2026年3月13日
(1) UKRIのCEOが謝罪:資金配分変更を巡る研究コミュニティとの対話不足
(2) 日英パートナーシップが量子および将来の接続技術の推進
(3) 英国はFP10に全面参加しない形の参加を模索か
(4) UKRI:博士課程奨学金2026/27年度4.9%の引き上げ
(5) 研究規模拡大が合併の鍵:City St George’s, University of London 合併、HEPI報告
(6) UUK分析:政府の政策決定が大学財政に及ぼす影響
(7) 図書館のS2O支援により、王立協会のジャーナル2026年号が無料公開
(8) 英国のAI戦略で科学・研究の最前線を維持へ(医療・公共サービス革新)
(9) 大学団体、博士課程学生の賦課金免除を閣僚に要請
(10) 国家コンピュータ資源(NCR)が研究者向けに開放へ
(11) NERC、大気科学投資を新技術にシフト
(1)UKRIのCEOが謝罪:資金配分変更を巡る研究コミュニティとの対話不足
UK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)のトップは国家資金提供機関の大きな改革に関して研究・イノベーション界への「十分な連携ができず至らなかった」ことを謝罪した。
2月3日、UKRIのCEOであるIan Chapman氏が下院科学・イノベーション・技術委員会に出席した際、議員らから厳しい追及を受けた。この数日前には、UKRIの組織改革に伴う予算再編の影響として、物理学プロジェクトの大幅なコスト削減や、バイオメディカル分野の助成金における混乱などが報じられたばかりである。議員からUKRIはその再構築のために研究界の理解を得ながら進めているのか、と問われるとChapman氏は資金提供機関として「情報管理体制が不十分だったため、この1ヶ月間、然るべき形で周知ができなかった。」と回答した。
同氏の発言は科学技術施設評議会(Science and Technology Facilities Council: STFC)の1億6,200万ポンドのコスト削減、医学研究会議(Medical Research Council: MRC)とバイオテクノロジー・生物科学研究会議(Biological Sciences Research Council: BBSRC)での公募型助成金の一時停止など、研究界で懸念が急増している事態を受けて行われたものである。
下院委員会でChapman氏は、予算そのものを削る『削減』は行っていないと強調し、STFCでコスト削減の実施は、今後数年間の支出が予算枠を大幅に超過する見通しとなったためだと説明した。
エネルギー価格の高騰や為替の悪化に加え、STFCが「予算の許容範囲を超える数のプロジェクトを開始した」ことで、コストが急増していると述べた。
Chapman氏は、STFCのコスト削減の要因としてUKRIの旧経営陣の判断にもあったと示唆した。「全プロジェクトの予算合意を期待していたが、実際の予算枠は期待を下回るもので、現在、状況の収拾のため苦渋の選択を迫られている。」と同氏は述べた。
Chapman氏は、必要な削減額1億6,200万ポンドのうち、1億ポンドはUKRI本部が負担するとし、「組織として責任の大部分を担うことが必要」と述べた。しかし、約3,000人の研究関連職員を抱えるSTFCで、施設運営の効率化と人員削減が避けられない見通しだ。昨年の希望退職実施に続き雇用調整が必要で、緊張感のある状況である。
質疑応答の後半で、各研究会議における資金公募の一時停止について、Chapman氏は「新制度への移行に伴う一時的な措置」で、公募型助成の撤退ではないと強調した。
しかし、MRCでは採択件数を各委員会最大3件までに制限する運用が報じられており、採択率の大幅な低下が予想される。今後の再開見通しについては、BBSRCは常時公募制への移行を経て「数週間以内」に、MRCは「初夏まで」に公募を再開する見通しを示した。また、経済社会研究評議会(Economic and Social Research Council: ESRC)においても、より新規性を重視した5つの新スキームへの改編が進められる。「現時点では3つのスキームは斬新さに欠けるといえるであろう。」と同氏付け加えた。
(2026年2月1日)
【英文記事】Research Professional News:
【参考記事】
公開書簡:UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)
(2026年2月3日)
https://www.ukri.org/news/open-letter-from-ian-chapman-to-research-and-innovation-community/
(2)日英パートナーシップが量子および将来の接続技術の推進
英国首相は訪日中に、両国の科学技術協力を強化させることを表明し、その取り組みが発表された。
その内容は:
それぞれのプロジェクトは:
(1) 半導体量子ドット技術の大規模スケーリング
