-ten-year-budgets-for-rd-funding

 

(18) 学生局、2025/26年度のSPG(戦略的優先事項助成金)に関する政府方針を受領

2025年5月19日、教育省(Department for Education: DfE)は、2025~26年度に学生局(Office for Students: OfS)に対して13億4,800万ポンドの資金配分に関する指針を提示した。これは前年度(2024~25年)よりも1億800万ポンドの減額となる。この資金は、戦略的に重要な高コスト科目(看護・助産など)、教育機会の平等を推進するプログラム、そして世界的に優れた専門教育機関の支援に充てられる。

さらに、優先科目の拡充を目的とした8,400万ポンドの設備投資資金も別途提供される。

OfSの公正なアクセスと参加の責任者であるJohn Blak氏は、「この資金は提供コストが高いが、国家的に重要な科目や、多様な背景を持つ学生が高等教育へアクセスし、学業で成功するための支援に使われる。また、英国高等教育の多様性に貢献する専門機関の価値も認識している」とコメントした。

OfSは現在、資金配分のあり方について見直しを進めており、先日行った意見募集に対して多くの有益なフィードバックが寄せられた。その内容は今後、公表される予定。

Guidance to Office for Students on Strategic Priorities Grant funding for the 2025-26 financial year and associated terms and condition : https://www.officeforstudents.org.uk/media/fwojfzhc/spg-programme-25-26-guidance-letter.pdf

【英文記事】学生局(Office for Students:OfS):

https://www.officeforstudents.org.uk/news-blog-and-events/press-and-media/ofs-receives-funding-guidance-for-2025-26/

【関連記事】

2025年5月19日、2025/26年度の高等教育向け「戦略的優先事項補助金(Strategic Priorities Frand: SPG)」の政府指針が公表されたことを受け、ラッセルグループの最高経営責任者Tim Bradshaw博士は次のようにコメントした:

「今回発表された『節約』は、実質的には大学への資金削減であり、すでに厳しい財政状況にある大学にとって大きな打撃である。医学や看護などの一部高コスト科目への配慮は見られるものの、実質的な減額であることには変わりない。他の分野はさらに削減され、学生一人あたりの資金は過去10年間で大きく減少している。

さらに、先週発表された留学生の受け入れを厳しくする措置や、留学生からの授業料収入への課徴金の提案とあわせて、大学が質の高い教育を提供し、英国の必要とするスキルを育成することがより困難になる。

大学は効率化に取り組んでいるが、すでに多くが将来の持続性を守るために難しい判断を迫られている。資金のさらなる圧迫は、産業戦略の実行や公共サービスの向上、経済成長といった政府目標への貢献を弱体化させるおそれがある。」

【英文記事】ラッセル・グループ:

https://www.russellgroup.ac.uk/news/response-2025-26-strategic-priorities-grant-funding

 

(19) 若者の自由な移動(滞在、就労、就学など)とエラスムスが再度英国-EU間の議題に

2025年5月19日、英国とEUの首脳は、若者がより容易に相互に留学・就労できる仕組みを導入する方針を示した。英国はエラスムス計画への再参加を予定しており、18~30歳の若者が一定期間、自由に相互の地域を移動できる「バランスの取れた若者交流経験」制度の導入も検討されている。これは、すでに英国がオーストラリアやニュージーランドと結んでいる協定に類似している。

ただし、EUからの留学生の授業料の取り扱いについては不透明なままで、英国の教育機関が金銭的な損失を被るのではとの懸念が高まっている。現在EU学生は「海外留学生」として高額な授業料を支払っているが、新制度で「英国国内学生と同等の授業料」となる可能性があるため、大学側には財政的影響が予想されている。

ポーランドの高等教育大臣は、英国のEU離脱以降、ポーランド人学生が英国に留学することが少なくなり、新制度により学生の英国回帰が進むと期待感を示した。一方で、高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)の所長Nick Hillman氏は、英国の大学がすでに国内学生で赤字を抱えており、EU学生にも同様の扱いをすればさらなる財政難に陥ると警鐘を鳴らしている。また、非EU諸国からも同様の優遇措置を求められる可能性があるとも述べた。

実際、英国のEU離脱以降、英国に留学するEU学生は大きく減少しており、2015/16年の約12.7万人から2023/24年には約7.5万人に減少している。

今回の合意について、Keir Starmer 英国首相は「古い政治的対立を乗り越え、現実的で国益にかなう解決策を追求するもの」と歓迎の意を示した。

なお、この動きは先週発表された移民政策白書と並行して進められており、同白書では「卒業後のビザ期間短縮」「英語要件の強化」「留学生収入への課徴金」など、国際教育界から批判の多い内容が含まれている。

