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UK HE Information

2025年6月英国高等教育及び学術情報

2025年9月17日

(1) 英国大学協会が財政難に対応するための改革を発表:協調の新時代に向けて

(2) 英国政府が決定した大学に対する財政的影響の内容

(3) 英国学士院、政府予算見直しに対する政策提言を発表

(4) 科学大臣:ARIAにおける地球工学実験への積極的な関与を表明

(5) ラッセル・グループ:ケアリーバー学生への支援強化を約束

(6) HEPI提言文書『英国大学が直面する閉塞状態――その打開策を探る』

(7) 大学からのスピンアウト企業2,269社の新規登録

(8) FP10の構成とEU財政計画は7月に発表予定

(9 英国教育省による「学歴別労働市場統計:Graduate Labour Market Statistics(GLMS)」年次報告書(2024年版)の概要

(10) 教育の質評価の将来のアプローチ:TEFの行方

(11) 英国政府の分析:研究成果における英国の世界シェア低下

(12) 英国政府、研究開発(R&D)に年間225億ポンド超を投資へ – 地域主導の成長を後押し

(13) 英国の産業戦略、予算交渉で発表が再延期

(14) 英国、AI活用で新薬発見の世界的リーダーを目指す

(15) 英国学士院:文系卒業者の社会的貢献度を可視化したデータを発表

(16) UCAS: 教師の予想成績精度向上と生徒の進路選択支援に向けパイロット版導入

(17) 学生の就労、学習時間、そして大学の価値に関する新たな動向

(18) REF 2029における研究評価の主要な変更点:知識と理解への貢献(CKU)ガイダンス

(19) 英国政府、AIスキル育成で大手IT企業と連携 2030年までに750万人の労働者を訓練へ

(20) ERC先端助成金:英国が獲得数でドイツを超える

(21) 英国における科学技術の商業化をめぐる課題と政策対応

(22) G7首脳会議:量子技術と人間志向のAIで未来を拓く

(23) 学生局:言論の自由に関するガイダンスを公表

(24) REF2029の今後の予定発表

(25) 英国首相のAI担当顧問が退任

(26) ラッセル・グループCEO、2026年春に退任を発表

(27) 英国、世界最高の人材を呼び込むため「グローバル・タレント・タスクフォース」創設

(28) 産業戦略:経済成長を研究開発システム集中に託す

(29) 上を目指して:工学系卒業生が直面する進路の壁(国際女性エンジニアの日に寄せて)

(30) AIの需要が高まってくる中、英国新卒者は2018年以来の就職難に直面

(31) トランプ政権からの余波:英国大学の研究プロジェクトが中止

(32) ResearchPlus: 新しい研究集約型のミッショングループが基本方針を発表

(33) 英国のムーンショット機関ARIA、CEOが退任へ

(34) 海外からの研究開発投資の減少が懸念

(35) 基礎研究こそ守るべき:英国科学担当大臣が削減のリスクに警鐘

(1) 英国大学協会が財政難に対応するための改革を発表:協調の新時代に向けて

2025年6月2日、英国大学協会(Universities UK: UUK) は、将来の繁栄を提携強化で達成する改革に向けて、外部に設置された特別委員会(Taskforce)の議長としてNigel Carrington卿(University of the Arts Londonの元学長)が率いる「Towards a New Era of Collaboration(協調の新時代に向けて)」と題された報告書を発表した。この報告書は、英国の大学が直面する財政的圧力に対応し、将来の繁栄と政府の成長目標達成に貢献するための抜本的な変革を呼びかけている。

しかし、大学の財政状況は非常に厳しく、コストの上昇や実質的な収入減により、多くの大学が大きなプレッシャーにさらされている。これまで大学は創意工夫により教育・研究の質を維持してきたが、今後もこの状況が続けば、経済成長や人材育成といった政府の目標達成に必要な大学の役割が果たせなくなるリスクがある。

本報告書では、英国の大学が連携・協働を深めることで、変革と効率化を実現する必要性を強調している。そのために取り組むべき「7つの機会」と、政府に求められる行動が示されている。

大学にとっての7つの機会:

  1. 革新的な連携体制の構築
  2. サービスやインフラの共有(91%の大学幹部が支持)
  3. 経済の規模にあった共同購買力の活用
  4. デジタル変革の推進
  5. 効率性とコストを比較分析する際の共通の評価手法の採用
  6. リーダーシップとガバナンスの進化
  7. 大学提携がさらなる発展を加速できるよう、適切な政策・規制環境を整備

 必要な具体的行動:

  • デジタル変革や連携体制、共有インフラに関するガイダンスの提供
  • 全国レベルの共有された取り組みのためにビジネスケースを開発
  • 継続的な協力とセクターの改善を支援するアプローチの開発
  • 確立された業界団体に対し、連携方法の検討を求め、効率化と変革を支援する活動を促す
  • 政府による支援策:VAT(付加価値税)規制の緩和、変革を促進するための資金提供、より柔軟で協力的な資金・規制フレームワークの構築

Transformation and Efficiency: Towards a new era of collaboration: https://www.universitiesuk.ac.uk/sites/default/files/field/downloads/2025-05/UUK-Transformation-and-Efficiency-Towards-a-new-era-of-collaboration-2025_1.pdf

【英文記事】英国大学協会(Universities UK: UUK)

https://www.universitiesuk.ac.uk/what-we-do/policy-and-research/publications/transformation-and-efficiency-taskforce

【関連記事】

2025年6月2日、ラッセル・グループの政策ディレクターであるHollie Chandler博士は、英大学協会((Universities UK: UUK)の新しい報告書に対しにコメントした。

「報告書では大学部門が直面している深刻な財政的課題と、すでに約半数の大学がコースを閉鎖し、今後3年以内に約90%の大学でコース閉鎖を検討しているという厳しい現状を適切に指摘している。

この状況において、資金面での大きなプレッシャーに直面し、効率性を実現するためのさらなる連携に対する強い意欲がある。すでに全国の大学が、業務を合理化するために革新的な連携やデジタルトランスフォーメーションを進めており、報告書が示すように、まだやるべきことが多く、政府がこの取り組みを加速させる手助けができる。

しかしながら、政府によるより深い支援と改革が緊急に必要で、効率化だけでは解決策にはならず、大学が素晴らしい学生体験を提供し、英国の熟練労働力を支え、経済成長を推進するために必要な教育と研究を継続できるよう、長期的な持続可能性を確保する資金モデルが必要である。」

【英文記事】ラッセル・グループ:

https://www.russellgroup.ac.uk/news/response-new-report-university-efficiencies-and-collaboration

 

(2) 英国政府が決定した大学に対する財政的影響の内容

2025年6月3日、英国大学協会(Universities UK: UUK)の行った分析で、2025年度から2026年度にかけて、英国の高等教育機関に対する政府の政策決定で、14億ポンドの資金削減が見込まれている。この削減は、収入の増加(3億7,100万ポンド)を上回る追加コスト(12億ポンド)と直接的な資金削減(6億1,400万ポンド)の複合的な影響によるものである。

推定の概要

  • 対象期間: 2025年度から2026年度にかけての政府政策発表(2025年5月時点)
  • 対象機関: UUKの加盟機関だけでなく、一部の高等教育機関も含まれている。
  • 除外事項: 過去数年間の政策による影響(例:留学生授業料収入の損失11億ポンド、授業料の実質的価値の低下)は含まれていない。
  • 前提: 大学の活動や運営、学生誘致、その他の収入やコストに影響を与える要因(例:変革や効率化によるコスト削減)に大きな変化がないと仮定する。
  • 影響: これらの決定は高等教育セクター全体に累積的な影響を与えるが、個々の機関への影響は異なる。

収入: 合計3億7,100万ポンドの増加

国内学部生授業料の値上げ

  • 推定純影響: 年間3億7,100万ポンドの増加
  • 対象期間: 2025年度から2026年度
  • 対象機関: 授業料上限が適用されるすべてのイングランドの教育機関
  • 前提: 2025年度から2026年度にかけての授業料上限9,535ポンドが適用され、予算責任局(Office for Budget Responsibility: OBR)の学生数予測に基づく。

追加コスト: 合計12億ポンドの増加

教員年金制度(Teachers' Pension Scheme)

  • 推定純影響: 年間1億2,500万ポンドの削減(つまり、大学側のコスト増加)
  • 対象期間: 2024年度から2027年度にかけて毎年
  • 対象機関: 教員年金制度を提供するイングランドの教育機関
  • 前提: 教員年金制度2020年の評価の影響を反映しており、大学への本格的な影響は2024年度から開始。

雇用主国民保険料(Employer national insurance contributions)

  • 推定純影響: 年間4億3,000万ポンドの削減(つまり、大学側のコスト増加)
  • 対象期間: 2025年度から2026年度以降毎年
  • 対象機関: すべてのイングランドの教育機関
  • 前提: 2025年度から2026年度のセクターにおける人員削減によるスタッフ数の変化は考慮されていません。

留学生への課徴金案(Proposed international student levy)

  • 推定純影響: 年間6億ポンドの削減(つまり、大学側のコスト増加)
  • 対象期間: 2025年度から2026年度(2023年度から2024年度の収入データに基づく)
  • 対象機関: 英国の高等教育機関(2025年5月時点で財務報告が未提出な18機関を除く)
  • 前提: 2023年度から2024年度の英国の全大学における留学生授業料収入100億ポンドに対し6%の課徴金が適用されると仮定している。成長は考慮されておらず、過小評価である可能性がある。 

資金削減: 合計6億1,400万ポンド

戦略的優先助成金(Strategic Priorities Grant)の削減

  • 推定純影響: 1億800万ポンドの削減
  • 対象期間: 2025年度から2026年度
  • 対象機関: イングランドの教育機関
  • 前提: 2025年度から2026年度の会計年度に適用され、大部分がこの学年度に集中すると見込まれる。

