2026年1月14日
(1) 中国の人権研究を中止、大学が謝罪
(2) 研究者にとって魅力的な移住先、英国が第4位
(3)「High Potential Individual(HPI)ビザ」の受け入れ人数を倍に
(4) OfS、成績インフレの兆候を受け大学に警告
(5) 英国政府、健康・防衛・エネルギー分野での量子技術活用を後押し
(6) 英国政府は中国と特定分野での科学協力を強化
(7) 英国政府:動物実験を段階的に廃止し、代替技術を支援
(8) 英国の研究開発、国民の理解は広いが関心は浅い
(9) 英国、ホライズン・ヨーロッパ拠出金の回収を予想
(10) 医療教育者:教育などの重要性の認識向上とNHS医療人材計画の強化を訴える
(11) 英国、ライフサイエンスの最先端プロジェクトに巨額の資金提供
(12)次期ARIA新CEO 発表
(13) 英独の大学間連携強化:研究開発の潜在力を引き出す鍵に
(14) 英国高等教育財政に深刻な課題継続 2025/26年度、大学の約半数が赤字見込み
(15) 研究支援現場でAI利用が急速に普及、国際調査が示す
(16) 科学大臣:英国の成長と雇用創出に向けたR&D投資を強化
(17) イングランドの大学、教育資金が10年間で64億ポンド減少
(18) 研究者支援強化へ、医療研究組織がパートナーシップ
(19) 大学の研究・イノベーション支援、4年間で4億2,500万ポンドの増額
(20)留学生徴税 一律1人当たり925ポンド
(1) 中国の人権研究を中止、大学が謝罪
2025年11月3日、BBCの調査によるとSheffield Hallam Universityは中国当局から圧力を受け、中国・新疆ウイグル自治区での強制労働に関する研究を停止し、研究論文の公表も取りやめていたとして、同大学の人権・現代奴隷制教授Laura Murphy氏に謝罪した。大学に対しては、中国国家安全当局関係者を名乗る人物から研究中止を求める脅迫があった他、中国国内から大学のウェブサイトへのアクセスもブロックされた。大学は2025年初めに必要な損害賠償保険を確保できなかったことなどを理由に研究を中止したが、。その後「当時は複雑な状況下での判断だったが、現在はMurphy氏の新たな研究を承認し、全面的に支援する」と述べ、研究の自由と表現の自由を守る姿勢を強調した。Murphy氏は学問の自由の侵害として「高等教育言論の自由法(2023年)」に基づく法的措置を準備していたが、その後取り下げた。弁護士は「」と大学の対応を批判している。
(2025年11月3日)
【英文記事】Research Professional News:
(2) 研究者にとって魅力的な移住先、英国が第4位
Elsevierが公表した国際調査報告書「Researcher of the Future」によると、研究者が海外移住先として魅力を感じる国ランキングで、英国はカナダ、米国、ドイツに次いで4位となった。調査は113か国・3,000人超の研究者を対象に実施された。報告書は、地政学的要因や移民政策の議論などにより、米国など従来の人気国の魅力が変化している可能性を指摘している。
研究者が移住を望む主な理由は「自らの研究の社会的影響を高めたい」という意欲である。また調査では英国や北米・欧州の研究者はアジア太平洋地域の一部の研究と比べて、研究資金の増加に対して著しく楽観的でないことが分かった。今後2〜3年で資金増加を見込む英国研究者は15%にとどまり、インド(68%)や中国(44%)を大きく下回った。研究時間の不足や「論文発表圧力」の高まりも顕著で、特に若手研究者ほど強いプレッシャーを感じている。
AIの活用については、研究者の58%がすでにAIツールを使用しており、61%が「今後2〜3年でAIが新たな知識創出の原動力になる」と予測している。特に、南米やアジア太平洋地域では、北米や欧州よりもAIによる省力化効果への期待が高かった。報告書では、全体として研究者はAIの影響を楽観的にとらえており、特にその考えは経験豊富な研究者よりも若手の研究者で広まっていると付け加えている。
(2025年11月4日)
【英文記事】Research Professional News:
(3)「High Potential Individual(HPI)ビザ」の受け入れ人数を倍に
英国政府は、High Potential Individual(HPI)ビザの対象となる世界の大学の数を倍増させ、欧州やオーストラリアからの新しい卒業生が英国で就労が可能となった。
HPIビザは、英国に来る国際的な研究者などが利用するルートの一つであり、過去5年以内に英国外のトップランクの大学を卒業した者を対象としている。政府は、このビザで入国する人数を来年2,000人から4,000人へ倍増させることを目指している。