【英文記事】Pie News:

https://thepienews.com/youth-mobility-and-erasmus-back-on-the-table-for-eu-uk-talks/

 

(20) 英国-ウクライナ:自由を守る戦いで果たした科学者の役割を高く評価

2025年5月20日、ロンドンのBritish Academyにて、英国とウクライナの研究者たちの協力関係を祝うイベントが開催された。これは、ロシアの侵略に立ち向かうウクライナへの支援と、両国の持続的な成長と安全保障を目指す「100年パートナーシップ」の一環である。

この協力の中では、医療分野でのAI活用や、グリーンエネルギーを活用した電力網の強化、地雷除去、サイバーセキュリティ、農業技術など、多岐にわたる共同研究が進められている。たとえば、University of WarwickとウクライナのKharkiv National University of Radio Electronicsの協力で、AIを使った負傷者の迅速な治療支援が行われている。

このイベントでは、科学担当閣外大臣のPatrick Vallance氏と、ウクライナの教育科学副大臣が登壇。Vallance氏は、Techbridgeへの追加10万ポンド支援や、英国・ウクライナ・エストニア3カ国によるデジタルガバナンス向上のための40万ポンド支援を発表予定である。

この他、「リスク下の研究者支援プログラム」により、戦争の影響を受けた170人以上のウクライナ研究者が英国の大学に受け入れられ、研究活動を継続。英国とウクライナの大学間の「パートナーシップ制度」も推進されており、リモートでの研究や設備利用、共同資金支援などが行われている。

両国は科学、技術、イノベーションを通じて、自由と未来への投資を共有し、持続可能な復興と成長を支えている。

【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/uk-and-ukraine-hail-scientists-role-in-the-fight-for-freedom

【関連記事】

2025年5月20日、ブリティッシ・カウンシル(British Council:BC)とウクライナ教育科学省(MoES)は、新たな協定を締結し、ウクライナにおける高等教育の強化、教育機関間の連携促進、交換プログラムの拡大、英語教育の充実を目指す。

この協定は以下の3つの重点分野での協力を深める:

  1. 英語教育の発展
  2. 学校間連携と教育改革
  3. 高等教育改革

このパートナーシップは長年にわたる両者の協力関係を基に、ロシアによる侵攻という現在の困難に対応したものである。教育機関および政府機関間での広範な協力の枠組みを定めている。

特に英語教育においては、教師の継続的な専門能力開発(ハイブリッド研修、コミュニティ形成、デジタル教材提供など)を支援。さらに、英国とウクライナ間の学位・資格の相互認識に向けて、資格制度の調和も目指す。

この協定は、ロンドンで開催された「Education World Forum」にて、BCのScott McDonald CEOとウクライナのOksen Lisovyi教育大臣により署名された。これは「英ウクライナ100年パートナーシップ)」の一環である。

McDonald氏は「戦争によるインフラ被害で数百万人の教育の権利が脅かされており、支援が必要不可欠」と述べ、英国政府の強い支援姿勢を強調した。

Lisovyi教育相は、「教育は戦略的パートナーシップと文化交流の要。信頼と継続性に基づいた協力関係が将来の希望を拓く」とコメント。

BCのウクライナ事務局長Colm McGivern氏も、「この取り組みは教室や大学講義室に実際の効果をもたらす。ロシアの侵略にも屈せず教育を続けるウクライナを誇りを持って支援する」と述べた。

【英文記事】 Pie News:

https://thepienews.com/new-uk-ukraine-agreement-boosts-education-and-language-learning/

 

(21) BioNTechが英国に最大10億ポンドを投資へ、政府も最大1億2900万ポンド支援

2025年5月20日mRNAワクチンの先駆者であるドイツに本社を置くバイオ医薬品企業BioNTechが、今後10年間で最大10億ポンドを英国に投資する計画を発表した。これにより、ロンドンとケンブリッジに新たな研究開発(R&D)センターやAI拠点が設立され、400人以上の高度人材の雇用が見込まれている。また、サプライチェーンを通じて間接的な雇用も創出される可能性がある。