教育向け設備投資資金(capital funding for teaching)の削減

  • 推定純影響: 年間6,600万ポンドの削減
  • 対象期間: 2025年度から2026年度の会計年度
  • 対象機関: すべてのイングランドの教育機関
  • 前提: 2024年度から2025年度までの3年間の設備投資資金4億5,000万ポンド(年間1億5,000万ポンド)に対し、2025年度から2026年度の発表された資金8,400万ポンドは年間6,600万ポンドの削減に相当する。

大学準備課程の授業料変更(Changes to foundation year fees

  • 推定純影響: 年間3億3,200万ポンドの削減
  • 対象期間: 2025年度から2026年度以降毎年
  • 対象機関: 大学準備課程学生がいるすべてのイングランドの教育機関
  • 前提: 政府の政策により、教室ベースの科目のファウンデーションイヤーの授業料と融資限度額が5,760ポンドに引き下げられる影響です。

レベル7学位技能実習制度(level 7 degree apprenticeships)への資金供給停止決定

  • 推定純影響: 1億800万ポンドの削減
  • 対象期間: 2025年度から2026年度
  • 対象機関: 現在レベル7〔修士課程レベル〕の資金を受けているすべてのイングランドの教育機関
  • 前提: 2023年度から2024年度の政府の技能実習制度(Apprenticeship)の数値に基づき、2025年度から2026年度に90%の資金削減があり、レベル7の支出が2021年度から2022年度と2023年度から2024年度の成長率で継続すると仮定する。

【英文記事】英国大学協会(Universities UK:UUK))

https://www.universitiesuk.ac.uk/latest/insights-and-analysis/financial-impact-government-policy

 

(3) 英国学士院、政府予算見直しに対する政策提言を発表

2025年6月3日英国学士院(British Academy)は、政府の複数年度予算見直し(Spending Review)の発表を前に、英国の長期的な経済成長と繁栄を実現するための専門家による政策に対する提言を発表した。

これは、同院の「経済戦略プログラム」に基づくもので、フェロー、著名な学者、政策立案者が協力し、以下の4分野に焦点を当てたものである:

  1. 国際貿易と地政学
  2. 研究開発(R&D)とイノベーション
  3. スキル(人材育成・労働市場)
  4. 持続可能性と社会的価値

政策提言の主なポイント:

■ 国際貿易と地政学

  • 英国と欧州の「新たな特別な関係」の構築(価値観、地理、安全保障に基づく)によって、グローバルショックの影響を緩和し、経済的な相互利益を拡大。
  • 米中対立が支配する国際環境の中で、中立的かつ開放的な国・地域との新たな協力関係の模索。

■ R&D・イノベーション

  • 基礎研究だけでなく、技術や研究成果の普及・活用を重視し、イノベーションを促進。
  • 応用研究、公共調達、地方・地域政策能力への投資を通じた、より積極的な産業政策の展開。

■ スキル(人材と労働)

  • 雇用主と個人の双方における、必要とされるスキルと習得を望むスキルを踏まえた、柔軟な政策づくりの重要性。
  • 生成AIの登場やカーボンニュートラル(ネットゼロ)移行がもたらす労働の将来への備え。

■ 持続可能性と社会的価値

  • 市民の幸福と健全な社会を支える、雇用以外の生活要素(健康、福祉、社会的つながり等)にも注目。
  • 社会的投資を政府の「全体最適」のアプローチで分析・実施すべきであり、断片的に扱ってはならない。

 【英文記事】英国学士院(British Academy):

https://www.thebritishacademy.ac.uk/news/economic-strategy-programme/

 

 (4) 科学大臣:ARIAにおける地球工学実験への積極的な関与を表明

2025年6月3日科学イノベーション技術省大臣であるのPeter Kyle氏は、就任直後に物議を醸している気候変動対策の地球工学プログラムから距離を置くよう助言されたにもかかわらず、これを拒否し、積極的に関与していく意向を表明した。高等研究発明局(Advanced Research and Invention Agency: ARIA)が実施している5,700万ポンド規模の「気候冷却探査プログラム」は、太陽放射管理(人工的な雲の発生など、雲を明るくして太陽光を宇宙に反射させる小規模な野外実験)を含む地球工学技術を研究している。このプログラムは、気候変動対策として開発するには危険すぎると考える懐疑的な科学者から批判を受けている。しかし、ARIAの気候冷却プログラムを率いるMark Symes氏は、小規模な試験が「我々の理解に欠かせない重要な部分」だと主張している。

Kyle氏は、この雲の人工操作プロジェクト(cloud-seeding project)に関するARIAからの報告書で「距離を置くべき」という提言があったにもかかわらず、「私はこれに徹底的に関わりたい」と返答したことを明かした。さらに、「もしメディアでこの件が報じられることがあれば、私自身がインタビューに応じたい」と述べ、自身の強い関わりを示しました。

科学・イノベーション・技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)の広報担当者は、大臣がARIAの「高リスク・高リターン、独立した研究への資金提供」の支援を明確にしていると述べ、政府としては太陽放射管理の使用を支持していないものの、ARIAは完全に独立していることを強調した。 

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2025-6-peter-kyle-on-aria-geoengineering-trials-i-want-to-be-all-over-this/ 

【関連ビデオ】

2025年5月12日に開催されたARIA Summit 2025でARIAのCEOのIlan Gur 氏と科学大臣であるPeter Kyle氏の対談。

The Future of UK R&D:Llan Gur and Rt Hon Peter Kyle MP (26分)

 

(5) ラッセル・グループ:ケアリーバー学生への支援強化を約束

2025年6月4日、ラッセル・グループは、「Building Opportunity For All」という新しい活動報告書の中で、高等教育における機会均等の促進と、特に恵まれない背景を持つ学生への支援強化へのコミットメントを表明した。

主な取り組みとコミットメント

  • 社会的流動性の向上: 24の研究集約型大学からなるラッセル・グループは、高等教育が長期的な社会的流動性と政府の「機会ミッション」にとって不可欠であると再確認しました。
  • ケアリーバー学生(社会的養護を経験した学生(施設出身など)への支援強化:
    • すべてのラッセル・グループ大学は、ケアリーバーに対し、宿泊費支援、奨学金、個別入学資格審査(contextual admissions: 個別の状況を考慮した入学選考)を含むオーダーメイドの支援パッケージを提供することを約束。
    • これは、ケアリーバーが英国の大学で最も過小評価されているグループの一つであり、19歳までに高等教育機関に進学する割合が14%にとどまっている(一般人口は47%)現状を受けてのものである。
    • 将来的には、このパッケージをケア経験のある学生や独立を強いられた学生(家族との関係が断絶している学生)にも拡大し、通年での宿泊支援や追加の経済支援といった課題に対処する。
    • 新しい「自立学生ワーキンググループ(Independent Student Working Group)」と密接に連携し、支援策が学生の実践的なニーズに最も適したものになるようにする。
  • 個別入学資格審査の透明性向上:
    • 英国大学協会(Universities UK:UUK)が最近発表した取り組みを支援し、contextual offer などの意味合いの透明化のための表現の一貫性、透明性の向上を約束した。
    • ラッセル・グループは、高等教育機関全体でUUKの特別委員会を支援するための、一貫性を達成する実用的な方法を開発する特別委員会を立ち上げる。

政府への提言

ラッセル・グループは、政府に対し学生の生活費支援の増額を強く求めた。具体的には、以下の点を提言している。

  • 最も貧しい学生への生活費補助金(maintenance grants)の再導入。
  • 保護者の所得基準の見直し: 17年間凍結されているにもかかわらず、インフレが進む中で、学生が借りられる金額を決定する保護者の所得基準を見直すことを求めている。

 Building Opportunity for All: https://www.russellgroup.ac.uk/sites/default/files/2025-06/Building%20Opportunity%20For%20All.pdf

【英文記事】ラッセル・グループ:

https://www.russellgroup.ac.uk/news/russell-group-universities-pledge-more-support-care-leavers-among-new-access-commitments

 

(6) HEPI提言文書『英国大学が直面する閉塞状態――その打開策を探る』

2025年6月5日新たに発表された高等教育政策研究所(Higer Education Policy Institute: HEPI)の提言文書『Universities are boxed in: Is there a way out?』において、City St George’s, University of LondonのDiana Beech教授とAndré Spicer教授は、英国の大学が全く身動きの取れない箱詰め”状態、つまり内憂外患に直面していると論じている。

大学が直面している6つの圧力は以下の通り:

  1. 規制の強化(外患)
  2. コストの上昇(内憂)
  3. 国内学生1人あたりからの授業料収入の実質的な減少(内憂)
  4. 留学生が英国にもたらす将来的な経済貢献の不透明さ(外患)
  5. 学校後の大学以外の進学先の多様化(外患)
  6. 若年人口の減少(外患)

著者らは、この困難な状況に対して大学関係者がすでに様々な対応を進めているとし、大学学長、理事などに、政策決定者それぞれに向けた20の提言を示している。

◾ 大学リーダーに向けた提言(例):

  • 戦略的課題の共通理解を深める
  • 行動のための連携を構築する
  • 短期的効率性ではなく、長期的イノベーションを追求する
  • 柔軟な改革を可能にする余地を創出する

◾ 大学ガバナーに向けた提言(例):

  • ミッションを明確化する
  • 多様な意見を集め、リスク許容度を定める
  • 変革に必要なスキルと代替モデルを検討する

◾ 政策立案者に向けた提言(例):

  • 柔軟かつ目的志向の規制を実現する
  • 基礎資金の安定化と再均衡を図る
  • 熟練移民制度改革を通じて人的資源を活性化する
  • 最終提言:研究と高等教育を、ビジネス志向の省庁の下で一元化した省庁に統合すること

Beech教授は、「この報告書は大学の戦略的覚醒を促すものであり、危機に対する診断だけでなく、再生のための実践的な枠組みを提供するものだ」と述べている。そして、「身動きの取れない状態は現実だが、避けられない運命ではない」とも強調している。

Spicer教授も、「大学は今、規制、需要の変化、コスト増などに囲まれている。問題は、この“身動きの取れない状態(箱に詰まっている)”にどう対処するかだ。箱の中で生きるのか、箱を壊すのか、新しい箱を作るのか」と問いかけ、他分野の変革から学ぶべきだと提言している。

参考:

  • Diana Beech 氏はCity St George’s, University of Londonに新設された公共政策ハブ「Finsbury Institute」初代所長。
  • André Spicer教授はCity St George’s, University of London のBayes Business Schoolの学部長で、政府や大企業と広く関わる組織行動学の専門家。

【英文記事】高等教育政策研究所(Higer Education Policy Institute: HEPI):

https://www.hepi.ac.uk/2025/06/05/universities-are-boxed-in-is-there-a-way-out/

 

(7) 大学からのスピンアウト企業2,269社の新規登録

2025年6月5日、英国の高等教育機関が設立・保有するスピンアウト企業の情報を網羅的にまとめた初の公開データ登録簿が発表された。

この「英国スピンアウト登録簿」には、2023/24年度に設立または活動中の企業に加え、2012年8月1日以降に設立された全ての企業(活動の有無を問わず)、合計2,269社が収録されている。最も古い企業は1969年設立。

主なポイント:

  • スピンアウト企業の約半数は、わずか9つの大学によって保有。
  • 5大学は、それぞれ100社以上のスピンアウト企業を所有。
  • 19%はロンドンを拠点とする大学だが、最も古い10社のうち7社はスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの大学に由来。
  • 年間の新規設立数は2020/21年度に201社でピークに達し、2023/24年度は160社と長期的な傾向に回帰。
  • 多くの企業はSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の知的財産を基盤にしている。

スピンアウト登録企業:https://www.hesa.ac.uk/data-and-analysis/business-community/spin-out-register

【英文記事】高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency: HESA)

https://www.hesa.ac.uk/news/05-06-2025/2269-university-spin-out-companies-new-register

 

(8) FP10の構成とEU財政計画は7月に発表予定

2025年6月5日、欧州委員会からの情報漏洩とその後の確認によると、次期研究・イノベーション枠組み計画であるFP10の概要が7月16日に発表される予定。これは、多年度財政枠組み(Multiannual Financial Framework: MFF)の発表と同時に行われ、欧州競争力基金の設立計画も含まれる。

研究コミュニティでは、FP10が競争力基金に吸収され、予算やガバナンスが損なわれる可能性が懸念されていたが、Ursula von der Leyen欧州委員長は、FP10が次期7か年予算において独立したプログラムとして維持されると明言した。しかし、欧州議会の議員からは、詳細な提案がなければ予算削減のリスクがあると警告が出ている。

また、7月23日には、現在のEU教育プログラム「Erasmus+」と「欧州連帯団(European Solidarity Corps)*を統合した「Erasmus 2.0」が採択される計画である。

さらに、9月24日には、国際熱核融合実験炉(International Thermonuclear Experimental Reactor: ITER)と、EUの原子力研究プログラムであるユーラトム(Euratom)に関する提案が採択される見込みである。EU加盟国政府は、ユーラトムを現在の長期予算とHorizon Europeに合わせる形で2年間延長する可能性も議論している。ただし、後者の2つの日付は欧州委員会によって確認されていない。

参考:

欧州連帯団(European Solidarity Corps)*:18~30歳のEUの青少年向けに海外・地域ボランティア・研修等、人道支援などの機会を提供するプログラムとして「欧州 連帯団」を実施。

【英文記事】Science business:

https://sciencebusiness.net/planning-fp10/fp10-structure-be-announced-july-eu-financial-plan

 

(9) 英国教育省による「学歴別労働市場統計:Graduate Labour Market Statistics(GLMS)」年次報告書(2024年版)の概要

2025年6月5日、英国教育省が発表した報告書は、イングランドに居住する大学卒(graduate)、大学院卒(postgraduate)、非大学卒(non-graduate)における労働市場の状況を示したものである。データは2007年から2024年まで利用可能で、主に以下の点に分類して提示されている:

  • 雇用状況(パートタイムを含む)
  • 個人属性別の雇用状況
  • 性別による給与差
  • 産業別の給与水準

これらの統計は、国家統計局(Office for National Statistics:ONS)の「労働力調査(Labour Force Survey: LFS)」を元にしているが、近年、回答率の低下により、サンプルのばらつき(推計値の不安定化)が問題となっている。これにより、ONSは2023年10月から2024年1月まで、LFSベースの主要な労働市場統計の公表を一時停止していた。その後、推計方法の見直し(例:ウエイトの再設定)により、2019年第1四半期以降のデータは2024年人口に基づく新たなウエイトを用いて再計算されている。これに伴い、過去のデータにも若干の変更が生じており、時系列での比較には注意が必要である。

なお、現在この統計は「開発中の公式統計」として公表されている。

【英文記事】教育省(Department for Education:DfE):

https://explore-education-statistics.service.gov.uk/find-statistics/graduate-labour-markets/2024

 

(10) 教育の質評価の将来のアプローチ:TEFの行方

2025年6月5日、学生局(Office for Students: OfS)の学生成果責任者Graeme Rosenberg氏は、2025~2030年戦略の一環として、現行の複数の質評価活動を統合し、より一貫性のある評価システムを構築する方針を述べた。これは政府によるOfSの機関レビューの勧告に基づくものである。

■ 新システムの方向性と目的

  • 教育評価制度(Teaching Excellence Framework : TEF)を中核とする統合的な評価体制を構想しており、学部・大学院教育を含めた幅広い提供内容を対象とする予定。
  • 評価は「平等な機会の確保」にも焦点を当てる。
  • 既存の「リスクベースの質保証評価(B条件)」に加え、全機関に対して継続的改善を促す仕組みを導入。

■ 話し合われた主な論点

  • コストと規模への懸念があり、完全統合ではなく「対象を絞った評価+全体的改善評価」を支持する声が多数。
  • 2023年TEFをベースにした改善指向評価の継続性に対する支持。
  • 学生の成果(B3条件)などの定量・定性データを一体的に評価に取り込む案を検討中。
  • 教育提供の多様性を考慮し、大学規模や提供形態(パートナーシップ、大学院、遠隔教育など)への対応も議論。

■ 評価手法の検討

  • 教育機関からの提出資料の改善重視へのシフト。
  • 現地訪問の導入については賛否両論(リスク評価では有効だが、改善評価にはコスト面で慎重な声)。
  • 評価がヨーロッパの基準に合致する可能性も検討。

■ 今後の評価結果と制度移行

  • 段階的なロール評価(4~5年の周期)に移行する可能性があり、2023年TEFの2倍規模の教育機関が対象に。
  • 評価結果(TEFランク)のあり方や、移行期間中の既存TEFランクの扱いも検討中。
  • 引き続き、質の異なる水準を示す評価(ゴールド、シルバー等)を維持する方向。

今後のステップとして:

  • 秋に制度案の意見募集を実施予定。
  • 2027年にTEFを再実施する予定はなく、機関に対してその準備は不要と明言。
  • 代わりに、学生の経験と成果の改善活動を継続し、今後の制度に向けて積極的に関与することを奨励。

【英文記事】学生局(Office for Students:OfS):

https://www.officeforstudents.org.uk/news-blog-and-events/blog/developing-our-future-approach-to-quality-assessment/

 

(11) 英国政府の分析:英研究成果の世界シェア低下

2025年6月6日、科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)は、2018年から2022年にかけての研究成果の動向を分析した報告書を公表した。

英国の研究成果シェアが減少

  • 英国の世界における論文発表数のシェアは2022年に6%で、2018年以降年平均9%減少。
  • 被引用数のシェアは8%(年平均4.6%減)、高被引用論文のシェアは12%(年平均4.7%減)。
  • これらの減少は、特に中国とインドの急成長によるものと指摘。
  • それでも英国は、2022年時点で論文数では世界第4位、被引用数と高被引用論文では第3位に位置。

国際共著ではトップ

  • 一方で英国は国際共著率(外国研究者との共同執筆)で世界1位に。
  • 2022年には全論文の4%が国際共著で、2018年から年平均3.9%の増加。
  • フランス(3%)、カナダ(56.6%)が続く。
  • 対照的に、中国、インド、ロシアは国際共著率が英国の半分以下と低い水準にとどまっている。

英国は依然として研究の質・影響力ともに世界トップ水準にあるものの、他国の成長速度が勝っていることで、相対的なシェアは低下している。DSITは「引用数は研究のインパクトを測る指標とはなるが、必ずしも質を表すものではない」とし、慎重な解釈を呼びかけている。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-open-access-2025-6-uk-s-share-of-global-research-outputs-falls/

 

(12) 英国政府、研究開発(R&D)に年間225億ポンド超を投資へ – 地域主導の成長を後押し

2025年6月8日、英国政府は、2029/30年度に年間225億ポンド以上、総額860億ポンドのR&D投資パッケージを発表した。これはAI、新薬、電池技術、防衛、先端製造業など、英国の成長をけん引する分野を加速させることを目的としている。

  • 地域重視のアプローチ
     新たに創設される「地域イノベーション・パートナーシップ基金(Local Innovation Partnerships Fund)」により、地域リーダーが独自に研究投資の方向性を決定できるようになる。各地域の強みを生かし、スキルの活用や高付加価値の雇用創出を促進する。
  • 最低3,000万ポンドの支援を確保
     イングランドの7つの既存市長統治地域(マンチェスター、リバプールなど)に加え、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドでも1地域ずつが対象となり、それぞれ最低3,000万ポンドの支援が保証される。また、全国の他地域も対象とした公募型支援も実施される。
  • 地域例と成果
     リバプールではライフサイエンス分野での新薬開発、北アイルランドでは防衛機器、南ウェールズでは半導体開発などが期待される。既に進行中の地域主導型イノベーション加速の試験的取り組み(Innovation Accelerator pilot scheme)では、医療診断技術やAIによる鉄道運行管理の高度化などの成果も報告されている。
  • 経済波及効果への期待
     R&Dへの1ポンドの公的投資は最大7ポンドの経済効果を生むとされ、雇用や民間投資の拡大が見込まれている。R&D関連の職種は既に英国で約280万人にのぼり、さらなる成長が期待されている。
  • 都市間連携強化
     Research England 主導のマンチェスターとケンブリッジ間の連携を強化する「The Cambridge x Manchester Innovation Partnership」も開始。3年間で480万ポンドが投じられ、地域間の成長モデルの構築を目指す。