5月に発表された移民白書で、政府は対象大学リストを倍増させると述べており、11月4日に公表された最新のリストでは、2024年の42校に対し80校となった。これらの大学は、少なくとも二つの世界大学ランキングでトップ100に入っている機関から選定されている。
2024年のリストでは米国が47.6%を占めていたが、今回のリストでは41.3%となり、依然として最大ながらも割合は減少した。欧州の大学の割合は2024年の16.7%から25%に増加した。ベルギーはKU Leuvenが初めてリスト入りした。オランダも初めて選定された結果3校がリスト入りし、スウェーデンとフランスはそれぞれ1校から4校に増加した。オーストラリアでは2024年にはUniversity of Melbourneのみであったが、2025年には6校に大幅に増加した。中国本土の大学の割合は2024年の11.9%から2025年には8.8%へと減少した。
(2025年11月5日)
【英文記事】Research Professional News:
(4) OfS、成績インフレの兆候を受け大学に警告
英国の高等教育規制機関である学生局(Office for Students: OfS)は、一部大学で成績インフレの兆候が見られたことを受け、各大学に学位判定アルゴリズムの見直しを求めた。
報告書によると、大学が使用するアルゴリズムの変更が優等成績(上位等級)の学生割合増加に影響している可能性があるという。2023/24年度の一等(First)・二等上位(Upper Second)学位の割合は77.2%で3年連続の減少となったものの、2010/11年度からは9.7ポイント上昇している。一等のみでは同じ期間で13ポイント上昇している。
OfSはSt Mary’s University、University of West London、Teesside Universityを調査し、前2校では学位判定アルゴリズムの改定が上位成績増加につながる設計だったと指摘。両大学は修正対応を行い、追加措置は不要とされた。
OfSは今後、学位の信頼性確保のため、アルゴリズム設計に関するさらなる指針を出す可能性があるとしている。
(2025年11月6日)
【英文記事】Research Professional News:
(5)英国政府、健康・防衛・エネルギー分野での量子技術活用を後押し
ロンドンで開催された「National Quantum Technologies Showcase」に合わせて、量子技術が経済成長や国家再生、また「変革のための計画」の中心である医療・気候変動などの課題解決に貢献する可能性を示す複数の発表が行われた。
政府とInnovate UK は、医療・交通・防衛で利用可能な次世代量子センサー開発を支援する「Quantum Sensing Mission Primer」賞から14件のプロジェクトに1,400万ポンドを配分する。これには、病院で使われている大型で高価な装置に代わる携帯型眼科スキャナーや、地下構造物を掘削せずに検知できる新型センサーなどが含まれる。
科学閣外担当大臣であるVallance氏は、量子技術が医療診断や超高速計算を可能にする重要分野であり、英国にはすでに強みと有望な企業が多いと述べた。
量子分野は産業戦略の重点セクターであり、政府は量子コンピューティングに6.億7000万ポンドを投じている。量子技術は、新薬開発の大幅な効率化、非破壊での建築・地下構造物の診断、てんかんの高精度診断など、幅広い分野で大きな可能性がある。また、こうした量子技術が発展することで、2045年までに英国GDPへ110億ポンド、10万超件の雇用を生み出す潜在力があるとされる。
追加で取り上げる事項として:
2025年は「国際量子年」であると同時に、英国国家量子技術プログラムの発足から11周年という節目の年でもある。同プログラムは、学界・産業界・政府が連携する独自の枠組みで、量子イノベーションを研究室から市場へより早く送り出すことを目指している。
(2025年11月7日)
【英文記事】
(6) 英国政府は中国と特定分野での科学協力を強化
科学閣外担当大臣Vallance氏は、英国のナショナルアカデミーや大学、UKRIの代表団を率いて北京を訪問し、中国側の政治家、研究者、企業関係者と会談し、両国に利益をもたらす可能な科学分野を具体的に協議する。対象となるのは、気候変動・環境、惑星科学・天文学、健康研究、農業・食品研究の4つの分野で、これらは英国が中国と一層緊密に協力することで利益が見込める分野である。また国家安全保障を最優先としつつ、英国に利益のある4つの分野で、中国との協力を支援する一方で、他の分野よりリスクがあることも認識している。