この投資は、英国政府の「変革のための計画(Plan for Change)」の一環として行われ、最大1億2900万ポンドの政府助成金により支援される。これは英国ライフサイエンス分野への歴史的な投資であり、医療の進歩、雇用創出、経済成長を促進することが期待されている。

ケンブリッジではゲノミクス、がん研究、再生医療などを対象としたR&Dセンターが設立され、ロンドンではAIハブが設置され、疾病理解や創薬ターゲットの選定、予測分析などにAIが活用される。

この投資はまた、個別化がん免疫療法の研究拡大やNHS(国民保健サービス)の長期的再建にも貢献するものであり、英国のライフサイエンス産業を世界有数の投資先としてさらに強化するものである。

英国政府とBioNTechは、2030年までに最大1万人の患者に対して個別化がんワクチン治療の臨床試験機会を提供することも目指している。

【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/1-billion-biontech-investment-sets-way-for-jobs-growth-breakthroughs

 

(22) 英国大学協会から財務大臣への書簡

2025年5月19日に英国大学協会(Universities UK: UUK)」はRachel Reeves財務大臣宛てに英国の大学が経済成長に大きく貢献していることを強調した要望と提案の書簡を送付した。以下はその要約。

大学の経済的貢献:大学は25万人以上の雇用を支え、年間2650億ポンドを経済にもたらしている。研究開発活動による民間部門の生産性向上は400億ポンドにのぼる。

研究資金の確保への感謝:2025–26年度の研究資金が名目上維持されたことを歓迎し、将来の繁栄のために研究への投資が重要であると評価。

英国大学の研究の強み:2008年〜2023年にわたり、英国大学の研究はG7諸国でトップレベル。特にライフサイエンス、ビジネス、経済学、芸術分野で卓越しており、海外からの投資も活発(2022–23年にはEU以外から7.4億ポンド)。

産業に必要なスキルの提供:戦略的産業分野の労働者のうち52%が大卒。特にライフサイエンスや創造産業では70%以上。

大学発ベンチャーの成長:2022–23年には2043件のスピンアウト企業が存在し、5万4000人以上を雇用、売上は124億ポンド以上。AIなど新興分野にも進出。

資金源の多様性:大学が行う研究は、多くが質関連の包括的補助金(block grant (QR))や海外留学生の授業料収入によって支えられている。

大学の財政的な脆弱性:2025年3月の調査で、20%の大学がすでに研究開発費を削減。79%が今後3年以内に削減の可能性あり。50%がコースを廃止。

政府への要望:

  • R&D投資をGDP比で高める目標を設定すること
  • 基礎研究と応用研究のバランスをとること
  • QR(質関連)研究資金を実質的に増額すること(2010年以降15%減少)
  • 留学生政策の安定化(ビザ政策の見直しに懸念)
  • 1人あたりの学生資金をインフレに連動させるなど、大学収入の安定化

UUKは、経済成長のために大学の力を最大限に活かすため、政府との協力を望んでいることで締めた。

The letter to Chancellor :

https://www.universitiesuk.ac.uk/sites/default/files/field/downloads/2025-05/Chancellor-UUK%20-190525.pdf

【英文記事】英国大学協会(Universities UK: UUK)

https://www.universitiesuk.ac.uk/latest/news/universities-uk-writes-chancellor-how

 

(23) 英国大学の学長採用に関する調査結果と提言

2025年5月22日、高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)が発表した新しい報告書「Who leads our universities? Inside the recruitment of vice-chancellors」は、英国の大学153校の学長(Vice-Chancellor)の経歴を調査したものである。この調査は、2025年2月時点のデータに基づき、学長の在任期間、前職、出身機関、男女比の傾向、大学ランキングでのパフォーマンスなどを分析し、学長採用に関する提言をまとめている。

報告書の主な調査結果は以下の通り:

  • 高い交代率:調査対象の学長の約半数が2022年以降に任命されており、交代が非常に活発である。学長の平均在任期間は4年半で、FTSE100企業のCEOよりも短い。
  • 学内からの昇進が多数:学長の大多数(153人中115人)は、現職に就く前に高等教育機関で上級管理職(最も多いのは副学長(Deputy Vice-Chancellor)が72人、次いで担当副学長(Pro-Vice-Chancellor)が24人)に就いていた。ラッセル・グループの学長の3分の1は、まず別の機関で学長を務めていた。
  • 内部採用と大学提携グループ内での採用:約4分の1の学長(38人)が内部採用。大半は、同じ大学提携グループ(MillionPlus、University Alliance、Russell Group、GuildHE)内の機関から採用されている。
  • 女性学長の増加:学長の約3分の1(153人中49人)が女性であり、ほとんどの女性学長は過去5年間に任命されている。
  • 大学ランキングにおけるパフォーマンス:業界外からの学長や、以前に他機関で学長を務めた経験のある学長が、大学ランキングで最も良い成績を収めている。一方で、ラッセル・グループや海外の機関出身の学長は、他の大学提携グループ出身者と比較しても、最も成績が悪い傾向が見られた。