この発表は、来週予定されている歳出見直し(Spending Review)と、ロンドン・テック・ウィーク(6月9日から13日)開幕を前に行われ、英国政府の「変革のための計画(Plan for Change)」の一環として、地方経済・科学技術分野の再活性化を掲げている。

【英文記事】科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/transformative-86-billion-boost-to-science-and-tech-to-turbocharge-economy-with-regions-backed-to-take-cutting-edge-research-into-own-hands

【関連記事】①

2025年6月12日、政府が発表した歳出見直しの具体的な内容をまとめた。

歳出見直しの全体像と研究開発(R&I)

  • 2029年までに年間225億ポンドに達する科学技術投資が発表され、研究・イノベーション分野は歳出見直しの「勝者」とされた。
  • 新薬、AI、先端製造業、防衛などの分野に重点的に投資。
  • 地域別投資:イングランドの7つの市長統治地域に最低3,000万ポンド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドにも同等規模の資金提供。加えて、全国公募型のイノベーションクラスタ支援も用意。
  • ケンブリッジ×マンチェスターの大学連携プロジェクトに480万ポンドを拠出。

University of Edinburghのスーパーコンピュータ計画の復活

かつて保守党政権下で予定されたものの、労働党政権により撤回された次世代スーパーコンピュータ(7.5億ポンド)計画が復活。同大学の学長Peter Mathieson氏は、「英国のAI・コンピューティング研究の国際的地位向上に寄与する」と歓迎。

高等教育分野には支援の手薄さ

一方で大学教育分野の財政支援は期待外れであった。英国大学協会の(Universities UK: UUK)のCEOであるVivienne Stern氏は、「R&D投資は評価するが、大学全体への支援がなければ安定維持は困難」と懸念を表明。UUKの独自試算では、労働党政権下の政策により大学は総額10億ポンド超の損失として:

  • 教職年金制度の拠出増(25億ポンド/年)
  • NI(雇用主保険料)増によるコスト増(3億ポンド/年)
  • 戦略的優先助成金カット(08億ポンド)
  • Foundation Year授業料改定(32億ポンド)
  • レベル7アプレンティスシップ支援廃止(08億ポンド)
  • 教育設備費削減(6,600万ポンド)

また留学生の扶養家族制限や留学生に対する課徴金6%案も、最大6億ポンドの追加損失につながる見通しである。

 【英文記事】University World News:

https://www.universityworldnews.com/post.php?story=20250612180745678

【英文記事】ラッセル・グループ(Russell Group):

https://www.russellgroup.ac.uk/news/ps86bn-rd-funding-announced-ahead-spending-review

 

(13) 英国の産業戦略、予算交渉で発表が再延期

2025年6月9日、英国政府の新たな産業戦略の発表が、当初予定されていた春から再延期され、早くても6月23日になる見込み。これは、来たる複数年間の歳出見直し(spending review)を前に、各省庁の予算に関する財務省との土壇場での交渉が原因だと報じられている。

Financial Times紙は、産業戦略の最終決定が歳出見直しにかかっているとし、計画に関わる関係者が「全ては歳出見直し次第だ。提出書類にはまだ埋まっていない項目が多数ある。」と語ったと報じている。また、英国のエネルギーコスト削減計画の必要性も遅延の一因とされている。

産業戦略の遅れが報じられる中、歳出見直し全体が6月11日にRachel Reeves財務大臣によって正式に発表される予定。しかし、驚くべきことに、研究開発(R&D)予算の全体像は前日(記事掲載日)に前倒しで発表された。これにより、今後4年間で860億ポンドがR&Dに投入され、2029-30年度までに年間225億ポンドに達することが約束された。

この資金水準は、インフレ予測に基づくと実質的な横ばいとなる。また、このパッケージには、地域リーダーとUK Research and Innovation (UKRI) が研究投資で連携を深めることを目的とした5億ポンドの「地域イノベーションパートナーシップ基金」が含まれている。

産業戦略の発表は数週間の遅れがあるものの、ビジネス担当大臣Johnathan Reynolds氏に近い情報筋は、戦略自体の作業は「ほぼ完了している」とFinancial Times紙に語っている。また、政府発表のラインナップで「良いタイミング」を確保し、「最大限の注目」を集めたいという意向もあるとされている。

【関連記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2025-6-government-delays-industrial-strategy-until-end-of-june/

 

(14) 英国、AI活用で新薬発見の世界的リーダーを目指す

2025年6月9日、英国政府は、AIを活用した創薬分野で世界をリードすることを目指し、「OpenBind」コンソーシアムの立ち上げを発表した。これは、過去50年分の20倍に相当する、薬剤とタンパク質の相互作用に関する世界最大規模の実験データを収集・公開するプロジェクトで、創薬・開発コストを最大1,000億ポンド削減する可能性がある。

このプロジェクトは、University of OxfordのCharlotte Deane教授やFrank von Delftト教授(Diamond Light Source兼University of Oxford)、米国のWashington UniversityのDavid Bake教授ら世界的な研究者が主導。オックスフォードシャーのHarwell Science Campusにある英国の放射光施設「Diamond Light Source」を拠点とし、5年間で50万件以上の高品質なタンパク質-薬剤構造データを生成予定。

本事業には、科学・イノベーション・技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)からの投資により最近設立された『Sovereign AI Unit』*から最大800万ポンドの支援が行われ、製薬企業やAIスタートアップとの連携も進められる。

加えて、Imperial College London は、世界経済フォーラムと連携し、AIによる産業革新を加速させる「AI Driven Innovation Centre」を新設。英国が世界のAIイノベーションの中心地となることを目指す。

この一連の取り組みは、AIを成長戦略の柱と位置づける英国政府の「Plan for Change」の一環であり、経済成長、医療革新、グローバル連携の推進を狙いとしている。

『Sovereign AI Unit』*:英国政府は、AI Opportunities Action Plan(2025年1月発表)において、「AIインフラ整備」と「国家AI能力構築」の方針を示した。その一環として、国家管理の計算資源を整備する『UK Sovereign AI』構想が打ち出され、起業家支援やデータ・計算資源へのアクセスを提供する官民連携の支援ユニットが新設された。この取り組みを主導するDSITは、「AI Opportunities Unit」を設置し、技術大臣に報告しつつAI戦略を推進している。本ユニットは、国家のAIインフラ整備を担う実働部門である。

【英文記事】科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/uk-to-become-world-leader-in-drug-discovery-as-technology-secretary-heads-for-london-tech-week

 

(15)英国学士院:文系卒業者の社会的貢献度を可視化したデータを発表

英国学士院(British Academy:BA)は、SHAPE分野(社会科学、人文科学、芸術)の重要性を強調している。これらの分野の卒業生は、批判的思考、創造性、問題解決能力といったスキルを身につけており、気候変動やAI倫理などの社会課題解決にも貢献している。こうした貢献を可視化するため、BAは新たなデータ・政策リソース「Understanding SHAPE Graduates」を公開した。このツールキットには、インタラクティブなダッシュボード、主な分析結果、政策提言が含まれ、SHAPE卒業生の社会・経済への広範な影響を明らかにしている。

主な内容:

  • SHAPE卒業生の就業率は87%(2023年)で、非大学卒(79%)に比べて高く、STEM卒(88%)とほぼ同等。
  • 平均時給は21ポンドで、Aレベル(高校卒業相当)保持者より5ポンド高い。
  • 成長著しい産業(製造業、輸送・通信、専門・科学技術サービス)に多く就職しており、これらの分野におけるSHAPE卒業生の割合は1997年の8%から2023年には52.8%に増加。
  • 地域別でもロンドン(71%)、北西部(64%)、南東部(58%)など、高GDP地域で多く活躍。

 今後は、HESAの卒業生成果調査などを活用し、非金銭的成果を含むより包括的な評価指標の開発が期待される。

BAは引き続き、SHAPE卒業生の多様で重要な貢献を訴え、より良いデータと理解の構築に取り組む方針である。

参考:

LFS*(Labour Force Survey:労働力調査)

英国の国家統計局(Office of National Statistics: ONS)が実施する大規模な調査で、労働市場の実態を把握するための代表的なデータソース。

LEO**(Longitudinal Education Outcomes:長期的教育成果データ)

教育省が構築したデータベースで、教育(学校・大学)とその後の労働市場での成果(主に所得)を長期的に追跡している。教育評価制度(Teaching Excellence Framework: TEF)の評価でも補助的なデータとして用いられる

【英文記事】WonkHE:

Measuring SHARP Graduate Outcomes: Policy Briefing【British Academy】: https://www.thebritishacademy.ac.uk/publications/measuring-shape-graduate-outcomes-policy-briefing/

https://wonkhe.com/blogs/what-shape-graduates-do/

 

(16) UCAS:教師の予想成績精度向上と生徒の進路選択支援に向けパイロット版導入

2025年6月11日、大学入試機関(Universities and Colleges Admissions Service: UCAS)は、大学・カレッジの入学選考において重要な役割を果たす「UCAS予測成績」の透明性を高め、進路指導の質を向上させるため、新たなパイロット版のデータツールガイダンスを発表した。この取り組みでは、1,000以上の学校・カレッジに対し、予測成績と実際の成績との比較を示す個別レポートを提供。生徒とその支援者がより適切な進路判断を下せるよう支援する。

UCASの分析によると、近年予測成績と実際の成績の乖離が広がっており、特に最高成績帯で顕著である。2024年には18歳の約半数がAAA以上と予測された一方、前年実際にAAA以上を取得し入学した学生は26%にとどまった。

また、UCASはこのパイロットと併せて、予測成績が生徒の経済的背景などによって差が生じていることを示す新たな調査結果も公開した。たとえば、低所得層の生徒は、裕福な層の生徒よりも予測成績との乖離が大きい傾向がある。

この取り組みは、昨年導入された「入学時の実際の成績データツール」の成功を受けたものである。このツールでは、大学が実際に受け入れた成績や合格率を表示し、200万回以上利用された。調査によると:

  • 88%の学生が「非常に役立った」または「役立った」と回答
  • 78%がこのデータを見て出願意欲が高まった
  • 73%の進路指導者が「生徒の理解に良い影響があった」と回答
  • 80%の学生が「使いやすい」と評価

 【英文記事】大学入試機関(Universities and Colleges Admissions Service: UCAS)

https://www.ucas.com/corporate/news-and-key-documents/news/ucas-pilots-new-reports-to-help-teachers-strengthen-grade-predictions-and-support-student-choice

 

(17) 学生の就労、学習時間、そして大学の価値に関する新たな動向

2025年6月12日、Advance HEと高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)が発表した2025年版「学生の学術経験調査(Student Academic Experience Survey: SAES)」によると、学期中に有給の仕事をしている全日制学部生の割合が劇的に増加し、68%に達したことが明らかになった。これは2024年の56%から大幅に増加し、2020年のわずか42%と比較すると顕著な変化である。

この大きな変化は、学生の大学生活を再構築しており、彼らが仕事と学業の両立に時間を割く中で、自主学習に費やす時間が著しく減少していることが報告されている。英国全土の10,000人以上の全日制学部生を対象としたこの年次調査は、生活費の負担が学生の経験にどのように影響しているかを示す説得力のある証拠を提供している。

 

(18)REF 2029における研究評価の主要な変更点:知識と理解への貢献(CKU)ガイダンス

2025年6月12日、英国の研究評価制度 (Research Excellence Framework: REF)の 2029年度版では、研究成果の評価方法に大きな変更が加えられている。特に、「知識と理解への貢献(Contributions to Knowledge and Understanding: CKU)」という評価要素に関する詳細なガイダンスが発表された。これは、個々の研究者ではなく、高等教育機関の分野全体としての研究と研究環境を評価するという、REFの進化を反映している。

CKUガイダンスの主な変更点

  1. 個人とアウトプットの紐付けの廃止(Decoupling):

REF 2021で導入された変更をさらに進め、REF 2029では提出される研究成果物(アウトプット)と個々の研究者との紐付けがなくなる。機関はスタッフの詳細を提出する必要がなくなり、アウトプットは特定の著者に縛られず、最も適切な評価単位(Unit of Assessment: UoA)に提出される。これは、資金配分を機関レベルに合わせつつ、機関が支援した研究を適切に評価することを目的としている。

  1. 「実質的なつながり(Substantive link)」の要件:

提出されるアウトプットには、提出機関との「実質的なつながり」、つまり適切な雇用関係が求められる。これにより、その機関によって支援・実現された研究のみが評価対象となる。さらに、技術者や研究マネージャーなど、多様な役割を持つ職員が生み出したアウトプットも対象に含まれるようになる。

  1. 研究活動の幅広さの反映:

個々の職員に対するアウトプットの最低・最大要件はなくなる。代わりに、機関は提出するアウトプットが、そのUoAにおける研究活動と戦略の幅広さを代表していることを示す必要がある。

  1. 評価単位(ユニット)レベルでの提出数削減プロセス:

特別な事情により、UoAが規定された量よりも少ないアウトプットを提出する場合、その申請は個人レベルではなくUoAレベルで行われる。これにより、負担が軽減され、機関レベルでの評価というシフトに合致する。

  1. 例外規定:

大学や研究機関からの要望に応じてREFの主要パネルは「実質的なつながり」の要件に対する例外を考慮する。これは、長編や長期間にわたる成果物のみに適用される。

 行動規範ガイダンスの更新

CKUガイダンスと同時に、機関向けの行動規範(Code of Practice: CoP)ガイダンスも更新・拡張した(2025年1月以降適用)。CoPはREF 2029への参加に必須の要件であり、この更新されたガイダンスは、研究者個人とその成果の直接的な繋がりよりも、研究者が所属する機関との関係性(雇用など)、そしてその機関が研究をどのように支援・実現したのかを重視することで、研究成果が生まれるまでの背景や過程をより包括的に理解しやすくなる。CoPガイダンスは、これらの評価過程において、堅実性、透明性、包括性の原則の再強化を行うものとなる。

【英文記事】 REF2029:

https://2029.ref.ac.uk/news/cku-cop-guidance-released/

 

(19) 英国政府、AIスキル育成で大手IT企業と連携 2030年までに750万人の労働者を訓練へ

2025年6月14日、英国政府は、Amazon、Google、Microsoftなどの大手企業と連携し、2030年までに750万人(英国労働者の5分の1)にAIスキルを提供する大規模な育成プログラムを開始した。これは、経済成長と高賃金雇用を促進する「変革のための計画(Plan for Change)」の一環であり、国民全体にAIの恩恵を広げることを目指す。

前日の6月13日、科学イノベーション技術省の大臣であるPeter Kyle氏が、AmazonやBT、IBM、Salesforceなどの代表と初の協議を開催。今後の定例会議の計画やスキルニーズの特定、訓練へのアクセス向上について議論した。

各社は既に貢献を開始しており、Microsoftは100万人のAIスキル育成を今年末までに達成予定。IBMは「SkillsBuild」などを活用し、SageやSASも教育リソースの提供を行う。

政府は過去1年でAI分野に440億ポンドの投資と13,000超の雇用創出を実現。関係者からは、「AIは小規模企業の成長機会を広げる」「あらゆる世代へのスキル提供が重要」といった期待の声が寄せられている。

参加企業(一部):

  • Amazon: オンライン小売業者及びクラウドサービス(AWS)も主力事業(本社:米国)
  • Google: 検索エンジン、AI開発(Gemini)(本社:米国)
  • Microsoft: 「Windows」「Office」「Teams」などのソフトウェア、AI(OpenAIへの出資)(本社:米国)
  • IBM: 企業向けのITシステム構築・運用・コンサルティング、AI(Watson)、クラウド、量子コンピューティングも推進(本社:米国)
  • BT: 英国最大の通信会社、AIや5Gネットワークへの投資を拡大中(本社:英国)
  • Salesforce: クラウドベースの顧客関係管理ソフトウェア(本社:米国)
  • SAS: データ分析・統計解析ソフトウェア(本社:米国)
  • Sage: 会計・給与・業務管理ソフトウェア (本社:英国)
  • Barclays: 総合金融グループ(本社:英国)
  • Accenture: 経営コンサルティング、ITサービス、システム導入・運用支援(本社:アイルランド(もともと米系)
  • Intuit: 中小企業や個人向けの財務・税務ソフトウェアの開発 (本社:米国)

【英文記事】科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT):

https://www.gov.uk/government/news/tech-giants-join-government-to-kick-off-plans-to-boost-british-worker-ai-skills

 

(20) ERC先端助成金:英国が獲得数でドイツを超える

2025年6月17日、欧州研究会議(European Research Council: ERC)の2024年「先端助成金(Advanced Grant)」採択結果で、英国の研究機関が全体の約20%を占めて最多となり、過去数年で初めて首位に返り咲いた。これに続いたのはドイツ(35件)、イタリア(25件)で、英国は特に社会科学・人文学分野で他国を大きく上回る成果を挙げた。

先端助成金は、経験豊富な研究者を対象に最大5年間で250万ユーロを支援する制度で、必要に応じてスタートアップ費用の追加支給もある。

採択件数と傾向

  • 2024年の採択件数:281件(うち英国56件)
  • 提案数の増加により、採択率は11%に低下(前年は13~15%)
  • 2023年まで3年間はドイツが首位、英国は2位だったが、2020年以来のトップ返り咲き
  • イタリアが大きく順位上昇(2023年8位→2024年3位)、フランスは順位を落とし5位

 支援分野と今後の展望

  • 採択プロジェクトはがんワクチン開発、木星・土星の衛星の海洋探査、人間の社会的思考を再現するAI開発など多岐にわたる
  • 採択により約2,700人の研究者雇用が見込まれる

ERCのMaria Leptin理事長は「資金不足のため、多くの優れた提案が採択されなかった」と述べ、将来的な予算拡大への期待を示した。

Ekaterina Zaharieva EU研究担当委員はEU域外やHorizon Europe非加盟国の研究者向けに、移転費用等のスタートアップ支援額が2025年募集から最大200万ユーロに倍増され、これは「Choose Europe for Science」戦略の一環であり、世界中の優秀な研究者を欧州に呼び込む狙いであることを述べた。

 

Picture1 上記ブラフ:Russell Group より

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-europe-horizon-2020-2025-6-uk-overtakes-germany-in-winning-most-erc-advanced-grants/

 

(21) 英国における科学技術の商業化をめぐる課題と政策対応

2025年6月18日、英国では、優れた科学的アイデアや技術を新たなビジネスに転換し、経済成長へとつなげることに長年苦戦してきた。これは、イノベーションが十分に商業化されず、国家経済や公共サービスに還元されていないという構造的な課題に起因している。

こうした状況を受け、英国議会上院では現在、「科学技術を活用した新規事業の成長支援や資金調達」に関する調査を進めており、産業界や金融界の有識者から意見聴取を行っている。

6月3日の公聴会では、主な問題として「資金の流れの停滞」が指摘された。一部の専門家は「英国にはイノベーションはあるが、資本が不足している」とし、別の専門家は「資金自体は潤沢に存在するが、英国のイノベーション分野には投資されていない」と述べています。また、「企業が資金にアクセスできていない」という視点も示され、原因は一様ではなく多面的である。

政府は、年金基金を国内投資に回す「Mansion House Compact 2.0」や、急成長企業向けの人材確保を目的とした「スケールアップ・ビザ」などの施策を講じてきた。しかし、これらの取り組みは今のところ十分な効果を上げておらず、特にビザ制度は周知不足や制度設計の不備により、迅速な人材確保につながっていないのが現状である。さらに、規制の緩和も進められてはいるものの、英国の株式市場におけるスタートアップ評価は依然として低く、優秀な企業や人材が米国市場を選ぶ傾向が続いている。

このように、英国政府はイノベーションの商業化を加速させようと多方面からアプローチを試みているが、資金へのアクセス、人材制度の有効性、市場の魅力度など複数の要因が絡み合い、依然として解決には至っていない状況である。