英国国立物理学研究所(National Physical Laboratory: NPL)のMasaya Kataoka博士と、東京科学大学の小寺哲夫教授によって共同でリードされ、拡張性(スケーラビリティ)を備えた半導体量子ドットデバイスを開発し、高性能な量子コンピュータや、超高感度センサーの実現を目指す。「計算」「計測」「精密標準(規格)」というそれぞれの専門知識を融合させ、量子技術を一段上のフェーズへと進展させる。またこの分野における次世代の研究者の育成も支援する。
(2) 分散型かつ安全な量子計算
University of Oxford のDavid Lucas教授と、東京大学の村尾美緒教授が共同で主導する。オントラップ・ノードと光リンク(フォトニックリンク)を活用し、「量子インターネット」の基盤構築を行う。高度なハードウェアと、プライバシーを保護する通信プロトコルを統合。これにより、極めて安全な通信(超セキュア通信)と、科学的発見の加速を実現し、また将来の専門家の育成も行う。
(3) 量子制御と量子センシング
University of ExeterのJanet Andres教授と、東京大学の上田正仁教授が共同で行う。この共同プロジェクトはノイズの多い環境下でも、量子センサーをより速く、より正確に作動させるための「スマートな制御技術」を開発することである。これらのセンサーは医療の診断技術、GPSなしの高度なナビゲーション、資源探索などの向上が期待され、基礎科学の進展と次世代の量子専門家の育成も行う。
以上のプロジェクトは工学・物理科学研究会議(Engineering and Physical Sciences Research Council:EPSRC)(450万ポンド)と科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency: JST)(11億円)から、資金提供される。プロジェクトは2026年1月上旬から開始されており5年間実施する。
さらに、日英共同で実施される先端接続技術に関する研究プログラム(資金総額600万ポンド)において、両国の科学技術協力をさらに強化する取り組みも発表された。誰がどこにいても利用でき、サイバー攻撃や自然災害にも耐えるシームレスな通信網の実現を目指す。
(2026年2月3日)
【英文記事】UK リサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)
https://www.ukri.org/news/uk-japan-partnerships-advance-quantum-and-future-connectivity-tech/
(3) 英国はFP10に全面参加しない形の参加を模索か
英国は次期EU研究・イノベーションプログラムのすべての要素に参加しないことを「検討することを望む」とUKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)のトップは語った。
2月3日の下院科学・イノベーション委員会で2028年から開始される次期EU研究・イノベーションプログラムに再参加することは「英国の科学」のためになるのかという質問に対してUKRIのCEOであるIan Chapman氏は回答した。
同氏は、共同研究が科学にとって有益であることは間違いないとしつつも、EUの研究プログラムへの参加が英国にとって費用対効果に見合うものになるかどうかは別問題だ、と述べた。
政府は常にFramework Programme(FP10)の参加は費用対効果があれば、参加には前向きであるということを強調している。
英国はEU離脱前のようなEU研究助成金の獲得水準にはいまだに回復しておらず、ホライズン・ヨーロッパへの参加が英国にとって十分な価値を持つのかについて疑問の声が上がっている。
英国は2024年にホライズン・ヨーロッパ参加のためEUに対して20億ユーロを支払ったが、同年にその助成金額の回収額で十分な見返りがなかったので、その一部の返還を受ける見込みである。ただし英EU間の協定に基づきEUは返金額約3億3,000万ポンドを保持する。
同年、英国は発見科学(discovery science)を対象とし、欧州研究会議(European Research Council: ERC)助成金を含むPillar 1では健闘した。一方、特定の社会的課題に対応する応用研究の国際共同研究を支援するPillar 2では成績は振るわず、イノベーションに重点を置くPillar 3ではさらに低調だった。
ホライズン・ヨーロッパでの英国の成果は今後改善するという望みはあるものの、これまでの実績を踏まえ、次期プログラムでは1つのPillarのみに絞って参加することはできないのか、という議論が持ち上がっている。
EU側がFP10の構造や予算に関して検討中のため、両国間でFP10の参加に関しての協議は開始されていないとChapman氏は述べた。また、そのような協議は政府の交渉担当者の手に委ねられることになると指摘した。