これらの調査結果に基づき、報告書は学長を採用する者に対し、以下の点を提言している。

  • 学長の役割と要件を明確にする。
  • バランスの取れた有能な選考委員会を任命する。
  • 選考委員会に対し、面接の実施と回答の解釈に関する広範なトレーニングを提供する。
  • 行き詰まりを避けるために、事前に明確な決定基準を設定する。
  • 候補者の経験を優先する。

報告書の共同著者であるGatenbySanderson(教育分野の人材コンサルティング会社)のTessa Harrison氏は、高等教育が激動の時代にある今、学長の採用方法が十分に大胆であるか問い直し、大学を、そしてセクター全体を率いることの意味について考えることが重要だと述べている。

HEPIの政策マネージャーであり共同著者であるJosh Freeman氏は、高等教育機関が不安定な時期にあり、来年度には3分の2近くの機関が赤字に陥り、英国中で数千人の人員削減が予想される中で、機関はトップの役割を選ぶ際に安全策を取りたくなるかもしれないと指摘している。しかし、今回の調査結果は、少なくともランキングに関しては、「安全第一」が常に最善の戦略ではないことを示していると述べている。もちろん、優れたリーダーにはランキングのパフォーマンス以外にも多くの要素があり、このデータは現状を表すものでだけであるため、学長の就任後のパフォーマンスを理解するにはさらなる研究が必要であると付け加えている。

【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI):

https://www.hepi.ac.uk/2025/05/22/hepi-policy-note-investigates-the-career-backgrounds-of-more-than-150-university-vice-chancellors/

 

 (24) 英国とEU、エラスムス+再加盟に向けて前進

2025年5月22日、英国とEUは、英国のエラスムス+(学生交流プログラム)再加盟に向けて協議を進めており、教育・研究分野の関係修復の一環とされている。欧州委員会のUrsula von der Leyen委員長はロンドン訪問時に、「若者のためにエラスムス+を再開することで合意した」と述べたが、財政負担や学生ビザの扱いなど、詳細はまだ交渉中である。

英国はEU離脱後にコスト面を理由に同制度から脱退したが、2024年に「ホライズン・ヨーロッパ」への再加盟に成功した実績があり、今回もそれに続く動きである。EU側が強く再加盟を望んでいる背景には、象徴的な「友好の回復」の意味もある。

ただし、エラスムス+の財政的仕組み(後半に費用が集中する構造)や、英国学生の利用率の低さから、英国にとっては純損失になる可能性が高いとの懸念もある。そのため英国側は「財政条件の大幅な改善が前提」としている。

また、制度再開後のビザ要件の簡素化も今後の焦点となる見込み。

【英文記事】Science Business:

http://sciencebusiness.net/erasmus/uk-edges-towards-rejoining-erasmus-mobility-scheme

 

(25) 留学生数17%減少がもたらす大学運営への脅威

2025年5月22日、イギリス国家統計局(the Office for National Statistics)によると、2024年12月までの1年間で、英国への純移民がビザ規則の厳格化により50%減の431,000人となった。特に、留学生の扶養家族に対する制限が導入されたことで、留学関連の扶養家族が86%(105,000人)減少し、英国を留学先として選ぶ海外からの学習者が減少した。

NCUBのCEOであるJoe Marshall博士は「留学生は英国の高等教育システムにとって不可欠であり、その国際的地位、連結性、および長期的な経済健全性に貢献している」と述べている。彼らは短期および中期的に大学、地域、および広範な経済に多大な利益をもたらす。

Marshall博士はさらに「留学生の登録数の急減は、高等教育部門の財政的持続可能性に対する脅威であるだけでなく、英国のより広範な経済的見通しに直接的なリスクをもたらすと警告している。大学は経済成長、地域開発、および人材育成の要であり、投資の主要な推進力でもある。留学生に対する課徴金導入の可能性を含む政府の最近の政策提案は、大学の財政にさらなる圧力をかけるリスクでもある。多くの人々は、この追加的な財政的圧力がすでに大学が最大限に機能する能力を制限しており、英国の経済的将来にとって不可欠な重要な研究およびイノベーション活動を危険にさらしている」と警告している。