中国は年間約3,800億ポンドをR&Dに投じる「科学技術大国」であり、世界のR&D人材の25%、トップ大学の20%を占める。一方、英国も世界トップ10大学中4校があり、1.2兆ドル規模のテックセクターを持つ。両国の強みを生かした「選択的でターゲットを絞った協力」は、双方にとって利益があると政府は説明している。
訪中中、Vallance氏は清華大学のカーボンニュートラル研究所や、広州の英中CCUS(Carbon Capture, Utilisation and Storage)センターなどを視察し、脱炭素技術での協力の可能性を確認する予定である。また、中国の対ロシア支援、香港の自由の後退、英国内民主制度への干渉疑惑、データ・知財・技術移転に関する懸念など、英国が問題視する点も中国側に提起する意向である。
(2025年11月11日)
【英文記事】科学・イノベーション・技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)
https://www.gov.uk/government/news/uk-to-advance-targeted-science-cooperation-with-china
(7) 英国政府:動物実験を段階的に廃止し、代替技術を支援
英国政府は、動物実験を段階的に廃止する新たな戦略を発表した。科学閣外担当大臣Vallance氏は、政府の公約に沿った取り組みとして、段階的に研究者が新しい代替手法を活用できるよう支援すると説明した。対象となるのは、ワクチンの安全性評価や農薬など化学物質の影響を確認するために現在行われている一部の動物実験である。
新戦略では、動物実験に代わる信頼性の高い方法が利用可能な場合に限り、段階的な廃止を進める方針を示す。具体的な代替手法として、臓器チップシステム (実際のヒト細胞を使ってヒトの臓器の働きを模倣する小型デバイス)、AIによる分子情報解析を用いた新薬の安全性予測、3Dバイオプリント技術によるヒト組織モデルなどが挙げられている。
今後の具体的な目標として、2026年末までに皮膚・眼の刺激性や感作性を評価する規制試験の動物実験を廃止し、2027年にはボトックスのマウス実験やヒト医薬品の偶発性病原体試験でDNAベースの手法のみを用いることを目指す。2030年までには、薬物動態研究における犬や霊長類の使用も削減される予定である。
新戦略は、動物代替法の開発・導入で実績のある国立動物代替研究センター(National Centre for the Replacement, Refinement and Reduction of Animals in Research: NC3Rs)がワクチンなどの分野で成功させた非動物代替法を基盤に、政府がライフサイエンス分野の専門家、企業、動物福祉団体と緊密に協議して策定したものであり、動物実験の段階的廃止を通じて動物福祉を向上させる政府の公約を実現することを目指している。
戦略には6,000万ポンドの資金が投入され、研究者の協力を促進するハブや代替法の規制承認を簡素化するセンターが設置される。来年には主要評価指標が公表され、進捗が確認される予定である。その他の取り組みとして、若手研究者向けの代替法の基礎研修の実施、研究優先課題の2年ごとの公表、資金提供者のコミットメント強化、学術誌を通じた情報公開、英国を代替法規制の国際的リーダーとして位置づけることなどが盛り込まれている。
(2025年11月11日)
【英文記事】科学・イノベーション・技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)
(8) 英国の研究開発、国民の理解は広いが関心は浅い
英国の科学・工学キャンペーン(Campaign for Science and Engineering: Case)の報告書によると、国民は研究開発(R&D)の利益を十分に理解しておらず、投資への支持が限定的になっている。8,000人以上の成人を対象とした調査では、政府のR&Dへの投資を重要と考える人は88%いる一方で、R&Dに個人的な関心を持つ人はわずか29%にとどまり、「広く浅い支持」と指摘されている。報告書は、R&Dの重要性を国民に伝えるには、身近で具体的な事例を示し、地域レベルでの活動や成果を可視化すること、そして統計だけでなくストーリーテリングで感情的なつながりを作ることが必要だと提言している。国民の理解と関心を高める取り組みを今後3年以内に進め、その後再調査することで、長期的なデータを蓄積する計画。
(2025年11月11日)
【英文記事】Research Professional News
(9) 英国、ホライズン・ヨーロッパ拠出金の回収を予想
英国政府は、ホライズン・ヨーロッパ復帰初年度(2024年)の成果が低調だったため、EUへの拠出金の一部について返金を受ける見通しであることが政府文書で示された。