「国として参加を希望する段階になれば、その後は交渉となる。以前は全面参加か不参加のいずれかであった。しかし、必ずしも全面参加である必要はなく、特定のPillarのみに参加するという前例もある。これは国として検討する価値のある事項かもしれない。現時点では詳細が分からないため、参加することが費用に見合うものだとは判断できない。しかし、提携が科学にとって有益であることに疑いはない。」と語った。
これらのChapman氏の発言は、英国のホライズン・ヨーロッパのこれまでの成果がばらついていることから、政策立案者にFP10への参加を慎重に検討するよう促すべきだとする政策専門家の意見と一致している。
(2026年2月4日)
【英文記事】Research Professional News:
(4) UKRI:博士課程奨学金2026/27年度4.9%の引き上げ
英国の研究資金提供機関であるUKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)は、2026/27年度に向けて、同機関が資金提供する博士課程学生の最低奨学金支給額を4.9%引き上げた。
現行年度の最低奨学金支給額は20,780ポンドで、10月1日から21,805ポンドに引き上げられる。2月5日に発表されたこの増額は2025/2026年度の8%増加に続くもので、大学院研究コミュニティから歓迎される可能性が高い。
昨年度の増額で、博士課程学生向け奨学金は法定最低賃金と同水準となった。また、医療休暇の拡大、学生障害者の支援などの条件も併せて待遇改善が行われた。
ロンドンの博士課程学生に対する加算額は2,000ポンドと据え置かれ、最低奨学金支給額は23,805ポンドとなった。2025年11月、ロンドンの大学学生組合はUKRIに対して、ロンドン加算額の引き上げを求めた。加算額は2006年以降2,000ポンドに据え置かれており、多くの学生が財政的な困難にあることを指摘していた。
University of Bathの研究・インパクトサービスの担当部長で、以前UKRIで博士課程資金を担当していたKirsty Grainger氏は、今後4年間にわたるUKRIの人材育成関連資金の前年比増加は「大変歓迎すべきことだ」と述べた。
「しかし、現在提供されている内容の詳細では、奨学金の引き上げがUKRIの博士課程学生の人数減少を伴うものなのか、あるいはその予算項目にすでに織り込まれているのかを判断することは難しい。」と同氏は述べた。
また同氏は奨学金水準では、最低賃金の上昇とおおむね同程度のペースで推移しているようであると述べ、歴史的に低かった奨学金水準と比べると、「これは明らかに前進であるが、個々の学生にはそのように実感はできないかもしれない。」と語った。「おそらく制度が奨学金の引き上げを維持できるかどうか、また博士課程学生の適正数とはどのくらいなのかという難しい議論をするときなのかもしれない。しかし競争はすでに激しく、博士課程学生の修了率も低いので、その複雑なバランスを理解することは容易ではない。」と同氏は述べた。
UKRIはまた、博士課程学生を雇用する研究機関に支払われる最低教育費を2年連続で4.6%引き上げ、2026/27年度は5,238ポンドとなった。この教育費はUKRIの資金から博士課程の教育を行っている研究機関に提供されているものである。
最新データによると、研究機関は博士課程学生の教育で多額の損失を出しており、2023/24年度における英国の大学全体での助成金によるカバー率はわずか42.6%である。政府は、博士課程教育への進学障壁や、英国人学生の博士課程進学割合の低下を受けて、博士課程の制度の持続可能性を検討すると表明している。
(2026年2月6日)
【英文記事】Research Professional News:
(5) 研究規模拡大が合併の鍵:City St George’s, University of London 合併、HEPI報告
City St George's, University of London の統合プロセスは最初の協議から2024年8月の正式な完了までおよそ3年を要した。高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI)の報告書によると、より多くの研究資金へのアクセスの確保や、懸念される長期的な財政見通しの中で研究開発活動を拡大することが当初からの合併の動機の一つであった。
英国の高等教育機関が財政的な不確実性に直面している中、一部の専門家は今後さらに注目度の高い大学合併が起こる可能性があることを示唆している。昨年9月University of KentとUniversity of Greenwichが合併し、自らが「英国で初のスーパーユニバーシティ」と称する大学を設立すると発表した。