Marshall博士は「英国が持続的で長期的な経済成長とグローバルな競争力を達成するためには、大学が財政的に強固で国際的に連携していることを確保しなければならない」と付け加えている。現在の傾向は、知識とイノベーションにおける世界的リーダーとしての英国の地位という、最も強力な資産の一つを損なう恐れがある。留学生の登録数の後退は、重大な財政的影響をもたらすだけでなく、英国の影響力と世界を変える研究や発見を行う能力を低下させる可能性がある。

【英文記事】国立大学産業センター(National Centre for Universities and Business: NCUB):

https://www.ncub.co.uk/insight/drop-in-international-students/

 

(26) 米国のHarvard Universityがトランプ政権の留学生入国禁止措置に対して提訴

2025年5月23日、 米国のHarvard University は、留学生の受け入れ資格を取り消すというトランプ政権の決定に対し、ボストン連邦裁判所に提訴した。ロイターによると、同大学はこの措置を「米国憲法および連邦法の明白な違反」と非難し、大学と学生ビザ保持者に「即時かつ壊滅的な影響」を与えると述べた。

訴状では、「政府は一筆で同大学の学生の4分の1を消し去ろうとしている」として、2割以上を占める留学生の貢献を強調し、今回の措置が「Harvard Universityの統治・教育課程・思想への政府介入に対する、大学の言論の自由を行使したことへの報復」と位置づけている。

5月22日、国土安全保障長官Kristi Noem氏は、Harvard University が法律に従わなかったとして、学生・交流訪問者プログラム(student and exchange visitor programme: SEVP)の認定を終了すると発表。同大学が「暴力や反ユダヤ主義を助長し、中国共産党と連携している」と非難し、「これは全米の大学への警告だ」と述べた。

この措置により、同大学に在籍する留学生約6,800人(全体の27%以上)が法的地位を失う恐れがあり、出身国の上位5カ国には英国も含まれている(他は中国、カナダ、インド、韓国)。

大学側は「140カ国以上から来ている留学生と研究者の存在は、Harvard Universityとこの国にとって計り知れない価値がある」と声明を出し、政府の行動は「大学の学問と研究の使命を損なう」と非難した。

5月23日には、学生新聞『Harvard Crimson』が、複数の教員が留学生に支援のメッセージを送ったこと、大学の弁護士がこの政府の行動に対抗する準備を進めていることを報じた。「数日以内に状況はより明確になるだろう。大学にはこの前例のない措置に対抗する有能な法務チームが揃っている」としている。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-usa-2025-5-harvard-sues-over-trump-s-foreign-student-ban/

 

(27) 大学組合:大学財政問題で全国規模のストライキの準備へ

2025年5月26日、大学組合(University and College Union: UCU)の組合員たちは、労働党政権下で初となるストライキに向けた準備に「圧倒的多数」で賛成し、教育大臣のBridget Phillipson氏との労使対立の可能性が高まっている。これはストライキ投票に向けた最初のステップとされている。

UCUは、現政権を含む歴代政府による大学への財政支援の削減が、現在の深刻な財政危機を招いたとして抗議しており、労働党政権によるさらなる削減や規制に対し、強く反発している。

UCUのJo Grady書記長は、「我々の組合が労働党政権と争う事態になったのは恥ずべきこと。大学職員の職務の保持と英国学術の世界的評価の擁護のために戦っているが、政府は問題の根本に取り組まず、危機をさらに悪化させている」と述べた。

具体的には、専門教育への予算が1億ポンド以上削減され、留学生への課徴金や、すでに厳格なビザ制度に加え、さらなる厳しい申請条件が提案されていることに対し、強い懸念が示されている。

UCUは、過去1年間を「過酷な年」と表現し、1万人以上の大学職員の雇用が危機にさらされていると警告。すでに16の高等教育機関でストライキ投票を実施し、賛成多数で承認されている。

Grady氏は、「首相と財務大臣は、大学への適切な資金提供を妨げるのをやめるべきだ。この投票は明確なメッセージであり、教育現場の声に耳を傾けなければ、ストライキ投票という結果に直面することになる」と警告した

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2025-5-ucu-moves-towards-national-strike-over-university-finances/

 