英国は再参加時、拠出額が英国側の獲得額を16%以上、上回る場合には、その差額が自動的に補正(返金)される仕組みでEUと合意しており、これにより英国の「持ち出し額(損失)」は事実上、一定範囲に抑えられることになる。2021〜2024年の間、英国はEU離脱によりEUの研究者とのつながりが弱まり、政府は公に認めたことになった。
科学・技術・イノベーション省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)が10月末に公表した資料では、2026〜27年度のEU向け拠出金が減少する見込みで、これは「自動補正メカニズムの影響を反映したもの」と説明されている。
ただし、実際にどの程度の返還(控除)が行われるかはまだ確定しておらず、欧州委員会は「2026年に正式に算定される」としている。
英国は2023年にEUと最終合意し、2024年から正式に同プログラムに再参加。欧州研究会議(European Research Council: ERC)ではすでに成果を上げているものの、共同研究型プロジェクトではまだ回復途上で、であるホライズン2020の60〜70%程度にとどまっている。なお、返還は現金での送金ではなく、今後の拠出金から差し引かれる形になる。
(2025年11月13日)
【英文記事】Science Business:
https://sciencebusiness.net/news/horizon-europe/uk-expects-horizon-europe-contribution-clawback
(10) 医療教育者:教育などの重要性の認識向上とNHS医療人材計画の強化を訴える
英国の保健・社会福祉省(Department of Health and Social Care: DHSC)が実施した「NHS 10年間医療人材計画」の意見募集では、医療人材の将来像や必要なスキルに関する幅広い意見が寄せられた。しかし、医療教育・研修機関からは、教育・研修・研究の役割が十分に反映されていないとの指摘も出ている。
ラッセル・グループや各医療系大学団体は、Wes Streeting保健大臣とKarin Smyth保健担当大臣に共同で書簡を送り、教育・研修・研究を新たな10年計画の中心に据えるよう要請した。OECDの最新データでは、英国は人口10万人あたりの医師養成数が13人と主要国の半分以下に留まっている。
ラッセル・グループのCEOであるTim Bradshaw博士は、大学の教育・研修の専門家なしではNHS 医療人材計画は成功しないと述べ、教育拡大の障壁撤廃と十分な資金確保の重要性を強調した。
書簡では、政府がNHS 10年間医療人材計画で実現しようとしている3つの大きな転換、すなわち病院からコミュニティへ、アナログからデジタルへ、病気から予防へという転換に大学がどのように貢献しているかについても概説している。
University of YorkのTracy Lightfoot副学長は、政府・医療機関・大学の緊密な連携が必要であり、統合的な人材戦略が重要だと述べている。
(2025年11月14日)
【英文記事】Russell Group:
(11) 英国、ライフサイエンスの最先端プロジェクトに巨額の資金提供
英国政府は、7,400万ポンドを超える政府および産業界からの資金提供により、ライフサイエンス分野の革新的なアイデアを支援する。これは、1,500億ポンドの年間売上高を誇る英国のライフサイエンス部門を、経済成長、公衆衛生の改善、国家再生の鍵とする政府の計画の一環である。
VPAG投資プログラムを通じて官民共同の「持続可能な医薬品製造イノベーション計画」向けに5,400万ポンド超を8件の研究開発プロジェクトへ配分、さらに産業界から2,000万ポンド以上の追加投資が行われる。これにより、医薬品製造の環境負荷と無駄を減らす技術、麻酔ガスの再利用、使用済み核燃料の放射線治療薬への転用などが支援される。実施主体はInnovate UKである。
また、医薬品・医療製品規制庁(Medicines and Healthcare products Regulatory Agency: MHRA)に、100万ポンド近くを「エンジニアリング・バクテリオファージ製品」の規制課題に対処するために出資する。これは、抗生物質耐性菌対策として注目されるバクテリオファージ(細菌を破壊するウイルス)の研究開発を促進し、安全なイノベーションを保証することを目的とする。5つの規制機関と英国保健安全保障庁(UK Health Security Agency: UKHSA)と協働し、抗菌薬耐性への対策として期待されるバクテリオファージ技術の安全な実用化に向けた規制基盤を整備する。