HEPIの報告書の中で、現在City's St George's University of London の戦略・企画担当部長であるDominic Davis氏は、2021年に当初の合併計画の協議を振り返っている。当時、同氏はCity, University of London(City)に在籍していた。
「St George’s University of London(St George’s)は医学部ではある程度の名声があり、その一部は研究と医学研究からの恩恵によるものであった。学際的な機関の一員となることから得られる研究機会は非常に大きかった」と同氏は述べた。
Davis氏は、Cityは単独では「相当規模の研究資金にアクセスできなかった。その上で国内の研究資金の約40%はSt George’s の専門分野に該当する分野に配分されている。」と指摘した。
City St George’s, University of Londonの副学長兼学務部長であるElisabeth Hill氏も合併前にはCity、University of London (City)に在籍していた。同氏はこの合併で職員の学術環境は根本的に向上したことを語った。
「合併を実施しなかった場合, Cityは自らの影響力や専門性を拡大する機会を失うという理論上のリスクがあった。研究、教育、事業活動、イノベーションにおける興味深い学際的活動を行う能力も失われていただろう。戦略的パートナーシップや共同提携で同様なことは可能だと考える人もいるかもしれないが、それでは十分な成果が得られない。一つの組織として統合されていれば、“障害となっている要因を取り除く”ことが可能となる。」と述べた。
Christine Swabey氏(2020年から2024年までSt George’sの評議会の議長)によるとSt George’s側にも恩恵があったと次のように語った。
「財政状態は比較的良好で、合併を迫られるような危機的状況にはなかったため、合併の必要性を説得することは難しかった。しかし、長期的に財政的に盤石ではなかったため合併の必要があった。。我々のすべての研究分野はコスト高で、それが常に懸念であった。医療科学研究の進展を考えたとき、規模に関する別問題があった。質とインパクトでは大変優秀ではあったが、我々は小規模であった。研究において、規模が非常に重要なのである。」と述べた。
(2026年2月12日)
【英文記事】Research Professional News:
【参考記事】高等教育政策研究所(Higher Education Policy Institute: HEPI):
(6)UUK分析:政府の政策決定が大学財政に及ぼす影響
英国大学協会(Universities UK: UUK)の分析によると、政府の政策決定により、2024/25年度から2029/30年度にかけて、イングランドの高等教育機関への資金提供は約37億ポンド減少すると見込まれている。
この評価には、政府が発表した「16歳以降の教育とスキルに関する白書」に基づく授業料引き上げの年間影響に加え、既存の削減措置、税率の上昇、留学生学費収入に対する課税、そして最近の移民政策による継続的な収入減少の影響も含まれている。
分析の内容:
●政府の政策を総合的に見ると、2028/29年度までの毎年、総合的な大学の財政状況は悪化する見込みである。2029/30年度に予想されるわずかな改善は、授業料の継続的な引き上げに大きく依存する。2028/29年度から授業料を教育の質の評価と連動させるが、今の時点ではその影響を受ける大学の数は不明である。
●その試算では、国内授業料の引き上げによって期間中に累計で得られる収入の増加は、同期間に授業料が引き上げられなかった場合と比べて、約55億ポンドと推定されている。
●実際には、授業料の引き上げは過去の実質的な授業料の低下を補填するものではなく、授業料収入を実質ベースで同水準に維持するだけに留まる。
●これらの授業料引き上げによる収入増は、2029/30年度までの期間における予算削減、増税、留学生への賦課金制度案、さらに移民政策の厳格化による留学生収入の減少による費用増(推定90億ポンド)で相殺される。
●2024/25年度から2029/30年度までの期間における累計90億ポンドのコスト増のうち、42%は移民政策に伴う収入減、24%は年金および雇用関連コストの増加、6%は期間途中で導入される留学生賦課金、28%はこれまでに発表された政府助成金および教育・研究資金の変更に起因するものである。
●2029/30年度単体では、留学生賦課金は、政府の政策によって高等教育機関がその年度に直面すると見込まれる16億ポンドの費用の約20%を占める。
(2026年2月13日)
【英文記事】英国大学協会(Universities UK: UUK):
https://www.universitiesuk.ac.uk/latest/insights-and-analysis/financial-impact-government-policy
(7) 図書館のS2O支援により、王立協会のジャーナル2026年号が無料公開