(28) イノベーションと研究の新たな可能性を拓く、AI分野での英EU協力

2025年5月27日、英国政府は、EUとの新たな合意に基づき、欧州とのAI分野での連携強化を目的とした計画を発表した。この取り組みは、医療、クリーンエネルギー、その他の最先端技術の進展を後押しとなり「変革のための計画(Plan for Change)」の一環として英国経済の成長と雇用創出を目指すものである。

主なポイントは以下の通り:

  • 英国の研究機関やコンソーシアムを対象に「AI Factory Antenna」施設のホスト機関を公募。この施設は、英国の研究者と欧州高性能コンピューティング共同事業(EuroHPC Joint Undertaking:EuroHPC JU)をつなぐ役割を果たす。
  • 選ばれた機関は、欧州のAIファクトリー(計算資源・データ・トレーニング等を統合した拠点)と連携し、英国の科学者やスタートアップのAI開発を支援する。
  • この連携により、英国の研究者はより大規模で複雑なAIモデルを構築可能となり、開発期間の短縮や革新の加速、高度な雇用創出が期待される。
  • 英国政府はこのプロジェクトに最大250万ポンドを拠出し、EU側も最大およそ250万ユーロを拠出する予定(申請が採択された場合)。
  • 今回の発表は、英国が2024年5月にEuroHPC JUに正式参加したことを受けたもの。これにより英国の研究者は、ホライズン・ヨーロッパ経由でEuroHPCのスーパーコンピュータへアクセス可能になっている。
  • 今後、AI成長ゾーン(AI Growth Zones)と呼ばれる専門拠点の設置場所も発表予定で、AIインフラ整備と民間投資の促進が期待される。
  • さらに、今年後半には、国家の計算能力を20倍に拡大するための10年計画「Compute Strategy」が公表される予定。

応募締切は2025年6月11日(水)で、1機関または1コンソーシアムが選ばれ、英国政府からEuroHPCJUへの正式応募に推薦される。

【英文記事】英国科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/fresh-uk-eu-collaboration-on-ai-to-unlock-new-avenues-for-innovation-and-research

 

(29) 魅力的で、将来にわたって続けられる学術キャリアのための基本原則

2025年5月27日、ヨーロッパ大学協会(European University Association: EUA)のアカデミックキャリアに関するタスクアンドフィニッシュグループは、ヨーロッパの学術キャリア改革が求められており、アカデミアを魅力的かつ優れた職業として維持することが重要であるとする最終報告書を公表した。現在、ヨーロッパの高等教育機関は、人口動態の変化、予算削減、不安定な雇用環境など多くの課題に直面している。

こうした状況に対応するために、本報告書では学術キャリアの持続可能性と魅力を保つための5つの原則を提示している:

  1. キャリア形成における専門能力開発、報酬、認知の役割
  2. 高等教育の多様性と包摂性を反映したキャリアの必要性
  3. 競争と協調のバランスを取る場としての機関の重要性
  4. 最も脆弱な立場にある若手研究者の役割と支援の必要性
  5. 学術キャリアと高等教育の社会的関わりとの関連性

 これらの原則は政策立案者への示唆にもなり得るが、主に大学のリーダーや職員が自身の機関のキャリア政策や慣行を見直すための指針として意図されている。EUAは加盟大学や高等教育機関に対し、これらの原則を広く共有し、活用するよう呼びかけている。

本報告書は、EUAが2024年初頭に設立した「学術キャリアに関する特別作業グループ」により作成された。この取り組みは、EUAの2030年ビジョン「壁のない大学」において、学術キャリア改革を優先課題と位置づけたことに基づいている。

  • 備考: European University Associationは、ベルギー、ブラッセルを拠点とし、ヨーロッパ46か国の800以上の高等教育機関が加盟する機関である。英国からは正会員として45大学と英国大学協会(UUK)が加盟している。

【英文記事】ヨーロッパ大学協会(European University Association: EUA):

https://www.eua.eu/publications/positions/key-principles-for-attractive-and-sustainable-academic-careers.html

 

(30) 研究の新時代へ:英国の大学が直面する価値観と資金のジレンマ

2025年5月28日、University of EdinburghのJohn Womersley特別顧問は、UK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)が主催する研究インフラ整備のロードマップ改訂に関するワークショップに参加し、英国の研究資金政策に急速な変化の兆しを感じ取った。