加えて、ロンドン・ライフサイエンス・ウィークに合わせて、英国のライフサイエンス分野への投資を促進する動きが発表された。英国ビジネス銀行(British Business Bank: BBB)は欧州全域のベンチャーキャピタルファンドに対して3,000万ユーロの出資を表明した。これにより、新しい医薬品・医療技術企業への投資が促進され、英国をライフサイエンス投資の中心地として強化する。
ロンドンを拠点とする企業は2025年これまでに16億ポンドのベンチャーキャピタル投資を集めており、これはパリの3倍以上で、英国がヨーロッパにおけるライフサイエンス投資の中心地であることを確固たるものとしている。
ライフサイエンス部門は、国内で30万件以上の雇用を支えており、産業戦略における8つの主要成長分野の1つとして位置づけられている。近年の主な成功例として、Prologis によるケンブリッジ・バイオメディカル・キャンパスへの30億ポンド投資、GSK の5000万ポンド投資などが挙げられる。さらに、Moderna はオックスフォードシャーに最先端の新施設を開設した。
(2025年11月18日)
【英語記事】科学・イノベーション・技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)
(12)次期ARIA新CEO 発表
2014年、2人のテストパイロットが操縦するボーイング製無人ヘリ「リトルバード」に対し、高度な技術を持つハッカーが操縦権を奪おうと試みたが失敗した。
この防御を可能にしたのは、かつて不可能と言われた米国国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency: DARPA)のプログラム「High-Assurance Cyber Military Systems : HACMS」のソフトウェアである。
HACMSはサイバーセキュリティに革命をもたらし、現在では世界の大手テック企業が重要システムを守るために使う「形式手法」の土台を提供した。このHACMSを主導したKathleen Fisher氏が、先端研究・発明庁(ARIA)の次期CEOに就任することが発表された。
ARIAは設立から3年で、16人のプログラムディレクターを採用し、AI安全性から合成生物学まで9つのプログラムを開始、4億ポンド超の投資を行うなど基盤を築いてきた。今後は、立ち上げたプログラムを実際のブレークスルーにつなげる段階に入る。
Fisher 氏は DARPA で 5 億ドル規模・50超のプログラムと大規模チームを率いた経験があり、ARIA の CEO に求められる規模の指揮能力を備えている。さらに個々のプロジェクトを超えて、AI Cyber Challenge や Resilient Software Systems のように産業界や研究コミュニティ全体を動員し活性化してきた点が最も重要であり、集中型機関が資金提供以上の影響力を生み出す方法を熟知している。
ARIAのCEOの候補として世界中のトップ研究者、成功した起業家、ARPAの経験者など314件の応募があった。応募者の質と幅広さは英国のグローバルは研究開発力の強さを物語っている。
ARIAの使命と運営モデル(PD主導・長期資金・大胆なリスク選択)は変わらず、Fisher氏は現CEO Ilan Gur氏からの引継ぎを受け、2026年2月から正式にCEOに就任する予定。
(2025年11月19日)
【英語記事】先端研究・発明庁(Advanced Research and Innovation Agency:ARIA)
https://www.aria.org.uk/insights/introducing-our-next-ceo
(13) 英独の大学間連携強化:研究開発の潜在力を引き出す鍵に
ラッセル・グループは、独/英の研究開発協力を強化するには、共同PhDプログラム、短期科学交流、産業界での博士課程・ポスドク実習の拡充が効果的だとする報告書を発表した。
今週ロンドンで、ドイツU15大学連盟とラッセル・グループが会談し、EU次期研究枠組みや独英条約にもとづく優先課題について議論した。
今回の発表では、共同PhD・ポスドクフェローシップの支援、AIなど新分野での短期交流(サマースクール)、産業界との共同産業PhD、英独研究助成機関の手続き簡素化など、両国の研究力を生かす具体策を提示。
両団体の代表らはコメントを発表し、英独は共通の課題を多く抱えており、既に広範な研究協力が進んでいることから、今回の条約を機に連携をさらに深め、競争力と社会的インパクトを高めていく重要性を強調した。
(2025年11月19日)
【英文記事】ラッセル・グループ:
(14)英国高等教育財政に深刻な課題継続 2025/26年度、大学の約半数が赤字見込み