図書館の「Subscribe to Open(S2O)」戦略への支援を受け、英国王立協会は2026年に、世界水準の購読型学術誌8誌をオープンアクセス(OA)として刊行すると発表した。
これにより「Proceedings of the Royal Society」や世界最古の科学ジャーナルである「Philosophical Transaction」などの主要ジャーナルなどに掲載される最新の研究成果が、世界中の研究者や読者に対して無料公開されることになる。
S2Oジャーナルでは、研究者がオープンアクセスで論文を掲載する際に必要な論文掲載料(APCs)が撤廃される。これは、研究助成機関によるオープンアクセス義務化方針にも沿うものである。
S2Oは、出版社が完全なオープンアクセスへ迅速に移行するための、簡素で費用対効果の高い方法で、図書館および海外の購読者による継続的な支援によって初めて可能となる。
この決定は同協会の360年にわたる科学出版の歴史において重要な一歩であり、現在行われている同学会のジャーナルに記載される質の良い研究内容を、広く公開する現在の取り組みを前進させるものである。
この移行により、過去10年間の研究成果の大半を無料で閲覧できるようになる。購読者は、購読誌の過去20年分のコンテンツへの追加アクセスが可能となり、これまで購入した期間については引き続き永久アクセスが保証される。
英国王立協会は今後もS2O(Subscribe to Open)モデルの提示を継続するとともに、購読者コミュニティや図書館のコンソーシアムと連携し、いわゆる「Read and Publish」契約の締結を進める。これにより、同協会の全ジャーナルにおける閲覧および出版費用が不要となり、出版社にとって長期的な財務的持続性が確保される。
王立協会オープンアクセス公平スキームは、100か国以上の低・中所得国の研究者を引き続き支援し、同協会の2つのオープンアクセス誌「Royal Society Open Science」と「Open Biology」への掲載にかかる論文掲載料を自動的に免除する。
(2026年2月16日)
【英文記事】英国王立協会(Royal Society)
https://royalsociety.org/news/2026/02/subscribe-to-open-announcement/
(8) 英国のAI戦略で科学・研究の最前線を維持へ(医療・公共サービス革新)
UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)は初となるAI戦略を発表し、AIを英国の最先端の科学・研究活動に活用するための大胆な計画を打ち出した。これは、コンピューティングやエージェント型AIなど、英国が歴史的に強みを基盤とするものである。
AIは、最先端の研究成果を、医療の改善や新たな公共サービス、画期的な製品など、社会に利益をもたらすイノベーションに変えるために活用される。
UKRIの支援するAI研究は、すでに社会や経済全体に具体的な成果を上げている。例えば、鉄道網の不具合をリアルタイムで検知する世界トップクラスのRADAR AIシステムや、脳スキャンの解析によるアルツハイマー病などの変性疾患に関する40以上の臨床試験の支援をしているIXI Brain Atlasなどが挙げられる。
最新の歳出見直し(Spending Review)の予算合意に基づき、UKRIは今後4年間にわたりAI分野に直接投入する予算として記録的な16億ポンドを確保した。これは2026年から2030年にかけて最大の単一投資分野となる。この中には科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)に代わり、UKRIが実施する事業資金も含まれているが、詳細は実施計画の策定に伴い変更される可能性がある。UKRIのより広範な予算全体にもAI関連の追加投資が組み込まれている。
この新戦略は、AIの専門性を支える数学・コンピュータ科学・工学研究に対して、UKRIが大規模な投資を行う方針を示すものである。英国全土の世界トップクラスの研究者や企業は、新たな成長を引き出すために必要なツール、研修、インフラへのより良いアクセスが可能となり、その恩恵を受けることになる。これにより、人々の生活をより良くするイノベーションの実現が促進される。
新戦略枠組では、投資は以下6つの分野に集中する。
●最先端の技術開発の推進
●AIによる研究の変革
●AIスキルと人材開発
●経済成長と社会利益に向けたイノベーションの加速
●責任ある信頼性の高いAIの推進
●世界クラスのAIデータとインフラの整備
(2026年2月19日)
【英文記事】科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT):
【関連記事】科学大臣:OpenAI研究拠点は英国における「信頼の表れ」
英国科学大臣のLiz Kendall氏は米国の人工知能技術大手企業OpenAIがロンドンで研究拠点を拡大する決定に対して、英国に対する「絶大な信任である」と述べた。