【英文記事】Science Business:

https://sciencebusiness.net/start-ups/uk-parliament-probes-gap-between-innovation-and-exploitation

 

(22) G7首脳会議:量子技術と人間志向のAIで未来を拓く

2025年6月18日、前日にカナダで開催されたG7(主要7カ国)首脳会議において、各国首脳は量子技術の研究促進を強化することを約束した。量子技術は、世界中の社会に重大かつ変革的な利益をもたらす可能性を秘めていると認識されている。

過去10年間のR&Dにおける大きな飛躍的な進歩により、量子コンピューティング、センシング、通信といった技術は、金融、通信、輸送、エネルギー、医療といった分野で経済的・社会的利益を生み出す態勢が整っている。G7首脳は、その潜在能力を最大限に引き出すためには、政府、研究者、産業界間の国際協力が不可欠であると強調した。これを受け、G7各国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)は、量子R&Dへの投資促進と、産学の専門家を含む量子技術に関する合同作業部会の設立を表明。この部会は、共同プロジェクトの公募などを通じて、研究、開発、商業化における協力を推進する役割を担う。

声明では、量子技術以外にも複数の重要分野における協力が言及されている。

まず、重要鉱物のR&Dにおける特定のイノベーションギャップを埋めるための連携強化が約束された。特に、加工、ライセンス供与、リサイクル、代替、再設計といった取り組みから、より強固な循環経済システムの構築を推進する。G7各国は、重要鉱物を市場に供給するために不可欠な、戦略的な技術や加工のギャップに対処できる、未開発の可能性を秘めた官民のイノベーションエコシステムが豊富にあることを認識している。

また、G7は人工知能(AI)を「繁栄」に結びつけるための一連の取り組みを採択した。これには、知識共有や、相互合意に基づいたAIへのアクセスに関して大学と協力することが含まれている。

首脳たちは、AIへの「人間中心(human-centric)」のアプローチが、繁栄を促進し、社会に利益をもたらし、目前にある地球規模の危機などの課題に対処する可能性を秘めていることを認識している。この可能性を実現するためには、「人々に利益をもたらし、負の外部性を軽減し、国家安全保障を促進する、安全で責任ある信頼できるAIのイノベーションと導入をより良く推進しなければならない」と述べられている。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-world-2025-6-g7-backs-quantum-research-to-drive-worldwide-benefits/

 

(23)学生局:言論の自由に関するガイダンスを公表

2025年6月19日、高等教育機関の規制局である学生局(Office for Students:OfS)から高等教育(言論の自由)法に基づく大学・カレッジの義務に関するガイダンスが発表された。今年8月1日からこれらの義務が施行される。

このガイダンスは、各教育機関が法に則り言論の自由を確保し、自由な言論に関する行動規範を設けるための支援を目的としている。違法な言論は保護されず、平等法や反テロ法、社会の一般的なルールや道徳に反する場合の例も該当する。一方で、合法的な言論を制限するハードルは非常に高いことを強調している。ただし、学習・教育・研究の本質的機能を妨げる場合は、時間・場所・方法の制限は可能としている。

具体的な義務としては、例えば:

  • 論争的なテーマでも建設的な対話を促進すること
  • 海外政府・機関との検閲に繋がる契約の見直しや解除
  • 合法的な意見表明を理由に学生や教職員を処罰しないこと
  • 教職員採用や昇進時に特定の見解へのコミットメントを求めないこと

などが挙げられる。

OfSのArif Ahmed氏は、「大学の核心的使命は知識の追求であり、言論の自由と学問の自由は不可欠。学生は合法的な意見を自由に表明し、多様な見解に触れるべきだ。時に不快や衝撃を受けることもあるが、これが分析力・批判的思考の育成につながる」と述べている。

また、ガイダンスは「合法的な言論を制限するハードルは非常に高い」ことを示しつつも、「適切な場合には言論の時間・場所・方法を規制できる」ことも明示。たとえば、試験中の騒音や政治的主張に偏った講義の禁止、キャンパス内での嫌がらせ(例:反ユダヤ主義的嫌がらせ)への厳正対応を求めている。

OfSのCEOであるSusan Lapworth氏は、「大学は法の範囲内で学問の自由と言論の自由を最優先に守る場であるべきであり、学生がいじめや嫌がらせから守られるべきだ」と強調している。合わせて発表された調査結果では、2024年に実施された学者の意識調査で以下の点が明らかになった。

  • 左右両派の約5人に1人が論争的なテーマを「自由に教えられていない」と感じ、3人に1人は一般的な議論も怖れている
  • 性別やジェンダーの議論が最も制限されていると感じられている
  • 教える自由を制限されていると感じる24%が「身体的な攻撃への恐怖」を理由に挙げている

Ahmed氏は、「これらの結果は極めて憂慮すべきものであり、多くの学者が自由に研究や議論をできていない現状は問題。大学は学問の自由を断固として守る姿勢を示すべきだ」と述べている。

【英文記事】学生局(Office for Students:

https://www.officeforstudents.org.uk/news-blog-and-events/press-and-media/ofs-publishes-free-speech-guidance-as-polling-shows-one-in-five-academics-do-not-feel-free-to-teach-controversial-views/

 

(24)REF2029の今後の予定発表

2025年6月19日、研究評価制度(Research Excellence Framework: REF)の2029年度版のより詳細なスケジュールが発表された。制度の基準設定に関する重要な会議(パネル会議)を2025年夏から2025年秋から冬に移行された。しかし2026年秋に予定されている最終的なガイダンスの公表には影響がない。

今後の予定表:https://2029.ref.ac.uk/about/timetable/

【英文記事】https://2029.ref.ac.uk/news/ref-2029-timetable-updated/

 

(25)英国首相のAI担当顧問が退任

2025年6月20日、Keir Starmer英国首相のAIアドバイザーを就任したMatt Clifford氏はわずか6か月で辞任することが明らかになった。彼は今年1月に、AIを活用して公共サービスを「革命化」する取り組みを監督するためにこの職に就任した。

昨年、Clifford氏は英国がAIにどのように投資し、活用するかを概説した政府の「AI機会行動計画」を執筆した。この計画には、国のAIポテンシャルを高めるための50の施策が盛り込まれており、政府はこれらすべてを実行すると述べている。

Clifford氏はLinkedInへの投稿で、個人的な理由により7月末にこの職を辞任することを確認した。「病気の家族がいるため、もっと一緒に過ごす時間が必要で、非常に多忙な一年だったので、少しバランスを取り直す必要がある」と述べた。

彼は、英国の研究開発資金提供機関である高等研究発明局 (Advance Research Invention Agency: ARIA)の職務は継続する。「私はAIが英国と世界にとって良い方向に向かうよう、キャリアを捧げるつもりである。これまでのところ、その中で小さな役割を果たせたと思うが、やるべきことはまだたくさんある。…ご期待を」と語った。

今月初め、英国政府はAI戦略に20億ポンドの資金を投入すると公約した。これは、米国や中国といった国際的な競合国との技術格差が広がる中、自国のコンピューティング能力を急速に構築することを目指すものである。

Clifford氏は以前、保守党のRishi Sunak首相が2023年に世界初のグローバルAI安全サミットを組織するのを支援した。その後、労働党新政権は彼を招き、新しいAI戦略を策定した。                    

【英文記事】Sifted :

https://sifted.eu/articles/matt-clifford-steps-down-as-uk-prime-ministers-advisor-on-ai

 

(26)ラッセル・グループCEO、2026年春に退任を発表

2025年6月20日、ラッセル・グループのCEOであるTim Bradshaw博士が、2026年の春をもって退任する意向を発表した。2012年にリサーチ・イノベーション政策部長としてラッセル・グループに加わり、2017年からCEOを務めている。

本人は、これまでの経験に感謝しつつ、「自分はこの役割を“世話役”として担ってきたように感じており、今後はそのCEOの役目を次の人に託したい」と述べている。

また、新たなCEOには優秀なチームが引き継がれ、英国の大学が繁栄できる環境づくりに貢献してほしいと語っている。

さらに、英国の大学は経済・知識・文化・地域社会に大きく貢献しているが、財政的・規制的な圧力に直面しており、研究集約型大学も例外ではないと警鐘を鳴らしている。社会政策、先端工学、都市再生、AIスキルなど、あらゆる分野で「英国はこれまで以上に大学を必要としている。後任者にとっては困難な局面も多いが、大変刺激的な時代を迎えることになるだろう」と述べた。

【英文記事】ラッセル・グループ:

https://www.russellgroup.ac.uk/news/russell-group-chief-executive-dr-tim-bradshaw-step-down-2026

 

(27) 英国、世界最高の人材を呼び込むため「グローバル・タレント・タスクフォース」創設

2025年6月22日、英国政府は、産業戦略の一環として、世界最高レベルの人材を呼び込むための包括的な施策群を発表した。

主な内容

  • 英国政府は「国際人材招致委員会(Global Talent Taskforce: GTT)」を創設し、科学技術分野を中心とする世界最高水準の人材の呼び込みを強化。
  • 新戦略「Plan for Change(変革のための計画)」および6月23日に発表される予定の産業戦略の一環として、研究者、起業家、投資家、エンジニア、クリエイターなどを対象。
  • 新たに総額5,400万ポンドの「グローバル・タレント基金(Global Talent Fund)」を創設し、英国への移住や研究費を5年間支援。
  • 加えて、AI分野における2,500万ポンドの「Turing AI Global Fellowship」や、世界的AI研究者の受け入れを目的とした「Encode: AI for Science Fellowshipも拡充。
  • これらをあわせると、合計で1億1,500万ポンド超の人材誘致投資となる。

委員会の役割

  • 研究者やトップ人材が英国に移住・定着できるよう支援。
  • 英国外で優れた人材を積極的にリクルート。
  • 在外公館などと連携してネットワークを構築し、人材パイプラインを整備。
  • 首相および財務大臣直属で運営。