2025年11月20日に学生局(Office for Students: OfS) から発表された報告書は、同年5月に公表されたOfSの財務持続可能性年次報告を更新したもので、今年秋に入学した英国内および留学生の初期データを反映している。英国国内・留学生ともに全体として募集人数が増加している。
主なポイントは以下のとおり:
一方で、財務状況と募集状況の格差は依然大きく、緩和策なしでは124大学(対象の45%)が2025–26年度に赤字となる見通しで、これは5月時点の予測(34%)より増加している。
OfS規制局長Philippa Pickford氏は、増加した学生募集は朗報だが、依然として深刻な課題が残されたままとコメントした。授業料水準の明確化や各大学のコスト削減・協働・現実的な成長戦略は進んでいるものの、多くの大学が2025–26年度末までに赤字となり、一部は資金不足の問題にも直面する見込み。中には非現実的な成長予測や短期的対応にとどまる大学もあり、必要に応じて事業規模の見直しなど抜本的改革が求められるとしている。
OfSは引き続き個別に大学およびセクター全体の財務健全性を評価し、関係機関と協力しながらリスクへの対応とガバナンス強化を進める。財務問題が発生した場合には適切に学生が保護されるよう、また、世界的に有名な高等教育セクターが引き続き繁栄するよう関係機関と緊密に協力することを示した。
(2025年11月20日)
【英文記事】学生局(Office for Students:OfS)
(15) 研究支援現場でAI利用が急速に普及、国際調査が示す
Research Professional News(RPN)が世界の研究支援職1,100人超を対象に実施した国際的な大規模調査では、研究管理・事務を担う部門におけるAI活用が広がる一方、多くがAIを研究の信頼性への最大の脅威と考えているが明らかになった。調査では、回答者のうち35%が資金機会の検索、33%が申請書の編集に、30%がデータ管理にAIを使用しており、申請書作成の情報収集でも24%がAIを活用していた。研究者1,400人超への別調査では、文献検索(48%)、文献レビュー(35%)、論文執筆(33%)、データ分析(30%)などでAI利用が広がっていた。
今後5年間に期待されるAIの利点として、研究オフィス職員の約半数が資金機会の特定(48%)、申請書編集(47%)、データ管理(46%)、不採択申請の分析(46%)を挙げた。しかし同時に、研究管理・事務を担う部門の職員の60%がAIを研究の最大の脅威として指摘し、出版圧力やトレーニング不足以上のリスクとみなしていた。回答者からは、AIが批判的思考の代替として使われることへの懸念や、責任ある利用のための研修が必要である等のコメントがあった。
調査ではさらに、Donald Trump氏の米大統領復帰と連邦研究資金の混乱が各国の研究機関に与えた影響も尋ねた。北米以外の回答者では、29%が米政府の政策による資金喪失、26%が米国との共同研究終了、15%がコンプライアンス要求の増加を挙げた。北米内の回答者のみを見ると資金損失の回答割合が83%と北米以外の回答者に比べはるかに高く、コンプライアンス対応増加の回答割合も50%と高かった。その他の影響として、DEIに関する資金機会の喪失や研究データへのアクセスをめぐる新たな課題も指摘された。
(2025年11月20日)
【英文記事】Research Professional News:
(16) 科学大臣:英国の成長と雇用創出に向けたR&D投資を強化
英国政府は、公的研究開発資金の運用方法を大規模に改革し、英国の成長と雇用創出を促進するための重点投資を行う。将来有望なスケールアップ支援、現代産業戦略による経済成長と雇用機会の加速、そして生活の向上に資金を重点配分する。科学・イノベーション・技術省(Department for Science、Innovation and Technology: DSIT)大臣であるLiz Kendall氏は、これまで公的資金が分散していたことを指摘し、「より少ないことをより良く行う」方針で、成長性の高い企業や英国が競争優位を持つ分野への資金優先配分を示した。
資金配分の主な内訳:
UKリサーチ・イノベーション(UK Research & Innovation: UKRI)が管理する記録的な386億ポンドの公的資金は、主に3つの戦略的重点分野に配分される。
第一分野:英国の強みを支える研究に90億ポンド:
第二分野:政府の優先事項に沿った研究
第三分野:好奇心に基づく研究に140億ポンド
大学は、UKRIの過去最大規模の研究開発(R&D)資金の主要な受益者となる。Spending Review(財政計画)期間中、大学の基盤ブロック助成金およびDSITからの商業化資金は、見込まれるインフレ率に応じて増額される。