2月26日付The Times紙の記事によると、ChatGPTを手掛ける同社はロンドンを米国外での最大規模の拠点にする方針である。現在同社はロンドンに30人の研究者が在籍しており、「英国オフィスの規模を大幅に拡大する」計画であると報じられている。
Kendall氏はX(旧Twitter)への投稿で、この動向を「世界的に最先端の英国のAI研究に対する絶大な信任」と呼び、英国が安全でかつ変革的なAIイノベーションの拠点であることを改めて示すものだと述べた。
またロンドン市長のSadiq Khan氏はLinkedInの投稿でこの決定に関して「イノベーションの中心としての首都ロンドンに対して絶大な信用を得た」と述べた。
今回のロンドン拠点拡大により、OpenAIと、同じくロンドンを拠点としているGoogle DeepMindとの競争が起こると見られる。
The Times紙の記事ではOpenAIの新施設の人員確保のためDeepMindからスタッフの引き抜きを画策していると報じている。
OpenAIの研究担当者であるMark Chen氏は、同社は「ボトムアップ型の研究所として有名であり、研究者受け入れ、各々の研究を進めてそれらを重要なプロジェクトへと発展させている。」と語った。
このニュースはUKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)が初のAIに特化した戦略の立ち上げを発表した1週間後に入ってきた。同戦略はAIシステムの基礎を支える研究分野への「大規模投資」と英国のAI研究人材の育成を約束している。
また2月26日にはUKRIが新たに4つの国家コンピュータ資源(national compute resources: NCRs)の立ち上げに7,600万ポンドの投資を発表した。これはデジタルの処理能力が必要とする複雑なシミュレーションやデータ処理に提供される。
(2026年2月19日)
【英文記事】 Research Professional News:
(9) 大学団体、博士課程学生の賦課金免除を閣僚に要請
大学関連団体は「英国の研究能力の弱体化」を避けるため、留学生の学費収入に関する賦課金から博士課程学生を免除するように政府に対して求めている。
教育省(Department for Education: DfE)は財務大臣が発表した2025年の秋季予算で確認された予定されている留学生賦課金に関して意見募集を実施している。高等教育機関は2028/29年度以降、留学生一人あたり年間925ポンド定額を支払うことになる。
2月19日、ラッセルグループは意見募集の回答で、賦課金は「研究人材の確保」のため留学生博士課程学生に対して適応するべきでないと述べた。注目すべき点として、英国で修了する博士課程学生のほぼ半数が外国籍の学生であることも指摘した。
同様に2月18日に英国大学協会(Universities UK: UUK)も博士課程に対する留学生賦課金の免除を求め、多くの学生がUKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)やEUのホライズン・ヨーロッパ、また同等の国内外の研究プログラムなどから資金を受けていることから、徴税が政府の研究開発投資への課税となることを指摘した。
より広い観点からUUKは政府に対して留学生賦課金制度導入の全面的な延期を求め、「政府は制度設計と実施を適切に行うため、十分な時間を確保し、リスクを軽減すべきだ。」と述べた。
また両団体は、全額奨学金を受けている留学生、交流プログラムに参加する交換学生や研究者に対する留学生賦課金免除と、また変化の激しい市場で留学生賦課金が恒久化しないよう、サンセット条項(期限付き条項)の導入を政府に求めている。
(2026年2月19日)
【英文記事】Research Professional News:
(10)国家コンピュータ資源(NCR)が研究者向けに開放へ
UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)は新たに4つの国家コンピュータ資源(national compute resources: NCRs)の立ち上げに7,600万ポンドの投資を発表した。
この大規模な助成金投入により、健康医療から気候変動まで社会課題を解決するために必要な強力な「計算基盤」が整備される。
7,600万ポンドの公共投資は英国コンピュータロードマップの実現に向けた最初の大きな第一歩である。この国家計画は英国をハイテック研究で世界のトップにすることを目的として2025年7月に開始された。従来スーパーコンピュータは限られた専門的分野のみ用いられていたが、今回4つの新しいNCRは研究コミュニティ全体に開かれたものとなる。科学者がヒトゲノムの解析、エンジニアが環境にやさしい航空機の設計、歴史学者がデジタルアーカイブを分析する場合でも、4つのNCRは必要な計算能力を提供する。