ビザ・制度面の支援

  • 優秀な人材向けビザ(High Potential Individualなど)の対象機関を拡大。
  • ビザ費用や移住関連費も全額支援、家族分も含む。
  • 対象機関(大学や研究機関)がUKRI経由で人材を選抜。

今後の焦点

  • 英国の科学・技術分野における世界的地位の維持・強化。
  • 国内人材と海外からの優秀な人材の融合による成長加速。
  • ホライズン・ヨーロッパへの再加盟と連携し、研究機会拡大。

【英文記事】科学イノベーション技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)

https://www.gov.uk/government/news/uk-launches-global-talent-drive-to-attract-world-leading-researchers-and-innovators

 

(28) 産業戦略:経済成長を研究開発システム集中に託す

2025年6月23日、英国政府は産業戦略の政策文書を発表し、研究開発(システムを「長期的な経済成長」に焦点を当てて改革する方針を示した。

主な内容は以下の通り。

■ 研究開発(R&D)に関する重点方針

  • 公的資金によるR&D投資の3つの目的
    1. 基礎研究(好奇心駆動型)の推進
    2. 政府の政策課題への対応
    3. 企業のイノベーション創出と成長の支援
  • R&Dの7つの重点分野の1つとして「デジタルと技術」に注目し、英国の世界的研究基盤や1兆ポンド規模のテック・エコシステムを活用すると明記。
  • 10年間の長期予算が初めて付与された機関(長期的パートナーシップや人材育成、国際協力の促進を期待):
    • 航空宇宙技術研究所(ATI)
    • Drive35(自動車産業支援プログラム)
    • 国立量子コンピューティングセンター
    • 分子生物学研究所
  • 産学連携の強化として歳出見直しですでに発表されていた「R&Dミッション・アクセラレータ・プログラム」などの新ファンドも導入。

■ スタートアップ・スケールアップ支援

  • 英国発のスタートアップ企業の成長加速(スケールアップ)が課題とし、ビジネス環境改革で対応。

■ AIとスーパーコンピューティング

  • AI研究基盤(AI Research Resource)の計算能力を2030年までに現行の20倍に拡張
  • Turing AI Global Fellowships」により世界トップAI研究者5名を英国に招聘予定。
  • 科学研究へのAI活用への投資も明記。

■ 人材育成と国際人材招致

  • 英国の労働力強化のため、スキル改革と海外からの優秀人材誘致を実施。
  • 「グローバル・タレント基金」では、2025-26年に世界トップ研究者とそのチーム約10組を英国に招聘。
    → 実施主体はUKリサーチ・イノベーション(UKRI)
    → 総額5,400万ポンドが割り当て済み

Kier Starmer首相は本戦略について、「短期的な場当たり対応からの明確な決別であり、英国の将来を支える道筋だ」と強調した。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2025-6-industrial-strategy-aims-to-focus-r-d-system-on-economic-growth/

【関連記事】①

2025年6月23日、英国政府が、 UK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation:  UKRI) の主導で「グローバル人材基金(Global Talent Fund)」を立ち上げた。これは、英国の研究能力を強化し、国際的な研究人材を誘致・定着させるための5,400万ポンド規模の取り組みである。

関係者のコメント

UK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)の国際推進のChristopher Smith教授は、「この政府出資の取り組みは、英国が世界最高の研究者を受け入れ、彼らの成功に投資する用意があるという強力なメッセージを送るものだ。」と述べ、英国が国際協力と卓越した研究拠点としての地位を維持するコミットメントを強調。

科学イノベーション技術閣外担当大臣のVallance卿も、「科学的卓越性はしばしば国際協力に依存しており、グローバル人材基金は、実績のある選ばれた参加機関が世界中の優れた研究者を英国の世界クラスの研究エコシステムに誘致するのに役立つだろう」と述べ、この基金が英国の「変革のための計画」の実現に貢献すると期待を表明。

この取り組みは、今後5年間で世界中から優秀な頭脳を英国に呼び込む上で極めて重要な役割を果たすと予想されている。これにより、主要な機関の研究能力が大幅に向上し、持続的な研究とイノベーションの卓越性の基盤が築かれることになる。交付を受けた機関は、英国の大学、公的セクターの研究機関、その他の資金提供者、商業組織などと提携を組むことが奨励されている。

【英文記事】UK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI):

https://www.ukri.org/news/uk-launches-scheme-to-attract-world-class-researchers/

 

(29) 上を目指して:工学系卒業生が直面する進路の壁(国際女性エンジニアの日に寄せて)

2025年6月23日、今年の2025年の「国際女性エンジニアの日」に寄せて、Lisa-Dionne Morris教授(University of Leeds)は、女性が工学やデザイン分野で活躍するために必要な支援のあり方について提言した。

依然として低い女性比率と構造的課題

  • 英国では2021年時点でエンジニアのうち女性はわずか16.5%。
  • 男女格差の解消には、単なる技術教育を超えた制度的・文化的改革が必要。

グローバル人材の要件:技術力+感性

  • 持続可能な製品設計、AI、誰にでも使いやすい操作設計、人間中心設計など新興分野では、創造性、共感力、社会的感受性、などが不可欠。これらは多様な女性人材が持つ強みでもある。

大学は「雇用力」ではなく「生態系」を支えるべき

  • 単に良い成績を取るだけでなく、在学中に大学全体が提供する支援や学習環境が、卒業後の学生のさらなる成長に大きく影響する。
  • 教職員、技術スタッフ、学生同士の助け合いなど、大学全体が雇用可能性の形成に関与すべき。

 女性に特有の障壁:マイクロ・バリア

  • 明白な差別は減っても、次のような見えにくい障壁が残る:
    • ロールモデルの不在
    • インポスター症候群(自己否定感)
    • 資源や情報へのアクセス格差
    • 文化的な違和感
  • 対策としては:
    • 指導や助言、経済支援、利用しやすいな技術環境などが有効。

新しい人材育成の枠組み:ACRESモデル

従来のKSA(知識・技能・能力)モデルを補完するものとして、Morris教授はACRESモデルを提唱:

  • A(Adaptability/適応力):変化の激しい環境でも柔軟に対応し、自らの学びや行動を調整する力。
  • C(Collaboration/協働力):多様な分野や背景を持つ人々と連携しながら課題に取り組む能力。
  • R(Resilience/回復力):失敗や困難から学び、持続的に挑戦し続ける精神的な強さ。
  • E(Empathy/共感力):人々の視点に立って考え、包摂的なデザインや意思決定を行う力。
  • S(Social Responsibility/社会的責任):倫理や環境、持続可能性といった課題に対して主体的に関与しようとする姿勢。

このACRESモデルは単なる理想論ではなく、今後の社会が求める「次世代エンジニア」の必須要件と位置づけられており、教育現場での実践を通じて徐々に取り入れられ始めている。

現場での実践例(University of Leedsなど)

  • 産業連携型プロジェクトや、ポートフォリオ共創、持続可能性教育などでACRESを実装。
  • こうした取り組みは女性学生の可能性を引き出す土台となる。
  • 大学は「教える場所」であると同時に、「支えるシステム」でなければならない。

【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)

https://www.hepi.ac.uk/2025/06/23/raising-the-bar-a-graduate-design-engineers-path-in-engineering/

 

(30) AIの需要が高まるなか、英国新卒者は2018年以来の就職難に直面

2025年6月25日, 英国では、AIの導入や企業の採用抑制により、新卒者にとって2018年以来最も厳しい就職市場となっていると、求人サイトIndeedが報告した。新卒者向け求人は前年比33%減と過去7年で最低水準にあり、全体の求人も3月末から6月中旬にかけて5%減少している。これは、雇用主への税負担や最低賃金の引き上げの影響とみられ、英国はコロナ前よりも求人が減っている唯一の主要先進国である。

Indeedの経済担当幹部であるJack Kennedy氏は、労働市場が急激に悪化しているわけではないが、新卒者にとっては「初めの一歩」が難しい状況だと指摘。特にAIによる代替の影響を受けやすい専門職で、若年層の就職が困難になっているといわれている。

【英文記事】Guardian紙:

https://www.theguardian.com/money/2025/jun/25/uk-university-graduates-toughest-job-market-rise-of-ai

 

(31) トランプ政権からの余波:英国大学の研究プロジェクトが中止

2025年6月25日、トランプ政権による科学研究への介入が、英国のラッセル・グループ大学に直接影響を及ぼしている。Research Professional Newsの情報公開請求により、少なくとも9件の研究プロジェクトが米国政府からの命令で停止され、さらに14件が米国の共同研究者からの通知で資金が打ち切られたことが明らかになった。

これらのプロジェクトは、国際開発・気候変動・多様性・公平性と包摂(DEI)といった分野が中心で、トランプ政権による連邦資金の大幅な削減の影響を受けている。

Durham, Leeds, Liverpool, Nottingham, Southamptonの5大学では、米政府から直接の資金打ち切りや停止命令が出されている。

University of Liverpool主導の、エチオピアにおける小規模家禽飼育と幼児の栄養改善を目的としたプロジェクトは、米国国際開発庁(U.S. Agency for International Development: USAID)の資金で進められていたが、中断された。

University of Nottinghamは、米平和研究所(United States Institute of Peace : USIP)支援プロジェクトや西アフリカにおける児童強制物乞い問題に関する研究で停止通知を受けた。

Durham Universityでは、USAIDや米地質調査所(United States Geological Survey: USGS)など4つの機関からの資金が打ち切りまたは一時停止された。

一部のプロジェクトでは、資金提供元である米国の大学や団体から英国側の共同研究者に間接的に中止通知が伝えられた(University of Cambridgeで約10件、Queen Mary University of Londonで健康医療系4件など)。

一方で、13大学は米国政府からの通知はなかったと回答し、Oxford, UCL, King’s College Londonは情報公開請求に未回答である。

ラッセル・グループの国際政策責任者Ben Moore氏は、米英の研究協力は今後も継続されるべき重要な関係である、と強調した。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2025-6-trump-administration-axes-uk-university-research-projects/

 