このワークショップでは、英国が世界をリードできる産業分野について議論されたが、話題の中心は「自国の繁栄を守るために必要なことすべて」だった。これは、国防費の増加、製造業の国内回帰、エネルギー・医薬品・AIなど、国家的主権を支える研究分野への資金集中を意味している。

従来重視されてきた「気候変動対策」などの価値観は否定されてはいないが、新たに求められているのはより現実的・戦略的な視点。例えば「ネットゼロ(脱炭素)」ではなく「安定的で低コストのクリーンエネルギー」が強調されていた。

こうした変化に、学者側は戸惑いを見せている。これまで大学は「良いことをする」という社会貢献的な目標と政府方針がうまく一致していたが、これからは倫理や理念と政府の資金政策が対立する場面が増える可能性がある。

実際、UKRIは予算削減と効率化を迫られており、今後はピアレビューよりも「国家ミッション」に沿った資金配分が求められるようになるかもしれない。防衛研究、AIの軍事利用、原子力、化石燃料企業との連携など、これまで大学が避けてきた分野にも資金が集中する可能性がある。

大学は今後、「理念をどこまで守り、どこで妥協するのか」という難しい選択を迫られるだろう。学生や教職員の反発を覚悟で、防衛関連研究などを引き受けるのか。また、すでに存在する倫理的な投資・研究方針が新たな現実にどこまで耐えられるのかも試される。

しかしながら、この変化が本当に長続きするかどうかは不確かで、数年後にはまた違う世界になっているかもしれない。しかしWomersley氏は、「変化に適応する者だけが生き残る」と警鐘を鳴らし、大学は今のうちから備えておくべきだと主張している。

 【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-views-of-the-uk-2025-may-uk-science-policy-has-a-new-priority-national-survival/

 

(31) FP10に関する準加盟国の3か国が共同声明発表

2025年5月29日英国(Russell Group)、カナダ(U15 Canada)、スイス(swissuniversities)の主要大学グループは、EUの次期研究・イノベーション(R&I)枠組み「Framework Programme (FP10)」が、ホライズン・ヨーロッパと同様に、次期FP10が独立した研究プログラムとして継続されるというEUの方針に対し、準加盟国としての今後の参加可能性を歓迎する共同声明を発表した。

その共同声明の要約:

これら3か国は、研究とは本質的に国際協力によって成り立っており、FP10が国境を越えた協力や学際的なネットワークを可能にすることを期待している。特に、ホライズン・ヨーロッパの優れた基礎研究支援が、参加国の強みを活かした協力につながったと評価している。

今後のFP10では、公平で互恵的な条件での参加が可能になること、早期に参加方針が明確になることが、大学が準備し、初日から貢献できる鍵になると強調している。

世界的な不安定さが増す中、研究分野での国際協力の重要性が一層高まっているとし、知識と人材を共有することが社会全体の利益につながると述べている。

共同声明の署名者:

Tim Bradshaw博士(Russell Group)

Chad Gaffield博士(U15 Canada)

Luciana Vaccaro博士(swissuniversities)

【英文記事】ラッセル・グループ:

https://www.russellgroup.ac.uk/news/joint-statement-future-eu-ri-framework-programme

 

(32) 研究インテグリティ研修は「形だけ」

2025年5月29日、Springer Nature が実施した7カ国(計約7,900人)を対象とした調査によると、研究インテグリティ研修(研究活動における高い倫理性、信頼性、公正性を確保するために実施される研修)が「ただの形式的な手続き」として扱われていることへの懸念が、世界中の研究者の間で共有されている。

主なポイント:

Nature編集長Magdalena Skipper氏は、「グローバルに一貫性があり、アクセスしやすく、厳格なコアカリキュラムが必要」と強調。また「この研修は制度上の手続きで終わってはならない」と述べた。

各国の研修アクセス状況(%は研修受講の機会があると回答した割合):

  • 中国:79%(最も高い)
  • 日本:73%
  • オーストラリア:68%
  • 米国・インド・英国:50〜60%
  • ブラジル:27%(最も低い)

※ただし、研修の「有無」と研究不正の発生(論文撤回数)は必ずしも比例しておらず、英国とブラジルが最も撤回数が少なかった。

研修の内容と課題:

  • 研修対象は主に大学院生や若手研究者。
  • ほとんどの国で研修を義務化することには賛成(84〜94%)。
  • しかし、理解度テストの義務化は非常に少なく(7〜29%)、効果測定が不十分。

研修の実施方法(国による違い):