また、特に現代産業戦略の8つの重点分野において、優秀な科学・研究人材を英国に呼び込むことは、経済成長や雇用の向上、新たな産業の創出の基盤となる最先端のブレークスルーを実現する上で不可欠である。この取り組みの一環として、政府は総額5,400万ポンドのグローバル・タレント・ファンドを通じ、世界的に著名な研究者4名を英国に招へいした。これらの世界的に著名な研究者は、それぞれ最大10名の研究支援者を海外から招くことが期待されている。
合わせて、英国の経済成長を加速させるためにR&D分野を支援する一連の追加施策も発表された。
UKRIのCEOであるIan Chapman教授は、「この記録的なR&D投資は、英国の研究とイノベーションを国家の成功の最前線に置くという政府のコミットメントを示している」と述べ、知識を進歩させ、生活を改善し、成長を推進するというUKRIの使命を改めて強調している。
(2025年11月24日)
【英文記事】科学・イノベーション・技術省(Department for Science、Innovation and Technology: DSIT)
(17) イングランドの大学、教育資金が10年間で64億ポンド減少
最新の英国大学協会(Universities UK: UUK)の分析によると、イングランドの大学は国内学生向け教育に対して過去10年間で大幅に資金不足に陥っていることが明らかになった。2015/16年度を基準にすると、授業料と政府からの直接助成金を合わせた教育資金は、インフレに追いつかず、現在は年間64億ポンド減少しており、1学生あたりの資金は当時の64%しかない。
この状況は、学生局(Office for Students: OfS)の最近の予測にも裏付けられている。以前は2024/25年度に赤字になる大学は35%と見込まれていたが、最新の入学データに基づく試算では45%に上昇すると示されている。
政府は授業料をインフレに連動させる方針を発表しているが、これは既に生じている資金不足の穴を埋めるものではない。また、留学生に係る徴税案は年間7億8,000万ポンドの追加コストを大学に課すとされ、授業料のインフレ調整で賄えるのはその半分程度(4億4,000万ポンド)にとどまる。
UUKの60会員校を対象とした調査では、大学は経営圧迫に対応するため、2025年春時点で49%がコースを閉鎖、55%がコースを統合、46%がモジュールを削減、18%が学科を閉鎖していることがわかった。さらに約8割の大学が将来的な研究投資の削減を検討している。
UUKは、今週の予算発表を前に、政府に対し留学生に係る徴税が大学の教育・研究能力に与える影響を認識し、将来のスキル育成や先端研究・イノベーションを通じた経済成長への貢献を損なわない政策へ変更することを求めている。
(2025年11月25日)
【英文記事】英国大学協会(Universities UK: UUK)
(18) 研究者支援強化へ、医療研究組織がパートナーシップ
英国の医学科学アカデミー(Academy of Medical Science: AMS)とWellcome財団は、新たに5年間のパートナーシップを結び、英国の生物医学・医療研究者の支援を強化すると発表した。
AMSとWellcomeによる2,730万ポンドの協定は、両団体の既存のパートナーシップを基盤として構築されており、才能ある研究者を育成する世界的リーダーとしての英国の地位確立や、多分野・多セクターでの協力を促進する「より包摂的な研究エコシステム」の構築を目的としている。また、政策を通じて学界・産業・NHSの研究人材開発を支援し、エビデンスに基づく人材育成を推進する。
AMSのAndrew Morris会長は、2012年以来、医学系研究者が6%減少している現状を踏まえ、若手研究者が独立したキャリアを確立するための支援が不足していると指摘した。
パートナーシップでは、WellcomeがAMSの「Future Leaders in Innovation, Enterprise and Research」プログラムへの共同資金提供を開始し、臨床講師向けのスターターグラントやSpringboard賞も継続支援する。スターターグラントは支給額を3万ポンドから4万ポンドに引き上げ、5年間で100件以上の受給者に資金提供する。Springboard賞も新たな地域拠点での45回のイベントを通じ、2,000人以上の研究者にリーチする予定である。
WellcomeのRachel McKendry氏は、これらの取り組みにより研究者支援と協力促進、政策連携が進み、最先端の発見につながり、人々の生活改善に寄与すると述べた。
(2025年11月25日)
【英文記事】Research Professional News:
(19)大学の研究・イノベーション支援、4年間で4億2,500万ポンドの増額