(32) ResearchPlus: 新しい研究集約型のミッショングループが基本方針を発表

2025年6月26日、ResearchPlusは、英国の研究重視型大学による新たな連携組織であり、経済成長、社会的繁栄、地域・国際社会の福祉向上を共通目的として設立された。ラッセル・グループ外にも世界水準の研究力を持つ大学は多数あり、こうした大学の政策的な声の不在を補うため、統一した発信力と影響力を目指している。

参加大学は、各地において産業や公共サービス、文化や地域社会に不可欠な役割を果たしており、優れた研究、教育、知識交流、先端的スキル開発を提供している。多くの大学が過去の政府や産業界の成長戦略の一環として設立され、今もその使命に忠実である。

現在の英国高等教育政策は、特定のグループ(例:ラッセル・グループ)による声に偏りがちであり、他の研究大学の貢献が見えにくくなっている現状がある。ResearchPlusはこのギャップを埋め、既存団体との補完関係を築きつつ、政策対話に積極的に関与していく。

参加大学の研究は、全国的・国際的に競争力があり、学際的な分野にも強みを持つ。さらに、都市部だけでなく地方にも広がる多様な教育・研究拠点を有しており、地域社会とのつながりや文化、社会的包摂、イノベーションにも力を入れている。

ResearchPlusは今後、英国の産業戦略にも貢献しつつ、政府・産業・市民社会との連携を通じて、研究・教育の未来像を再構築するパートナーとなることを目指す。議会イベントで2025年10月に正式に発足予定。

参加大学:

  • Brunel University of London
  • City St George’s, University of London
  • Keele University
  • Royal Holloway, University of London
  • SOAS, University of London
  • The University of Essex
  • The University of Hull
  • The Open University
  • The University of Sussex
  • Ulster University

 【英文記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI):

https://www.hepi.ac.uk/2025/06/26/researchplus-a-manifesto-for-a-new-collaborative-of-universities/

 【関連記事】

2025年6月26日のResearch Professional Newsの報道によると、英国で新たに設立されたResearchPlusは、ラッセル・グループに属さない研究重視型大学10校による連携組織であり、自らを「過小評価され、十分な発言機会がなかった研究大学の集まり」と位置づけている、と伝えた。

このグループは、2025年6月にHEPIへのウエブ投稿を通じて設立を公表した。

主な目的は、これまで政策決定の場で十分に可視化されてこなかった大学群に「集団としての声(collective voice)」を与えることである。

英国の高等教育セクターでは、過去30年にわたり以下のような「ミッショングループ(目的別大学連携組織)」が形成され、現在もその役割を担っている:

  • ラッセル・グループ(伝統的な研究大学)
  • MillionPlus(元ポリテクニックなどの現代大学)
  • University Alliance(技術・専門志向の大学)
  • GuildHE(小規模・専門特化型大学)

これらグループは、それぞれの視点から政府や業界、学生と関係構築し、政策提言を行ってきた。ResearchPlusは、この構造における「ラッセル・グループ外の研究大学」の不在を「制度上の弱点」とし、それを補う新たな枠組みとして設立された。

また、今回の参加大学の中には、かつて「1994グループ(小中規模の研究大学の連携体)」に所属していたが、同グループが2013年に解散後、新たに所属するミッショングループを失っていた大学も含まれている。

ResearchPlusによると、参加大学には「学際的かつ広範な研究分野を持つ大規模大学」と、「特定分野に強みを持つ専門型大学」の両方が含まれる。英国の研究力が世界的に高評価を得ている背景には、こうした制度の多様性と柔軟性があるとし、全セクターの声を反映することの必要性を訴えている。

この連携はまた、政府、メディア、産業界、学生、第三セクターに対する可視性と発信力の強化を目指すとしており、国全体の研究・高等教育システムの健全性を高める存在として自らを位置づけている。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-universities-2025-6-underrepresented-research-universities-form-new-group/

 

(33) 英国のムーンショット機関ARIA、CEOが退任へ

2025年6月27日、英国の高等研究発明局(Advanced Research and Invention Agency: ARIA)の初代CEO、Ilan Gur氏が退任を発表した。約3年間にわたり創設段階から同機関を率いてきたGur氏の後任は現在公募中で、応募は8月3日まで受け付けられている。

ARIAは、米国の国防高等研究計画局( (Defense Advanced Research Projects Agency: DARPA)をモデルに、英国政府が2021年に創立した「高リスク・高リターン型」研究支援機関である。科学技術分野における画期的なブレークスルーを生み出すことを目的に、2023年に正式に始動した。

創設時には5年間で8億ポンドの予算が組まれ、今年4月には第二期となるプログラムディレクターが任命されている。彼らは、インターネット誕生に匹敵する技術革新の創出を目指して活動している。

今月発表された政府の歳出見直し(Spending Review)では、今後5年間に10億ポンド超の新たな予算がARIAに充てられることが決定され、政府の強力な後押しが続くことが明らかになった。

Gur氏は米国のARPA-E(エネルギー分野に特化したDARPA型機関)でのプログラムディレクター経験を持ち、シリコンバレーでは2社の起業および起業家育成プログラムの立ち上げにも関わった人物。ARIAでは、制度設計と組織の立ち上げを主導してきた。

退任にあたり、Gur氏はLinkedIn上にコメント:

「これまでのキャリアで最も重要で充実した仕事だったが、今こそ次のCEOにバトンを渡す時。ARIAにはすでに強固な基盤と優れたチーム、明確な資金的見通しが整っている」

自身の役割はもともと「期限付き」とされていたとし、組織を常に「新しい野心と視点で更新し続ける」ために、あえて時限的なリーダー交代を制度に組み込んでいたことも明かしている。

ARIAはまだ設立から2年足らずの新機関だが、英国のイノベーション戦略の中核を担う存在として注目されている。次期CEOがどのような方向性でリーダーシップを発揮するか、国内外の研究・産業界が注視している。

【英文記事】Sifed:

https://sifted.eu/articles/aria-ceo-ilan-gur-quits-uk

【関連記事】

2025年6月27日, 英国政府が設立した高等研究発明局(ARIA)は、従来の枠にとらわれない実験的なR&Dモデルとして、設立からわずか3年で完全に運用を開始し、AIの新しい計算パラダイムや神経技術など、野心的な研究プログラムに4億ポンド以上を投資してきた。

政府は今月、ARIAの2030年までの継続支援を発表し、その長期的な成長と繁栄への期待を明確に示した。設立初期の重要な節目を迎え、初代CEOであるIlan Gur氏は退任を決断。ARIAのCEO職は元々任期制として設計されており、新たな視点を取り入れるための交代が意図されていた。

次期CEOの公募がグローバルに開始され、応募締切は8月3日。候補者には、先端科学技術に関する実績、境界を越えたチームを鼓舞する創造的なビジョン、そして実行力が求められる。選考はARIAの会長Matt Clifford氏が主導し、面接委員にはDame Angela Maclean氏(英国政府の首席科学顧問)らが参加、最終的には科学技術大臣の承認を得て決定される。

Ilan Gur氏のLinkedin の投稿:https://www.linkedin.com/posts/ilangur_were-starting-the-search-for-arias-next-activity-7344274411929104384-QO-H?utm_source=share&utm_medium=member_desktop&rcm=ACoAACwVuLwBF5c1Qq8LFrfFSx1cvqjYu6pp2eM

【英文記事】高等研究発明局(Advanced Research and Invention Agency: ARIA):

https://ariaresearch.substack.com/p/a-new-chapter-were-looking-for-arias

 

(34) 海外からの研究開発投資の減少が懸念

2025年6月27日、英国ビジネス・通商省(Department of Business and Trade: DBT)が前日に発表した統計によると、2024〜25年度に英国で実施された海外直接投資Foreign Direct Investment: FDI)による研究開発プロジェクトの数は308件で、前年の414件から26%減少したことが分かった。全体としても、英国へのFDIプロジェクト総数は前年比12%減となっている。

大学・産業連携を推進する国立大学産業センターNational Centre for Universities and Business: NCUB)のCEO、 Joe Marshall博士は、ライフサイエンス、ICT(Information and Communication Technology: 情報通信技術)、メディア・創造産業といった戦略的に重要な高付加価値分野での減少を特に懸念。「産業戦略を成功させ、英国のイノベーション主導の成長を実現するには、投資の強化が不可欠」と指摘した。

FDIはここ数年、英国のR&D投資全体の約14%を占めており、英国の研究とイノベーションにとって重要な資金源となっている。

一方で政府側は、「量より質」への転換を強調。ビジネス・通商省の報道官は、「英国全域でインパクトが高く雇用を創出するFDI案件に重点を置いた結果、1件あたりの価値は上がっている」と説明した。

6月23日に発表された新たな産業戦略では、「英国のR&Dシステムを長期的な経済成長に向けて重点化する」ことが明記されており、地方や各国(スコットランド、ウェールズなど)への投資促進も柱の一つとなっている。

このように、英国政府が掲げる「イノベーション主導の成長」方針と、現実の投資減少との間にギャップが生じており、その対応と成果が今後注目されている。

 【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-innovation-2025-6-concern-over-drop-in-uk-r-d-projects-funded-by-foreign-cash/

 

(35) 基礎研究こそ守るべき:英国科学担当大臣が削減のリスクに警鐘

2025年6月30日、Vallance科学閣外担当大臣は、6月30日に開催された「Metascience 2025」会議で、基礎研究への支援を拡大すべきだと強調した。基礎研究は「成果が見えにくく、政府にとって最も削減しやすいが、将来の科学技術の土台となる」と述べ、保護の重要性を訴えた。また、応用研究や企業によるR&D支援も欠かせないとし、860億ポンドの研究予算をどう配分するかが課題だとした。一方で、財政難の大学が非資金提供型研究を縮小する動きもあり、制度の見直しが急務となっている。政府の「Metascience Unit」が研究評価や資金配分のあり方を検証する実験的な取り組みを進めていることにも触れ、AIを活用した研究の独創性評価の国際チャレンジも発表した。市民の理解と納得を得るためにも、科学の進め方自体を問い直す必要があると結んだ。

【英文記事】Research Professional News:

https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-uk-politics-2025-6-we-must-protect-and-grow-basic-research-funding-vallance-says/