  • 日本:オンライン研修が中心
  • インド:対面研修を好む傾向
  • オーストラリア・米国・英国・ブラジル:研究データ管理に関する研修がさらに必要と回答 

Springer Nature は、今後の方向性として以下を提案:

  • オンラインと対面を組み合わせた「ハイブリッド方式」

→ 理論はオンライン、実務スキルは対面で習得

  • 複雑な課題(例:データ管理)には研修ではなく、専門家による直接サポートが有効

→ トレーニングだけでは限界がある

総括:

研究者の多くは研究倫理教育を重視している一方で、実際の研修は内容が浅く、効果測定も不十分であるケースが多い。

研究インテグリティを確保するには、内容の充実、研修方法の多様化、制度的サポートの強化が求められている。 

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-world-2025-5-research-integrity-training-treated-as-mere-box-ticking-exercise/

 

(33) 大学への資金不足が成長産業の人材育成を妨げる――包括的支出見直しを前にUUKが警鐘

2025年5月30日、英国政府の産業戦略で成長が期待される分野に不可欠な大学の「高コスト科目」(工学、コンピュータ、物理科学など)は、学生からの需要が増加しているにもかかわらず、資金不足により定員を拡大できない状況にある。これは英国大学協会(Universities UK: UUK)の最新分析で明らかになった。

高コスト科目は、設備や運営に通常の授業料以上の費用がかかるため、政府からの「戦略的優先助成金(strategic priorities grant: SPG)」で追加支援を受けているが、近年この支援は実質的に減少しており、2025/26年までに2018/19年比で18.4%の実質削減が見込まれている。さらに政府は先週、SPG全体の予算を1億800万ポンド削減すると発表した。

UUKの調査では、英国学生による出願の57%が高コスト科目に集中しているが、実際の入学者は全体の47%にとどまっている。2015/16年には入学人数の52%が高コスト科目だったが、2023/24年には47%へと減少した。一方で、2019年から2024年にかけて高コスト科目への出願数は14%増加しており、需要が供給を上回っている。

このミスマッチは懸念されるべき問題である。というのも、高コスト科目の卒業生の半数以上(52%)が3年後に政府の成長戦略分野で就職しており、その割合は他分野の卒業生よりも1.5倍高い。特にクリーンエネルギー分野では1.7倍、高度製造業では7倍と、就職への影響は顕著である。

授業料は2025年度に9,535ポンドへと引き上げられる予定だが、それでも多くの高コスト科目の運営費には届かず、大学側の財政負担は増す一方である。

この分析は、政府が間もなく実施予定の包括的支出見直し(comprehensive spending review)と産業戦略の発表を前に発表されたものであり、大学側はSPGの中でも成長分野に特化した資金配分の増額を求めている。

UUKのCEOであるVivienne Stern氏は、「成長産業の人材育成に大学は不可欠であり、学生や雇用者の需要に応えるためには、これらの分野への投資を拡大する必要がある」と述べ、制度の見直しを強く訴えている。

Supply and demand for high-cost subjects and graduate progression to growth sectors (Analysis by Universities UK): https://www.universitiesuk.ac.uk/sites/default/files/field/downloads/2025-05/uuk-analysis-pack-changes-in-supply-and-demand-of-high-cost-subjects.pdf 

【英文記事】英国大学協会(Universities UK):

https://www.universitiesuk.ac.uk/latest/news/governments-key-growth-sectors-losing

【関連記事】

2025年5月30日、ラッセル・グループは、産業戦略と経済成長に不可欠なスキルを提供する「高コスト」コースの需要と供給に関するUUKの新たな分析に対し、公式な見解を発表した。

このUUKの報告を受けて、ラッセル・グループの高等教育政策責任者であるJoanna Burton氏は、次のように述べていた。

「政府の成長への意欲と産業戦略の達成には、高成長分野において、より多くの熟練した卒業生が必要であり、少なくなるべきではない。これらのコースには専門的な施設、設備、そして教育スタッフが必要なため、コストが高くなることは承知している。」

「高コストコースへの資金援助を実質的に削減するという決定は、政府が掲げたまさにその目標を損なうものである。持続可能で長期的な資金調達システムがなければ、大学が経済成長を支えるために必要な、高度なスキルを持つ生産的な労働力を供給することは、はるかに困難になる。」

【英文記事】Russell Group:

https://www.russellgroup.ac.uk/news/high-cost-subjects-fundamental-economic-growth-says-sector