英国の秋季予算で、大学に配分される研究・イノベーション関連のブロックグラント(QR:Quality-related funding と HEIF:Higher Education Innovation Funding)が、2030年まで総額4億2500万ポンド増額され、今後4年間にわたり実質的に保障されることが財務省から確認された。
これは、インフレに追いつかず実質価値が目減りしてきたQRがさらに留学生収入への新たな徴税で圧迫されている状況を踏まえ、大学側にとって安心材料となる。
予算文書では、Research England を通じて配分されるQRとHEIFが支出見直し期間中「実質的価値を保ったまま」維持されると示された。ラッセル・グループは以前からQRをインフレに連動させるよう求めており、2010〜2025年で実質16.5%の減少が生じていると指摘していた。
HEIFは知識交換活動を支える資金で、10月には政府の成長ミッションへの貢献を求める制度改革が発表されている。英国大学協会(Universities UK:UUK) のVivienne Stern氏は、QRとHEIFが安定的に確保されることを歓迎した。
Research England や研究評議会の詳細な予算は12月に明らかになる見込みである。
また、予算には「科学政策に科学的方法を適用する」取り組みの強化も盛り込まれ、UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)と科学・イノベーション・テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)が共同運営するMetascience Unitへの投資を2026-27年度に3倍以上に増やし、研究評議会全体での分散型査読のプロセスの拡大も計画されている。分散型査読プロセスのUKRIトライアルでは、審査時間が半分以下になり、査読者の参加率も向上したとされ、さらに2026年に追加の試行が予定されている。
(2025年11月26日)
【英文記事】Research Professional News:
(20)留学生徴税 一律1人当たり925ポンド
本日発表された英国の秋季予算で、イングランドの大学は2028-29年度から、留学生1人につき年間一律925ポンドの留学生徴税を支払うことが明らかになった。ただし毎年、最初の220人分は免除される。徴収された資金は高等教育とスキル分野に再投資され、
この政策は、従来想定されていた「留学生学費収入の6%課徴金」よりは低い水準だが、多くの大学が財務難に直面する中、さらなる負担増になるとして大学関係者から強い懸念が示されている。英国大学協会(UUK)や専門大学団体GuildHEは、一律料金は小規模・専門性のある大学を不利にし、財務的弱者により大きな影響を及ぼすとして批判。研究や高コスト設備への投資、人材育成にも悪影響が及ぶと警告されている。
また、高等教育の根深い問題に向き合うのではなく、移民のせいにして責任を押しつけているとの指摘もあり、高等教育関係者や議員からも懸念の声が上がっている。大学側は、成長と研究を支える留学生の重要性を踏まえ、政府に対して政策の見直しと十分な協議を求めている。
(2025年11月26日)
【英文記事】Research Professional News
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The PIEは、2023/24年度の入学データを基に、2028年に導入予定の「留学生徴税」によって、イングランドのどの大学が最も影響を受けるかを分析している。
財務省は、当初移民白書で示した「留学生収入の6%課税」ではなく、「留学生1人当たり925ポンドの一律課徴税」を検討している。ただし、各大学には年間220人分の留学生について免除枠が与えられるため、小規模・専門大学は課税を免れる可能性が高い。一方で、多数の留学生を抱える大規模大学が最も打撃を受けるとみられる。
最新の高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency: HESA)のデータ(2023/24年度)によれば、ロンドンは最も留学生が多い地域であり、徴税の影響が最も大きいと予測される。逆に、留学生数が少ない北東地域の影響は小さい。
徴税の影響が大きいとみられる大学トップ5は以下の通り。
なお、この試算は2023/24年の入学数に基づくものであり、実際の学生数は2028年までに大きく変動する可能性がある。
(2025年11月28日)
【英文記事】The Pie:
https://thepienews.com/data-wholl-be-worst-affected-by-englands-international-fee-levy/