”算出(compute)”とはデータを処理し複雑なシミュレーションを実行するために必要な巨大なデジタル処理能力のことである。UKRIはこれら独立した4つのNCRに投資することで、研究者が以下の恩恵を受けられることを保証する。
●多様な技術:特定の研究ニーズに合わせた、異なる種類のハードウェアの提供。
●アクセスのしやすさ:システムを簡素化することで、これまでスーパーコンピュータを利用したことない研究者を含め、より多くの研究者が利用可能。
●長期的な支援:ハイテック機器と5年間の専門サービスの支援(2031年まで)の両方を資金がカバーしている。
これらの新たな施設は英国ですでに運用されている人工知能(AI)とスーパーコンピュータのサービスと連携して稼働する。さらにこの計算能力を広く利用できるように、このプログラムは優れたアイデアから現実世界での画期的成果までの道のりを加速することを目指している。
4つのNCRとは:
●University of Cambridge (GPUベースのNCRシステム)
●University of Edinburgh(CPUベースのNCRシステム)
●University College London(CPUベースのNCRシステム)
○GPUは「並列処理」「AI・データ集約型研究向け」
○CPUは「汎用処理」「従来型シミュレーション・幅広い研究向け」
4つのNCRは研究者向けのサービス提供は2026年から2027年にかけて本格化されるが、少なくとも2つのNCRは2026年夏から稼働見込みである。
UKRIは研究者たちがこの技術の最大限に活用できるようにコミュニティも立ち上げる予定である。ここでは、専門家による訓練やサポートが提供され、より多くの研究者がこれらのデジタルツールを活用し研究を前進させるよう支援される。
(2026年2月26日)
【英文記事】UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI):
https://www.ukri.org/news/new-national-computing-resources-to-open-doors-for-researchers/
(11)NERC、大気科学投資を新技術にシフト
自然環境研究会議(Natural Environment Research Council: NERC)はより柔軟で拡張性可能で持続可能な技術の活用を図るため、大気科学インフラの資金配分の移行を進めている。
NERCによって資金提供を受け、国立大気学センター( National Centre for Atmospheric Science: NCAS)によって運営されている空中大気測定施設(Facility for Airborne Atmospheric Measurements: FAAM)は、本会計年度末をもって運用を終了する。
レビューの結果、NERCは費用の急激な上昇と今後の低調な利用見込みから、この航空機は公的資金に見合う費用対効果がないとの結論に至った。
2001年8月にFAAMはNERC、英国気象庁(UK Met Office: UKMO)と英国大学のコミュニティによって設立された。
1981年に製造されたこの航空機はBAe 146旅客機として初飛行をし、これまで1万時間以上飛行している。
稼働中は年間約300時間の飛行が可能であるが、計画上の稼働時間は低い。
飛行時間の大部分はUKRIの資金による研究に利用されており、これまでのところ、それ以外の主要なFAAMの利用者はUKMOとのパートナーシップだけであり、これは2024年に終了した。
この決定により、現行の歳出見直し期間中に約3,200万ポンドの節約が予想され、さらに500万ポンドの追加コストを回避できる見込みである。
この余剰資金は英国の環境科学の分野に再投資される。
NERCは自律技術、地上型設備、リモートセンシング機器などを含む、より柔軟で持続可能な新興の大気科学研究の運用モデルに投資する。
FAAMはこれまで1万時間以上の飛行時間と、30か国での調査飛行、英国内外の科学プロジェクトを支えてきた。具体例として、火山噴火の監視、大気汚染のデータ収集、英国初の持続可能な航空燃料実験などがある。
今回の決定はUKRIが長期的な費用対効果を確保し、将来、最も大きな影響を与えるインフラや技術に投資するというUKRIの方針に基づくものである。
政府は科学技術分野への投資を過去最高水準まで引き上げており、その一環として好奇心主導型研究に145億ポンドを投資している。
現行の歳出見直し期間中には、資金はさらに増加する見込みである。
UKRIは、知識の拡大、生活の向上、経済成長を促進するという使命を果たすため、成果重視型の投資モデルへと移行している。
(2026年2月26日)
【英文記事】UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI):
https://www.ukri.org/news/nerc-pivots-investment-in-atmospheric-research-into-new-technologies/